【特集】万年筆を買いに

■手帳とカバンのホームペーヂ
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筆記具関係のコラムのページ
私のお気に入りのペンや購入記の紹介
●万年筆を買いに(ペリカンM400購入記)
 1
 
万年筆を買いに、南青山まで足をのばしてみた。
 
表参道駅の改札を抜け、渋谷方面への出口に向かう。
246沿いに少しだけ歩くと、骨董通りと交わる交差点に出会う。
 
左折して骨董通り沿いに、沿道に駐車しているカッコいい外国車を眺めながら、道なりにしばらく歩くと、レンガ色のニッカウイスキーのビルが見える。
この風景は、向田邦子のエッセイにもよく出てくる。
きっと、彼女も、このレンガ色のビルを眺めたことがあるのだろうな?と思いながら、少し足を緩める。
 
そのビルの、ちょうど向かいあたりを右折して路地に一本入ると、先ほどまでの雑踏が嘘のように、静かな空間が広がる。
 
そんな場所に今回の目的の場所、「書斎館」がある。
 
閑静な高級住宅街のカフェ?
かオシャレなブティック?
 
このビルの外観からは、万年筆を売っているお店と気付く人は少ないだろう。
わたしも初めて訪れたときは、思わず見過ごしてしまいそうになった。
 
この「書斎館」、万年筆好きに限らず、多くの人が感じるであろう、日常から遮断された至福の空間がその奥へと広がっている。
 
店内に一歩足を踏み入れると、カラスケースのなかに、まるで宝石のようにアンティークから現役の万年筆までがディスプレイされている。
特に、壁一面に整然と並べられている万年筆を目にしたときは、おもわずお店を訪れた目的を忘れて、美術館に来たような気分で一本一本のペンを眺めてまわった。
 
以前、「書斎館」に初めて訪れた時に、一発でこのショップの虜になってしまった。
そして、「勝負ペン」を買う時は絶対にここで買おうと決めていた。
その夢が、今日、やっと実現したのだった。
 
 
 
 2
 
わたしはモノを買う時に、何かきっかけを求めることが多い。
試験に合格した記念などで大物を狙うときもあれば、ちょっとした嬉しいことがきっかけになることもある。
 
せっかくお気に入りのモノを買うからには、何か思い出をそのモノにリンクさせることができれば、ずっと大切に使うことができると、私は思う。
 
今回のきっかけは、とある雑誌に私のモールスキンが掲載されたことだった。
「手帳とカバンのホームペーヂ」を開設して、初めての出版社からのお話だったので、これを記念して、以前から欲しかった勝負ペンを購入することにした。
これで憧れの「書斎館」に再訪できる。
 
今回の訪問は万年筆を買いに行くという「本来の目的」?が事前にはっきりとしていたので、書斎館での万年筆の選び方や候補となるのペンの特徴など、訪問前に入念なる調査をすることができた。
モノを買う場合、こうした事前調査がとても楽しい。
 
調べたことは、逐一モールスキンに記入して整理する。
わたしのモールスキンは、こうしたお買い物情報満載のデータベースとなりつつある。
 
 
再訪の日は、とても暑い日だった。
 
表参道からの道のりも、初訪問の時と比較してはるかに近く感じられたが、やはり書斎館に到着したときには汗ダクダク状態だった。
 
カフェの方をのぞいてみると、お客はだれもいない。
こんな汗ダク状態で冷静なセレクトはできそうにないので、こちらでまずはゆっくりとヒートダウンすることに。
 
今回は、カウンタ席の方に座ってみた。
カウンタ席といっても、ちょうど図書館の勉強机のようになっていて、目の前には書棚があり、となりの席とは、すりガラスの仕切りがある。
 
席の前の本棚には、趣味の文具箱Vol.1が置いてあった。
アイスコーヒーを飲みながら、カバンの中からモールスキンを取り出して、もう一度万年筆学を復習。
 
結局、喫茶には50分近くいて、いよいよお店の方へと向かった。
 
そういえば、わたしの後に一人で来たお客さん。
学生風でカバンからなにやら勉強道具を取り出して、お勉強を始める様子。
以前に訪れた時も、このお客さんがいたような気が・・・。
 
本当に図書館代わりに使っているのかもしれない。
 
 
 
 3
 
万年筆と車は、共通することが実に多いと思う。
 
日本、ドイツ、イタリア、フランスなど、多くの国の製品がそろっている。
そして、それぞれの国で生産されている万年筆は、その国々で生産している車の雰囲気と一致するところが多々ある。
 
ドイツ製のペンはドイツ車と同じ地味だが質実剛健。
イタリア製は華がありデザイン的に他を圧倒している。
国産万年筆も、車と同じようなクオリティの高さが魅力の一つだ。
 
