( 2004年1月5日 TANAKA1942b )
(21)野菜に加えられた良き性質
GMOの広がる可能性
<遺伝子組み換えと他の育種法との違い>
遺伝子組み換え植物(GMO・Genetically Modified Organism)(欧米では一般に GEO ・Genetically Engineered Organism と呼ばれる)を分かりやすく説明するにはどのような表現が良いのだろうか?いろいろ考えて次のように、「従来からの育種法と、どのように違うのか?」という点から比較してみた。
◆ 選抜育種法 は気に入らない品種を捨てていく育種法。自然界では強いものだけが子孫を残せる。ダーウィンの仮説によれば「生物は自然選択によって環境に適応するように進化する」との表現になる。育種では自然のままでは生きていけないような弱い品種でも、人間に気に入られれば子孫を残すことになる。コシヒカリは人間が栽培しなければ、自然のままでは、自分だけでは子孫を繁栄させることができず、やがて絶滅する。ただし、この育種法では突然変異でもなければ急激な改良はできない。
◆ 交雑育種法 は2つの品種の良いところを生かした子孫を作る。両親の良い点が現れている。何代かに渡って品種を固定するので、固定種又は在来種となっていく。コシヒカリを始め、日本のイネはこの方法に依るものが多い。自家採種ができる。植物の混血児を作るようなこと。
◆ 一代雑種育種法 は2つの品種の隠れていた良いところを生かした子孫をつくる。潜在的には持っていたが現実には現れていなかった両親のよい性格が受け継がれている。よい性格は一代目だけ、代が進むと平凡な品種になる。「鳶が鷹を生んだ」とはこのこと。
◆ 細胞育種法 はポマト(ポテトXトマト)の誕生で一時大きな期待が持たれたが、全く新しい植物の誕生は期待出来ないとなった。現在ではウィルスフリーなど、性質の一部を変える技術として利用されている。特定の品種にある性質を加えたり、あるいは取り除いたり、その利用方法は遺伝子組み換えに受け継がれていく。
◆ 遺伝子組み換え育種法 はある品種に他の品種又は、他の植物の持っている良い性質を加えた子孫を作る。ポマトのような新品種は期待できない。親の欠点をカバーした子、または良い性質が加えられた子が生まれる。
<どんな性質が加えられたか?>遺伝子組み換えでは全く新しい作物を作る技術ではない。農作物に特定の性質を加える技術だ。それではどのような性質が加えられているのだろうか?それをみてみよう。
◆ 日持ちの良さ
これは熟する時に働く酵素を抑える遺伝子や、果実の成熟や老化を進めるホルモンを抑える遺伝子を取り入れたもので、トマトやカーネーションに応用されている。
◆ 除草剤耐性
これは、特定の除草剤に対して抵抗性を持たせた農作物で、その除草剤を撒いて雑草は枯れても農作物は枯れないというもの。農作物を作るとき、雑草や農作物に応じて数種類の除草剤を使用しているが、これにより、使用回数や使用量を減らすことが出来る。大豆やなたねなどに導入されている。
◆ 害虫抵抗性
これは特定の害虫だけを殺すタンパク質の遺伝子を組み込んだ農作物で、よく知られているのはBtコーンと呼ばれるトウモロコシ。
(^_^) (^_^) (^_^)
<どんな野菜が改良されたか?>
医薬品であるヒトインスリンやヒト成長ホルモンから始まった、遺伝子組み換えの実用化が野菜に応用されるようになった。1989年には日持ちを良くしたトマト(フレバーセイバー)が誕生し、1994年から市販された。
その後、ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、綿実などの遺伝子組み換えがアメリカで実用化された。ここでは個々の遺伝子組み換え作物について見てみよう。
◆ 除草剤耐性の大豆
日本で、大豆は植物油の他、納豆、豆腐、味噌、醤油、油揚げ、家畜用飼料に使われている。国内消費量は約507万トンで、そのうち381万トンがサラダ油など精油用に使われ、残りのうち約100万トンが納豆、豆腐などの食用として使われている。
こうした消費量に対して、2001(平成13)年の生産量は27万1千トン。食品用の自給率は26%、全体としての自給率は5%。輸入金額としては1,229,388円(2000年)。主な輸入国は、アメリカ365万トン、ブラジル71万トン、カナダ25万トン。
遺伝子組み換え技術で作り出された大豆は、1996年に開発された除草剤耐性の遺伝子を組み込んだものが代表的。除草剤を散布すると、ほかの草は枯れるが、耐性遺伝子を組み込んだ大豆は枯れないため、散布が簡単かつ効果的にできるとして栽培面積が広がり、米国では大豆の総作付面積の6割を占める。
アメリカ、ブラジル、カナダ、中国などでは、遺伝子組み換え作物の作付けが急増し、日本に輸入されるアメリカ大豆の約75%(50%との資料もある)が遺伝子組み換えで、日本では食用油などとなって私たちの食卓に登場している。
◆ 害虫抵抗性のトウモロコシ
遺伝子組み換え技術によって「害虫抵抗性」という性質が可能となった。これは特定の害虫に対して被害を受けない性質を言う。
害虫抵抗性農作物は、もともと土壌に生息しているバチルスチューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)という細菌(Bt菌)から、害虫に強い性質をもつ遺伝子であるBt遺伝子が導入されたもので、害虫の被害から農作物を守ることができる。
この遺伝子はδ(デルタ)エンドトキシンという殺虫タンパク質(Btタンパク質)を生み出す。Bt菌は生物農薬としても利用されている歴史もあり、特定の害虫である蛾や甲虫類の幼虫などに対して、殺虫作用がある。この殺虫タンパク質は特異(選択)性が高く、哺乳類や鳥類などの脊椎動物には毒性を発揮しない。
現在、害虫抵抗性農作物として、トウモロコシ、ワタ、ナタネ、ジャガイモなどが実用化されている。
日本への輸入量は約1600万トン、金額としては1,888,567円(2000年)。用途は約75%が飼料用、25%がコーンスターチ等の食品用などの原料として使われている。
◆ 除草剤耐性のナタネ
1995年に商品化されたもので、大豆と同じ「特定の除草剤に強いもの」。植物油として利用される。ナタネの自給率は0%で、90%はカナダから輸入されていて、輸入されたものの内37%が組み換えと言われている。カナダではナタネの栽培面積が120〜160万ヘクタールでそのうち25〜33%が組み換えと見られている。
