事故交渉。「保険会社に主張できること」と「保険会社にその主張を認めさせること」とは、まったく次元の異なる話。認めさせるような交渉をするのが「交渉力」。契約者は、イザというとき、一体誰の交渉力に頼ればいいのか。 大型ス-パ-マ-ケット屋外駐車場内で発生した無過失主張物損事故の交渉をめぐって、 代理店と 保険会社事故担当者との間で行われた攻防。そこには、意外な結末が待っていました。






ある晴れた日曜日の昼過ぎ、A代理店のもとに1件の事故連絡が契約者から入ってきました。
事故状況を聞くと、
軽自動車を運転して大型ス-パ-マ-ケット屋外駐車場の走行通路部分を公道に出るため走行していたところ、白線駐車スペ-ス内に駐車していた乗用車がいきなり通路に飛び出してきて軽自動車の右側後部タイヤ横のボティ部分に衝突してきた物損事故であることが判明しました。

A代理店は、事故現場で契約者立会いの下、事故状況についてさらに説明を求め契約者の意思確認を行った結果、相手は、駐車状態からの突然の発進であり、事故回避不可能を理由に無過失主張であることを確認した。そして、その主張に充分な合理性があると認められたことから、代理店は加入保険会社に対し無過失主張事故として事故報告をしたうえで、事故相手方保険会社と交渉を開始することになったというわけです。

A代理店は、交渉を始めるに当たって、代理店が契約者の代理人として示談交渉をすることの是非について、代理店委託契約を結んでいる保険会社に対して問い合わせることから始めることにしました。
保険会社からFAXされてきた回答文書は次のような内容のものでした。

「弊社としましては代理店さんが示談交渉を行うことを『全ての代理店さんが行ってはいけない業務』として位置付けております。詳細は別紙『「全ての代理店さんが行ってはいけない業務」事例集』をご覧下さい。
理由としましては、ご承知の通り非弁行為に該当する可能性があるからです。代理店さんがお客様から契約を頂いているため『報酬を得る目的』と見なされかねません。」

A代理店は
20年前と少しも変わらない保険会社の見解に怒りを覚え次のような内容要旨の文書を会社にFAXで送り付けました。

「弁護士法72条は、代理店は契約者から契約をもらっているので「報酬を得る目的」ありと見なされかねず、非弁行為に該当するおそれありと平面的に解すれば足りるほど、単純な条文ではないということです。72条は、犯罪構成要件上「目的犯」であり、実行行為(代理行為)時にこの主観的な目的(報酬を得る目的)が行為者(代理店)に存在していたことが不可欠な犯罪だということ。
だから、契約者のために無報酬で代理行為を行う代理店の行為は、代理行為時、この目的が代理店に欠けているため、果たして72条に抵触するや否やということが問題となるわけで、いまだ判例なしの状態だということではないのか。

保険会社は、代理店が行ってはいけない業務の一つとして『相手方と示談交渉を行うこと』を文面で明確に示している以上、代理店の無報酬代理行為が弁護士法72条に抵触するという法的見解を明確に示す必要があるのではないか。この問題は、過去多くの代理店から強い要望があるにもかかわらず一度たりとも保険会社の見解を明らかにした文書公開がなさされたことはないという事実。『72条抵触のおそれがあるから行ってはならない』では、子供に対して『危ないから危険な場所に近寄ってはいけない』と言っているのとなんら違いはないのではないのか。
代理店は子供ではないのであって、本人が意識しているか否かは別として、専門職業人としての社会的評価を受けるべき存在。代理店の無報酬代理行為に対する72条判例が過去に存在しない以上、保険会社として法的見解を明らかにするのは当然のことではないのか。契約者が無過失主張をする場合、代理店としてどのような措置をとるべきかご教示願いたし。」

予想していたこととはいえ、保険会社からは何の具体的回答も返ってくることはありませんでした。悲しいかな。これが保険会社の現実です。
代理店の無報酬代理行為が弁護士法72条違反の「非弁行為」に該当するという会社見解を明らかにし、委託契約を締結している全代理店に提示している保険会社は私の知る限り一社たりともないという事実。法的根拠を明確にすることもなく、単に抵触のおそれがあるだけで代理店の行ってはならない業務としている保険会社。また、この措置に対してなんの疑問を持つこともなく従順に従っている代理店。まことに不思議な業界です。この保険業界というところは…。

