Pirate family(仮) 2

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第1章 カリブの双璧

「船長〜!船長〜どこですか〜?」
甲板上で大声を上げて船長を探す。海に出ると船長は自分の部屋には1分とおらず、
常に違った場所にいるため、探し出すのが大変であった。
「もう!今日は何処にいるのよ〜><」

北海にあるベルゲンという港町を出航して3日ほどが経過していた。
なぜこんな場所にいるかと言うと、ベルゲンでは良質の木材を多数産出しており、
その木材を買い付けにきていたのである。
だが今回は依頼数が少し多く、ベルゲンだけでは必要数を確保できなかった。
そのため、同じく良質の木材を産出しているオスロに向かって航海中というわけである。

「船長〜!いい加減に出てきてくださいよ〜」
毎日船長を探し出すのもこの少女の日課となりつつあるのだが、
今日はなるべく早く見つけ出したかった。
そんな焦りを含んだ声に反応したのか、
「メルさん、船長なら今日は後部デッキで日向ぼっこしてましたよ」
帆の開きを調整していた船員が先ほどみかけた位置をメルに教えてくれる。
「今日は後部デッキですか……ありがとうございます。いってみますね」
ぺこりとお礼をし後部デッキに急ぎ向かう。
後部デッキにつくと、捜し求めていた人物が甲板に寝転がって日光浴をしている姿が飛び込んでくる。
「いたいた、船長探しましたよ〜」
「あれ?メルちゃん。どしたの?」
すっと船長の横に用意しておいたグラスを置く。
「新作を作ってみたんです。船長に味の評価をしてもらいたいな〜と探してたんですよ」
少し緊張した面持ちで、感想を今か今かと待つ。
そんなメルを見て噴出しそうになるイルシーダであったが、
「そんなに緊張しなくても良いじゃない。味見はしたんでしょ?なら問題ないわよ。でもまあ、早速頂くわね」
すっとスプーンでひとすくいし、こくっと飲む。
さっぱりした味でとっても飲みやすい。
これは、すすむな〜。
「うん、冷製コンソメスープね。おいしいじゃない」
良い評価をもらえたことにほっとしたのか、
「良かった。冷たいスープってのもあったら面白いだろうな〜と思いつきで作ったので、
 ちょっと心配だったんです。さっそくレシピをメモしておこうっと♪」
ぱたぱたと自室にかけていくメルファリアを見送りながら、手元のグラスに目を落とす。
「え〜と、このグラスは私が片付けるのかな?やっぱり……」
しょうがない、と立ち上がりグラスを片付けに厨房に向かうイルシーダであった。



