秋の風物詩、カワハギ釣り。   16,11.01

   寒くなってくるといよいよカワハギのシーズンが到来する。
  釣って良し食べて良しのカワハギ釣りを趣味にしている釣り人は沢山いる。
  この人達は例外なく「カワハギ名人」を自称し、エサ取り名人のカワハギと知恵
  比べをして釣り上げる技を講釈する。時間が経つのを忘れるくらい話し続ける
  釣り人はごまんといる。

   わが葉山釣友会にもカワハギ名人がいて、私にその極意をいつも教えてくれ
  るが、私は不肖の弟子でなかなか師匠の言う通りにはいかず、釣果はいつも
  人並みかそれ以下が多い。

   10月30日、生憎の悪天候で、小雨で風が冷たく、いつもなら決して釣りには
  出かけない寒さだったが、会長のSさんが我が家に迎えに来てくれるので、しぶ
  しぶ車に乗せてもらって釣りに出かけた。

   釣友会の年間行事だから、よほどの悪天候でもない限り会長さんは欠席する
  わけにはいかない。私は参加者の数合わせのため、会長のやや強引な参加要
  請を断ることが出来ない事情がある。

   S会長の得意な釣りはカワハギだから、彼の腕を拝見することは弟子としては
  師匠に対する礼儀でもある。つまり釣友会のカワハギ名人とは、S会長その人
  である。

   Sさんは最近のゴルフ仲間だし囲碁仲間だが、そのどちらも、はるかに私が
  彼を凌駕しているので、せめてカワハギだけでも私に対して優位な立場を誇示
  したいに違いない。などと運転手の彼に憎まれ口を叩きながら、葉山漁港近く
  の船宿に到着し、釣友会の仲間総勢9人で雨合羽の重装備をして出船した。

   雨は次第に収まったが寒さが初冬を思わせるようで、震えながらのカワハギ
  釣りだった。果たせるかな私の釣果は8枚で、多分最下位かそれに近いと思わ
  れる。

   カワハギ釣りは奥が深いと云われるがなかなかコツがつかめない。師匠の
  カワハギ名人ことSさんは18枚で流石に全体の2位で、トップは23枚だった。
  型は手のひらサイズやワッペンサイズも混じったが、写真のような27センチの
  良型サイズも混じったから、まずまずの釣果だと自己満足している。


      


   帰宅して翌日カワハギを調理した。27センチの良型など3枚は刺身にしたが、
  肝がパンパンに張っていた。やはり秋になってくると、カワハギは肝が大きくなっ
  て刺身も肝和えも絶品で美味しいシーズンとなる。

   最近は真夏にもカワハギ釣りをやる傾向があるが、これは邪道だ。船宿では
  夏の釣り物がなくなるとやむを得ずカワハギをやるようだが、いくら釣り客が望
  んでも夏のカワハギや、夏の太刀魚は御免蒙りたい。だいいち夏のカワハギに
  は肝がまだ育っていない。

   ”秋深し、隣は何をする人ぞ”  ”白玉の、歯に沁みとおる秋の夜の ”
  熱燗のお供には、釣りたてのカワハギの刺身を肝醤油で食べるのが、呑兵衛
  釣り師の特権であり、釣り師冥利に尽きるというものである。肝は新鮮な時しか
  食べられない珍味だから。


   今宵の酒は、山形出身の建築士の友人が、先日帰郷した際に土産に持参し
  てくれた地元山形の地酒「出羽桜」。なにやら相撲取りのような名前だが、少々
  甘口で、口当たりのよい酒だった。カワハギが美味しくて、酒との相性が抜群で
  ついついお神酒が進んでしまった。


     

   ただ残念なことに、釣り終了時に竿を畳んでいて、不注意から竿先の先端を
  2センチほど折損してしまった。竿先は微妙な当たりを感知するいわば竿の命と
  もいえる場所だから、修理しても微妙な竿先の感触は戻らない。残念なことをした
  が、いつも行く船宿の船長が竿の修理をしてくれるので頼むことにした。

   しかし多分この竿は使いたくなくなる事だろう。釣りには思わない不慮の出来事
  がままある。命に係わる事故もままある。特に高齢者に不慮の事故がよく起きる。
  私も高齢者。海釣りは怖いことを改めて肝に銘じた竿先の折損事故だった。