もっとも、この代理店の非弁行為の問題は、その背後に日弁連との問題が深く絡んでいると思われ、単純に保険会社だけを責めるわけにはいかないと思われますが、せめて代理店に契約者の無過失主張事故に限定して、ある一定限度(保険を使って処理するか、訴訟に移行するか等の判断を契約者がするまで)までの無報酬代理行為を容認するとかの対策を講ずるべき段階にきているのではないかと私は思うわけです。
事故でもめれば全て弁護士に依頼するというシステムを採用することが種々の問題から困難な現状(弁護士の絶対数不足の問題・過度の弁護士特約行使による保険料改定大幅アップの問題・軽微な事件を敬遠せざるを得ない弁護士の個人的事務所経営の問題…等々)を考えたとき、契約者の権利・利益を守るためにきめ細かい支援活動を行うことができるのは代理店をおいて他にないからです。

さて、いよいよ相手保険会社との交渉。A代理店は無用なトラブルを避けるために、契約者の「使者」として交渉に臨むことにしました。
「代理人」と「使者」の法的違いは?
有斐閣刊「法律学小辞典」は、使者について次のように説明しています。「他人が決定した法律行為を単に伝達又は伝達を完成する者をいう。自ら意思決定をする代理人と区別して用いられる。」。
契約者に代わって代理店自らの決定でなした意思表示が契約者の意思表示として法律上扱われるのが「代理人」の資格。契約者からはなんらの交渉権限をも与えられず、契約者の行った意思表示をそのまま相手方に伝えるだけに過ぎないのが「使者」としての立場。

A代理店は相手保険会社に対して(以下「保険会社」と呼称)、以下内容要旨のFAX文書を送信しました。
◆本件事故については、当方契約者が無過失主張なので当代理店が契約者の「使者」として窓口となる。契約者の伝言を伝えます。
保険会社は契約者にも過失責任があるとするが、その論理的根拠及び資料を提示されたし。

保険会社からの回答要旨
は次のような内容のものでした。
今回の事故は一般道路ではなく駐車場内の事故であり、常時車の出入りがある敷地内であることから、双方が注意して走行しなければならないこと及び双方、走行中の事故であるから、弊社は双方に過失責任があると判断している。


A代理店がFAXした
契約者からの伝言内容要旨(以下、「質問内容要旨」と呼称)
◆@過失の中味がわからないと、貴殿の言うことが正しいかどうか判断できないから、裁判所が「過失」の意味内容をどのように判示しているか提示願いたし。

◆A双方走行中であると、何故双方に過失責任が発生するのか説明されたし。



保険会社からの回答要旨
@第一に、損害発生の危険を予見したこと、ないし予見すべきであったのに(予見義務)予見しなかったこと。
第二に、損害発生を予見したにもかかわらず、その結果を回避するべき義務(結果回避義務)に違反して、結果を回避する適切な措置を講じなかったこと。

A相手車両の動静に注意して、安全に進行すべき注意義務があるということ。


質問内容要旨
過失成立に予見可能性の存在は不可欠であり、予見可能性があれば、具体的な事故回避行為義務を運転者に課すことが可能となるからだと担当代理店から説明を受けた。立命館大学法学部教授・吉村良一著・「不法行為法」(有斐閣刊)63頁にも以下内容の文章が記載されている。
「過失が存在するためには、行為者が行為にあたって注意しておれば損害結果を予見できたこと(予見可能性)も必要となる。なぜなら、結果発生について予見可能でなければ、行為者には、当該状況において講ずべき回避義務の内容が分からないからである。」

そこで次の質問をしたい。
◆@今回の事故で、貴殿は当方にも白線駐車スペ-ス内に駐車していた相手車が突然通路に発進してくることは予見可能であったと判断しているわけだが、それでは、この予見可能性に基づいて当方はどのような事故回避のための運転操作を事前に取ればよかったのか、具体的に説明願いたし。その具体的な回避行為を不注意で果たさなかったことが当方の過失であると考えるからだ。

◆A当方が走行していた駐車場内の通路は、道路交通法の「道路」に該当しないのか。



保険会社からの回答要旨
@「どのような事故回避のための運転操作を事前にとればよかったのか」とのことですが、そのことについては当方で説明することではないかと思われます。

