Pirate family(仮) 2

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第5章 長崎包囲網

東アジア包囲網。
それは、イングランドの私掠船団を終結させて東アジアの利権を独占しようという計画であり、
王室財政の利益拡大につなげるための作戦であった。
この包囲網には我らがガルミッシュ号を旗艦とした船団も参加しているのであった。
とはいえ、やる事は普段となんら変わることなく、商船を見つけて拿捕すれば良いという話である。
この包囲作戦、作戦開始から早3ヶ月が経過しているが、どうやらうちの船団が一番多く活躍しているようである。
それもそのはず。
(3時方向に商船あり。どうやらフランスの商船のようだが?)
ガルミッシュ号に宿っている精霊、ガルのレーダーはかなりの高性能でありほとんどの商船の所在をつかんでいるためである。
「フランスか。個人的には恨みは無いが、見逃す気はないぜ」
単独航行する船を全員で襲う必要も無いと判断したギルスはこちらも1隻で拿捕に向かう。
その間、イルシーダとルビーダイスの二人は別の船団に目をつけていた。
「イルさん、あれオスマンの商船ですよね。珍しいですね〜あの国商船もってたんだ」
見つけた船のマストには緑色の国旗が掲げられてた。
オスマン帝国。
黒海や東地中海に覇を唱える軍事国家である。
その国の商船を二人は捕捉していたのであった。
「商船といえど油断は禁物よ!いつも通り、るびちゃんはけん制よろしくね」
オスマンの商船は3隻。
こちらはイルとルビーの2隻のみ。
数的に不利であったのだが、
「接舷成功!一気に叩くわよ!!あたしに続け〜!!!」
逃げようと転進しかけた商船に一気に接舷。
強行突入を行い、短期決戦を仕掛けるイルシーダに対して、
「左舷砲撃手、10時の敵に向かって砲撃開始!あてなくて良い。敵船の前に着弾させて!
 右舷は接近してくる敵船の船首を狙って!って〜!!!」
イルシーダの船が1隻に接舷し切り込んでいる間、他の船を近づけさせないと間に割ってはいるルビー。
息の合った連携を見せながら、敵船に砲撃を加えていく。
砲弾の着水の波に邪魔されてうまく進めない敵船と、船首に砲撃を受けこちらも足を止められてしまった敵商船。
2隻の足止めもすっかり手馴れたものである。
「商船なのに接舷を狙うってどういう神経してるんだろうね。僕にはわけがわからないよ」
さすがオスマンの商船!と少しずれた感想をこぼしながらルビーは見事に敵船の足を殺す事に成功するのであった。
そうこうしている間に、イルシーダは最初の商船の拿捕に成功。次の獲物に向かうのであった。
「お待たせるびちゃん。1隻は片付いたわよ。次は左のやつにいくわね」
1隻が片付いて数が同じになればこっちのもの。
もはや、負ける要素は何処にも無い。
「了解です。これで僕の仕事も減りますよ。お茶でも飲んでいいですかね?」
「あんまり余裕見せてると痛い目にあうわよ?自重しなさいな」
「それもそうですね。じゃあ、終わったら僕の秘蔵の茶葉でお茶会でもしましょう」
「いいわね〜。とりあえず接舷したんで行って来るわ」
早くも2隻目の商船に接舷したイルは嬉々として突撃を繰り返しているようである。
「さすがだな〜イルさん。さて、僕達も気を抜かずに行こう!3隻目をここに釘付けにするよ!!」