日本ではキャノーラとの名で知られている。
◆ 害虫抵抗性のジャガイモ
アメリカで1996年に商品化された。トウモロコシと同じ方法により害虫に強いもの。ジャガイモは、植物検疫上の理由から、生食用の輸入はなく、冷凍、粉状、乾燥、フライドポテト、マッシュポテト等の形で約70万トン(ジャガイモ換算)輸入されている。
ジャガイモの需給関係は、国産 304万トン、加工した輸入もの70万トン(米国)。
◆ 害虫抵抗性の綿実
1996年アメリカで商品化された。除草剤耐性の綿実も同じ頃商品化された。輸入されたものの用途は、油糧用または飼料用。
◆ 日持ちの良いトマト
1994年アメリカで商品化されたが、日本へは輸入されていない。
(^_^) (^_^) (^_^)
<改良された利点は何か?>
改良された性質は、日持ちを良くする、害虫に強くする、除草剤に強くする、などがある。除草剤に強くなった作物は除草剤散布の回数が減り、農家とその家族が農薬中毒になる恐れが少なくなった。
こうした点について、朝日新聞2003年10月11日b3面のVisitors欄から引用しよう。
「遺伝子組み換えの評価は冷静に」
パメラ・ロナルド氏(米カリフォルニア大デービス校教授)
米国の遺伝子組み換えイネの研究者。葉枯病に強い改良品種を研究。カギになる遺伝子の特定に取り組む。米のバイオテクノロジー企業、モンサント日本法人に招かれ、都内で講演した。
「遺伝子組み換え作物(GMO)の世界最大の生産国である米国では、02年に全作付面積に占めるGMOの比率が66%に達した。しかし、開発の歴史が浅いこともあり、消費者が正確な情報を得ているとは言い難いのが現状だ」
事実、その安全性に首をかしげる消費者は多く、日本での商業栽培はない。食品メーカーは製品の原料に「使用していないこと」を売り物にしている。
「米国では年間12万5千トンの農薬が使われている。誤使用などによる農家とその家族の中毒被害の報告は11万件あり、がんとの因果関係も指摘されている。中国では、病害虫に強い遺伝子組み換え綿が導入されて以降、殺虫剤散布が導入前の75%に激減した。
リスクと便益の評価は、もっと冷静になされるべきだ。私は、科学者として、母として、有機農業を営む夫を持つ妻として、GMOを食べるのに何の抵抗も感じない」
GMOで開発企業は利益を得、普及が進むほどその支配力が強まる構図もある。
「過酷な気象条件や貧弱な土壌でも収穫が期待できるGMOは、発展途上国の食糧不足を解決する。情報開示を徹底し、問題が起きた場合にだれが責任をとるかを、はっきりさせることが大切だ。途上国にはライセンス料なしで種子を提供することも考えるべきだ」
【鈴木淑子】 (朝日新聞2003年10月11日)
(^_^) (^_^) (^_^)
<改良の目標は増えていく>
品種改良も日本では「発展途上国型品種改良」から「先進国型品種改良」に変わっていく。生産量を増やすを最大の目標としていた品種改良から、もうちょっと違った目標に向かって改良が行われるようになる。
イネの場合も、コシヒカリが生まれた頃とは違って、「スギ花粉症の治療に効果のある遺伝子組み換え米」を目標とするようになった。これには全農も積極的に参加している。毎日新聞から引用しよう。
遺伝子組み換え「花粉症緩和米」 07年にも商業生産 全農など共同開発
農水省は2日、スギ花粉症の治療に効果のある遺伝子組み換え米の商業生産が07年度にも実現する見通しとなったことを明らかにした。実現すれば、食用の遺伝子組み換え作物の商業生産は日本で初めて。遺伝子組み換え米の本格的な商業生産も世界初となるが、遺伝子組み換え作物は、安全性や生態系への影響に懸念を持つ人もおり、議論を呼びそうだ。
この「花粉症緩和米」は、独立行政法人の農業生物資源研究所、日本製紙、全国農業協同組合連合会(全農)が共同開発。同省は、同米など遺伝子組み換え作物の実用化を支援するため、来年度予算で45億8000万円を概算要求した。来年度に試験栽培を行い、臨床試験で安全性を確認後、商業生産に入る計画だ。
スギ花粉症は、アレルギーの原因となるたんぱく質を体内で外敵と認識し、鼻水や涙などの過剰反応が起こる。このたんぱく質を長期間、少量注射して耐性を作る治療法が行われているが、この原理を応用した。同たんぱく質を生成する人工遺伝子をイネに組み込むことで、コメのはい乳にこのたんぱく質が蓄積され、食べ続けると、アレルギー反応が起きにくくなる。農業生物資源研究所は、マウス実験で有効性を確認しており、人間にあてはめると、1日当たり1合(180CC)のご飯を数週間食べ続ければ効果が表れるという。
花粉症緩和米は00年に開発に着手。現在は茨城県つくば市の同研究所の温室で試験栽培中で、来年度は同市内で他の農地と隔離した場所で、試験栽培を計画している。
農水省は来年度から、安全性や栽培、流通の仕組みを検討する。また、厚生労働省の食品安全性の審査を受け、健康への効果を表示できる「特定保健用食品」として販売する方針だ。【尾村洋介】
(毎日新聞 2003年09月02日)
(^_^) (^_^) (^_^)
<日本での遺伝子組み換え農産物>
遺伝子組み換え農産物の安全性確認にはいくつかの段階がある。それは、閉鎖系、非閉鎖系、隔離ほ場、栽培目的、輸入目的、食品、飼料、となっている。ここでは「栽培目的」として安全性が確認されているのもを拾い出してみた。
これらの中にはすでに「食品」としての安全性が確認されているものもあるし、「カーネーション」や「キク」のように食品としての安全性確認は不要、というものもある。
品目 |
開発者 |
特性 |
導入遺伝子 |
安全確認 |
アズキ |
農業研究センター |
害虫抵抗性 |
アルファ-アミラーゼ・インヒビター遺伝子 |
1999 |
イネ |
農業研究センター,農業生物資源研究所 |
ウイルス抵抗性 |
イネ縞葉枯ウイルス外被タンパク質遺伝子 |
1994 |
イネ |
農業環境技術研究所,KK植物工学研究所 |
ウイルス抵抗性 |
イネ縞葉枯ウイルス外被タンパク質遺伝子 |
1994 |
イネ |
三井東圧化学 |
低アレルゲン |
イネアレルゲン遺伝子アンチセンス |
1995 |
イネ |
農業研究センター,農業生物資源研究所 |
ウイルス抵抗性 |
イネ縞葉枯ウイルス外被タンパク質遺伝子 |
