Pirate family(仮) 2

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第4章 カリブの海は浪漫の海

ドドーン!
ドカーン!
キンキン!
ダダーン!
相変わらず戦闘時の擬音と言うのは妙に馬鹿みたいに聞こえる。
ただ、今回はこの音をのんびりと聞いている場合ではなかった。
「左舷!って〜!!撃ち終わったらすぐにとりか〜じ!」
支援船ではあるが、今回から戦闘参加しているルビーの指揮するトライアンカー号は的確に支援砲撃を行っている。
イスパニア商船は全部で4隻。うち2隻はすでに拿捕済みで航行不能にしている。
残り2隻なのだが、現在1隻をガルミッシュ号とマリアンデール号で接舷、切り込み中である。
この間にもう1隻が逃げ出せないようにうまく砲撃を加えて足止めするのがルビーの仕事なのだが、
以前、ギルスがガルに語ったようにルビーの砲撃戦の能力はかなりのもので、
特に問題となる事も無く見事に足止めに成功していたのだった。
無事に敵船の足を止めることに成功している事を確認して、
「船長。まだなの?」
とルビーが虚空に呟くように言う。
普段なら絶対に聞こえるわけもないのだが、
「もう少し楽しんどけよ。こっちは久しぶりの切り合いでな〜。なかなか骨のある商船なんだよこれが」
と、拿捕に向かっているはずのギルスの声が返ってくる。
しかも妙に楽しそうだ。
「ちょっとギルス、あたしにも残しておいてよ?こっちのは雑魚ばっかりでつまんないのよ〜」
イルシーダの声も聞こえてくる。
全員はなれた場所にいるのに、まるですぐ隣にいるかのように声が聞こえる。
この謎を解く鍵はギルスの船に宿る精霊の力であった。
(遊ぶのもいいが少し急いだほうがいい。後1隻いるというのにイスパニア海軍が迫ってきているぞ)
どうやら敵船が援軍要請を行ったらしく、近くを航海中のイスパニア海軍の軍船がこちらに接近中らしい。
「おっと、それは一大事。んじゃ、ささっと全員縛り上げるぞ!おらぁぁぁぁ!」
妙に楽しそうなギルスであった。
根っからの海賊なんだな〜船長は。
そんな感じを受けながらも、ルビーは周囲を警戒する。
ガルが言っていたイスパニア海軍が何処から来るのかを警戒してだ。
「ルビーさん、後方6時の方向にイスパニア軍船。数は2。停戦信号旗をあげてますが」
後ろから迫るイスパニア軍船を確認した船員は再度報告をする、
「イスパニア軍船接近!数は2。停戦信号旗をあげてます」
こちらが停戦するわけも無いのを承知の上で上げてきているのね……
一応戦闘にもルールがあるらしく、停戦勧告を最初にするのがルールらしい。
「そんなものにしたがって停戦する馬鹿がわざわざ海賊なんかするわけないってのにね〜」
あきれた様にため息を付きながら返信の信号旗を考える。
「よし返信しましょう。返信!『いくらだす?』」
するするっとマストに返信の信号旗を上げる。
これで、向こうが何を言ってくるのか……返事を考える間だけでも時間が稼げる。
少しの後、するすると向こうの船に返信の信号旗があがる。
「イスパニア軍船より返信。『縄をたっぷりくれてやる!』です」
「やれやれ、予想通りの返信だこと……っと、船長の方終わったようだし、もう1隻の足止めは完了ってことでいっか。
 これより本船は敵イスパニア軍船に向かいます。9時方向に転進!左舷砲撃手は敵船が見えたら順次砲撃開始!」
ギルスの船が動き出したのを確認した所ですでに商船の足止めは不要と判断したルビーは次の目標に向かう。
次の相手は商船ではなく軍船である。
「さて、イルさんの船は……こっちに来てますか。商船は船長に任せるってことかな」
