MERCURY FALLING


1996年発表  お薦め度 ★★★★☆
死そして再生、死とは次なるドアを開けること

アルバム紹介 パラダイス&ランチ

この作品のテーマはスティング自身の言葉を借りると、
死、あるいは物事の終わりは別のドアを開けるようなもの。終わりは始まりである。
この言葉を聞いて小難しい作品だと思わないでほしい。
これはあくまで作品の根底に流れている哲学である。
父の死を契機として作られた名作『ソウル・ケイジズ』の当時のスティングといえば、
死とはすなわち完結であると考えていた様である。
父を語る時も、彼の故郷ニュー・キャッスルの町並みや海に思いを馳せる時も、
彼の心に映る物はすべて深い悲しみや絶望を喚起させるだけにすぎなかった。
今作を聴くと、彼は自然の移りゆく様の中に愛する人の面影を重ね合わせねている。
深い悲しみでも絶望でもなく、彼らが確かに存在していたいう”生と死”の証として捉えている。
これはスティングが取り組んでいるヨガがもたらした人間的な成長、成熟によるものらしい。
愛の力は距離も時間も生死をも乗り越えるといったところか・・・。
クールネスと指摘される事の多いスティングではあるが、彼の暖かい人間性が滲み出ている様に感じる。
作品全体をしては地味な感じを拒めないが、個々の楽曲を見るととてもバラエティーに富んでいる。
60年代のソール・ミュージックやカントリーのフレーバーの曲調を用いたり、
メンフィス・ホーンズの導入やゴスペル調のコーラスをとり得れたりと
非常にバラエティーに富んでいる。
初期の作品に見られたダイナミズムは影を潜めているものの、
今まで以上にメロディアスで、スムースな流れが際だつ非常に聴きやすい傑作アルバムである。

アルバム紹介 ライター:ロジャー

ソロ第5作。1999/03/03現在彼の最新作です。
今作発表前に発売されたベスト盤に新曲として収録されていた、
<ホエン・ウィー・ダンス>からここに至る流れは、
ある意味においてスティング音楽の完成された世界の様に思います。
初期2作まで見られたダイナミックさはやや薄れている様に思いますが、
ゆったりとした余裕、柔らかい音感、
そして体内から滲み出てきている様な、優しさや、抱擁力、人間性を強く感じます。
押しつけがましさを感じてしまうスティング特有の強いメッセージはありませんが、
メロディアスで、スムーズな流れを感じさせる、じっくりと聴かせる作品に仕上がっています。
悟りの境地にでも辿り着いたかの様に淡々と”普遍的な価値観”について歌っています。
40台も半ばにさしかかった孤高の男の描く叙情的な詩的世界です。
完成された世界を作り上げたスティングがこれからどの様な方向性を示していくのか、
今後の彼から目を離せません。
「魂のパイロット」、「ユー・スティル・タッチ・ミー」、「ヴァルパライゾ」、
等々の作品を収録しています。
1996年度発表作品。

収録曲
/ THE FOUNDS OF WINTER
/ I HUNG MY HEAD
/ LET YOUR SOLE BE YOUR PILOT
/ I WAS BROUGHT TO MY SENSES
/ YOU STILL TOUCH ME
/ I'M SO HAPPY I CAN'T STOP CRYING
/ ALL FOUR SEASONS
/ TWENTY FIVE TO MIDNIGHT
/ LA BELLE DAME SANS REGRETS
/ VALPARAISO
/ LITHIUM SUNSET

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