新田次郎              11,02,08

   新田次郎には4つの顔がある。第1に山岳小説作家としての顔、第2に藤原ていの夫としての顔、第3に
  作家で数学者の藤原正彦の父としての顔、第4にかっての気象庁切っての気象測量第一人者としての顔
  である。こんな多彩な顔を持つ新田次郎だが、作家になる以前は中央気象台の気象観測技師を長く務め、
  富士山気象レーダーを建設した建設責任者として知られている。富士山気象レーダーは当時世界最高
  (高度)・世界最大であったため、同レーダーの完成後はそのノウハウを国際連合の気象学会で説明する
  ほどの気象庁の逸材だったそうだ。退職に際しては気象庁から繰り返し強い慰留を受けたという。この工
  事に関してはNHKの第1回「プロジェクトX」で取り上げられたのでご記憶の方もあろう。

   いわゆる山岳小説家の代表とされるが、山岳小説と呼ばれることを大変嫌っていたようで後年は歴史
  小説の執筆が多くなった。作品の多くは山岳小説をはじめとする「夢と挑戦」をコンセプトにしており、題材
  として歴史上の人物や科学者や技術者、また強い意志で道を切り開いた人物を描いた作品が多い。
   絶筆となった未完の小説「孤愁のサウダーデ」の主人公の故郷ポルトガルを取材のため、同地を数回
  訪れているが、その取材旅行で残した詳細なメモ等を元に、子息藤原正彦は同じコースを辿り、父が会
  った同じ人に会おうとして亡父の足跡を辿ってポルトガルをバイクで一周している。そのくだりは正彦の
  エッセイ『父の旅 私の旅』に詳しく記されている。尊敬し思慕する父親・新田次郎の人となりが息子の筆
  によって鮮やかに甦っていて、微笑ましい親子の情が伝わってくる。

   新田次郎は昔散発的に買い求めて読んだ程度で蔵書は少なく印象も薄い。今年は吉村昭と新田次郎
  のすべてを読み切る予定なので年内には我が書庫は少しは充実することだろう。

   *12,06,24  その後読み足した新田次郎の書籍を追加。


   蔵書リスト

       その1        その2
   1、孤高の人(上)    11、強力伝・孤島
   2、孤高の人(下)    12、アイガー北壁・気象遭難
   3、槍ヶ岳開山     13、八甲田山死の彷徨
   4、剣岳(点の記)     14、富士山頂
   5、栄光の岸壁(上)     15、芙蓉の人
   6、栄光の岸壁(下)     16、アラスカ物語
   7、銀嶺の人(上)    17、武田信玄(風の巻)
   8、銀嶺の人(下)    18、武田信玄(林の巻)
   9、蒼氷・神々の岩壁  (以下が追加した書籍)     19、武田信玄(火の巻)
  10、梅雨将軍信長     20、武田信玄(山の巻)