2対2ですか……楽勝だねこれは。
「メル〜お茶頂戴。あ、本船は敵船の周囲を旋回。左舷砲撃手はいつもの用に敵船の帆およびマストを狙ってください」
メルにお茶を用意してもらい。軽く一服。
こういうとき、少しぬる目のお茶を用意してくれるからメルはいい子だ。
「ねえお姉ちゃん。イスパニアの軍船が1隻だけでこっちに急接近してくるけど、白兵戦するの?」
ちらっと左に視線を向けると確かに1隻がこちらに直線的に向かってくる。
船首に砲撃を叩き込むチャンスではあるのだが……
「白兵だけは絶対にするな!と船長の厳命だからね〜。避けましょうか。面舵一杯!船尾砲よう〜い!って〜!!」
右に転舵しながら船尾砲で敵船首に砲撃を加え船足をとめる。
勢いを鈍らせた敵船はそれでもなお、トライアンカー号に接近してくるのだが、
「は〜い、るびちゃん。おまたせ〜♪」
イルの操るマリアンデール号がトライアンカー号の影から敵船へ接近する事に成功。
逆に切込みをかける事となるのであった。
「さすがイル船長。タイミングばっちり!」
感嘆のため息をつくメル。
「この形になればこっちのものよ。さて、僕達はもう1隻のけん制にいくよ。
 接舷中のイルさんの船に砲撃させるわけにはいかないからね」
ルビーはすぐに右に転舵。残りの1隻を足止めに向かうのであった。

イルとルビーが1隻を行動不能にする少し前、ギルスもまた商船の拿捕に成功していた。
「さって、お宝の探索……は後回しにしてルビーの援護にいくか」
商船の船員を全て縛り上げたギルスはガルミッシュ号をイスパニア軍船に向けようとしたのだが、
(その必要はなさそうだぞ?向こうももうすぐ終わるようだ)
戦場を把握しているガルがそういってくる。
「軍船2隻を相手にか?はやくねえか??」
少し驚きながらギルスが答えると、
(以前言ったであろう?貴様の副官は面白いと)
「なるほど。トライアンカー号の改装はうまくいったってことか」
(元々あの船は砲撃戦を想定した船であったらしいからな。元の性能に戻せば当然の結果ともいえる)
ばつが悪そうに頬をぽりぽりとかくギルス。
「それを言われると耳が痛い。俺じゃ使いこなせなかったんだよ砲撃戦仕様じゃな」
元々トライアンカー号は砲撃戦用に作られた船であり、ギルスが使っていたように白兵戦メインの船ではなかった。
最大船速の速さは接舷ようではなく、逆に敵船の接舷を回避するためのものであったのだが、
「俺的にはやはり接舷しての切込みってのが燃えるんだよな〜」
という、ギルスの意向により、白兵戦仕様に改装されていたのであった。
「まあ、イルのマリンデール号もあるからな。これ以上白兵メインの船はいらんし、丁度いい機会ではあったんだよ」
適正の高い船長も見つかった事だしな。
と、楽しそうにギルスは言う。
(っと、どうやら向こうも終わったようだぞ。しかし、商船だけならわかるが軍船を拿捕してどうするのだ?)
「きまってるじゃねえか。国の船ってのは良い装備してんだよ。根こそぎ奪う!」
実に海賊らしい物言いであった。
(良い装備、ねえ〜。まあ我の関与する事でもないか……)
無事に6隻の船を拿捕する事に成功したギルスたち4人は積荷の確認を行うため、各船を曳航してアジトに戻る。
アジトとはいっても単なる無人島を勝手に使用しているだけであるのだが……
ちなみに、拿捕した船員の全てはボートに乗せて置いてきている。
運がよければ全員助かるだろう。悪ければ?そんなの知らん。
「さって、今回の積荷はなにかな〜♪」
4隻の商船の積荷を確認するべくうきうきと倉庫へ向かう。
がちゃっと倉庫のドアを開けて4人の視界に飛び込んできたものは!!
