Pirate family(仮) 番外編:最高の船を求めて

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第1章 コンタクト

私が目覚めてから1週間が過ぎていた。
その間、キャスターと呼ばれたものは日々新たなアイデアを持ってきては模型を使って試していた。
しかし、どれも有効性のあるものではなかったらしく、試して効果が出ないと言う事を繰り返しては、
がっくりと肩を落としていた。
(方向性は悪くないのだが、もう一歩の閃きが足りないな)
そんな様子を見ながら私はいつも声をかけるのだが、どうやら私の声は向こうには聞こえないようで
歯がゆい思いを味わっていた。
「だめだ、やっぱり帆の性能はこれ以上はどうしようもない。となると……その他で補うしかない」
「でも先輩。他って……船体を軽くするんですか?確かに材質を今の鉄張りからチーク材に変えれば速度は上がりますが」
「いや、鉄張りは変えられないんだ。他の部分で軽くしていくしかない」
どうやら材質は変更できないと言う決まりがあるようだ。
確かに軽くすればその分早くはなるからな。最初に思いつくことではある。
それが出来ないなら、次は……
「じゃあ、大砲減らしますか?いくらなんでも砲室104門はやりすぎですよ」
武装の削減による軽量化を思いつくのが王道である。
だが、恐らくこれも……
「最強の船って注文だからな。砲門も削れないんだよ」
やはりそう来るか。
さて、そういった状態でこの男は何を思いつくのかな?
「そう、砲室も材質も変えれない。となれば、船室を削るしか手はないだろう?」
そう来るか……確かに乗船人員を削れば重量は減る。だが……
「先輩、それだと操帆に手が足りなくてかえって遅くなりませんか?」
ゼンという助手もなかなかわかっているようで、見事な反論をする。
手が足りない場合、操帆にもたついて遅くなるのは道理である。
「あ、う……、そ、そうだな。くそ、いいアイデアだと思ったのに」
煮詰まっているようである。
船体の構造を変えると言う発想は出てこないようだ。
(歯がゆいの〜、船首をもう少し丸くすればよかろうに)
聞こえるはずも無いとわかっていながらもぼそっともらす一言。
ただ、この時はこの聞こえるはずも無い声が……
「え?船首を変える?だ、誰だ今の案を出した奴は!?」
「先輩?」
ゼンが心配そうな顔でキャスターを見つめる。
遂に幻聴が聞こえるほどになってしまったのかと心配している目だ。
私はというと、私の呟きが初めて相手に聞こえた事に驚いていた。
(私の声が聞こえるのか?そうだ。船首を変えるのだ、それと船尾を……後マストを……)
私が今まで考えてきた案を全て残さず話す。
「そ!そんな方法が!!そうか、俺は今まで帆にこだわりすぎていたんだな。いける!それならいけるかもしれん」
「お〜い、せんぱ〜い。帰ってこ〜い」
「よし!早速実験だ。ゼン行くぞ!まずは設計書を引きなおしだ」
「え?ええ〜!!今から再設計ですか〜???船の納期は来月ですよ〜?」
「そんなもん延期だ延期!!これなら最強の……そして最速の船ができるんだぜ?急げよゼン!」
だ〜っと駆け出していってしまったキャスターを慌てて追いかけるゼンを見送りながら、
(まさか私の声が聞こえるとは……。しかし妙な事を言っていたな。精霊?私が??ふむ、それならそれっぽくしゃべるとするか)
キャスターとの初コンタクトを交わした私は、初めて話し相手ができた事が妙に嬉しく感じられるのであった。

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