「人身傷害補償保険」と「搭乗者傷害保険」
まずは、両者について説明した損保ジャパンのHPサイト「教えて、自動車保険」を見ておくことにしましょう。
「ご契約のお車に搭乗されている方が自動車事故で死傷された場合の補償にはどのようなものがあるのでしょうか。
自動車事故におけるリスクを考えると、他人への損害賠償の補償もさることながら、ご自身や同乗者のケガに対する補償も心配ですよね。
過失割合に関係なく、みなさんのこのような損害を補償する主な保険には 『人身傷害補償保険』と『搭乗者傷害保険』があります。搭乗者傷害保険は損害の程度に応じてあらかじめ定められた一定額をお支払いする保険であるのに対し、人身傷害補償保険は実際にかかった治療費、休業損害等を保険金額を限度にお支払いする保険です。また、一般的に、人身傷害補償保険の方が補償範囲が広くなっています。
それぞれの補償内容は、以下の通りとなります。
【人身傷害補償保険】
1,補償範囲
ご契約のお車に搭乗中の方が、自動車事故により死亡されたり、傷害や後遺障害を被った場合に保険金をお支払いいたします。また、保険証券記載の被保険者(=記名被保険者)及びご家族については、ご契約のお車以外の車に搭乗中(注1)や歩行中に自動車事故により死傷された場合も補償の対象となります。(注2)
(注1) | ご家族の方が所有、または主として使用するお車に搭乗中の場合は対象外です。 |
(注2) | ご契約の内容によっては、ご契約のお車に搭乗中の事故のみが対象となる場合があります。 |
2,保険金のお支払い方法
ご契約の保険金額の範囲で実際の損害に応じてお支払いする「実損払」となります。したがって、加害者から賠償金の支払いがあった場合は、保険金からその額が控除されます。お支払いの対象となる項目は被害の程度などによって変わってきますが、おおむね以下のとおりとなります。
・ | 死亡の場合→逸失利益+精神的損害+葬祭費 等 |
・ | 後遺障害の場合→逸失利益+精神的損害+将来の介護料(介護が必要な場合のみ) 等 |
・ | 傷害の場合→治療関係費+精神的損害+休業損害(発生する場合のみ) 等 (約款に記載の損害額算定の基準により算定いたします。) |
【搭乗者傷害保険】
1,
補償範囲
ご契約のお車に搭乗中の方が、自動車事故により死亡されたり、傷害や後遺障害を被った場合に保険金をお支払いします。一定の額をお支払いする「定額払」の保険です。
2,保険金のお支払い方法
・ | 死亡の場合→ご契約の保険金額をお支払いします。 |
・ | 後遺障害の場合→ご契約の保険金額に後遺障害の程度に応じた一定の割合を乗じた額をお支払いします。 |
・ | 傷害の場合→入通院の日数に応じた金額をお支払いする「日額定額払方式」と、傷害の部位および症状に応じた金額をお支払いする「部位・症状別定額払方式」があります。 |
※ | 上記以外に、座席ベルトを装着して死亡された場合や、重度の後遺障害を被られた場合などに支払われる保険金があります。 |
【保険金をお支払いする場合、お支払いできない場合】
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※ご契約の内容によっては支払われない場合があります。 」
http://www.sompo-japan.co.jp/knowledge/know021.html
また、他のサイトでは、両者のうちどちらに加入したほうがとくかという前提のもとで、つぎのような説明がなされています。
4-3-1 搭乗者傷害保険と人身傷害補償保険ってどっちがおトク? |
マイカーに乗るあらゆる人が事故でケガや死亡したときの保険金は、「搭乗者傷害保険」と「人身傷害補償保険」から支払われます。 さてさて、どっちがおトクなのでしょうか? 搭乗者傷害保険とは、クルマに乗っていたすべての人に対して自動車事故が原因でケガをしたり、死亡したときに定額の保険金が支払われるものです。死亡保険金を1,000万円にした場合、原則、入院1日につき1万5,000円、通院1日につき1万円が初日から支給されます。万一、事故が原因で障害状態になった場合は、その程度に応じて保険金額が支払われます。 一方、人身傷害補償保険とは、相手のいる自動車事故でケガをしたり、死亡した場合に、契約先の損保会社があらかじめ設定した保険金額を上限に実際の損害額を100%支払ってくれるもの。対象となるのは、保険の対象となっているクルマに乗っていた人全員です。しかも、契約者とその同居の家族であれば、歩行中や他人のクルマに乗っていたときの自動車事故もカバーしてくれる充実ぶりです。 搭乗者傷害保険に比べて人身傷害補償保険は割高ですが、補償内容の充実度は人身傷害補償保険の圧勝ですね。保険会社によっては、搭乗者傷害保険の取り外しができるところがあるので、人身傷害補償保険を付けたら搭乗者傷害保険を外すといいですね。その分、保険料が安くなります。 http://www.bang.co.jp/lecture/lec-4/4-3-1.html |
また、三井ダイレクトのHPは、両者の違いについて、つぎのような説明がなされています。
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最初から、引用部分が大分長くなりましたが、この両者に関してヒットするHPはかなりの数に上ります。
しかし、両者の違いやどちらに加入したほうが得かという説明はなされていても、必ず両方の保険に加入すべきであるという主張をしているHPは見当たらないということです。