「タバコと、パイナップルと、テキーラと、ピーナッツと、カカオと……なんだこれ?」
最後の黒い樽の中身をギルスは知らなかったが、
「ああ、オールスパイスだね〜カリブ海の香辛料。素敵に名産品だらけだね〜」
ルビーが確認し、それがオールスパイスというものだと判明。
全てがここカリブの名産品である。
あるのだが……
「ちょっとまて〜い!!これ何処で売るんだごら〜><」
ギルスが大絶叫。
それもそのはず。
EUまで持っていかないと名産品はあまり利益に……
「軍船の装備も実にしょぼかったね〜。使い古しの中古品ばかりだし……」
先に検分していたイルシーダがため息を吐く。
今回の襲撃は苦労の割りに見入りはほとんど無いという有様であった。
「しょうがない。僕が船団を率いてEUまで行って売ってくるよ。
 今回の拿捕した船も要らないだろうからこれも全部処分してくるね」
急遽船員を募集し、拿捕した船をそっくりそのまま船団に組み換えルビーはEUへ向かうのであった。

「さて、うちの誇る優秀な主計長兼料理人が留守になっちまった所で問題が一つ浮上するわけだが」
ギルスが真面目な顔で話し出した。
「そうね、非常に問題よね」
イルシーダもまた同じように深刻な表情をする。
「何が問題なんです?」
どうしたんだろう?と一人?マークなメルファリア。
(あほらしい……貴様らの船倉を少し空ければよいではないか……)
ガルが呆れた様に言い捨ててくる。
どうやらガルにも内容はわかっているようである。
「俺とイルの船はそんな事を考慮して作ってないんだよ!」
「そうよ!あたし達の船にはあの設備が用意されてないのよ!!」
虚空に向かって叫ぶ二人の船長。
いや、話しかけているのが精霊であるガルなので、自然とそうなるのだろうが……
「えっと、あの設備ってのは一体?」
「「調理室よ!!」」
力いっぱい答えてくる内容にがくっと倒れそうになる。
「ちょ、調理室〜!?ああ、お姉ちゃんの船には確かにあったね〜。あれ?そういえば改修前のイル船長の船にもあったような?」
以前ルビーの作る料理に触れてしまってからと言うもの、
この二人は航海中の食事がパンと水のみと言う生活には耐えられなくなっていたのであった。
なんとも贅沢な話である。
しかし、そのために彼らの船員の士気は非常に高く、数々の激戦も難なく潜り抜けてこられたのも事実である。
「敵船をまってる間の暇な時間。唯一の楽しみであった食事がパンと水になるなんて……」
なんてこったい!と嘆くギルス。
「あの味気ない食事を糧に獲物を待つなんて……あたしには耐えられないわ〜><」
よよよと泣き崩れるイルシーダ。
「あの……別に調理室とか無くてもお料理は出来るんですけど……」
ぽりぽりと頬をかくメルファリア。
「「まじで!?」」
二人同時に飛び掛ってくるかのようにメルに詰め寄ってくる。
「え、ええ。火を使えるスペースさえあれば……さすがに冷蔵施設はなくなるから日持ちのするものしかもちこめないですがね」
それでも、簡単な調理くらいはできますから。
と、説明をすると希望の光が差し込んだかのように晴れやかな表情になる二人の船長。
「すばらしい!なんていい子なんだメルちゃん!!」
「ええ、これで何の心配もなくいけるわよ!」
(しかし、遠距離砲撃の役を担う船がないんだ。あまり無理もできまい?)
