「過失があれば代車は出さない」。この保険会社の主張には正当性があるのか。



結論からいうと、何の正当性もありません。

弁護士は、この問題について次のように述べています。

まず、「過失相殺は総損害額について行う」とした上で、「…保険会社は過失相殺のある事案について、修理費は認めるが、代車料、評価損は認めないということです。これはおかしいと思います。
過失相殺は、被害者の被った総損害に対し、被害者の落ち度(過失)を考慮して減額するもので、過失相殺が認められる場合、損害算出のある項目をまったく認めないなどという理論は成り立つはずがありません。損害保険業界では、そのようなことが罷り通っているとのことですが、とんでもない理論と言えます。」(自由国民社刊・交通事故の法律知識)

車の修理費(事故により直接被った損害-直接損害)については、過失相殺してその損害を補償するが、事故によって出費を強いられた間接的な損害である「代車費用」については、過失相殺することなくその損害を補償しない。

この法律上の非常識が、保険業界においては一社の例外もなく、なんの疑いもない常識としていまも堂々とまかり通っている。いったいいかなる理由によるものなのか。考えてみると、実に不思議なことだと思います。

この問題を解くキ-ワ-ドは、「損害の拡大防止」。保険会社がよく使う言葉です。
かりに、過失割合50:50の事故があったとします。この場合、互いが代車を借りその費用補償を相手保険会社に求めたらどういうことになるでしょうか。

保険会社は、互いに、それぞれの代車費用の50%を保険で支払うことになるわけですね。互いに過失がある場合には、互いの保険会社が代車費用を支出しなければならなくなる。お互いに出さなければならない費用だから、「損害の拡大防止」のために、双方に過失がある場合には、代車費用は互いに請求しないことにしよう。こういう暗黙の了解が保険会社同士の間に実務の過程で出来上がってしまったのではないか。わたしは、そう考えています。でなければ、一社の例外もなく、「過失があるので代車は出ません」と明確に言えるわけはないと思われるからです。 

契約者を抜きにして、保険会社相互間に暗黙のうちに出来上がってしまった「暗黙の協定」。それが、過失ある場合の代車費用の拒否ではないのか。

保険会社の若い女性の事故担当者が、さわやかな何の疑いもない声で「残念ですが、お客様にも過失がある今回の事故では、代車は出せません」。この言葉を聞くたびに、私にはテレビCMのあるシ-ンが連想的に浮かんできます。

消費者金融のCMです。若い清純そうな女の子がさわやかな声で「お金のことなら、私に何でも相談してください。お待ちしています。」。
おそらく、あの若い女の子は、消費者金融会社等が利息制限法の上限である年18%(元本10万円以上100万円未満の場合)をはるかに超える年25.55〜29.2%の利息(出資法の上限)を鬼婆さんのようにむしりとっている現実を知らないんだな。きっと。知っていれば、あんなさわやかな笑顔は、出したくても出せるはずがないから。

この利息制限法の上限を超えた金利は、民事上無効な金利であって支払う義務のない金利ですが(支払った超過金利部分は元本に充当することができる)、ほとんどの人は何の疑いもなく利息制限法違反の利息を支払っている現実。
そういえば、この現実も、過失があるから代車は出せないと保険会社に言われて、素直に従っている契約者に似ているな。

ところで、保険会社のいう「損害の拡大防止」。この考えはどこから出てきたのでしょうか。民法の規定には存在しませんが、実は、民法の特別法である「商法」に規定があるのです。商法660条1項前段がそれです。「事故が発生したときは、被保険者(筆者注:保険金を請求する権利をもっている人)は、損害を防ぐために努力しなければならない。」(「口語商法」より)

契約者=被保険者というのが通常の形態です。ですから契約者には損害防止義務がある。だから、当然のごとく損害拡大防止義務も存在する。しかし、損害拡大防止義務と保険金支払拡大防止義務とはなんの関係もありません。この辺のところをいつの間にか混同してしまった、それが現実の姿なのではないのか。

この代車の問題については、明確にその見解を展開している弁護士がいます。
もと保険会社の顧問弁護士であった西川雅晴弁護士で、そのHPの中で次のように述べています。

まず、代車費用請求は、「損害賠償問題においては金銭賠償が原則であるので、…被害者自らがレンタカ-会社から車を借り、自分でレンタカ-代を支払い、加害者に請求する(のが)原則です。」と述べ、しかし、「加害者側保険会社がレンタカ-会社から車を借り、被害者に使用させる。レンタカ-代は保険会社がレンタカ-会社に直接、支払う。」とする「実務上…の方法が普通です。これは保険会社がレンタカ-会社と提携をしていて、安くレンタカ-を借りられるので、…保険会社のコストが少なくて済むからです。」と明確な説明をしています。

「では、何故、被害者にも過失がある場合、保険会社は代車を出さないのか」。
これについては、「(保険会社がレンタカ-会社に直接支払う)…方法では保険会社はレンタカ-会社に100%レンタカ-代…の支払い義務が生じます。本来、保険会社は加害者側の過失分…を払えば良いはずですが、レンタカ-会社と保険会社の契約上、保険会社は100%支払わなければならないのです。

