Pirate family(仮) 2

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エピローグ

賑やかな音楽。わいわいと楽しそうな話し声。
美味しそうな匂い。綺麗な色をした飲み物。
そんな色々なものがごちゃ混ぜになっている空間。
人はその場所を酒場という。
その酒場で楽しそうに料理を楽しみつつ、一緒に用意した日本酒をちびちびと飲む。
「はぁ、このお酒美味しいね〜。ね!お姉ちゃん」
しかしその呼びかけに答える者はいなかった。
「あれ〜?お姉ちゃん何処行ったの〜?もう!!あ、マスター、もう一本ちょうだ〜い♪」
空になった徳利をぷらぷらと振りながら追加の注文をする。
店の主人はまだ飲むのかと呆れながらも追加の徳利に酒を注ぐ。
「肴にこのお刺身ってのもお願いね〜これおいしいよ〜♪」
もう誰にも止められない……
そんなテーブルの周りには酔いつぶれて倒れ付している者たちが死屍累々と横たわっていた。
「おいルビー……お前の妹はどうなってんだ……?」
そんな屍の中にもまだ微かに動ける人物が数名いた。
ギルス、ルビー、イルの3人である。
「僕に言わないで……僕だってもう限界……」
「あ、あたしも……だめ。後よろしく…………」
酒豪3人を潰してもなお飲み続けるメルであった。
後に、酒神様が降臨したと酒場の主人が言ったとか言わないとか……。
とりあえず全員が潰された翌日、
「ぐ〜、頭いて〜水くれ〜……」
「あたしにも水頂戴」
重度の二日酔いに苦しむギルスとイルに
「はい船長、イルさん。水ですよ」
割と平気そうにせっせと船員の介護を行うルビーとメル。
 あれだけ飲んでてなんであの二人は動けるんだ?
 ルビーさんはわかるがメルさんもすごかったんだな〜
 う……だめだ、気分が悪すぎる。
 船長〜、今日は出航無理ですぜ〜
 うちの船もだめです……動ける船員がいません><
「お前ら、何を情けない事を……と言いたいが俺も無理だ」
甲板上で真っ青な空を見上げた状態で横になる一同。
「まあまあ、1日2日伸びたって対して変わらんって。今日はゆっくり休みましょう」
「ですです。あ!お姉ちゃん後でお買い物いかない?」
すっかり休日気分を満喫しようとする姉妹であった。
(やれやれ、我が主としては少々なさけなくないか?)
「あ〜、今日は勘弁してくれ。頭痛がひでえんだ……」
頭の中に直接聞こえてくるガルの声は二日酔いで苦しんでいる状態にはかなりきつらしい。
(所で、この話我の出番が極端に少なくないか?もっとしゃべったほうが良いだろうか)
「だ〜か〜ら〜、勘弁してくれ〜〜〜〜><」
こういう時だけ、饒舌になるガルにちょっとした殺意を持つギルスであった。
一方その頃、もう一つの船の船長たるイルシーダは、
「う〜ん、う〜ん……」
やはり、同じように二日酔いに苦しんでいるのであった。