●A事故現場を調査してきましたが道路交通法の適用は有りません。事故状況により参考にすることは充分に考えられます。


この担当者。そろそろ馬脚をあらわしてきたということです。
@の回答は、無過失をヒステリックに叫ぶドライバ-がよく叫ぶせりふと同レベルに捉え、その受け答えによく保険会社が発する定型文言の一つですが、当方側が、回避義務の前提として重要な意味をなす予見可能性ないしは予見義務の存在理由を述べた上での質問であるにもかかわらず、この担当者は、予見可能性ないし予見義務と結果回避義務を平面的にしか理解していない事を如実に物語る、過失というものの内容をよく理解していない証拠といえる@の回答だということです。
そして、Aの回答…。この担当者、本当に事故現場に行ったのかなと疑いを持ちましたが、とりあえず次回の質問で判断することにしました。


質問内容要旨
貴殿は当方の運転行為に過失ありと主張しているわけだから、あなたが過失の内容として提示した「予見義務」に基づいて当方に要求される事故回避のための具体的行為を説明し、その行為をとらなかった点に落ち度がある。だから過失責任があるのだという論法をとらなければならないはず。

◆@今回の事故は、当方車が相手車の前を通過直前に発進してきたために、「事故回避可能性」は存在しない事故形態であったと判断している。可能性のないところに義務は存在しないのであるから「事故回避義務」もまた存在し得ない。故に無過失。これが当方の結論である。反論あればその理由を明らかにされたし。

◆A事故現場である当該走行通路が、道交法2条1項1号に規定する「一般交通の用に供するその他の場所」に該当しないとする理由を説明されたし。


保険会社からの回答要旨
●@弊社もあなた様の車がご契約車の前を通過直前にご契約車が発進したために衝突した事故と判断している。双方ともに事故を防ぐ「事故予見」が存在していたと考える。そちら側も「事故予見」をあえて否定していない以上、「事故予見」を認めて「事故回避」の存在を認めないというのは無理があるのではないか。目の前の危険を判っていながら「事故回避」をしないのは危険行為ではないのか。減速・停車といった行為が「事故回避」行為であり、それらの行為をしなかった以上過失責任は免れない。

●A別紙の通り、道路交通法2条1項1号の規定する道路の意義から判断すると当該事故現場は駐車場であり、「一般交通の用に供するその他の場所」に該当しないと判断する。


この担当者に欠けていることは、事故予見可能性の存在は否定し得ないが、それでも車を運転しなければ日常生活は成り立たないという現実があるという認識です。
一番分かりやすい例が住宅街裏通りの車走行を想像していただければいいと思います。
各家にはそれぞれ車庫がありますから、その車庫からいつ何時車が路上に飛び出してくるかもしれないということは、車を運転する者なら当然に事前に予測できることです。ではこの予測に基づいて考えられる事故回避のための事前措置とは、一体どのような内容のものになるのでしょうか。前方注視…?減速運転…? それだけでは飛び出し衝突事故は回避出来ないということです。
各家の車庫を通過する直前で一旦停車し、車庫から車が飛び出してこないことを確認後車庫を通過するという措置をとらなければならないことになるわけですが、車庫はどの家にもありますから、過失責任を追及されないためにはそもそも住宅街道路の走行を避ける以外に方法はないということになるはずです。この結論がいかに非現実的なものであるか、考えてみればすぐに分かることです。

また、この担当者にはこれまでの回答内容から判断して、「事故予見可能性」の存在をもって「事故回避可能性」の存在をも無条件的に即肯定できるのか、といったレベルの議論には遠く及ばない知識レベルにあるという事が推察されました。
その推察が間違っていない何よりの証拠がAの回答内容です。
にわかには信じがたいことですが、物損事故担当の専門職業人(アジャスタ-)として、不特定の人や車が出入りする状況下にあると客観的に判断される場所は、たとえ私有地であっても道交法に規定する「道路」に該当するとするのは、多くの判例も存在し、交通事故を取り扱う職業人としては「常識」の範疇に属する基本的知識です。
にもかかわらず、この30代?の担当者は本当に知らなかったのである…。

この不知は、事故交渉という生存競争の場(相手の不知・ミスに乗じてこちら側を有利に導く)においては、格好の攻撃材料になるということです。
ここで抽象的過失論争からの無過失主張作戦は一気に方向変換して、判例タイムズ「100図」適用による無過失主張作戦に切り替えることにしました。
そこで、私有地であっても不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所は道路であると判示した昭和44年の最高裁判決。駐車場のうち駐車位置を示す区画線によって仕切られた部分は、一般交通の供するその他の場所とはいえないが、駐車位置区画線のない通路部分は、現に不特定多数の人ないし車両等が自由に通行できる客観的状況にあると認められるから道路交通法にいう道路に該当すると判示した昭和56年の名古屋高裁判決を突きつけ、次のような質問を投げかけました。


