寝た子を起こさない、保険会社が行った商品改悪通知
平成22年7月1日から、東京海上日動の自動車保険商品及び保険料が大幅に改定されることになりました。
改定点は多岐にわたりますが、大きな改定点は、東京海上日動・自動車保険の主力商品である「ト-タルアシスト」から、『搭乗者傷害保険』が廃止されたということです。この保険が廃止されることによって、契約者側が被る一番の痛手は、後遺障害の等級認定に基づいて支払われていた『後遺障害保険金』が支払われなくなることだとみています。
この問題は、今回の改定で、「無保険車事故傷害特約」も改定され人身傷害保険に吸収・統合されることになり、支払基準・支払保険金の算出方法が人身傷害保険と同一になった点と合わせて、別の機会に改めて述べてみたいと思っています。
改定には、「改善」と「改悪」の両方の意味が含まれますが、保険の場合は、一方にとって有利なことは、片方にとっては不利になるという相反する関係が常に成り立っており、保険金を支払う側と受け取る側という両者が宿命的な関係に立っている以上、いたし方のないところでしょう。
7月の改定前から、東京海上日動にはすぐれものの「特約」があります。「事故・故障時レンタカ-費用補償特約」がそれです。
この特約は、事故・故障で代車が必要となったとき、レンタカ-を代車として借りられる特約で、優れている点は、@車両保険を使わなくても、別個独立に行使できる特約である上に、Aノ-カウント事故扱いになるということです。
鋭い方は、この@とAの利点を聞いただけで、何に活用できるメリットが出てくるかお分かりになると思います。そうです。100ゼロ事故交渉の切り札として活用できるということです。
丁か半かではありませんが、相手保険会社に、10%の過失追及に固執して、90%の代車費用を支払うか。100ゼロ解決して、90%の代車費用支払いを免れるかの二者択一の選択を迫ることが可能になるということです。
ところで、この優れもの特約。7月のからの改定により、名称が「事故・故障時レンタカ-費用補償特約」から「レンタカ-費用補償特約」に変わるだけでなく、損害率悪化を主な理由に特約保険料も値上げとなります。
しかし、たとえ保険料がアップとなっても、この特約の持つメリットを考えたときは、まだ付帯する価値はあると思っていますが、許せないのは、この改定のどさくさにまぎれて、この特約に加入している契約者に明確に知らせるような方法をとることもなく、契約更改案内資料として送付した「重要事項説明書」の中に小さな活字で、レンタカ-を借り受けることのできる30日の起算日を、「当社がレンタカ-借り入れを承認した日」→「事故の発生の日」に規定を変更していることです。
特段の注意書きを入れた変更規定ではなく、何気ない改悪規定ですからその変更に気づかない人がほとんどだと思われます。
保険料を値上げしただけではなく、その内容においても契約者側に不利益に改定したことをあえて周知徹底することは、寝た子を起こすことになるのではないかと考えたのかどうかは定かではありませんが、全て「重要事項説明書」に記載すれば事足りるとする保険会社の姿勢に疑問を持つわけです。
代理店も気づかないような契約者側にとって不利益な改定だけに、結局は誰も契約者側に説明しないということになり、いつの間にか不利益に改定されていたという事態になることは、十分に予測されるところです。
車両保険に「一般条件」で加入している契約者が、コンクリ-ト塀に接触した単独事故を起こしたとします。そんなに目立つキズではないので、仕事を片付けてから修理に出すというような人は、結構多くいるはずです。このような時、改定前に加入し、いまだ更改を終えていない人は、自分の都合に合わせて修理に出しレンタカ-を最大限30日間借りられるのに、7月以降更改手続きを行った契約者は、自分の都合のよい日に合わせて修理に出すことに不都合が生ずる場合が出てくるということです。事故日から日がたつにつれ、借りられる期間が短くなるということですからね。
そして、何よりも大きな痛手は100ゼロ交渉において、示談交渉の結果を待って修理依頼するというかけ引き行為ができなくなるおそれがその分強まったという点です。
「重要事項説明書」に記載しているのだから、後は、ご自身で読んでいただくか(読んでも、改定前の規定文言が分からないから、不利益に改定されたことには気づかない)、更新時、代理店が説明することになる。
そんな考えを持っているとしたら、それは、加入者側の目線にたった商売をしていないということであり、たとえ、寝た子を起こすようなことになっても、契約者側に不利益となる商品内容の改定は、契約者側か分かるような方法で周知徹底しその改定理由を明確にするのが保険会社の務めではないのか。私は、そこに保険会社の良心をみるような気がするのです。(2010.5.16)