ギルス船団の基本的な戦術は、ルビーの支援船からの砲撃で敵船の足を止め、ギルス、イルシーダの両船がその快速でもって接近。
切り込んで拿捕。
というのが基本戦術である。
だが、現在ルビーがEUへ出張中なため、その戦術が取れない。
2隻での拿捕も可能ではあるが、また今回のような戦利品では扱いに困ってしまう。
「ん〜そうだな〜。お?そういえばさっき妙な地図を拾ったんだった」
どこかの地図の断片図のようであるが……
「全体図がわからないわね。後2枚ほど必要だけど?」
イルがその地図を見てみたが、全部がそろわないと場所の特定などが出来そうになかった。
「いや、似たようなのが確か俺の部屋に……」
3人はギルスの部屋へ向かい、目的の地図を探す。
程なくして、何かの地図の断片図を2枚ほど見つけた。
見つけた断片をあわせようと地図に近づけた所、不思議な事に断片図は形を変えて、
現在持っている中途半端な地図の一部に変化したのだった。
「へえ〜、これが噂の沈没船の断片図か〜ほんとに形が変わるんだね〜」
使った人に合わせて形を変えるというこの断片図。
リスボン辺りでは1枚80万から高いと100万もする物件である。
完成すると世界中に沈んでいる沈没船の場所を教えてくれる地図になると言う不思議なアイテムであった。
この沈没した船を引き上げる事を専門とする人たちもいる。
彼らはサルベージャーと呼ばれ、日夜沈没船探索に明け暮れているのであった。
「というわけで、俺達も少しやってみようかってわけで、出来上がったこの地図!」
完成した地図を机にばんとおき、場所の確認をする。
見たところジャマイカのすぐ目の前っぽい海域が書かれている。
「見たところジャマイカ前っぽいけど。どうやって探索するわけ?これ」
場所の大まかな特定は出来たが、詳細な場所をどうやって探索するのかが不明であった。
「ああ、サルベージってスキルがあるから俺が探査する。イルは探査時に2点測定するから協力してくれ」
話はまとまったと言う事で、早速ジャマイカ沖に向けて出航するギルス達であった。
航海中、最大の懸念であった食事に関しては、
メルの言ったとおり簡易台での調理により、無事に事なきをえたのは言うまでも無いことである。



目的であるジャマイカ沖に来てはや3週間。
その間、延々と探索を行っていたのだが目的の船はなかなか見つからなかった。
「ちょっとギルス!まだ見つからないわけ!?」
さすがに3週間も今か今かとわくわくしながら待つ事などできるわけも無く
いらいらの方が強くなってくるのが道理である。
「うっせ〜!今探してる。ん、イルの方が近いと出た。よしそっちに移動するぞ」
同じ場所を何度も探査しているギルス。
2点測定を行っているのだがこれがなかなか難しいらしく、いまいち要領を得ない。
段々と日も沈んできたので今日も空振りだな〜と全員が思い始めた瞬間。
「きた!あったぞ!!ここだ、この下にあるぞ〜」
ついに目的の沈没船を発見したらしい。
さっそく碇を下ろし、ロープを持った船員が海にもぐっていく。
しかし……
「船長。深すぎてあっしにはもぐれません!」
普通の人が素もぐりでもぐれる浅瀬にあるような船だったらとっくに引き上げられているっての……
「だよな〜。すまんすまん。そのロープを海中で放してくれ。後はロープが勝手に沈没船に引っかかるから」
さすが魔法のロープ!
しかし、引っかかりは自動の癖に、引き上げは手動というなんとも中途半端なアイテムだな〜とメルは思っていた。
とにもかくにも、かちっとロープが引っかかった所で全員でロープを引き上げる。
途中何度かロープが切れて再度沈めてしまったりもしたが無事に引き上げる事に成功。
「おお!やったじゃないギルス。後は港に引っ張っていくだけよね!」
ついに上がった船をみてイルシーダも大喜びであった。
もちろんギルスもまんざらではない。
「せっかくだし、アジトまで引いていこうぜ、港だと他の奴の目もあるしな」
こうして、少し遠いがアジトまで曳航するのであった。