フランスの商船とオスマンの商船隊を無事に拿捕し、積荷の検分を行った後、
確保した南蛮貿易品をイングランド輸送船団に引き渡す。
今回の封鎖作戦には奪った交易品を処分するための輸送船団が用意されているのであった。
利用するしないは各個人の判断に任されているが、わざわざ運ぶ手間が省けるため大変便利である。
であるが、もちろん自分で運ばない分安く買い叩かれてしまうという難点もついてくる。
大体半額といった所だろうか。
それでも、近隣で売るよりは高値がつくためギルス達はこの船団を利用していたのであった。
「いや〜ギルスさん。相変わらずすごい稼ぎですね〜羨ましいですよ」
輸送船団の船長はへらへらしながらギルスに近づいてくる。
「なに、うちには優秀な船員がそろってるからな。それより、値段交渉は俺じゃなくうちの副官のルビーとやってくれ」
こいつが近づいてくる理由は一つ。
引き取る交易品の値引き交渉がしたいためだ。
(前回の交渉でルビーにとことんやり込められてたからな〜こいつ……)
前回の反省を活かして、値段交渉はルビー相手では絶対に勝てないとわかっているため、
こうしてギルスやイルシーダの所にやってくるのであった。
「いえいえ、それはわかっておりますが、やはり船団の長と話すのが礼儀と申しましょうか……」
向こうもわかってはいるのだが、プライドがあるためそれを認めたくないらしく、もっともらしい事を言っては
ギルスと交渉をしようとするのであった。
「うちのやり方が気に入らないなら他の船団にいけ。別にうちはお前と取引しなくても困りはしねえ」
相手をするのが面倒になったのか、ギルスが追い返そうと少々強めに言ったのだが、
「はっはっは、うち意外ではこの量は引き取れませんよ?近場で売るにしても利益が大幅に減るでしょう?
 ここは一つ、うちの提示額を飲んでいただけませんかね〜」
ギルスの脅しなど何処吹く風である。
さすがにこれにはむっとしたのか、無言で剣に手が伸びた時、
「ねえ、ギルス。さっきむかつく商人の部下があたしの船に来てさ〜……げ!本体がこっちにきてたのか!!」
イルシーダがガルミッシュ号にやってきたのであった。
「おやおや、イルシーダ様までお越しとは。両代表おそろいであるなら、話が進めやすくなりますね」
交渉術などまったく知らないであろうこの二人相手なら十分勝てる!
と交易商人は勝利を確信していた。のだが……
「ふぅ〜、船長。この船のはしごは上りにくいよ〜。もうちょっと乗船の楽なはしごにしてくれない?」
イルシーダの後ろから乗船してきたルビーダイスの姿を見た瞬間に見事に固まったのであった。
「さて、船長。積荷の交渉は僕の船でやるって言っておいたのに、なんでここでやってるのか説明してよ!」
ずいっとギルスに詰め寄りながら文句を言う。
「いや、俺に言うなよ。あいつが勝手にこの船に乗り込んできたんだよ」
くいっと親指で固まったままの交易商人を指差す。
「え?ふ〜ん、僕の船でやるからこっちに顔出してと事前に通達しておいたのに。これは明らかに契約違反だね。
 この船まで来た出張費も上乗せさせてもらうからね」
「い、いえいえ。私はまずは船団の長にご挨拶をと思いまして。挨拶を終えたら交渉に伺うつもりでしてはい」
「ふ〜ん。でも僕の所には挨拶どころか、船長の船に向かったって報告も無かったけど?
 しかも、君の所の船員がイルさんの船の倉庫から荷物の持ち出しを始めてたけど?交渉してないよね?まだ」
「あ、いえ、それは、その……もうしわけありません私どもの不手際でして」
「商売人は信用第一だよね?なんか嫌だな〜そういうところ。船長、別の船団にしようよ?
 さっき僕の所に交渉に来た人がいてさ。なんか向こうの方がよさそうだったよ〜」
この言葉に真っ青になる交易商人。
そんな交易商人にギルスが鋭い視線を送り、
「おい、さっき他の船団はねえとかいってなかったか?どういうことだ?」
「い、いえ、まとまった量を扱える船団はうち意外はこの辺りにいるわけが」
「確かにこの辺りにはいないね〜。でも、ちょっとうちが海域を動けばいくらでもいるよ。
 やっぱり信用の置ける商人と取引したいもんね〜。ってことで、僕は貴方とは取引したくないです。
 前の時から正直気に入らなかったんだよ僕は。じゃ、ばいば〜い」
そういってルビーはさっさと自分の船に戻っていくのだった。
「さて、るびちゃんがそういうならあたしも異存は無いわよ。じゃあ、船にもどるわね。
 ああ、勝手に持ち出した荷物はきっちり戻しておきなさいよ?」
イルも清々したという表情で自船に引き上げるのであった。
後に残されたギルスと交易商人の二人は、
「さて、んじゃ俺達も移動すっか。ルビーの船に続け。途中襲われたら応戦すっぞ!!
 っと、何だまだいたのかお前。おい、そこの商人さんには丁重にお引取り願え!丁重にな!!」
ギルスの命令は船員達によって忠実に実行された。
全員この交易商人の態度には腹を立てていたようである。
 へい船長!丁重にですね?
 ええ、任せてくださいよ。もう、こいつぶっ殺したくてしょうがなかったんですよ〜
 さっきサメがいたよな〜。やつに食わせようぜこいつ!
 よりによってルビーさんを怒らせるとはな。お前終わったよ?
 まあ、今後うちらとの取引は絶対に出来ないって事は確定したな。
船員の殺気にあてられた商人は真っ青になり一目散に退散していくのであった。
その逃げっぷりには全員が腹を抱えて大笑いするほどであった。
「やれやれ、うちの主計長様を怒らせるとか……今後のあいつの商売に影響出るぜ〜。確実に」
事実、この輸送船団はこの日を境に見る見ると売上を落としていき、最終的には倒産にまで追い込まれたのであった。
理由は到って簡単。ルビーの手によって信用がまったく無い商人と噂を広められたためであった。
『商売人は信用第一』
とはまさに名言である。
と他の商人が気を引き締めた事件であった。