両方に入ったら保険料が高くなるから、どちらかに入るようにするのが保険料の節約となる。一見、もっともな意見のように聞こえますが、保険というものが、補償という目に見えない安心を買うものである以上、実際の場面で役に立たないものであってはならないわけですね。
では、なぜ、両方の保険に加入しなければならないのか。私の考えを述べてみようと思います。
両者の保険の違いは、上に紹介した引用内容のとおりで十分だと思いますが、なぜ、私が両方の保険に加入しなければならないのかと主張する最大の理由は、万一事故で負傷したときのことを考えてみれば明らかとなります。
搭乗者傷害保険は自傷であろうが他傷であろうが、ケガをして治療を受けたという事実があれば100%使うことになりますが、人身傷害補償保険は、場合によっては使用しないケ-スが出てくるということです。
実務的にみて、相手が加害者となる事故(100ゼロ事故や相手の過失責任が大きい事故など)については、相手保険会社の一括払い請求という形で、相手の任意保険でまかなっていくのが通常の姿です。
ですから、人身傷害保険のみの加入では、自らの加入保険での保険金支払いはゼロということが生じるということです。
支払いゼロとなって喜ぶのは保険会社のみですが、ちなみに、契約者側からみたとき、人身傷害、搭乗者傷害いずれの保険も、たとえ単独で使っても翌年度の割引等級にはまったく影響のない無事故の場合と同じ「ノ-カウント事故」扱いとなりますから、どんどん使っていい、使わなければいけない保険ということになりますね。
少し話がわき道にそれましたが、本題に戻って、被害事故で突然負傷し、長期の治療を余儀なくされたときのことを考えてみてください。治療を受けるための通院等による時間の消費・仕事への影響・家族への影響等々さまざまな形となって事故による波紋が広がっていくことになります。
しかし、事故によってケガを負わされた場合の法的損害賠償の対象となるのは、あくまでも事故と因果関係があると認められる範囲にとどまり、事故と相当な因果関係のない波及的に生じたさまざまな損害(間接損害)は補償の対象とはならないという現実を見逃してはいけないのです。
私は、搭乗者傷害保険(日数払)は、この法的補償の対象とはならない種々の間接的損害をカバ-する性質をもった保険として位置づけています。
ですから、この性質を持たせることのできない「部位・症状別払」の搭乗者傷害保険は絶対に加入すべきではないということになるわけです。
代理店の中には、契約者に対して、少しでも保険料を安くするために、人身傷害保険に加入すれば搭乗者傷害保険に加入する必要はないと説明して搭乗者傷害保険未加入の形で契約を結ぶ者が多数存在します。
代理店としてそれぞれの考えが方があるから、一概にはこの契約形態が十分ではないとはいえないという考えの方も数多く存在するでしょう。
しかし、私は、この考え方には真っ向から異議をとなえたいと思います。少しばかりの保険料の節約で失う補償の範囲があまりにも大きいからです。
別のところですでに述べたように、いま、搭乗者傷害保険・日数払は、各保険会社にとって大きな重荷となっています。そして、その打開策として登場してきたのが、搭乗者傷害保険・部位別払です。
支払い保険金の抑制という見地からは、当然のごとく部位別払であり、その会社方針に従った代理店の契約方針には、ある程度の知識をもった契約者のみしか対抗できないという現実。その究極的な展開が、人身傷害補償保険のみの付帯で搭乗者傷害保険の未加入契約という形態であることに消費者である契約者は気づかなければならないわけです。
最後に、もっとも説得力を持つと思われる、実際の保険料の試算をしてみることにしましょう。
いま手元にある、割引等級15等級、35歳以上補償、車両保険・一般条件、人身傷害5千万円、搭乗者傷害保険・日数払での月額保険料を試算したところ、月額保険料7,770円とでました。では、搭乗者傷害保険・日数払を削除したらどういう結果となるのでしょうか。月額保険料7,450円とでました。月額保険料で320円の差、年間保険料で3,840円の差ということになります。
通院日数100日とした場合、搭乗者傷害保険・日数払の通院1日1万円で、かりに60日の通院日数が認められた場合の支払い保険金は60万円ということになります。多くの説明は要らないと思いますが、これが現実なのです。
「人身に加入すれば搭傷に入らなくても十分です」。これは保険会社にとって都合のよい言葉であり、これに盲従する代理店の言葉でもあるわけです。
なお、余談になりますが、以前この問題についてある代理店と議論をしたことがありました。
代理店曰く。「私はべつに保険会社に盲従しているわけではない。人身に入れば十分でその上さらに搭傷に入る必要性はないと思っている。」。いわゆる確信犯というわけです。
代理店にとって最重要関心事である「代理店手数料」はポイント制になっています。
そして、契約した保険料収入を分母とし、支払った保険金を分子とする「損害率」は、ポイント増減の対象項目となっているということです。損害率の高くなる要素の一つである搭乗者傷害保険・日数払を売りたくないのは、保険会社だけではなく代理店の本音でもあるわけです。
鎧の下にこの事実を隠して、代理店の仲間にさえ本音を語らない表見上のもっともらしい理屈はまさしく「詭弁」そのものであり、「真意は損害率だろう」という私の切り返し言葉にその代理店はただ完黙を通すのみでした…。
(H18.8.12)