曳航中もロープが切れかかったりと問題はあったが、
なんとかアジトである無人島まで曳航することに成功するのであった。

無事に曳航完了後はお待ちかねの船内探索である。
「さって、お宝は何かな〜♪」
わくわくしながらギルスが船倉のドアを開けると、そこには金の山が眠っていた。
「「「おおお!」」」
3人がそれぞれ目を丸くして驚く。
まさかこんなにも金が出てくるとは思っていなかったらしい。
「イル。沈没船って美味しいな〜」
「そうねギルス」
「ふわ〜……すごいですね〜。金の他にもプラチナとかダイヤモンドもありますよ!」
当たりの船を引き上げたようで大満足している3人であった。
早速金を運び出して売りにいこう!と作業を開始しようと外に船員を呼びにいこうとした所、
「へへへ、こりゃ良い。すげ〜お宝じゃねえか!」
見覚えの無い男達が5人ほど倉庫内に入ってくる。
「ご苦労だったな。このお宝は俺達がありがたく頂いていくぜ」
どうやら、略奪にきた野盗の類であるらしい。
ここはギルスたち以外は誰もいない無人島のはずであったが、一体何処からわいて出たのやら……
「あん?なんだお前ら?まあいい、今の俺は機嫌がものすっごく良い。見逃してやるからおとなしく帰れ」
大量の金塊を前にして機嫌がいいのだろう。普段なら略奪者など真っ先に切り捨てるギルスも穏便だ。
「そうそう、せっかくの金塊を血で汚したくないの。おとなしく帰ってくれる?」
イルもかなり機嫌が良いようだ。
しかし、そんな二人の様子にはお構いなしに馬鹿5人は帰る様子は見せない。
それどころか、
「へ、こっちは5人いるんだぜ?そっちは3人……武器持ってるやつは2人しかいねえんだ。そっちこそ大人しく帰りな!!」
と、あろうことか挑発までしてくれる始末。
ああ、これはもうだめだな〜とメルがため息を一つ吐く。
「ち、これだから馬鹿ってのは始末におえねえ。おいメル。奥に避難してろ。な〜にすぐ終わる」
「まったくよね〜せっかく楽しい気分だったのに……殺すわよ?あんたら」
幸せの時間を邪魔されたらしく、ちょっとマジモードになっているギルスとイル。
戦闘の結果は、まあわかりきった展開ではあるのだが、略奪者4人はあっという間に沈黙した。
その辺の野盗風情がこの二人に勝てるわけも無い。
「さて、先ほどの台詞をちょっとアレンジして送ってやろうか?こっちは2人、そっちは1人だぜ?」
にた〜っと怪しい笑みを浮かべるギルス。
「あ〜あ、せっかくの金が……もう最悪!!どうしてくれるわけ?」
一番血が吹き出るようにぶった切っていたイルが言う台詞なのだろうか……
とりあえず金についた血を綺麗にふき取る作業はやっておこう。
と、布を取り出して金をふきふき。
「おいメル。こっちの被害額はいくらだ?」
被害額?被害額ね〜……怪我一つ負ってないくせに?
でもまあ、こういうときだし、血がついた金塊を被害額ってことで計算して……
まあ、多めに言うのがベターだろうな〜
「ん〜、そうですね〜。金塊のほうは血がついた分を損失と計算して、後は船長達の幸福感を奪った分も計上しますか?」
当然だ!
むしろそれが一番大きいわよね!!
「はいはい、じゃあ、それをこの間のふっかけに相当するとして考えると2億って所でどうですか?え?高い?」
てへ☆とちょこんと舌をだしぱちっと片目をつぶってみる。
普通の時なら十分かわいいと言って貰えるのだろうが、今それを見せられている野盗にはそんな余裕はまったく無い。
「2億か。まあそんな所だろうな。さて、損失補填って言葉は知ってるよな?」
こくこくと頷きを繰り返す野盗。
「良かったわね〜2億ですんで。更に言うなら命も助かってよかったわね〜♪」
こくこくこくこくと更に勢いよく頷きを繰り返す野盗。
「あれ、払えるんだ?意外とお金持ちだったんだね〜このおじさん」
払えないと思って吹っかけた額だったのだが、どうやら返済可能のようだ。
私の人を見る目もまだまだだな〜。
お姉ちゃんならもっと巻き上げれるんだろうな〜。
等と思ってしまってはいるが、実際この野盗は条件反射で頷いていただけであった。
