1.楽器の特徴・写真・運指でベインズの文章を紹介した。翻訳が必ずしも専門家ではない人には説明になっていない箇所が生じるのはどの分野でもよくある。例えば「厚くガウジングしてある」とは何を意味するか。ガウジングとは英語のgougeという動詞の現在分詞形であり、「丸ノミで切り出す、削り取る。えぐる」という意味である。ちなみに、勘違いでgageやgaugeだと思っている人もいる。確かに少し削っては計測して、また削るを繰り返しているので、測ってはいる。でもこれは発音がゲイジだ。物理学のゲージ変換のゲージでもある。ガウジではない。ドイツ語ではinnen hobelnつまり「内側をカンナ掛けする」という。
では「厚い」とは「深い」の誤訳かと思われる可能性がある。実はここでは、削って残った部分の厚みがフランス式(コンセルヴァトワール式)よりも厚いことを意味している。それではウィーン式のリードの方が厚いリードなのか思われてもいけない。材料の葦は竹に似ていて、外皮は大変硬い。ガウジングとは外皮を削るのではなくて、内側を削るのである。これを少し厚めに残しておくと、今度はスクレイプという外皮を削る作業にとりかかる際に、外皮をやや多めに削り取ることが必要になる。ということは、仕上がったリードが柔らかい部分を多めに含むことになる。つまり同じ材料からフランス式とウィーン式のリードを作り、厚みが同じであれば、ウィーン式の方が柔らかい。
この点も更に一概にそうではないことを以下で説明するだろう。 忘れそうなので、先に簡単に説明する。日本の食品であるカマボコ、特に外側がピンク色のカマボコを思い浮かべてみよう。リードはこのピンク色の部分だけを用いるので、白いところを全部削り取ってみる。これがガウジングだ。ピンク色の部分は長さ方向にはどこも同じ厚み(並進対称性あり)だ。こんな形状をフランス式はを用いるのだが、ウィーン式には、このカマボコのピンク色の真ん中部分が肉薄になっている。外目には均一に見えるので、真ん中あたりの内側が他より白身と一緒に削り取られていると想像してみてください。 つまりそういうカマボコ材を真ん中で2つに折り曲げて作られるリードの先端はほんの少しだけれども、肉薄なのである。その肉薄の状態から外側から少しずつ削り、息の流れで振動する厚さに達すると、リードの先端近くはやや硬い部分を含んでいる。よって同じ厚さ分布であれば、ウィーン式のリードの方が硬いはず。一つ上のパラグラフの結論とはちょうど逆であるが、前提条件が異なるので、矛盾しているわけではない。
このようなことをベインズの説明不足と非難することはできまい。ウィーン式に特有なことに限らず、オーボエのリードにまつわる多くの情報を整理しつつ、リード作成方法を示しておきたい。