質問内容要旨
貴殿の的外れもはなはだしい誤回答を再検討し、駐車場事故現場通路の「道路」該当性の可否について回答を寄こせられたし。


この質問に対して返ってきた回答は、完全に開き直った文書内容であり契約者ともども唖然とする内容のものでした。


保険会社からの回答要旨
●今回の事故は、別紙判例の通り(注:マンション地下駐車場内でバツクで通路を進行するA車に、自己の車庫から切り返しのため通路に飛び出してきたB車が衝突した事故につき、突然切り返しを行い通路に出てきたB車に7割の過失を認めた平成11年の東京高裁の判例)
駐車場内の事故で他車との接触を回避するよう注意を払うべき義務があると考え、弊社として責任割合はご契約者様70%;あなた様30%と判断する。これ以上を望むのであれば、御社のサ-ビスセンタ-に相談されるか、交通事故の相談所で相談される等、第三者に判断を委ねたらいかがか。


この文書を見たA代理店は、即座にこの担当者に直接電話を入れ、「ガキみたいな文書を送りつけてくるのではない!」と一喝。この一喝がきいた担当者に対し、まず自らの知識のなさを恥じるなら素直に認める文書を送れと通告した上で、判例タイムズ「100図」(路外から道路への右折進入事故態様図)を採用して、20対80の基本過失割合から交渉を始めることを認めさせたわけです。その直後送られてきた回答文書は次のような内容のものでした。

●△△様のおっしゃるとおり、道路構造の安全、安全かつ円滑な道路交通の確保その他道路の管理上必要な施設という解釈の基に駐車場内で道路と見なす判例があると知りました。そこについては訂正させていただきます。申し訳ございません。
しかしながら、そこに今回の事故の焦点はあるでしょうか。弊社として判断するのが双方に事故予知可能性があったことと事故回避可能性があったかということだと考えます。先ほど送付した判例の通り双方接触を回避するよう注意を払うべき義務があると考えます。


この担当者には、何故こちらがタイムズ適用による交渉に誘導したのかまったく読めていない。
抽象的な過失論での交渉では考え方の違いということになって埒があかないから、修正要素採用の
可否をめぐっての交渉としたほうが100ゼロ主張を通すには適している事、つまり担当者側にとっては不利な戦いを強いられることになることにはまだ気づいていないのである。この愚かな担当者には…。


質問内容要旨
◆@タイムズ100図は路外車の「徐行なし」道路進入を修正要素としているが、何故タイムズが「徐行なし」を修正要素としたのか、事故担当者としての貴殿の見解を伺いたし。

◆A事故相手車は、当方車が相手車の前を通過直前に飛び出してきて衝突している。したがって「徐行なし」の修正を要求するものであるが、異論があればその理由を伺いたい。


保険会社からの回答要旨
●@担当者として私の見解は、路外車が道路に出る際、一時停止又は最徐行して道路に侵入しなくては危険であるから修正要素にしたのではないかと考えます。

●A今回のケ-スでは、弊社の契約者は衝突前が停止状態にあり、著しく加速はしておらず「徐行なし」の修正を適用しないものと判断します。



この担当者は、自らが述べた@とAの回答内容が論理的にまったく矛盾していることにはお構いなしに、タイムズが「徐行なし」の例として説明した「路外から著しく加速して飛び出す場合等である」を例示説明文言とは理解せず、限定説明文言として捉え「著しく加速して飛び出していない」から徐行なしにあたらないとの結論を導いている。小学生レベルの理論の組み立てである。

タイムズは路外という空間をいろいろな形態で想定しており、著しい加速状態で道路に進入してきた場合でなければ、道路を走行している相手車両に衝突回避のいとまを与えないような進入形態にはならない場合がありうることから、かような説明文言を用いたのだと解釈するのが自然であり、したがって、
道路走行車に衝突回避のいとまを与えないような道路進入形態であれば、著しい加速による進入でなくても「徐行なし」に該当すると理解すべきなのである。
担当者の見解「路外車が道路に出る際、一時停止又は最徐行して道路に侵入しなくては危険であるから修正要素にした」は間違ってはおらず正しい見解ということになる。