ちょっとした事件を終えた後、ギルス達の船団は台湾近海にて別の商人と交渉していた。
今度の商人はかなりこちらに好意的であり、
「いやはや、今回は初顔合わせということで少しやり込められてしまいましたが、次回からは負けませんよ?」
「はは、僕としては出来れば次もこれくらいで買い取って欲しいものだよ」
「ご冗談を、毎回これではうちが倒産してしまいますよ。それではまた……」
お互いに握手をし、笑顔で分かれるのであった。
なかなかいい取引をしたようである。
「ふへ〜、やっぱり国の利権にあやかるだけの商人と違ってやり手の人はきついわ〜」
だらっと両手両足をだらけさせ、先ほどまでの緊張をほぐそうとしていた。
「お疲れ様〜、はいお茶。今日は緑茶にしてみました〜♪」
熱い緑茶をふーふーと冷ましながら一口のみ、
「ん!緑茶は熱いのに限る!しっかし、今回はメルに助けられたわ。ありがとうね」
「私?特に何もしてないけど。珍しいねお姉ちゃんがそんな素直に礼を言うなんて。明日は嵐かな?」
「相変わらず僕に対しては毒吐くわね。要所要所で口挟んでくれたでしょ?助かったわ」
「え?えへへ、ばれてたのか〜。さすがお姉ちゃんだね」
まあね。
といいつつ緑茶を一口飲みカップを置いたタイミングで、
「お〜い、ルビーいるか?入るぞ〜」
がちゃっと扉を開けてギルスが入ってくる。
「取り込み中すまん。今回の東アジア封鎖作戦は無事に成功という事で今本国から連絡が来たぜ。
 今後の活動に関しては自由にしてよいとの事で一応解散ってことになったんだが、今後どうするかを決めないか?」
「今後、今後ですか?ならもう少しこの辺で活動しませんか?」
「あれ?るびちゃんが方針決めるなんて珍しいね。どしたの?」
ギルスに遅れて入ってきたイルシーダが珍しそうにルビーを見る。
ギルスも意外だったようで少し驚いているようであった。
「いえ、新しい取引相手も出来たのでここで逃す手はないかな〜と」
「まあ、ルビーがそういうならしばらくはこの辺で稼ぐとすっか」
ギルスには他の案があるわけではなかったため、すんなりとルビーの主張は通り、
しばらく東アジア地域に滞在する事になるのであった。

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