「屋根の上のヴァイオリン弾き」でも扱われたように、帝政ロシアはそこに住むユダヤ人にとって受難の時代であった。ムソルグスキーはユダヤ人ではないのに、彼の墓にはなんと「ダビデの星」が刻まれているという。虐げられるユダヤ人への共感ともとれる。本当のロシア人の姿は、心優しく、極寒の厳しさにも誰を恨むわけでなく耐える、力強い民族のはずだ、今の政治が間違っているだけなのだと。これは、この曲ばかりでなく、全曲あるいは彼の全作品に、そして彼の人生そのものにうかがえることだろう。
絵はポーランドのサンドミルで描かれた。團氏は「絵の中では無表情の二人が、音楽の中では、貧乏人は上目遣いの表情を浮かべながら、金持ちに何かをくだくだ言い、金持ちは傲然と、それをはねつける。2枚の絵を一つの音楽で表わし、二人に対話をさせている。ムソルグスキーの発想に感動する。また音楽は、絵に必ずしもとらわれずに、作曲されたという証拠である。」と述べている。