質問内容要旨
◆@貴殿説明によると、「最徐行して道路に侵入しなくては危険であるから」、徐行なし進入を修正要素としたことになる。だとすると、相手車は停車の状態からいきなり発進して道路と見なされる「通路」に侵入してきたわけだから、危険な道路進入をしてきたことは明らか。したがって、その進入を徐行なし進入としたうえで修正要素として採用しなければならないことになるはずだ。あなたの見解は…。

◆A貴殿は日本語自体をよく理解していませんね。「等」がつく以上、「路外から著しく加速して飛び出す場合」は「徐行なし」の例示であって、道路走行中の車両に衝突回避のいとまを与えないような道路進入形態は「徐行なし」進入にあたるのですよ。それはあなたが回答してきた理由、「路外車が道路に出る際、一時停止又は最徐行して道路に侵入しなくては危険であるから」ですよ。あなたの見解は…。


保険会社からの回答要旨
●@危険な道路進入とはどのようなことでしょうか。ご契約者様にお会いし確認しましたが、アクセルを急に踏み込んだことはなく、クリ-プ状態で発進したと話しています。停止状態にあるご契約者車両が危険な道路道路進入をしたとは考えられません。

●A「等」が今回のケ-スに当てはまるとは考えられません。事故場所は駐車場であり、駐車車両が発進することは当然予想される場所です。停止状態から発進しただけで「著しい加速」とは判断していません。
「徐行なし」をあなた様が要求するのであれば、弊社としては「頭を出して待機」の修正を要求します。あなた様からは路外に出るお客様車両を確認できたわけですし、予見はできると想定されます。総合的に判断して弊社お客さま80%、あなた様20%が妥当ではないでしょうか。「徐行なし」の修正を採用することは考えておりません。


質問内容要旨
◆@あなたは自らの回答文書の中で「最徐行して道路に侵入しなくては危険であるから修正要素にした」と述べているのですよ。
「危険」という言葉を自ら使用しておきながら「危険な道路進入とはどのようなことか」と逆質問してくる
あなたの神経を疑うが、当方の担当代理店は「危険な道路進入」とは、事故発生の蓋然性が高い道路進入と説明している。
クリ-プ状態で発進進入したとの事だが、事故車双方の損傷状況がその状態で進入衝突した場合の衝突痕として整合性が認められるということでいいのですね。あなたはすでに双方の事故車を確認しているのだから。

◆Aあなたは事故担当者の立場から「徐行なし進入」を「路外車が道路に出る際、一時停止又は最徐行して道路に侵入しなくては危険であるから修正要素にしたのではないかと考えます。」と述べている。
とすると、「著しい加速」状態での進入にかたくなに固執し、その状態での進入でないから「徐行なし」の修正を採用しないとするのは明らかに論理的矛盾であって、相手車は停車の状態から「最徐行して」進入した→だから「危険」な
道路進入とは考えていない→故に、「徐行なし」の修正を入れないのだ、と説明しなければ筋が通らないことになるのでは…?あなたの考えを伺いたい。

◆B事故担当者としての貴殿の資質に当方が抱く一番の疑念は、どのような形態の路外から相手車が道路たる「通路」に侵入したのかという前提の認識がまるでなく、いたずらにタイムズの説明文言に表見的こだわり、タイムズ修正要素採用の可否について論じているあなた自身の考え方そのものである。何故にタイムズが「徐行なし」道路進入を過失割合修正要素としたのか。走行中の直進車に衝突回避のいとまを与えないような道路進入形態は基本過失割合の中には評価されていないからだ、という認識がまるでないんですよね。あなたの頭の中には…。
クリ-プ状態で進入衝突したのであれば、最徐行進入と認め「徐行なし」の修正要素採用を見送りたいと考えるが、合意していただけるか。

◆C事故状況を都合のよいように勝手に創ってはいけない。タイムズ177頁なんと説明しているか。事故当事者としてそのような事実はなかったということだ。事故相手は通路に頭を出して一旦停車の状態から発進したと間違いなく説明しているのか。

◆D総合的に判断して80対20が妥当ではないかとする貴殿の提示案。
寝ぼけたことを言ってもらっては困る。事故相手は、事故直後、当方に対して「すみません。全然見てなかったです」と、左方から進行してくる当方の車を確認することなく通路に侵入してきたことを率直に認めている。
よって、「著しい過失」10%の修正をさらに要求する。あなたの考えは…。