私の持つ印象として、モンブランはメルセデス。
モンブランの黒塗りの躯体に映えるホワイトスターをみると、メルセデス・ベンツのボンネットやフロントに輝く「スリーポインテッド・スター」のイメージが一致する。
ペリカンはメルツェデスに比べて、スポーティさがあるBMW。
その威容はモンブランと同じ重厚感を放っている。
 
ポルシェはそのままポルシェデザインといきたいところだが、わたしの中ではファーバーカステルの伯爵シリーズ。
Lamyはカジュアルさがその魅力のフォルクスワーゲン。
 
イタリアはもっとわかりやすい。
モンテグラッパはフェラーリ、デルタはアルファロメオ(この2つはそのまま!)。
派手で馬力を追求していく姿勢は、車も万年筆も同じ太陽のエネルギーを感じることができる。
 
国産を見てみると、パイロットはトヨタ、セーラーはニッチの独自路線を追求するのが上手なマツダといったところか?
(単純に広島イメージから来ているのかもしれないが)
 
こう見ると、万年筆は車と同じ工業製品ということがよくわかる。
 
いくらエレクトロニクス技術が発展しても、タイヤ4つでアクセルとハンドルで操作する車も、毛細管現象を利用した万年筆も、基本構造は生み出された当初と現代とでたいして変わらない。
ある程度確立された基礎技術の中で、各社デザインや新素材・新技術を活用して競い合っているところなどが、車とイメージが一致することが多いのかもしれない。
 
わたしの中での車のイメージは、やはりドイツ車のポイントが高いので、万年筆も自然とドイツ製品に魅力を感じてしまう。
そうしたドイツペンの中で、ペリカン・スーベレーンシリーズのボルドーは、イタリア製とは別な種類の「地味な中での華」があり、わたしの心をとらえていた。
 
ワインカラーの、BMWである。
 
このスーベレーンシリーズ、調べれば調べるほど「優れもの」の万年筆で、各方面で高い評価を得ていることがわかる。
本などを読み漁り、比較検討した段階では、スーベレーンのボルドーまでは決めていたのだが800、400、600のどれにするかを迷っていた。
ただ、これにペン先の太さの組み合わせを考えるとかなりの候補数になる。
 
安い買い物ではないので、できれば全ての組み合わせを、なっとくいくまで試し書きしてみたいと考えていた。
 
その願いをかなえるためにも、ぜひ書斎館を訪ねたかったのである。
 
 
 
 4
 
スーベレーンについては、一回だけ伊東屋の中2階で試し書きをさせてもらったことがあった。
その時はM800とM400の「ペン先M(中字)」をみせてもらった。
 
雑誌や万年筆ショップのサイトを見ると、「スーベレーンの評価=M800の評価」みたいなところがあり、M400は携帯サイズという表現をしているものが多い。
サイズや実物大の写真をのせている本もあったので、日頃使っているLamyのサファリと並べ比較してみると、たしかにM400は小さい。
全長を見るとM800の方がサファリにかなり近い。
 
事実、本で見たときは、日頃サファリを使い慣れているわたしにとって、M800購入か?と、なんとなく思っていた。
もし、ネット販売を利用するのならば、このときの判断はM800になっていたと思う。
 
丸善などのようにM1000〜M300の全種類を店頭に並べてディスプレイしているお店も多いが、並んだ本物の姿をみても本当にM400は小さく感じる。
 
そのようなイメージをもったまま、わたしは伊東屋で試し書きをさせてもらった。
 
そこで、M800を初めて手にした印象。
わたしは店員さんに「これは#1000ですか?」と聞いてしまった。
そう言葉がでてしまうほど、M800は想像以上に太かった。
この太さが売りのようだが、コレは葉巻だと思った。
実際に、色々と字を書いてみても、なんだかとっても違和感がある。
 
一方のM400の方は、私の手にピッタリ。
携帯用というより、ふつう使いのペンにピッタリではないかと思った。
 
この感覚は、たぶん日頃太い軸のもので字を書くことがないからだと思うが、何度書いてもM800の太さにはなじめなかった。
 
やっぱり実際に手にしてみるというのは、モノを買う場合は大切だとあらためて思った。
いくら他人が良いと薦めるものでも、一つの判断基準にはなるが、最後はやはり自分にあうかどうかである。
 
この日は、他のサイズも試してみたかったが、時間がなかったので、2本だけの試筆に終わった。
このときは、次はM400とM600を試して、気に入ったものを買おうという状態で、伊東屋をあとにした。
 
 
 
 5
 
書斎館の喫茶から、話が止まってしまった。
 
書斎館のカフェからペンブティックの方に、すっかり涼んだわたしは、心地よい緊張感を持って進んだ。
 
何度訪れても、この場所は日常から隔離された別空間が存在する。
まずは目的のペリカンのディスプレイされている場所を確認。
 
大理石のテーブルの前のガラスケースの特等席にスーベレーンシリーズの各色が鎮座している。
あせらずに、まずはゆっくりと店内の隅から隅までペンの一本一本を鑑賞。
まるで、美術品を鑑賞しているような錯覚に陥る。
 