夕方ごろになると全員それなりに動けるようには回復したため、
ルビーとメルは遅めの買い物に出かけるのであった。
「お姉ちゃんお姉ちゃん!あの髪飾りかわいいよ!」
「僕には似合わないな〜。メルならいいかも。買ってあげようか?」
「え?い、いいよいいよ〜」
「遠慮しなくて良いのに」
財布を取り出そうとするルビーの手を必死に止める姿がなんともかわいらしい。
結局何を買うわけでもなく、単に品物を眺めているだけにとどまっているのであった。
「……ねえ、お姉ちゃん。なんで海賊なんてやってるの?」
不意に足を止めてメルがいつも思っていた疑問を口にする。
再開する前までの姉は交易商人として名声を得ていた。
海賊とは間逆の存在だったはず。
それが、再開してからは、前より生き生きとした感じで楽しそうに海賊家業を営んでいる。
もちろん戦闘時には役に立っていないようだが……
「お姉ちゃん、前は交易商人として王室に出入りできるくらいの商人だったじゃない?それがなんで?」
特にとがめるわけではなく、純粋に聞いてみたいから聞いている。
答えたくないなら答えなくていいよと言外に感じ取れる質問であった。
「ん〜、そうだね〜。僕が出合った海賊が船長じゃなかったから多分とっとと辞めてたろうね」
道端の小石をこつんと蹴りながら答える。
「船長だったから、多分続けてる。うん、それは間違いないね。船長が好きとかそういうのじゃなくて
 楽しいんだよね。交易商人やってた時には感じられなかった楽しさなんだな〜」
だから、今は毎日が充実してるの。
「もちろん、前が楽しくなかったわけじゃない。でも毎日他の商人の目を気にしてお店出したりするのに
 少し疲れてた感じもあったからね。メルには申し訳ないと思うわ。それに兄さんにもね」
「私に?なんで??」
「だって、姉が海賊になってたなんてがっかりしたでしょ?」
ん〜
と少し考えた後、特にがっかりした様子も無く、
「それを言うなら私も今は海賊一家の一員になってるんだけど?」
お姉ちゃん、がっかりした?
逆に聞き返された事に少し噴出しながら、
「それもそうね。しっかし、こうなると兄さんも引き込みたくなるわね〜。今頃何処でなにしてるのかしら」
「医者になるって言ってたから医薬品のある町にいるんじゃない?まあ、そのうちひょっこり出て来る気がするな〜」
「医者か〜、うちの船団に専属の医者が常駐してくれたらすごく助かるわね。見つけたら確保しましょうか」
「賛成〜。さて、そろそろ戻ろっか。皆回復してるだろうから晩御飯の材料買っていく?」
「それもいいわね。ここの街って水稲が豊富らしいわ。おかゆって料理が弱った胃には良いらしいし作ってあげますかね〜」
夕暮れの町並みを姉妹仲良く手をつなぎ、穏やかな会話を交わしながら船へと戻るのだった。

船ではすっかり回復した船員達が明日の出航に向けて作業を行っている。
「ただいま船長。もうすっかり良いみたいね」
「ただいまです」
「おう、二人ともお帰り。まだ動けない奴はいるが、とりあえず明後日には出航できそうだ。
 で、次の目的地なんだが……ここ、地中海のシラクサだ」
シラクサ、地中海のど真ん中にある街である。
東アジアから地中海とはまたずいぶん遠い目的地だこと……
「えらく遠いね。理由は?」
「本国から大海戦の参加要請が来た。王立艦隊とか言うのになっちまってるからな。一応でないといかんだろ?
 ちなみにイルシーダの了解は既に取ってある。準備の方頼むな」
「了解。それじゃあ、メル。お粥の準備よろしくね。僕は必要物資の発注にいってくるから」
「うん、気をつけてね」
既に辺りは暗い。
夜道の一人歩きは危ないと、気を使ったのだが、
「大丈夫よ。船長、3人ほど船員連れて行くわね」
その事は承知済みだったらしく、護衛の手配もしっかりと忘れなかった。



「船長〜、お加減の方はどうですか〜?」
いまだに倒れているイルの元に出来上がったお粥をもってメルがお見舞いに訪れる。
「ごほっごほっ、すまないね〜あたしがこんな体だから迷惑ばかりかけて」
めちゃくちゃ芝居がかった演技であった。
「それは言わない約束でしょ船長。って、なんです?このやらせの三文芝居は?」
「きっちり付き合いながら批判するとはなかなかやるわね!」
「はいはい、どうせ出航手続きとか準備とか面倒だったんでしょ?全部私の方でやっておきましたよ」
「さすがメルちゃん!頼りにしてるわ〜♪」
はいはい。
と、持ってきたお粥を手渡す。
「いや〜、おなかすいてたのよね〜いただきま〜す。ぶ!しょ、しょっぱ!!」
お粥を一口スプーンですくって食べようとした所、あまりのしょっぱさに噴出してしまった。
そんなイルをニヤリと笑みを浮かべて、
「ふふふ、サボってた罰ですよ。ああ、二口目を食べる前にスプーンを拭くことをお勧めしますよ〜。
 じゃあ、私はこれで〜。あははははは〜♪」
言われてスプーンを見ると、粒粒の白い結晶が層を作ってスプーンを覆っていた。
「やれやれ、やってくれたわねメルちゃん!」
言われたとおりスプーンを拭いて塩を取除いてから残りのお粥に手をつけるのであった。
「しかし、雇った当初は面白そうだからってだけだったのに。ほんと、頼りになる副官にそだったな〜
 まあ、面白そうだったってのは今でもあってるけど」
さて、出港準備をするかな。
イルシーダは空になった食器を持って自室を出るのであった。
「次はどこかしらね〜。まあこの面子で行くなら何処に行っても変わらず面白いだろうけどね」
綺麗な星空を見上げながら明日の楽しい事は何かなとわくわくするのであった。

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