メルファリアとイルシーダが出合ってから1年が過ぎていた。
その間、世界中の町を周り色々な交易品を運び多数の利益を出していた。
特に、日本や中国といった東アジアの国々の品はEU圏では大変貴重で、どれも高値で取引されていた。
もちろん高値で取引されるということは、それを狙った海賊などもいるのだが、
幸いな事に襲撃されたことは皆無であった。
それもそのはず。
イルシーダは今でこそ交易を生業にしているが、以前はカリブ海を中心に名を売っていた海賊であったのだ。
周りの船もそのことを知っているためか、下手に手を出し返り討ちにされるのを嫌がり
結局遠巻きに見送る状況になっているらしい。
「襲ってくれても別に良いんだけどね〜」
とはイルシーダの言である。
メルファリアがそんな船長の経歴を知ったのは船に乗って一月もたった頃。
その頃には船にもすっかり慣れており、改まって聞かされても、
「へえ〜そうだったんですか〜」
といった程度の感想しか出てこなかった。
現在の状況を重要視して、過去には別に興味が無いという感じのメルの反応にイルシーダも苦笑するしかなかった。
そんなこんなな日常を過ごしながら、
「さて、次は何をつくろうかな♪」
と元気に調理室に篭り、新作メニューのレシピを考案するのであった。
メルファリアの仕事は主に、船員の食事、船室の掃除、洗濯という雑用全般であった。
副官じゃなくても良いのでは?という作業であったが、元々家事全般が好きなメルに不満があろうはずも無く。
むしろ天職!と言わんばかりの表情であった。
「よし!今日はカレーをつくきゃあ!」
カレーを作ろうと気合を入れようとしたその時、ドーンと強い衝撃が船を襲った。
何かが勢いよく船にぶつかったようなそんな衝撃にバランスを崩してその場に倒れる。
「いたた……なんだろ、座礁でもしちゃったのかな?」
ぶつけた腕をさすりながらメルファリアは立ち上がり、状況を把握しようと甲板に向かう。
甲板では船員の皆さんが慌しく走り回りながら手に手に武器を構えていた。
「え?い、一体何が??」
状況についていけずに呆然としてしまうメルファリアであったが、その手をぐいっと引かれたことにより我に返った。
「メルちゃん、ボーっとしない!どうやら海賊船に補足されたようでね〜、砲撃を受けてるわ。
 このあたしにケンカ吹っかけるなんて良い度胸してるわよね」
どうやら先ほどの衝撃は敵船からの砲撃だったらしい。
確かにすごい衝撃だったな〜と納得してから、
「ええ!海賊の襲撃ですか!?あわわ、私はどうしたら。と、とりあえず剣!剣持たないと!!」
事態を理解した頭が再びパニックになる。
戦闘経験など学校の授業でしか経験がない。
まして、戦闘系の成績は最下位であったメルである。
「はい落ち着く。とりあえずメルちゃんは船室に退避してなさい。大丈夫すぐ終わるから♪」
どうどう、と宥められて船室に押し込められるメルであった。
「ふ〜、まったく戦闘苦手なくせに前に出ようとするのはどっかの誰かにそっくりだわ。料理の得意な子ってみんなああなのかしらね〜」
以前親しくしていた人物の顔が妙にはっきりと思い出される。
「ここ数年忘れていたのにね。元気にしているかしらギルスとるびちゃん。っとこうしちゃいられない」
無事にメルファリアを船室に退避させたイルシーダは、舌なめずりをしながら甲板に戻り、
「さて、相手の腕も見せてもらおうかしらね。応戦するわよ!」
おう!
とイルシーダの号令一過、船員の士気が一気に上がる。
元々海賊時代からの仲間であるため荒事はお手の物。
「取舵いっぱい!速度このまま。敵船の挙動に合わせて動くわよ」
次々と指示を飛ばしながら、
「砲撃が単調すぎるわね、この程度であたしに当てようなんて100年どころが1000年はやいわよ」
敵船の発射のタイミングが手に取るようにわかるため、初弾こそ喰らったもののそれ以降はほぼ全てを回避する事に成功している。
ただ、回避のために射線を確保できないのはこちらも同じであるため、こちらの砲撃も有効打を与えてはいない。
「ふふふ、当たらないわね〜。そろそろ焦れてくる頃かしら?」
隣に立っていた船員にニヤリと笑みを向けるとコクリと一つ頷き、
「来ますね。こちらの動きが逃げ回るものだと思ってるでしょうから。
 ですが船長、真っ先に飛び込んでいくのは勘弁してくださいよ?」
「あたしの楽しみを奪うわけ?まあいいわ。あの程度の腕では燃えないもの」
はぁ、とため息を一つ吐き今回は任せるわと船員に指示をだす。
そんなイルシーダを見て隣に立っていた船員は、
「船長の相手を出来るのはギルスの兄貴くらいだよな」
と別の船員に声をかけていた。
「あの人は別格だろ。あの人クラスの船乗りがごろごろいられてたまるかよ……」
「はいはい、おしゃべりはそこまで。どうやら敵さんが焦れたみたいよ」
船員同士のおしゃべりを注意しつつ、視線を敵船に向けると予想通りこちらに接近してきていた。