従って、保険会社としては(保険会社がレンタカ-会社に直接支払う)…方法による場合、被害者の過失分…を被害者から取り立てなければなりません。このため、保険会社には被害者過失分の回収が出来ないかも知れないと言うリスクが生じます。また、レンタカ-代の一部を被害者に請求することは示談交渉を難航させる原因となります(被害者にとっては予想外のことですから)。
それ故、保険会社は被害者に過失がある場合、『代車は出さない』と言うのです。また、そうした実務は定着していると言えます。」と述べている。

では、「被害者はどうすれば良いか」として、「被害者には保険会社に『代車を出せ』と要求する法律的権利はありません。これは損害賠償は金銭賠償が原則であるからです。被害者としては自らレンタカ-会社から車を借り、一旦、レンタカ-代を支払った後、保険会社に加害者過失分を請求することになります。」と述べています。

さらに「注意すべきこと」として、「保険会社は『被害者に過失がある場合、代車は出さない』といいますが、それはそれで法律的には問題はありません。しかし、『代車を出さない』と言うのはあくまで、『代車と言う<車の現物>を保険会社がレンタカ-会社から借りて、被害者に貸すことはしない』という意味に留まります。」と述べ、
「…被害者が自ら代車をレンタカ-会社から借りて、レンタカ-代を出費した場合はその費用の内、加害者の過失割合分を請求することは可能です」としたうえで、次のように明確に結論づけている。

「加害者の賠償範囲=『損害』×加害者の『責任割合』。従って、加害者過失がゼロとならない限り、加害者の賠償範囲はゼロとならないのですから、過失相殺を理由に支払いを拒むことは出来ないと言えます。」

この弁護士の説明は非常に明快ですね。このように、問題の本質をキチンと押さえて説明できる弁護士は、きっといい仕事をしていると思いますね。

ただ、現実の問題としてどうでしょうか。
保険会社が「過失があるから代車は出せない、と言ったのは、会社がレンタカ-会社から直接借りてあなたに貸すことはしない、という意味であり、加害者側の過失責任分の代車費用を出さないという意味ではありません。」。
こんな具体的な説明をしてくれる保険会社ってあるのかな。皆無でしょうね。

なによりも、そもそも、そんな意味で代車は出せないと言っている事故担当者がいるんかいな。
いないからこそ、代車を拒否された。だから代車費用は出ないんだ。こう思ってしまう人がほとんどなんです。
お客様の権利・利益を守る立場にある代理店も、これについてはなんの異議も差し挟まない。これが現実なのです。

また、この弁護士が述べた、保険会社がレンタカ-会社から代車を借りた場合、代車費用の相手方過失分を回収できない、というおそれがある。
これは、実務上、そんなに問題になることはないのではないのかな。なぜなら、相手方に支払う総支払額から、立て替えて支払った代車過失分を差し引いて支払えばいいだけのことだから。(平成17・3・8 )




追加

(112)保険会社が動いている車同士の事故解決に、0対100の結論を導き出すことに激しく抵抗する本当の理由は一体何か。
事故担当者は、よく次のように被害者に言い放つ。「今回の事故では、あなたにも過失がありますから、代車は出せません。」。過失があればどうして代車が出ないんだ。そんな判例はあるのか。このように反論するドライバーが圧倒的に多いが、過失があれば代車は出さないと説明する保険会社の真の意味は、「過失があれば、レンタカー代車という『現物』は提供しない」ということなのだということを、まず理解しなければならない。

代車費用の加害者過失責任分は請求がくれば支払うが、修理期間中、代車という「現物」は提供しないということなのだ。もし互いに過失ある事故で、加害者側保険会社がレンタカーを手配すれば、代車費用を業者に支払う段階で被害者の過失分を請求しなければならなくなるという余計な仕事が生じることになるからだ。保険会社がすんなり100ゼロを認めれば、レンタカー代車を提供しなければならなくなるが、被害者の過失責任を少しでも認定すれば、代車という現物を提供しなくて済むことになるというわけだ。これが保険会社にどのような「実益」をもたらしているかということだが、じつに大きな実益をもたらしているのだ。
被害者は、法律上当然にかかった代車費用の加害者責任分を請求できるが、過失責任分の自己負担金リスクが生じるレンタカー代車をあえて借りるよりも、修理業者の工場代車(無料)を借りて間に合わせるドライバーが圧倒的に多いのが現実だ。

このように、保険会社は100ゼロ解決を絶対に認めないことによって、事故による損害として、法律上当然に支払わなければならない「契約者側過失責任分代車費用」(通常10万円前後)を、事実上合法的に免れているというのが現実だ。保険会社にとってこの実益はじつに大きいといえる。逆に、被害者側からすれば、事故後すぐに修理に取り掛かってはいけないということだ。まず過失割合の交渉を優先して、過失割合が確定してから修理に取り掛かる。これが原則だ。レンタカー代車費用の請求を交渉の武器として利用しなければならないということだ。100ゼロを認めれば代車費用は請求しないが、あくまでこちらの過失責任を追及するのであれば、代車費用の加害者責任分を請求することになると…。(2013.9.22)<辛口コラムより>






            
                   
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