葉山の散歩道(10) −上山口A−      12,03,29

    猪俣小平六・岡部六弥太の五輪塔に行く手前の子安観音・六地蔵について若干補足をする。
   昔、賭け事に地蔵の首を落としていくと勝運がつくという迷信から地蔵様の首がよく落とされた。
   ここ栗坪の六地蔵の首もいつしかすべて首なし地蔵になり首は地面に埋もれてしまった。戦後
   地蔵の首は掘り出されて元に復したが子安観音の首だけは見つからずコンクリートで作った首
   が載せられている。賭博はお寺で行われることが多く、お寺が場所代を取ったので「寺銭」なる
   言葉が生まれた。「ショバ代」という言葉の由来は知らないが、多分賭け事に関係する渡世人か
   誰かが返し言葉を流行らせたのだろう。ここ栗坪の博打のお寺は大昌寺。お寺は寺社奉行管
   轄なので町奉行は踏み込めなかった。村人は時に田畑まで賭けて賭博に熱中したらしい。

    6、寺前の庚申塔〜西光寺
    しばらく歩き、寺前の庚申塔を過ぎて左折すると西光寺が見えてくる。17世紀初頭創建の浄土
   宗のお寺。本尊の阿弥陀如来三尊立像は室町末期の作。脇仏は観世音菩薩立像と勢至菩薩
   立像。地蔵菩薩立像には胎内に9躯もの小仏像が祀られている。
   室町前期には七堂伽藍を構えた壮大な寺だったと伝わっている。銀杏の大木と百日紅が見事。
   友人曰く、ここの銀杏(ぎんなん)はどこの銀杏よりもおいしい。

    7、日月神社〜杉山神社
    寺前の庚申塔に戻り、県道27号線を横切ると日月神社がある。この神社は牛馬家畜を祀った
   小さな祠で、祠の中に珍しい石絵馬が奉納されている。5分も歩くと杉山神社に出る。明治39年
   (1906)の神社統合令により「1村1社」になり、村の各地にあった熊野社・神明社のすべてが上
   山口村の村社の杉山神社に合祀された。上山口地区の鎮守の社である。祭神は大国主命、
   昔は杉宮といった。昔里人が漁に出て、神像が網にかかり持ち帰ったが、大晦日で多忙のため、
   杉の葉を集めて仮の社の形を作って祀ったのが、杉宮の神号となったという。

 
    8、正吟の棚田
    なんといっても上山口の目玉は棚田だと思う。この地区は典型的な盆地地形をなしていて、上
   山口盆地を囲む南北の稜線はそのまま分水嶺となって、ここに降り注ぐ雨水は盆地に集まって
   くる。昔は南側にある宝金山の地中に鍾乳洞があったというから、昔も今も豊富な湧水に恵まれ
   ている土地といってよい。棚田は傾斜地に作られるから豊富な湧水が存在することで成り立つ。
   かっては宝金山から仏塚山一帯の山腹は緩やかな傾斜が拡がり、沢山の棚田が営まれていた
   ようだが、減反政策や後継者難から耕作放置が相次ぎ、今では杉山神社近くのここ正吟の棚田
   だけになってしまった。

    さる学会のHPによれば、「棚田地区は開田当時の景観や、手植え、掛け干し等の伝統的農作
   業体系が受け継がれ、日本人が育んできた昔からの里山の風情を色濃く残しているところであり、
   最も私たちの心を揺さぶり、安らぎを与えてくれる原風景の一つである。」と記載されている。
   上山口の里が「にほんの里100選」に選ばれたのもこの棚田の風景が認められたからなのであ
   ろう。上山口棚田の総面積は2,3ヘクタール、64枚の田がある。この64枚の田を現在では5人の
   農家が協働して米を作っている。平成12年にはこの棚田からの献上米を宮中に奉納し、両陛下
   も現地を訪れてお礼と激励をされている。 しかしご多分に漏れず、ここも後継者難で棚田維持
   は困難になっているようだ。

    ところでこの棚田で収穫した酒米「五百万石」でつくられた地酒に銘酒「葉山の田遊び」がある。
   葉山の昔からの酒屋1軒だけで販売しているが残念だがまだ私は味わっていない。
    この棚田と隣接して葉山で1〜2といわれる評判の日本蕎麦屋がある。お昼にはいつも店内が
   満席になる人気の蕎麦屋で、私のお気に入りの蕎麦屋の一つで、余計なものを入れない「更級」
   がお気に入りである。

    9、正吟の庚申塔〜観正院
    棚田から農道を歩いてすぐに正吟の庚申塔がある。寛政12年(1800)造立。三浦半島では見ら
   れない貝化石の石質で学術上貴重な庚申塔である。さらに数分歩くと鎌池不動の湧水があり、
   観正院がひっそりと建っている。観正院、浄土宗。創建は寛永11年(1634)、本尊は十一面観音
   菩薩像。運慶作と伝えられる見事なものである。三浦観音33所第26番札所。往時は三浦札所の
   霊場としてにぎわったことだろうが、現在は庫裡もなくお堂も雨露をしのぐのみ、訪れる人も少なく
   賽銭箱があるのが不思議なくらいである。常住する和尚もいないうら寂しい寺になっている。
   主のいない堂の中に不釣り合いなほど立派な十一面観音菩薩像をお参りすると栄枯盛衰という
   言葉が脳裏に浮かぶ思いがする。

    我々はその後、蕎麦屋”わか菜”でそばを食べ解散したが、さらに歩けば、御感の桜、御用邸
   水源地、間門の庚申塔、蛇塚工房、などを訪れることが出来る。冒頭に述べたように上山口は
   豊富な自然と歴史に包まれた正に「葉山の奥座敷」である。

     
                    ー上山口の散歩・終わりー