最近、舌側矯正やマウスピース矯正を希望する患者さんが増えてきたように思います。
私のクリニックでは、舌側矯正やマウスピース矯正は行っていません。
それは、それなりの理由があってのことです。
つまり、私の治療コンセプトに合わないのです。

これらの治療の長所は、なんといっても「装置が目立たない」ということです。
しかし物事には長所もあれば短所もあります。

舌側矯正の短所は、歯のコントロールが難しい、ということです。
舌側から(のみ)矯正治療をするということは、言い換えれば、唇側や頬側には
矯正装置を着けることができないということです。
私は頬唇側からの通常のマルチブラケット法で治療していますが、
実は舌側にも拡大装置などの補助装置を使っています。
つまり舌側からも頬唇側からも、両方から歯をコントロールしているのです。
それでも思うにまかせず、頭を抱えることは少なくありません。
また、舌側はたいへん術野が狭く、よく見えません。
そのため、細かな歯のコントロールには限度があります。
術者(歯科医師)の負担、ストレスも大変なものです。
「通常の倍の料金をもらってもやりたくない」と言っていたドクターを思い出します。
私が舌側のみで治療するとしたら、治療前に立案する治療計画には程遠い、
ラフな咬合で終わりを迎えることでしょう。
治療期間も頬唇側からの矯正治療の倍近くかるのではないかと思います。
さらに、舌側の矯正装置は想像以上に違和感が大きく、患者さんには大変な苦痛を
伴うということも覚えておいてほしい。
しゃべりづらい、食べづらい、飲み込みにくいといったことは唇頬側からの治療の比では
ありませんし、ほとんどの人が舌が装置にあたってザクザクに切れて痛い思いをする
と言われています。(慣れれば何とかなるのでしょうが)

マウスピース矯正の短所は、確実性に乏しいということです。
マウスピースのような着脱可能な矯正装置は患者さんが使ってくれなければ歯は動きません。
もし、患者さんが使用できない状態になってしまったり、使用をさぼった場合、
ドクターの思った通りに治療が進まないことになります。
歯に力を加えなければ歯は動きませんからマウスピースが変わる度に痛みを伴います。
すると、どうしてもさぼり気味になるのは人情ではないかと思います。
マウスピース矯正は原則として微小な歯の移動をするためのものです。
例えば一端治療が終了した後、保定中に軽度のデコボコや隙間が開くなどの後戻りが
出現したときなどには有効でしょう。
しかし最初からこれのみで治療することは「危険」と申し上げておきます。
マルチブラケット法と同程度に歯をきちんとコントロールできるとは到底考えられません。
マウスピース矯正は、ドクターが患者さんの口腔内を歯の状態をデジタル計測し、
そのデータを米国の技工メーカーなどに送って発注します。
ドクターは送られてきた30個近いマウスピースを、歯の移動の状況を見ながら
患者さんに順番に渡して使ってもらいます。
この治療は患者さんの口の中の状態だけをもとにして行うもので骨格の問題は
反映されていません。
また、米国の技工所は日本人の骨格データーを考慮してマウスピースを作っているわけでは
ありませんから、どう考えても無理があります。
事実、一般歯科でマウスピース矯正をした患者さんの中でトラブルが多発しているという話を
耳にしています。
(歯根が骨から飛び出してしまったり、歯根同士が絡んだようになったり、
最後まできちんと仕上がらなかったりetc.)

通常よりもはるかに高い料金を払いながら、治療期間は長く、苦痛は大きく、
肝心な仕上がりは芳しくない。
皆様はこのような治療法を選択されますか?
私は、できるだけ短い期間で、患者さんの負担と苦痛が少ない治療法を用いて、
治療計画通りの緊密な咬合に仕上げたい、と考えています。
こだわるべきは治療結果であって、治療過程の見映えではない、と思うのですが。
唇頬側に着けるブラケットも、現在では歯の色にマッチングして目立たない、
優れた製品が出回っています。
それと、患者さんが気にする程、まわりのひとはあなたの装置を気にしていない、
ということを申し添えます。

                       戻る