ここにいたって、この愚かな担当者は、こちらがタイムズ適用を通し結果として100ゼロを意図していることにようやく気づいたというわけです。
いよいよ意外な結末を迎えることになるわけですが、自分の仕事に自負心を持つこともなく「恥」というものに鈍感な人物と接触交渉することの厄介さ。今回はその典型的な事例となってしまったということです。


保険会社からの回答要旨
●これまでFAXのやりとりで交渉させていただき、社内で検討させていただきましたが、私ども○○保険会社は今回の事故の過失割合は80対20で考えております。こちらが最終判断としてご提案します。ご検討ください。






いかがでしたか。以上が交渉の全記録です。
こちらの理詰めの質問追及に自らの言葉でボロを出し逃げ場を失った挙句の問答無用の「開き直り回答文書」で交渉を事実上一方的に打ち切ってきた事故担当アジャスタ-。
約款が規定する保険会社の示談交渉の代行義務を自らの意思で一方的に打ち切ってきた行為に対していかなる制裁的措置が取れるのか、明確な回答を今の時点で出すことはできませんが、とりあえず契約者には、事故相手方に対して交渉の全記録書面を郵送し、事故担当者が事実上一方的に示談交渉を打ち切ってきたのであなたと直接交渉をすることになると意思表示することから始めることを提案しました。

しかし、
契約者は、交渉が長引き事故車修理依頼業者に対する修理費支払いが先延ばしになることに難色を示し、自らの車両保険を使ってこの事故の処理に決着をつける事を希望しました。結果として、話し合いを一方的に打ち切ってきた相手事故担当者の提示した80対20での解決となる公算が大きくなったというわけです。

どういうことかというと、車両保険で車の修理費を支払えば、契約者はその被った損害を全面的に回復したことになる→だから、事故相手に対する損害賠償請求権は消滅する→消滅した請求権に代って保険金を支払った保険会社が、支払った保険金を上限とするその限度内において相手の過失責任分を請求する権利を得ることになる(代位取得)→相手保険会社から回収することができる金額は、当然のこととして、契約者の過失責任分
(事故実態を反映した過失責任とは異なることに注意しなければならない)・相手車両修理費用の契約者責任分を差し引いた金額ということになり、実質80対20で示談解決したことと同じ結果となる。当事者の示談解決と異なる点は、「示談書」が作成されないということと、保険会社が相手保険会社からいくら回収したかについては、契約者は蚊帳の外でまったく知らされることはないということです。

交渉現場において、契約者側の最大のネックとなるものは、上記に記載したように交渉が長引くことによる修理業者に対する修理代支払いの先延ばし問題です。相手保険会社は示談が成立しない限り修理代は一円たりとも支払わないし、ひとたび車両保険を使えば契約者は事実上事故当事者性を失うことになると同時に割引等級3等級ダウンは免れないことになりますから、無過失という主張を最後まで押し通すためには、結局のところ修理代を自らが立替え払いをしなければならないということになります。果たして契約者にそこまでの経済的余裕があるのか。交渉相手保険会社はこの弱みを見透かしたように突いてくる訳ですね。「示談に応じていただかないと修理代はお支払いできません」、といった具合にです。
この問題を保険的になんとか解決する方法はないのか。保険会社が契約者の権利を本当に尊重する姿勢を示し取り組めば、対応できる保険システムの開発はそんなにバ-は高くないと私は考えているのです。

最後に、このアジャスタ-なる人物が所属する保険会社100%出資子会社である損害調査株式会社が、アジャスタ-について説明したネット上の記事の抜粋を紹介しておきたいと思います。
ここに書いている内容と実際のアジャスタ-なる人物との間にいかに隔たりがあるか。そのギャップの大きさ。「羊頭狗肉」。まさにこの会社のアジャスタ-ネット記事のためにあるような熟語だといえそうです。


「当社では『人材こそが財産であり、企業の礎である』との考えから当社独自の育成プログラムにより、入社時より人材育成に力を注いでいます。保険自由化に伴い多くの商品が発売されている現在、損害保険を取り扱う技術アジャスターは、正確な約款知識や法律知識を習得しなければなりません。
アジャスターの業務は、保険加入の『お客さま』が不幸にして発生した自動車事故の調査と解決をサポートしていく仕事です。時には裁判所等から報告書の提出や意見を求められるほど専門性が高く、大変やりがいのある仕事といえます。迅速で円満な解決を行うためには、自動車に関する幅広い知識が必要とされるばかりではなく、法律知識も高い交渉能力も必要となります。   
(2010.3.11)