1997 |
イネ |
日本たばこ産業 |
造酒用低タンパク質 |
イネグルテリン遺伝子アンチセンス |
1998 |
イネ |
モンサント |
除草剤耐性 |
グリホサート耐性遺伝子 |
2000 |
イネ |
モンサント、愛知県農業総合試験場 |
除草剤耐性 |
グリホサート耐性遺伝子 |
2001 |
イネ |
農業生物資源研究所 |
高光合成 |
トウモロコシ・C4型PEPC遺伝子 |
2003 |
カーネーション |
DNAP、サントリー |
日持ち延長 |
エチレン合成酵素遺伝子(コサプレッション) |
1996 |
カーネーション |
フロリジーン、サントリー |
色変わり |
アントシアニン合成遺伝子 |
1997 |
カーネーション |
フロリジーン、サントリー |
色変わり |
フラボノイド3',5'-水酸化酵素遺伝子他 |
1999 |
カーネーション |
フロリジーン、サントリー |
日持ち延長 |
1-アミノシクロプロパンカルボン酸合成酵素遺伝子 |
2000 |
カーネーション |
フロリジーン、サントリー |
色変わり |
フラボノイド3',5'-水酸化酵素遺伝子他 |
2000 |
カリフラワー |
タキイ種苗 |
除草剤耐性,雄性不稔 |
グルホシネート耐性遺伝子,雄性不稔遺伝子 |
2001 |
キク |
麒麟麦酒 |
RNA病原体抵抗性 |
二重鎖特異的RNA分解酵素遺伝子 |
2002 |
キュウリ |
農業生物資源研究所 |
灰色カビ病抵抗性 |
キチナーゼ遺伝子 |
1999 |
ダイズ |
モンサント |
除草剤耐性 |
グリホサート耐性遺伝子 |
1996 |
トウモロコシ |
モンサント |
害虫抵抗性 |
Btタンパク質産生遺伝子 |
2003 |
トウモロコシ |
ノースラップキング |
害虫抵抗性,除草剤耐性 |
Btタンパク質産生遺伝子,グリホシネート耐性遺伝子 |
2002 |
トウモロコシ |
ノバルティスシード |
害虫抵抗性,除草剤耐性 |
Btタンパク質産生遺伝子,グリホシネート耐性遺伝子 |
2002 |
トウモロコシ |
デカルブ |
害虫抵抗性,除草剤耐性 |
グリホサート耐性遺伝子 |
1998 |
トウモロコシ |
モンサント |
除草剤耐性 |
グリホサート耐性遺伝子 |
1998 |
トウモロコシ |
モンサント |
害虫抵抗性,除草剤耐性 |
Btタンパク質産生遺伝子,グリホサート耐性 |
2003 |
トマト |
農業環境技術研究所他 |
ウイルス抵抗性 |
TMV外被タンパク質遺伝子 |
1992 |
トマト |
野菜・茶業試験場 |
ウイルス抵抗性 |
CMV外被タンパク質遺伝子 |
1996 |
◆農林水産省農林水産技術会議事務局の資料から作成
安全確認 は栽培目的での安全が確認された年。食品として販売するには更に安全性の確認が必要
(^o^) (^o^) (^o^)
<主な参考文献・引用文献>
食と農の戦後史 岸康彦 日本経済新聞社 1996.11.18
遺伝子組換え作物 大論争・何が問題なのか 大塚善樹 明石書店 2001.10.31
( 2004年1月12日 TANAKA1942b )
(22)遺伝子工学の方法
何が進歩して、何が停滞しているのか?
<組み換えの方法>
ここでは遺伝子組み換え作物の作り方から話を始めよう。まず、ある生物から目的とする有用な遺伝子を見いだし、その遺伝子だけを取り出す。
このとき、この遺伝子以外の別の遺伝子が混じらないように処理をする。そして、作物の種類に応じて、次に挙げる3つの方法のどれかによって、作物の細胞の中の核にその遺伝子を導入する。
この段階では、目的どおりに有用遺伝子が導入されたかどうかわからない。そこで、多数の細胞を培養し、その中から目的とする遺伝子がちゃんと導入されているものだけを選抜し、増殖させる。
次に、増殖した細胞から芽や根を出させ、植物体を再生する。
こうして育成された多くの植物体の中から、有用遺伝子がきちんと発現しているものを選抜し、遺伝子的に安定なものとするために交配などを行ったものが、遺伝子組み換え作物となる。
◆ アグロバクテリウムを利用する方法
土壌に住む細菌の一種であるアグロバクテリウムを利用する方法。@アグロバクテリウムの環になったプラスミドと呼ばれるDNAを取り出し、酵素を使って一部を切り取る。A導入したい有用遺伝子をアグロバクテリウムのプラスミドにつなぐ。
Bこの組み換えプラスミドをアグロバクテリウムに戻す。Cアグロバクテリウムを目的の農作物の組織に接触させる。Dアグロバクテリウムの働きで有用な遺伝子が目的の農作物のDNAの中に取り込まれ、組み換えがおこる。
◆ パーティカルガン法
パーティカルガン(遺伝子銃とも言う)を使って直接有用遺伝子を細胞に入れる方法。@目的の遺伝子を金などの微粒子にまぶす。A遺伝子をまぶした微粒子をガスなどの圧力で葉などの植物組織・細胞に打ち込む。Bアグロバクテリウム法と同様に培養・選抜を行い組み換え植物を作る。
米国アグラシータス社が開発した。
◆ エレクトロポレーション法
電気窄孔法とも言われるこの方法は、電気パルスの刺激を利用して有用遺伝子を植物細胞に直接入れる方法で、細胞融合にも利用されている。
@有用遺伝子を導入したい植物からプロトプラストを作る。Aプロトプラストと有用遺伝子を溶液に入れて、直流の電気パルス(数1000ボルト/cmの高電圧で数10μ秒のパルス)をかけるとプロトプラストの細胞膜に短時間、小さな穴があき外液といっしょに遺伝子が取り込まれる。
Bアグロバクテリウム法と同様に培養・選抜などを行い組み換え植物を作る。
(^_^) (^_^) (^_^)
<1995年当時のTV番組>
遺伝子組み換えに関する資料をいろいろ探している内に、1995年放送NHK・TVのビデオが見つかった。1995年6月12・13日放送のETV特集「コメ自由化元年」@アメリカ遺伝子特許戦略、A生き残れるか日本の稲作。このうちの「A生き残れるか日本の稲作」を基に話を進めよう。
番組では、アメリカ、アーカンソン州での農家がコシヒカリの直播き栽培をやっていて、農地が760ha、日本の平均の950倍の広さ、直播きによりコストは日本の1/10程度、との話から、アメリカの遺伝子組み換え技術とそれに対する日本のミラクルジャポニカ計画、遺伝子組み換え技術の将来、へと話は進んでいった。
