Pirate family(仮) 番外編:最高の船を求めて

-------------------------------------------------------------------------------

エピローグ 選ばれし者

キャスターが消えた。
その事実が判明したのは進水式が執り行われる前日であった。
「さすがに前回中止してるし、今回も!なんて事になったらさすがにスポンサーが黙ってないだろうし……」
前回中止してる手前、今回はなんとしても式を執り行う必要があった。
設計者がいないからと言って中止には出来ないのである。
こうして、キャスター不在のまま式は執り行われ、船は無事に進水するのであった。
その性能はまさに驚異的であった。
風を捕らえた後の加速性能、最高速度、旋回性能、対波性能。どれをとっても既存の船では実現不可能なレベルを実現していた。
更に、104門もの砲門を持つ攻撃力。ただの鉄張りのはずなのに大砲の弾をはじき返すほどの装甲。
今までの常識を全て覆す船であった。
しかし、問題もあった。誰も乗れないのである。
1日、2日なら問題なく乗れる。だが、3日以上になると船長が頭を抑えて苦しみだすのである。
ひどい時には発狂して海に飛び込む始末であった。
発注元のミドルトン家の誇る航海士であるユーリーでさえ、意識を失って倒れる始末である。
危険な船だと判断したミドルトン家は船の解体を決定するのであった。
しかし、解体を行おうと作業に取り掛かると決まって事故が起き、作業が出来ないのであった。
そのうち、解体作業を引き受けてくれる船大工がいなくなり、壊せなくなった船はミドルトン家のドックに保管される事になった。
「先輩の最後の船なのに、封印ですか」
ドックに向かって進む船を見送るゼンは複雑な心境であった。
「もしかしたら先輩が言ってた精霊ってのが関わってるのかな」
今の今まで精霊の存在など信じていなかったが、ここまで奇妙な事件が続くともしやと思ってしまう。
そんな風に思いながらドックを後にしようとしたとき、
(ようやく我を信じる気になったようだな)
頭の中に知らない声が響く。
「え?」
(どうやら我の声は我を信じる者か、我に乗ろうとするものにしか聞こえないようでな。キャスターからの伝言を預かっている)
「せ、先輩の伝言?」
(どうだ、俺の夢は?お前に俺の夢を超える事ができるか?だそうだ)
「先輩……」
さあっと風が吹いていた。
海からドックに向かう船に向かって……
ばっ、と振り返るとドックに向かう船の船尾に先輩がにぃっと笑いながら腕を組んで立っていた。
いや、実際にはそんな風に立っている姿が見えたような気がしただけなのかもしれない。
その証拠に、もう一度しっかりと見るとキャスターの姿は見えなくなっていた。
(でわ、さらばだ。我が認める者が現れるまで我は眠りにつくとしよう。そう長い事ではないだろうがな)
「ありがとうセリオス。僕も、僕も先輩に負けない船を作ってみせる!!」
(期待していよう。それでは、また会える日を楽しみにしているぞ)
ドックの扉が閉められる。
この扉が開かれるのは何時になるのだろうか。
それまでに先輩の船を越えるものを作れるだろうか。
「いや、作れるだろうかじゃない。作るんだ!よ〜し!先輩まけませんからね!」
意気揚々と仕事場に向かうゼンであった。



(いや〜、若いってのは良いね〜)
(よいのか?お主が話しかければ多分聞こえたと思うが?)
封印された船の甲板でチェスを打ちながらセリオスがそう答える相手はキャスターであった。
(良いんだよ、俺は消えた存在なんでな)
迷いながらビショップを前進させる。
(お主がそれで良いなら我は関与せぬがな。チェックメイトだ)
ナイトをキングの前に移動させチェックメイト。
(ま!まった〜!!!)
(まったは無しと言ったはずだが?)
(良いじゃねえか!時間はたっぷりあるんだしよ〜!!)
(そうだな、時間はたっぷりある。確かにその通りだ。だが、それとこれは別だな)
そう、時間はたっぷりとある。
我らを乗りこなせるものが現れるまで。



次へ