一通り見て回ったら、ちょうど椅子が一つ空いていた。
テーブルの向こうにいるお姉さんに声をかけて、ペリカンを試してみたい旨お願いした。
 
M800はどうも伊東屋でしっくりこなかったので、M600、M400のそれぞれペン先MとFをお願いした。
 
書斎館の大きな魅力の一つに、この試し書きがある。
 
Webなどで「書斎館」訪問記を見てみると、皆さん心ゆくまで試し書きをされて、最高に満足な逸品を、迷いに迷って購入したことが紹介されている。
 
ペリカンのスーベレーンならば、そう珍しいものではないので、ちょっとした百貨店の万年筆売場に行けば入手できるが、あえて書斎館で万年筆を買う理由のひとつにこの満足行くまで試し書きができることがある。
 
これがもしデパートの文具売場なら、立ったまま、それもインキをちょこっと。
という状態がほとんどではなかろうか?
大理石のテーブルの前に座り、リラックスした状態でお気に入りの万年筆を徹底的に比較して選ぶことができるなんて、最高だと思う
 
併せて、お店の雰囲気、接客も良しとくれば、リピータが多いというのも納得できる。
 
書斎館では、まず候補のペンが決まると、大理石のテーブルへと案内される。
すかさず、別のお姉さんがお茶を出してくれる。
 
そのお茶を飲みながら、リラックスして試し書きの準備を待つことになるのだ。
 
 
 
 6
 
書斎館では、用意された椅子に座ると、まず黒い革の敷物が大理石のテーブルの上に広げられる。
そして、試し書きの用紙が2種類用意される。
 
一つは少しクリームがかってザラッとした厚みのある紙。
万年筆の書き味を試すのに最適の紙らしい。
もう一つは、通常使うことの多い上質紙。
 
2種類の紙は、ともに黒革製のバインダにセットされており、これがまたいい雰囲気。
そうするうちに、お姉さんがわたしのお願いした#600と#400のペン先M、Fの4本を用意してくれた。
一本一本に丁寧にインキを付けて、まずはお姉さんが「永」の字をゆっくりと試し書きしてインキフローを確認した上で手渡してくれる。
 
最初に手にしたのが、#400のM。
LamyのMと比較すると思ったより細い。
 
比較で持参したサファリのMと実際に比較させてもらうと、やはりかなり細く感じる。
サファリのM程度のものが欲しかったので、ペン先Fの書き味まで一通り試して、まずは、このMより細いFは除外した。
 
持った感覚は#600がかなりいい感じ。
でも#400の方が、長い間書くには楽そう・・・。
などと迷っていると、お姉さんはBも試してみてはと、知らない間にセットしてくれていた。
 
ペリカンのBはペン先が横に太く、まるでカリグラフィで書いているよう。
書いていて面白いと思ったが、日記用に使いたかったので、これも除外。
 
結局1時間近く、#600と#400を迷った挙句、一度は#400に決めたと言いながら、やっぱり待ったをかけたり。
 
細いペン軸が書きやすい気がするとお姉さんに話すと、同価格帯のファーバーカステル伯爵コレクションの「ギロシェ」を出してきてくれた。
これは、ペン先はFのみということだが、ペリカンとは全く異なる書き味がいい雰囲気。
 
次の勝負ペンは「ペルナンブコ」かな?と思いながら、私の好みは細軸なのだという結論に達した。
そして、お姉さんに「#400にします」と伝えた。
 
色はどの太さでもボルドーというのは、先に伝えていたので、すでにテーブルの上には光り輝く#400と600のボルドーがペントレイの上で、私の選択を待っていた。
 
万年筆のペン先はお店で交換できるというのを、ここで初めて知った。
 
ペン先をMに交換してもらい、手渡されて最終のペン先を確認させられた。
インキはロイヤルブルーを選んだ。
 
この日「書斎館」には喫茶にいた時間を合わせると2時間近く滞在していたことになる。
決断力の鈍い私に長時間付き合ってくれたお姉さんに感謝。
 
帰りにはお姉さんの名刺をいただいた上に、出口まで見送っていただいた。
 
万年筆を買うという行為で、ここまで満足感をお客に提供できるお店は、本当に素晴らしいと思った。
 
またいつか、万年筆を買う機会があれば、ぜひ書斎館を訪れたいとおもいながら、表参道の駅へと、私はゆっくりと向かった。
 
 
 
 
 
●万年筆を買いに(ペリカンM400購入記:おわり)
 
これは、2005年に手帳とカバンのホームペーヂの特集ページ、「万年筆を買いに」にUPしたものを、加筆修正したものです。
 
1 2005/06/18更新
2 2005/06/18更新
3 2005/06/28更新
4 2005/07/10更新
5 2005/07/16更新
6 2005/07/24更新
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