番組登場者はキャスターが中田薫、コメンテータが天笠啓祐(ジャーナリスト)と辻井博(京都大学教授)、それに番組内で意見を言うのが山本隆一博士(農水省農業研究センター)、久保友明(日本たばこ産業遺伝育種研究所所長)、西尾剛(農水省放射線育種場室長)、榎本良夫(キリンビール取締役)。
アメリカ、カーネル大学のジョン・サンフォード博士は遺伝子銃のアイデアを特許申請し、1990年に発効されるとこの特許権をデュポン社に売った。アメリカのベンチャー企業、アグラシータス社(Agracetus)は遺伝子銃を開発し、デュポン社と提携し遺伝子銃に関する特許を取った(後にモンサント社がこのアグラシータス社を吸収合併する)。
アグラシータス社は遺伝子銃の特許とこの使用に関する特許を1992年に取る。そしてこれを使用してわずか3年で除草剤に強いコメを開発し、特許を申請した。
これに対して日本ではミラクルジャポニカ計画を進める。ただしこれには遺伝子組み換えは含まれていない。この計画に対して天笠氏は次のように言う。
放射線による突然変異の利用というのは、遺伝子組み換えがハイテクなら、ローテクに属する技術ですね。現場では朝礼暮改的に変わる方針に対して、白けていますね。
これが1995年6月当時の状況。現在では農水省も遺伝子組み換え技術を積極的に利用しようとしている。現場では朝令暮改的な変化に白けているのだろうか?しかし技術は進化すれば、それに従って方針も変わるべきで、なかなか方針を変えない、前例に従って開発を進めるべきだ、と考えるのはいかにもお役所感覚だ。
コメの品種改良に企業も参加するようになって、積極的に新しい技術を利用しようとなってきたようだ。
この番組ではアメリカが農遺産物に関する特許戦争を仕掛けてきた、これに対して日本はどうする?というのがテーマになっている。これにはポール・クルグマンが「そんな概念はないよ」と否定する「国際競争力」という考え方がベースにある。アメリカが仕掛けてきた特許戦争・アメリカ企業の特許戦略が議論の対象となる。
辻井博氏はこうした遺伝子組み換えの特許に関して次のように言う。
特許は研究を促進するという側面はあるが、しかし、特許には問題点もあって、その特許の幅が広すぎたり、期間が長すぎたりすると、社会的に不公正・不公平な問題が起こってくる。だから、その辺を考えなければならない。もともと特許制度は人類の幸福のためにあるわけですから、特許を取った人だけが儲かっているのでは困ると、私は考える訳です。
特許の権利がカバーする幅、特許の権利が保証する期間、これをやっぱり日本の農業を維持していくにはどうしたらいいか、主体的に考えて国際的にも交渉して新しい枠組みを作っていくべきだと思います。もう一つは、特許料をあんまり高くすると、特許を取った会社やその主体にあまりにも多くの利益を与えてしまいますから、不公平になりますね。
その辺をどう決めるか、やっぱり、学者と、いろんな団体とか政府とかが集まって、徹底的にどうすべきか、決めるべきであろうし、国際的にも交渉して決めていくべきなんじゃないかと思います。出来ると思うんですね。これは比較的やりやすい問題だと思うんですね。
終わりの方で、コメンテータの中田氏は言う「この遺伝子組み換えの戦略が我々の食卓を変えるかどうか、と言うことは、やっぱり消費者がきちんと考えておかないと道を誤りかねない、という、そういう問題提起でもあると思うんですけれど」。それに対して天笠氏は言う。
それが大きなポイントになるでしょうね。消費者が一番気にしていることは、組み換え作物が新しい技術であるので、安全性に疑問を持っていることです。開発する側は「画期的だ」と言う。そうして新しい品種が市場に入って来る。これから越えなければならない壁は「安全性」なんですね。消費者の理解を得る、得ないということが最大のポイントになって来ると思いますよ。
消費者がはたしてこの遺伝子組み換え食品を選択するのか、あるいは選択しないのか、そういう問題として提起しているんじゃないかと思います。
(^_^) (^_^) (^_^)
<特許制度が企業の技術開発を促進する>
企業は特許を取って独占的な利益を得ようとし、そのために技術開発に投資する。もし独創的な技術を開発しても、その使用料を自社では決められないならば、科学者や関係する団体や政府が決めるとしたら、せっかく開発した特許もその開発費を回収出来ないかも知れない。そのように自社で決められない制度になったら研究投資額は確実に減る。進歩は遅くなる。
未知との遭遇に恐怖心を持つ人は喜ぶ。現代のラダイト運動は活気づく。
もし現状の制度で、企業が非常に高い特許使用料を要求したらどうなるか?農家はその企業から種子を買わない。組み換え種子を栽培して利益が上がるかどうか計算する。その結果、従来の種子を栽培する。そうなると開発した種子会社は売り上げが伸びないので、種子の販売価格を下げざるを得ない。これは市場経済では自然なこと。ただし、旧ソ連のような社会主義経済ではこうならない。
政府や農協の指示した種子を買うことになる。つまり、特許料を学者や団体、政府で決めるべきだというのは社会主義経済体制での発想、日本やアメリカ、その他の諸国が市場経済である、ということを忘れている発想だ。
そうしてもう一つ、国際的な交渉を通じてアメリカ企業の自由な活動を制限しよう、との考えは、「発展途上国型発想」だ。「先進国は特許制度を利用して、途上国から特許使用料を取ろうとしている」とは途上国型発想。かつて韓国・台湾・香港・シンガポールなどで先進国のブランド品の偽物が作られて話題になったことがあった。最近では話題にならない。それだけこれらの国が先進国に近づいて来たのだろう。
日本政府の立場は「知的所有権を大切にしよう」だ。辻井氏の発想は発展途上国型の発想。そしてそこには「日本はアメリカに比べて遅れている」との認識がある。そうでなければこのような発言にはならない。そしてそれは「自虐的発想」という点で、歴史を自虐的に見る態度に共通する。もうこのような「敗北主義」は捨てるべきだ。日本で品種改良に多大の貢献をしてきた先人たちの功績を正当に評価し、それに学ぶべきだと思う。
品種改良では、江戸時代から日本は先進国だった。農業経済学者は視野狭窄にならず、時代を超えて、江戸時代にも目を向けて見ましょう。江戸時代の庶民の品種改良に対する好奇心や遊び心が伝わって来て、日本の歴史の勉強が楽しくなるでしょう。もうこのような「尊農攘夷論」はやめにしましょうよ。
