タイ釣り。 ![]() 友人からタイ釣りの誘いがあり、あの引き味の魅力を思い出して快諾し、急遽身支度 して勇躍釣りに出かけた。しかし去年から今年にかけてなかなか良い釣果には恵まれて いない。つまりは外道ばかりで、あのピンク色のきれいな魚影にはトンと巡り会っていな い。坊主覚悟のタイ釣りなのである。 我が家から車で15分の佐島港の岸壁に釣り船の「つる丸」が待っていた。船長の通称 ”つるちゃん”は同じく佐島港の船宿”k”から独立して釣り船を買い取って船長を始めた、 いわば立志伝中の海の男だが、まだ船宿は持っていないさすらいの船長である。活発 な行動力のある中年船長で、彼と古い付き合いのあるアングラー達の信頼が高く、せっ せと利用する隠れた人気のある船である。 漁場は相模湾の佐島沖、出船して10分も走ればすぐに目指すポイントに到着する。 やや風があるが微風快晴の釣り日和、ようやく春の釣りになり爽快で気分は最高。本格 的なタイの乗っ込み(産卵期)は5月で、タイの荒食いには少し早いが十分期待は持てる。 我々は仲間が3人で、ほかに5人が乗り、左舷、右舷それぞれ4名で隣同士の間隔もベ スト。ちょうどコマセを利かせるには好都合の人数だった。 水深ほぼ60m、ビシをポイントに投下してアタリを待ち構えると、緊張感が漂ってくる。 午前中は反応がなかったが、ついに右舷の釣り人が大きな真鯛を釣り上げた。船長が 計量したらなんと5,5㌔の大物だった。ようやく船内がざわつき始めた。 突然私の竿先がぎゅーんと海中に引き込まれた。タイだろうか、引き味は最高。ハリス は4号だから切れる心配はないが、船長の”慌てずゆっくり”のアドバイスも適切で、泳が せ泳がせ慌てずゆっくりと引き味を楽しんで巻き上げた。 およそ3分か5分、大きな魚が姿を見せた。慎重に取り込んだら真鯛ではなく石鯛だった。 船長が計測したらなんと47センチ、2,3キロの大物だった。2キロを超える石鯛を見るの は久しぶりと船長も驚いたが、釣った本人がもっと驚いた。船長曰く、魚屋にもこんな大 物の石鯛は並ばない、多分1万円は優に超えるいい値段で魚屋は引き取るよ。とのこと。 真鯛よりもはるかに値段も価値もある鯛なのだそうだ。 結局、友人の一人が2キロの真鯛を釣り、ほかに3人でメジナを数匹ずつ釣ってこの日 の納竿となった。 ![]() 石鯛は釣りたての刺身は身が固いので、刺身にするには3日ほど冷蔵庫で寝かせる 必要がある。そうすると石鯛独特のねっとりとして弾力的な刺身にありつける。 帰宅後は風呂に入って道具類を洗いベランダで干して、ひと眠りをしてから一杯やり、 翌朝から魚をさばき始めるのが私の決まったルーティンとなっているので、翌朝早朝か ら、魚のえらと内臓を取り、冷蔵庫にしまい込んだ。3日後が楽しみである。 下の写真は包丁を入れる直前の写真だが、改めてみると何とも大きな石鯛である。 こんな魚が私の針に食いつき仕留めたと思うと感慨一入である。2014年9月に14,5㌔ の巨大マグロを悪戦苦闘の末に仕留めて以来の大物だった。 3日後の刺身が楽しみである。孫たちも喜んで食いつくことだろう。石鯛の刺身に合う 酒は何だろう。日本酒の冷か、常温か、それとも少し上等な白ワインか、今は血糖値が 急上昇(A!Cが7,5)して酒を控えているが、今回は少し許しを得て酒と刺身を楽しませ てもらおう。 話は変わる。突然のことだが、釣りから帰宅したとき、逗子に住む義理の叔父で囲碁 の師匠であり好敵手の96翁(Kさん)が亡くなったという知らせがあった。享年96歳。 囲碁と1合の日本酒をこよなく愛した温厚で誠実、かつ信念を曲げない知性の人だっ た。健康ならば当然ご一緒に石鯛の刺身と常温の酒で一献傾けるに違いないのだが、 それもかなわぬことになった。実の息子のように私を可愛がり、先輩として人の道を教 えてくれ、よく私の話も聞いてくれた。 亡くなる前日、私に会いたいと翁が望んでいると奥様から電話があり、訪問したが、 枕元で私の手を固く握りしめ、声が出ないのに何かを懸命に話しかけ、手を合わせて 私を拝んだ姿を忘れることはできない。帰宅のお別れする時、名残惜しそうにこぶしを 握ってまた囲碁をやろうとの意思表示のしぐさを見せた。しかしこれが今生の別れに なってしまった。今はご冥福を祈るだけである。 これでもう囲碁の好敵手は皆亡くなってしまった。次から次に好敵手の顔が脳裏に 浮かんでくる。石鯛の刺身と酒で、天国にいる碁仇の皆さんの冥福を祈ることにしよう。 理を究め 玄々碁経の 宙(そら)に征く 合掌 註; 玄々碁経(げんげんごきょう)…中国の古い囲碁の経典。 |