何も見えない。
何も聞こえない。
真っ暗な世界。
そんな世界を私は彷徨っていた。
数年なのか……それとも一瞬だったのか……時間の感覚はわからない。
ただ、私はそんな所にいたという感覚だけは残っている。
いつまで続くのかわからないそんな世界にいては、何かを考える事すら出来なくなる。
そんな闇の世界に変化が訪れた。
遠くに白い点が見えたのである。
(おや?あれはなんだろう)
それに気づいた私はその白い点に意識を集中させ始める。
集中すればするほど白い点は広がり、目の前の暗い世界を全て吹き飛ばしていく。
あまりの眩しさに目を開けていられなくなり、私は一旦目を閉じた。
だが、目を閉じていても感じるほどに世界は眩しい光に満ち溢れており、
硬く閉じた瞼の裏にも強烈な光の圧力を感じさせてくる。
その状態はしばらく続いたが、徐々に眩しさも収まってきたようで、私はそっと目を開く。
そこで私が見た世界はまったく別物の、見たことも無い世界であった。
青い空、青い海、白い雲、そして人人人……
(ここは一体……・?)
どうやら船の上のようであるが、それにしても一体なぜ?
「良い風を捕らえた!最大船速!!今日こそ超えるぞ!!」
おおぅ!!
船長風の男が指示を出し、船員がそれに答えるかのように帆の開きをあわせていく。
確かに良い風が吹いている。
うまく捕まえればそれなりの速度が出せるだろう。
しかし……
(前を走る船を捕らえるにはちと足りないのではないかな?)
私の計算では残念ながら船の対波性能が違うため、追いつけないと思われた。
案の定、差をつめるどころか徐々に引き離されていく。
結局2隻ともそのままで順位は変わらず。日暮れと同時にドックに入るのであった。
その夜、ドックに入った船の上から私は動けずにいた。
(この船、妙に気になるのだがなぜだろう……)
昼間見ていた船を隅々まで確認した所、他の船には無い作りをしているところが多数存在した。
性能向上を狙ったものなのだろうが、試行錯誤の途中と言った感じである。
(惜しいな、もう一歩と言った所か……ん?誰か来たみたいだ)
船の観察をしていた所に昼間の船長風の男がやってきた。
彼は何やら難しい顔をしながら船の状態を調べている。
「くそ!帆の性能は上がってきているんだ。なのになぜ速度が上がらない!」
手に持った紙に何かをがりがりと書き込んでいる。
どうやら、この船の設計者のようだ。
「マストはこれ以上増やせない。いあ、増やす事は出来るがそれじゃあ安定性との兼ね合いでかえって遅くなる」
ぶつぶつと呟きながら何かを計算している。
「先輩。やっぱりここでしたか。少しは休んでください」
ドックの入り口に新たな人物が現れた。
どうやらこの男の助手のようである。
「休んでいられるか!なぜだ?風を受けるタイミングも、帆を操る船員の錬度も負けてないのに。なんで早くならない?」
よほど煮詰まっているようである。
船の速さと言うのは総合的な数値である。
帆だけが良くても早くなるわけではない。
「キャスター先輩、気持ちはわかりますが少しは休んでください。今先輩に倒れられたらこの計画はどうなるんです?」
「……わかってる。わかってるんだよゼン。でもな……」
「でもじゃないですよ。焦る気持ちもわかりますが、今日は休んでください」
助手の必死の説得を受けて、渋々引き上げるようである。
そんな二人のやり取りを見た後、私はこの船の改修案を考えていた。
なぜか、そうしたくなったのである。
(船首の構造を少し変えれば対波性能があがりそうだが、それに船尾の部分も……)
考え付く限りの案を検討して最終的に一つの案をまとめたが、
(私はなぜこんなにもこの船が気になるのだろうか……)
自分に芽生え始めた感覚に戸惑いながら夜が明けていくのであった。