<品種改良のなにが進歩し、なにが停滞しているのか?>
日本ではコメの品種改良が、交雑育種法から細胞培養を利用してF1ハイブリッドを開発したり、遺伝子組み換えを利用したりと、多彩な技術を利用しようとの姿勢になってきた。開発に関しては新しい技術を利用しようとしている。それでもまだ、官主導の進め方は改まっていないようだ。
そこには、「日本対アメリカ」とか「国際競争力」とかあるいは「食糧安保」「食糧自給率」という言葉が生きていて、コメの品種改良は「国家事業」であるとの意識が強い。それはマスコミ報道、NHKの番組でも感じられる。
企業間の競争であり、アメリカも日本のオランダもベルギーも、それぞれの国の企業が入り乱れて開発競争をしている、と捉えると全く意識が変わってくるのだが、そうした感覚はマスコミ人にはなさそうだ。あるいは「国際競争力」とか「日本とアメリカの争い」と扱った方が視聴率を取れると考えているのかも知れない。
コメの開発に種子会社が参入して来ると、社会主義的な発想が少なくなり、自由な競争、自由な研究が進むと思うのだが、テレビに登場する識者には隠れコミュニスト的な人が多いようだ。1995年に放送され、取り上げられた問題、その多くはそのまま蓋をされている。いずれコメ市場は開放され、グローバリゼーションは進む。
それまで問題を先送りしていると「グローバリゼーションによって社会は進化する」で扱った様な悲劇が起こるかも知れない。今は開国を迫られた幕末期に似ている。黒船のたった四杯で夜も眠れなかったように、遺伝子組み換えで日本のコメ作りが慌てふたむき、右往左往することになる。
コメ作りをどうするか、意見の一代雑種を作る必要がある。あるいは農業政策に「市場経済」「利潤追求」という遺伝子をアグロバクテリウムを使って組み込むことが必要かもしれない。いずれにしろ、成長痛が起こることは覚悟しなければならない。それを克服してこそ、日本の農業は先進国型産業に進化していくことになる。
(^_^) (^_^) (^_^)
遺伝子組み換え関連略年表
1900 オランダのド・フリース(Hugo De Vries)、ドイツのコレンス(Carl Correns)、オ−ストリアのチェルマク(Erich von Tshermak-Seysenegg)により、それぞれ独立にメンデルの法則が再発見される.
1903 キャノン(Cannon)がエンドウの染色体数を確定 米国のサットン(Sutton)が、メンデルのいう遺伝因子は染色体上にあると指摘.
1930 米国の農家がトウモロコシのハイブリッド種を1922年に購入して使いはじめ、トウモロコシ生産高が1965年までに600%増加する
1933 ローズ(Rhodes)がトウモロコシで細胞質雄性不稔性を発見
1944 エイブリーが遺伝子の本体がDNAであることを確認
1952 ハーシーとチェイスが遺伝情報を伝えるのがDNAであることを証明
1953 ワトソン(James D.Watson)とクリック(Francis Crick)がNature誌に「DNA2重らせんモデル」を発表。
1959 中国全土で大飢饉発生(1959-1961年)。3年間で2千万人以上が餓死する.
1961 米国ワシントン州立大学のボーローグ(O.Vogel)が、日本の農林10号を親として、コムギの最初の超多収品種Gainsを育成.
1963 スチュワードが植物の組織培養に成功
1970 ボーローグが、“緑の革命”とよばれる小麦品種改良(半矮性小麦品種)により、植物品種改良家として初のノーベル賞受賞者となる
1970 ハミルトンとスミスが制限酵素の作用を解明
1972 米国のCarlsonらは、タバコ属の種間で細胞融合によりはじめて体細胞雑種を作成する
1972 バーグが試験管内で組み換えDNAの作成 。これが初めての遺伝子組換え実験となる。
1973 米スタンフォード大学のスタンレー・コーエン(S.Cohen)教授と「EcoR T」の発見者ハーバート・ボイヤー(H.Boyer)教授らのグループが、DNAを組み換える方法を発見。大腸菌のDNAを酵素をつかって自在にカットし、そこに黄色ぶどう状球菌の遺伝子を組み入れることに成功した(1973.3)。これによって、人類は初めて遺伝子を操作できるようになった。
この結果は11月に科学雑誌Natureに発表され、バイオテクノロジーのブームのきっかけとなった。
1974 シェル(Jozet S.Schell)博士とモンタギュー(Marc C.E.Van Montagu)博士がアグロバクテリウムのTiプラスミドを発見
1974 中国で最初のイネ実用F1品種が育成される
1975 2月サンフランシスコ郊外のアシロマで遺伝子操作の安全性に関する会議が開催される(アシロマ会議)
1975 酵素によりDNAを特定箇所で切断する技術が開発される。
1976 米国国立衛生研究所(NIH)が世界で初めて、遺伝子組み換え実験のガイドラインを作成
1976 ボイヤー博士が世界初の遺伝子工学企業のジェネンテック社を創設。ヒトインシュリンやヒト成長ホルモンなどの生産に成功。同社は今日、最も成功したバイオ企業として知られる。
1978 ドイツのマックスプランク生物学研究所のメルヒャー(Melchers)が、トマトとジャガイモの細胞融合により、交雑不可能な属間における最初の体細胞雑種ポマトを作出
1979 中国でハイブリッド・ライス(F1品種)の作付け面積が500万ha(全水田面積の1/6)に達する
1982 ヒトインスリン、ヒト成長ホルモンが組み換え大腸菌から作られ市販され、医薬品から組み換え技術が実用化される。
1983 経済協力開発機構(OECD)が、産業利用における遺伝子組み換え体の安全性評価に関する検討を開始する
1985 除草剤耐性植物が開発される
1985 PCR法(パーティカルガン法 )を開発(米アグラシータス社)
1986 米国でタバコモザイクウィルスによる病気への抵抗性をもったタバコが開発される
1986 ベルギーで害虫抵抗性のタバコが開発される
1987 中国でハイブリッド・ライス(F1品種)の作付け面積が1,000万ha(全水田面積の1/3)を超える
1989 米国で日持ちを良くしたトマトが誕生する。市販開始は1994年。
1990 遺伝子組み換え技術でキモシンがつくられる