死体4体を片付けて、船倉の金塊とプラチナとダイヤモンドをアジトに運び終えた後、先ほど捕まえた野盗を乗せて
向こうさんのアジトに向かうのであった。
目的は先ほどの損失補填のためである。
「ったく!手持ちでねえなら頷くんじゃねえよ!面倒だろう?取りに行くのが!!」
と文句を言うギルスは渋々船を出航させたのであった。
(やれやれ、そんな展開で我を出航させないで欲しいのだがな……)
と、ガルも不満たらたらの出航であった。



アジトを出航して3日目。意外と近い場所に野盗の棲家はあったようである。
「意外と近くにいたんだな。あれ?もしかして俺達お前らのしまを荒らしてたってことか?」
縛られたままで頷く野盗。
「そいつは悪い事をしたな〜、よく調べないでアジト決めちまったからな〜
 ナッソーで情報集めてからにすればよかったか……」
しかしまあ、やっちまったもんはしょうがねえ。
と、結局は開き直るギルスであった。
もちろんイルシーダの方も気にするタイプでは無いので知らん振り状態なのは言うまでもない。
一同が無事に野盗のアジトにつくと、なにやら様子がおかしい。
「ん?なんか変だな」
妙な気配に気づいたギルスがすっと手を上げて全員を引き止める。
それを合図にしたかのように、家の中から14人ほどの男が飛び出してくる。
「なんだ?こいつのお出迎えか?人望あるんだなお前」
と、縛っていた野盗に振り返ろうとしたその一瞬の隙を突いて野盗が走り出す。
「か、頭〜!助けてくだせ〜」
あっさりと逃がしてしまった野盗を呆然と見送り、
「おい、イル。ちゃんと縄持っとけよな。なに逃がしてんだよ」
ジト目でイルを睨みながら文句を言うのであった。
「良いじゃない。めんどうだし。全部殺せば良いのよ」
めんどくさそうにやれやれと剣を抜くイルシーダ。
「ったく、まあいいけどよ。一人だけは生かしておくか。色々溜め込んでそうだしな」
こちらも面倒そうに剣を抜いて構えるギルス。
「み、みなさ〜ん、大人しく降参したほうがいいですよ〜死んじゃいますよ〜〜」
と野盗の集団に声をかけるメル。ちなみにメルはカラバイン銃を構えている。
「け!なに寝言ほざいてやがる。こっちは15人もいるんだぞ!手前ら3人ごときにやられるとでも思ってんのか!?」
数的有利を誇っている野盗の頭は負けるはずが無いと確信しているようである。
「試してみるか?お前の子分は5対2で負けたがな」
ギルスはニヤリと怪しい笑顔で答える。
「おう!試してやろうじゃねえか。野郎共やっちまえ!!」
わー!っといっせいに襲い掛かってくる野盗の群れ。
一斉に振り下ろされる剣をさらっとかわして一人、二人と切り捨てていく。
「ふふふ、人の獲物を奪うなんて、なんて悪い子たちなんでしょうね。お仕置きしなくちゃ!」
イルシーダも華麗な剣さばきで次々と切り伏せていく。
一方メルはというと、護身用にもたされたカラバイン銃でもたもたと狙いをつけてはいるものの、
結局一度も発射する事なく決着はついていた。

結果的には二人とも7人ずつきっちり切り殺して最後の一人に剣を突きつけていた。
「さて、どうする?お頭さんよ〜。こっちとしては先ほどの損失補填分2億をもらえば大人しく帰ってやるが?」
「あら、今回の騒ぎ分も加算して3億でしょ?あたし2億じゃ納得しないわよ?」
「て、手前ら一体なにものだ!くそ、化け物共が……」
忌々しいものを見るように吐き出した言葉にギルスがピクリと反応する。
「ふ、問われて名乗るもおこがましいが、カリブ海にその人ありと歌われた疾風のギルス!」
「風にたなびく長い髪。カリブ海に舞う可憐な花イルシーダ!」
「え?え??えっと、やっぱりやるんですか……奪った商品数知れず!高値で売ります何度でも。カリブの商人メルファリア!!」
「「「略奪戦隊、ギルレンジャ〜」」」
ど〜ん!と3色の煙が突如彼らの後ろから立ち上る。
ぽか〜んと口をあけたまま固まっているお頭。
そんなお頭に構うことなく、
「決まった!やっぱりこういう展開になったな!!」