こちらの読みどおり接舷して切り込もうという腹積もりらしい。
「ふふ、あせって切り込もうとしてくる辺りやっぱり素人ね。まあ、拿捕したほうが実入りが多いから狙いたいんでしょうけど」
相手の狙いを全て読みきっているイルシーダはうまく船を回頭させ、用意に接舷を許さない。
それどころかうまく敵船を誘導し、敵船に砲撃を次々と命中させていく。
「そろそろ良いかしらね。操舵手、敵船に接舷するわよ!」
これだけダメージを与えておけば逃げ切れまいと判断したイルシーダは相手の接舷意思に乗るような形で船を接舷させる。
ようやく接舷に成功したと思った敵船員は武器を手に勢いよく切り込んでくるのだが、
どうやら、白兵戦の能力もこちらの船員の方が遥かに上だったようである。
結果的に勢いよく乗り込んできた敵船員はあっさりと無力化され、次々と縛り上げられるのだった。
そんな状況を見せられた敵船の船長は、
「な!なんで商船の分際でこんなに強いんだ!?聞いてねえぞ!!て、撤退だ。野郎共引くぞ!」
部下が次々とやられていく状況に大慌てになり、急いで逃げ出そうとするのだが、
接舷状態からそうたやすく逃げられるわけも無い上に、うまく接舷状態を解除して逃げ出そうとしても
先ほどまでの砲撃でのダメージが深刻で、船速が上がらず逆にイルシーダ達に接舷され切り込まれる始末。
「ふふふ、私に挑むにはちょ〜っと早かったわね。さて、どうされたい?」
いともあっさりと敵船長以下船員全てを縛り上げることに成功するのであった。
「くそ!どうなってんだこの海域は。さっきの商船といい、今回といい。今日は厄日だ」
縛り上げられた船長がぎゃあぎゃあと文句をはきまくる。
「私の船は特別だもの、マリアンデール号と言えばそこそこ名前が売れてたと思ったんだけどね〜
 私もまだまだってことかしら」
船名を聞いたとたんにさ〜っと青ざめる敵船長。
「マ…リアンデール…だと?まさか、これがあの……」
どうやら名前は知っていたらしいが、船の形など特徴的なものは何も知らなかったようである。
ちなみに、マリアンデール号の特徴は
真紅の船体に、真紅の帆にくじらの紋章。
船首にはアフロディーテの船首像を掲げた船。
これが、マリアンデール号の特徴となっている。
「く!カリブの双璧にぶつかるとはな。俺もつくづく運が悪い。となるとさっきのあの船がもう片割れのトライアンカー号か……」
「なんですって?ギルスが戻ってきたの?」
敵船長の漏らした一言にイルシーダは驚いた表情で聞き返す。
「あ、いや、さっき青い帆を張った船を見つけたんだが、恐ろしく足が速くてな。取逃がした所でこの船を見つけたんだ。
 トライアンカー号と言えば青い帆と聞いてるからな。違うのか?」
「青い帆、足の速い船。ほかに特徴は!?」
先ほどまでの余裕たっぷりの表情から一変して、険しい表情をしながら敵船長を問いつめる。
その姿は普段のイルシーダからは想像できない姿であった。
「ぐ!く、苦しい……」
勢いあまって首を絞めていたことに気づき、ぱっと手を離す。
「はぁはぁ……くそ、今日は本気で厄日だ!」
「いいから、他にその船の特徴を言いなさい!生きて帰りたかったらね」
すらっと剣を抜きぴたっと突きつける。
その目は冗談が通じるような目ではなく本気の目であった。
その本気の殺気にあてられたのか、
「ほ、他の特徴……4本マストで、帆が青くて……他には……おい、何か他に気づいた奴いるか?」
自分の知ってる情報以外に何か無いかと周りで縛られている部下に確認する。
何か情報を出さないと命が危ない!
そんな雰囲気を全員が察知しており、何かを思い出そうと必死だ。
すると、一人の船員が、
「そういえば、帆に書いてある紋章がばらばらでした。星と月と太陽の3種類はあったと思いやすが他は……」
「3種の紋章。青い帆。……間違いない。トライアンカー号だ。あの船が動いてると言うことはギルスが戻ってきたのね」
険しい表情がまたしても一変。今度は満面の笑みを浮かべている。
「ふふふ、そう。戻ってきたのねギルス。ふふふ、これは楽しくなりそうね。よし、全員引き上げるわよ!
 ああ、あんた達。良い情報をありがとう。お礼に命は助けてあげる。ただ、次見かけた時は殺すからね☆」
にっこりと笑顔で怖いことをさらっと言い残しイルシーダは颯爽と自船に戻り、
「進路変更!進路を西に。ロンドンへ全速力よ!」
あいさ〜!!
と船員が力強く答えると、進路をロンドンへ向けるのであった。
あっという間に視界から消え去ったマリアンデール号をぽかんと見送りながら、
「お〜い、俺たちの縄はほどいていってはくれんのか〜……」
縛られたまま甲板に放置された海賊が誰もいなくなった海上で情けなく叫ぶのであった。

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