1992 米国化学品メーカー WR Rgaceのバイオテクノロジー子会社アグラシータス社(Agracetus)によりすべての遺伝子組み換えコットンについての特許が認められる(1994年に無効)
1992 米国カーギル社(Calgene)は、日持ち性を改善した遺伝子組み換えトマト (FlavrSavr Tomato)の特許を取得
1993 OECDが環境安全性の基本概念であるファミリアリティと、食品安全性の基本概念となる実質的同等性を打ち出す
1994 遺伝子組み換え技術で作られたフレーバーセーバー・トマト(FlavrSavrTomato)(日持ちの良いトマト)が米国ではじめて認可され店頭に並ぶ
1995 米国で遺伝子組み換え技術で作られた除草剤耐性ナタネの安全性が確認される
1996 遺伝子組み換え作物の初の大規模生産が開始される。米国からの欧州向け輸出に対して欧州で反対運動が始まる。96年の遺伝子組み換え作物の栽培面積は2百万ha。
1996 日本の旧厚生省が遺伝子組み換え作物4種7品目の安全性を確認
1997 遺伝子組み換え作物の栽培急拡大。 栽培面積は、11百万ヘクタールに増加。
1997 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)が1999年7月22日に改正され、遺伝子組み換え食品について表示することが決まりました
1998 欧州で、遺伝子組み換え食品についての表示義務化が開始される。 遺伝子組み換え作物の栽培面積は、さらに急拡大、28百万ヘクタールとなる。
1999 ビタミンA前駆体のベータカロテンを含み、開発途上国の子供たちの失明予防に役立つ可能性を持つイネが開発される
1999 ローマで行われたコーデックス委員会総会で、バイオテクノロジー応用食品部会が設立され、日本が議長国に
2000 3月31日に「遺伝子組み換えに関する表示の基準」が告示され、表示制度がスタートしました
2000 かずさDNA研究所が高等植物(アブラナ科シロイヌナズナ)の全ゲノムを解読
2001 日本で遺伝子組み換え食品の安全性審査が義務化される。JAS法と食品衛生法による、遺伝子組み換え表示制度がスタートする
2001 シンジェンタ社がイネゲノムの解読を終了
(^o^) (^o^) (^o^)
<主な参考文献・引用文献>
組換え農作物 早わかりQ&A 農水省農林水産技術会議事務局 2002. 4
くらしのなかのバイオテクノロジー 農水省農林水産技術会議事務局 2001. 4
( 2004年1月19日 TANAKA1942b )
(23)批判派・推進派の主張
世界の食糧危機を救うか?
<批判派の主張>
遺伝子組み換え食品を批判する人たちがいる。科学者やジャーナリストや市民運動家や、そうした人たちの主張に共鳴する人たち……。
その主張はいろいろあって、不安感を表明する程度から、積極的に批判する厳しいものまで、それでも「日本人が作りだした農作物 品種改良にみる農業先進国型産業論」の各論としてはある程度要領よくまとめて話を進めなければならない。
たくさんの不安感、反対論を読んでTANAKA1942bなりにまとめてみようと思う。分からない事がいっぱいある。でも、だからといって「分かりません」と言って逃げ出すことはやらない。アマチュアエコノミストの意地が許さない。
批判派の主張、そのポイントを4つにまとめてみた。
◆ 食品としての安全性に不安
人間が植物の遺伝子を操作して、今までに無かった遺伝子構造の作物を作り出した。これを人間が食べて何の害もないのか?あるいはアレルギー症状が出る可能性はないのか?ヒトインスリンなどの医薬品は専門の医師が適切に患者に投与する。
しかし組み換え食品に関しては、安全性の素人がいろんな食べ方をする。食べる量も人によって違う。生活環境も違う。それでも安心して食べていいものか、素人にも納得できる説明がない。
パズタイ事件に関して、「バズタイらのGNA組み換えジャガイモのデータは、不十分なものだ」との意見もあるが、だからと言って「GNAが安全だ」とは言えない。
「実質的同等性」は経済的・政治的に作られた矛盾した規準で、その科学的根拠は曖昧であり、有効ではない。このような安全性を当然視するだけの概念に代えて、毒性を実際に調べる方法を政府は確立すべきである。
◆ 環境へ悪影響が心配
遺伝子組み換え作物を露地栽培していれば、いずれ従来からある在来種と交雑する可能性がある。本来組み換えでない在来種が、知らない間に組み換え作物のなるかもしれない。組み換え作物自身が雑草化したり、除草剤が効かない雑草が増えるとか、農薬や抗生物質に耐性な遺伝子が生態系に広がることが懸念される。
さらに、1999年5月20日号の「ネイチャー」に掲載された、米国コーネル大学の昆虫学者、ジョン・ロージーらのグループによる報告のように、害虫を殺すBt毒素の遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え作物が、害虫でない昆虫に害を与える可能性もある。
◆ 種子会社が農業を支配するおそれ
1999年2月、アメリカの週刊誌「タイム」に「自殺する種子(Suicide seeds)」という刺激的なタイトルの支持が掲載された。これはモンサント社が開発した作物で、その種子が農家に売られ、その種子を播いて育てた作物から農家が種子をとって自分の畑に播いても、そのときには種子自体に仕掛けられた仕組みが働いて、発芽能力が押さえられて死んでしまう仕組みに、タイム社が「自殺する種子」と名付けて記事を掲載したものだった。
F1ハイブリッドを徹底させたものだった。農民はモンサント社の組み換え種子を使う場合は、種子代金を払うだけではなく、次の年に自分のところでできた種子を使わないよう契約書にサインさせられる。モンサント社が種子の選択権を支配しようとした例は他にもある。カナダのサスカチュウアン州の一農家がキャノーラ(含有化学成分を改変したアブラナ科ナタネ)のモンサント社の除草剤抵抗性品種を契約内容を守らずに栽培したとして、その農家をモンサント社が裁判に訴えた、という例もある。
このように種子会社が農家・農業を支配し始めている。
◆ 大企業に対する不信感
組み換え作物ではない、とされていたものの中に組み換え作物が混入していた例は多い。これからも度々起こりそうだ。組み換え作物が人体に害があるとか、環境に悪影響を与えるとか、種子会社に不利なことが分かったとき、種子会社はそれをすぐに公表するだろうか?