「戦隊名がいまいちですがね」
「はぅ〜、恥ずかしいですよ〜これ……」
わいわいと盛り上がる3人とは対照的にようやく我に返るお頭。
「ふ、ふ、ふ、ふざけんな〜!!!なんなんだ手前らは!」
「あん?なんだもう一回見たいのか?」
「そんなわけあるか!ふざけんのもいいかげんに!うっ……」
ちゃきっと剣を喉元に突きつけられて言葉に詰まるお頭。
「そうだったな、お遊びはこの辺にするか。さて、3億だ。きっちり払うか、死ぬか、好きなほうを選べ」
「そうそう、3億払うならちゃ〜んと生かしておいて上げるわよ。ただ、またうちのアジトに来たときは殺すけど♪」
「払いきれない場合は、分割でも受け付けてますよ〜」
がくっとうなだれたお頭は3人をアジトのお宝部屋に案内するのであった。
「俺達の手持ちはこれだけだ。もっていけ……3億位はあるはずだ」
部屋の中には金貨や宝石、装飾品などのお宝が山のようにあった。
「ほう、野盗の割には良い稼ぎしてるじゃねえか。メル、鑑定頼む……ってもうやってるのか」
言われる前にせっせと鑑定を始めているメルであった。
「この島は、どこかの海賊の島だったらしくてな。そいつらが残していった財宝を引き上げる事が出来たんだよ。
 で、それがこのお宝ってわけだ」
ギルスは、手に入れた財宝の経緯を説明するお頭の台詞で一つ引っかかる事があったらしい
「引き上げた?それは沈没船を引き上げたってことか?」
「あ?ああ、襲った相手がたまたま地図を持ってたんでな。引き上げてみたらこれだったってわけだ」
その言葉を聴いてギルスは目を輝かせた。
これだ!やはり、海にはこれがあるからやめられねえ〜!!
「そう、やはり海には浪漫が眠ってる!!これだから止められねえぜ。イル!メル!次は沈没船を狙おうぜ!!」
こうして、ギルスは沈没船引き上げに夢中になるのであった。
ちなみに、メルが鑑定した結果、財宝は全部で6億ほどになったらしいが
きっちり3億分だけもらって引き上げるあたり、結構律儀な3人であった。

ほくほく顔の3人がアジトに到着するとEUへ向かって航海をしていたルビーダイスが帰ってきていた。
「お帰り三人とも。お宝は無事にGETできたようだね」
「おお!戻ってたかルビー。こっちは大収穫だ。そっちはどうよ?」
船から飛び降りてばしばしとルビーの肩を叩くギルス。
「ちょ、痛い痛いって。こっちはまあ、予定通りよ。船ごと売って来たからちょっと安く買い叩かれたけど……」
少し悔しそうなルビーも珍しい。
一体なにがあったのだろうか……
「お姉ちゃん、これ。今回の収支決算報告書ね。後、取得一覧もまとめておいたよ」
メルがせっせとまとめていた書類を手渡す。
「ありがとうメル。助かるわ〜どれどれ。あら?ずいぶん黒字だったのね。なら私の方の穴埋めになって丁度良かったのかも」
ぱらぱらと報告書を見終わってから、ルビーは、
「じゃあ、はい、船長。これが今回の売上と航海日誌よ。久しぶりに航海日誌とかつけたわね〜」
ずっしりと重い袋ときっちりつけられている日誌を受け取り少し嫌な汗が流れる。
(やべ〜、俺日誌とかぜんぜん書いてね〜)
それはイルシーダも同じだったらしく、少し顔が引きつっているのであった。
「そうそう、ロンドン王室から船長宛に手紙を預かってきてるよ」
はい。
と手渡された手紙には王室の紋章が押されている。
間違いなく本物のようである。
「王室から?また私掠命令か?……ほうほう、また珍しい所に」
手紙を読み終えたギルスが次の目的地を告げる。
「諸君、我が女王陛下からのたっての願いで、本船団はこれより東アジア封鎖作戦に参加する」
「東アジア〜?またえらく遠いわね〜」
「今度こそ味噌なるものの作り方をマスターしたいですね〜」
「味噌?面白そうだね。私も覚えたいな〜」
こうして、一同は東アジア封鎖作戦に参加するため、カリブのアジトを引き払い東アジアへ向かうのであった。

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