進水式を中止した理由として、船底に穴があることが判明。
そこから浸水する恐れがあったためやむを得ず中止した。ということに表向きの理由は取られた。
しかし、
「船の何処にも異常は無かった……だが、セリオスのあの苦しみ方は異常だ。一体なにがあった?」
船の調査報告書を確認したキャスターは船体自体には何処にも不審な点は無い事を改めて確認した。
(あの進水式ではいかんと言う事だ……)
「どういうことだ?昔から進水式にはワインのビンを投げつけて割るのが風習と聞いたぞ?」
(この船は普通の船ではない。これを海に浮かべるためには通常の儀式の他にもう一つ必要なのだ)
「別の儀式?それは一体?」
(それは……)
「な!なんだと!!!!!」
「うわ!」
外で大きな音がしたので確認のため扉を開けたところ、
中の様子を伺っていたゼンが倒れているのを発見した。
「ゼン、聞いていたのか?」
「え、えっと、僕には精霊?の声が聞こえないので先輩の声だけは……」
ばつが悪そうな表情で答えるゼン。
「そうか、すまなかったな。今の話は忘れてくれ」
「それは構いませんが、先輩?顔色が悪いですよ。ちゃんと休んでくださいね?」
ああ。と軽く答えて扉を閉める。
椅子にどかっと腰を下ろしため息を一つ吐く。
「……なあ、セリオス。その儀式って、痛いのかな」
(我にはわからぬ)
「そっか、そうだよな……はは、まさかそういう展開になるとはな〜いつの時代だよって感じだ」
乾いた笑いがこぼれる。
自分でもなぜ笑えるのかさっぱりわからない。
だが、なぜか笑みがこぼれてくるのだった。
「よし!明日その儀式をするぞ」
(良いのか?)
「ああ、俺の夢が実現できるなら。そのためなら俺は全てをかけるさ」
きっぱりと言い切ったキャスターの目に迷いは無かった。
次の日、ドックの守衛に誰も入れないでくれと言いおき、キャスターは一人船に向かった。
「さて、儀式に必要なものはそろった。始めようかセリオス」
(わかった。それでは、主の命。貰い受ける)
「おう!俺の命でこの船が清められるなら安いものだ!受け取れ〜〜〜!!」
(大いなる海の神よ、今ここに生贄の命を捧げる。かの者の魂をお納めくだされ。そして、かの船に大いなる力を!)
ぱぁ〜っと船が光の幕に包まれ金色の光を放つ。
その光に包まれながらキャスターの体は徐々に透き通っていく。
「ああ、なんかすげ〜気持ち良いな〜これ。なあ、セリオス。俺はこの船のこれからを見守れないが……」
(ああ、わかっている。我がこの船を守ろう。我の存在全てにかけて!)
「頼むぜ。何せ俺の夢が詰まってるんだからな。変な奴に預けないでくれよ?」
(無論!我が認めるもの以外に任せるわけが無いであろう?)
「へへ、それもそうだな。じゃあ、あばよ。またいつか会えたら……いい……な……」
全ての光が船に吸い込まれていく。
その光が収まった時にはキャスターの姿も消えていた。
(またいつか、時の彼方で会おう)