人間に対する安全性、環境への影響など、企業と消費者との間には「情報の非対称性」がある。常に情報は企業側からの一方通行。これでは企業と消費者が対等だとは言えない。企業が利潤追求のために安全性を無視した経営戦略とる可能性は否定できない。
(^_^) (^_^) (^_^)
<推進派の主張>
推進派の考えは「品種改良とは本質的に遺伝子組み換えであった」ということだろう。今まで進めてきて、大きな成果を上げてきた品種改良、それが突然非難され始めた。そうしたおどろきが感じられる。
◆ 品種改良の延長線上にある組み換え技術
品種改良とは本質的に遺伝子組み換えであった。交雑育種法でも一代雑種育種法でも新しく遺伝子が組み換えられている。どのように組み換えられたかは、個々の遺伝子を問題とするのではなく、その結果どのような作物が出来たかを問題とする。このため開発中はどのような作物が出来るかはっきりしない。たくさんトライしていい品種だけを選抜していく。
これに対してGEOは始めからどのような遺伝子を組み込んで、どのような性質を加えるか?を計画して育種する。このため成功率が高く、短い時間で結果が出る。新しい技術であり、いままでの品種改良と違って、経験だけではなく科学の知識が必要になる。このため仕組みが理解出来ないと不気味な技術と感じる。クローン技術とかSFの世界にダブってイメージされる。こうしたことで充分な理解が得られていないのは残念であり、これからさらなる情報公開が必要になろう。
農水省は今まで、問題が大きくなるのを恐れたためか、充分な議論を促進してこなかった。マスコミは視聴率・購読者数を伸ばすためにセンセーショナルに扱って来たし、これからもそうであろう。これは資本主義社会での株式会社組織である以上、当然の経営戦略であろう。
安全性に対しては、個々の品目を「実質的同等性」という方法で検討していく。いままで日常の食品では行われなかった検査なので、特に不安感を煽る必要はない。
◆ 虫を殺す作物を人間が食べても大丈夫か?
「昆虫が食べて死ぬ遺伝子を人間が食べさせられている」「GM食品のタンパク質によるアレルギーが不安だ」と言うのが耐虫性作物に対する不安だろう。1901年、日本の細菌学者の石渡繁胤(いしわた・しげたね)はカイコの病気を研究していて、当時はまだ種類が確認されていなかった胞子形成性細菌(後にバチルス・チューリンゲンシス=Bt=と命名された)が原因だと突き止めた。
その後、1915年にドイツのチューリンゲンシス地方でスジコナマダラメイガに殺虫作用を示すバチルス菌が発見され、現在その地方の名前をつけてバチルス・チューリンゲンシス=Bt=菌と呼ばれている。このバクテリアは人間やほ乳類には何の害を与えないことが分かり、1960年代から天敵微生物農薬として実用化されていて、環境に負荷をかけない生物農薬として高く評価されている。この遺伝子をトウモロコシやジャガイモに組込利用しようというもので、これが批判されている耐虫性作物の実像であり、この点に関してはマスコミも十分な理解が必要と言える。
◆ 除草剤耐性作物は農薬の使用量を増やすか?
除草剤耐性のGMダイズには「除草剤の使用量が増え、耐性雑草が増える」「花粉によって除草剤耐性遺伝子が拡散して生態系を壊す」が問題とされている。除草剤の使用量については、「ラウンドアップ」や「バスタ」という除草剤は、特定のアミノ酸の代謝を阻害して植物の生長継続をを不可能にするもので、その仕組みから薬量を増やすことで効果が上がるものではない。
GMダイズを栽培しているアメリカの産地では統計上除草剤の使用は半減している。(「遺伝子組み換えの評価は冷静に」▲を参照)。
◆ 除草剤耐性作物は環境に悪影響を与えるか?
除草剤に耐性の雑草は組み換え作物が誕生する前からたくさんあった。従来の除草剤の使用による耐性雑草の出現がそれで、だからと言って耐性雑草がはびこったとは言わない。効果のない除草剤は使わないし、特定の除草剤を使わない限り、耐性雑草は「ただの草」なのだから。
生態系に与える花粉の影響は、その原因と結果を評価するのは難しい。しかし。これまでの品種改良で誕生した膨大な新品種による生態系の破壊が問題になったことはない。こうした問題では、「赤米」がその野性的な生命力の強さにより「白米」を野生化する、ということで明治以降栽培禁止になったことが頭に浮かぶ。またアブラナ科のハクサイが自然交配してなかなか種子が取れなくて、明治時代に輸入されながら、日本で種子が取れ本格的な栽培が始まるのが昭和になってからだった、ということが頭に浮かぶ。
わが国では「組み換えダイズ反対キャンペーン」によって、この除草剤耐性ダイズの利用が締め出され、その代わりに、従来の除草剤がしっかり散布されたダイズが高い価格で輸入されていることは理解しておくべきであろう。
東京穀物商品取引所で扱われるダイズ、取引量では一般ダイズ(GMを含む)1対Non−GMO大豆4の割合、価格ではNon−GMO大豆が一般ダイズの1割高。
◆ 種子会社に支配されるか?
「世界の食糧危機を救うかのような装いをして、企業の利益を隠蔽しようとしている」とか「自社の農薬を売りつけるためにGM作物を開発した」との批判がまかり通るのはおかしい。自らの生き残りを図るために、大きな決断をして、将来展望の中から、生命産業、バイオ産業に転換を図ったとしても、その決断を評価することはあっても、文句を言う筋合いではないはずだ。
そして10年以上に及ぶ開発研究の時間と負担に耐えて、その成果が日の目を見たからといって、足を引っ張るのは、単なる嫉妬と言うべきだ。わが国独自にこの分野で技術開発を懸命にやってきた日本のチームは、彼らの企業戦略に負けたのであって、率直に反省すべきこと。そして日本企業がアメリカのブロッコリー種子市場の70%を押さえていたり、遺伝子組み換えで新しいチューリップを開発販売しても文句を言われる筋合いではない。
一企業が特定の市場を支配するのは難しい。1920年代のスタンダード石油でさえ価格支配はしていなかった、という研究もある。
(^_^) (^_^) (^_^)
<キーワードの説明>
ここではいくつかの言葉について説明しておこう。一つの事実も見方によってその評価は変わってくる。なるでく偏らないように書いてみた。
◆ パズタイ事件
1998年8月10日、イギリスのTV番組「ワールド・イン・アクション」でアルバド・パズタイ博士は「ある遺伝子組み換えジャガイモを長期間与えたラットで、わずかな成長の遅れと免疫作用の低下が起こった」と発言した。この遺伝子組み換えジャガイモは、マツユキソウの球根から得られたGNAというレクチンの遺伝子を組み込んでいた。
GNAは人間には無害だが害虫には毒性があるため、ジャガイモだけでなくイネでも実用化が有望視されているものだった。しかしこの発言の科学的信憑性が問題になり、パズタイはその年末に免職となった。以後こうした実験が数多く行われているが、科学的な結論は出ていない。
◆ 同質的同等性
1993年にOECD(経済協力開発機構)のバイオテクノロジー安全性専門委員会で導入され、1996年にFAO(世界食糧機構)とWHO(世界保健機構)で確認されたもの。
同質的同等性は、遺伝子組み換え食品の安全性を評価するときに、その食品自体の毒性を調べるのではなく、従来と同じ様な食品と成分を比較することで評価しようとする考え方。つまり、タンパク質、炭水化物、脂質、繊維質などの大雑把な食品成分の割合や、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、ミネラルの組成が、対応する従来品と同じであれば、そして、組み換えた遺伝子の産物であるタンパク質が安全なものであれば、毒性試験は行わない。
厚生省の指針でも、「遺伝子組み換え体における導入遺伝子の特性が明白であり、食品成分が従来品から変化していなければ、実質的に同等な安全性をもつ」とみなされる。
◆ コーネル大の実験
1999年5月20日号の科学雑誌「ネイチャー」に、米国コーネル大学の昆虫学者ジョン・ロージーらのグループによる報告が掲載された。
実験ではオオカバマダラの幼虫が好むトウワタという草の葉に、遺伝子組み換えと非遺伝子組み換えのトウモロコシをまぶして食べさした。その結果、遺伝子組み換えのトウモロコシの花粉を食べた幼虫は、成長が遅く44%が死亡した。非遺伝子組み換えのトウモロコシの花粉を食べた幼虫では、死亡は見られなかった。
遺伝子組み換えのトウモロコシの花粉には、チョウやガの幼虫を障害するBt毒素が含まれていた。この実験で、その花粉が飛散した場合に、害虫以外の昆虫にも影響が及ぶ可能性が確かめられたことになる。これがロージーらの報告の要旨。
この報告に対して反論が出た。@トウモロコシの花粉は実験ほど多く飛ばないかもしれない。オオカバマダラの幼虫も、花粉がついた葉は好まないかもしれない。A実験に用いた花粉の量が正確に測定されていなくて、実験は不備である。B95%のオオカバマダラはトウモロコシが花粉をとばす前に成虫になっていた。
この問題は、Btトウモロコシは、科学殺虫剤使用量を減少させ、オオカバマダラの生育を助けるというメリットがある。この利点とリスクの可能性、どちらが大きいかを見極めるには、さらに研究が必要だ、という点では一致している。
◆ トリプトファン事件
1988年から1989年にかけて、昭和電工が製造した健康食品トリプトファン製品が大規模な食品公害事件を起こした。アメリカを中心に約1,600人の被害者を出し、そのうち38人が死亡した。これは微生物を用いて遺伝子組み換えを行ったもので、製造の過程で不純物が混入したと考えられた。最先端科学は使い方を誤ったり、ちょっとした不注意が大きな惨事を引き起こすことになる。企業内に、そしてそこで働く従業員にそれだけの厳しい安全意識があるかどうかが問題になる事件であった。
(^_^) (^_^) (^_^)
<バイテクは世界の食糧危機を救うか?>批判派・推進派、それぞれの主張がある。では公正な第三者はどのように見るか?そこでアマチュアエコノミストが登場する。(本当は、単なる「傍観者・野次馬」でしかないかもしれないが)。
国連世界食糧機構(FAO)が世界の科学者に呼びかけて「発展途上国の食糧生産や農業にとって現在のバイオテクノロジーは適切か」というテーマで、2000年3月からインターネットで上で異論を行ったが結論は出ていない。
一方「遺伝子組み換え作物が世界の食糧危機を救う」と、推進派は主張すると言われている。遺伝子組み換え技術を使えば、生産性の向上、病虫害への抵抗性、日持ちの良さ、乾燥や高温への抵抗性、栄養価の増進などの特性を付与する事が期待される。「食糧危機を救う切り札」とまで言えるかどうかは分からないが、解決への有力な回答にはなるだろう。このように考えると「先進国の裕福な消費者に見られる、遺伝子組み換え慎重論は、発展途上国の貧しい農民が食糧や輸出農産物の生産性を向上させる可能性を奪っている」との主張が正論のようにも思えてくる。
しかし、技術的な可能性と、政治的・経済的な面からの検討も必要で、この面から考えると、必ずしも大きな期待はできない。この技術を使いこなすフト・サイエンスが整っていない。農業は先進国型産業であって、開発途上国が農業技術・バイオテクノロジーを使いこなすにはヒューマン・キャピタルが不足している。アジアでの「緑の革命」が期待したほどの成果が上がっていないのを見れば明らかだ。
楽観論・悲観論いろいろ考えられるが、開発途上国での遺伝子組み換え作物のインパクトは、先進国型産業である農業技術を使いこなすソフト・サイエンスの進化いかんにかかっている。そして、途上国での栽培よりも先進国での栽培が進み、ハイテク農業は先進国で、ローテク農業=労働力集約型農業は途上国の比較優位産業として位置づけられていくだろう。
乾燥に強い植物開発に取り組み、サハラ砂漠やタクマラカン沙漠でポプラ以上に緑化に有効な植物が開発されれば、将来に対する期待は大きく膨らんでくる。なぜなら現在改良されているのは、先進国向けの作物だからだ。「世界の食糧事情」と言っても、先進国向けの開発で、先進国の農家を顧客とした種子会社の開発戦略になっている。
ビル・ゲイツが指摘するように、組み換え遺伝子を使ってイネのベータカロチン含有量を増大させ、熱帯の消費者の体内でビタミンA不足を解消させる可能性の追求や、損害を被っている人の数では目下地球上最大の作物病害ではないかとも言われるアフリカのキャッサバモザイクウィルス病を組み換え遺伝子を使って解決できたら、人類史的貢献になるだろう。
こうした研究開発が具体化すれば、世界の食糧危機を救う可能性が高まったと言える。
と言うことで、当面は種子会社の利潤追求の一戦略であり、それが世界の食糧事情にプラスにもなるのが、この遺伝子組み換え作物だ、と考えるのがよさそうだ。
(^o^) (^o^) (^o^)
<主な参考文献・引用文献>