Pirate family(仮) 2

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プロローグ

賑やかな音楽。わいわいと楽しそうな話し声。
美味しそうな匂い。綺麗な色をした飲み物。
そんな色々なものがごちゃ混ぜになっている空間。
人はその場所を酒場という。
その酒場で静かに料理を楽しみつつ、一緒に用意したウィスキーをちびちびと飲む。
今日もお声はかからなそうだ。
「はぁ、いつになったら雇ってもらえるのかしらね〜」
そんな呟きも酒場の喧騒の中では誰に聞こえるとも無く消えていくのであった。

航海者学校を無事に卒業し、いざ航海者に!!と思っていたのだが
自分の船が無い。
買おうにもそんなお金の持ち合わせはまったくない。
でも、航海者になりたい!
だったら、誰かの船に乗せてもらえばいい!!
でも、女の船員など誰も雇ってくれないだろう。
だったら、副官として雇ってもらうしかない!
という思考パターンを通った結果、ロンドンの酒場にて副官登録を申請するに到った。
のだが、学校卒業したての副官なんぞを雇う物好きはなかなかいないらしく、
登録してからはや半年が過ぎさろうとしていた。

その間、ぶらぶらしているわけにも行かず、酒場のお手伝いでもしようとマスターに申し出た結果、
給仕として雇ってもらえる事になり、日々給仕の仕事に専念していた。
そんなある日、お昼のまかないとして自分用に作った料理を従業員の皆さんに振舞った所これが大好評。
その日のうちに給仕から厨房に仕事の場所が変更されるほどであった。
厨房の仕事を任されてからはその才能を開花させ、料理の美味しい酒場として
ロンドンに立ち寄る船員達の間で密かに噂になるなどの状態になっていた。
最近では仕入れの段階からその日のメニューまでも決めさせてもらえるようになっており、
今朝もメニュー決めのために市場に出没しているのであった。
「いい鮭だね〜。おじさんこれいくら?」
今朝上がったばかりであろうはずの鮭の値段を確認する。やはり使う素材は新鮮なのが一番!
「お、今日も自分で仕入れかい?」
もはや顔なじみになっている市場の店主は、相変わらずかわいいね〜とお世辞もつけてくれる。
「ありがとう。やっぱり食材は自分の目で選ばないとね〜」
社交辞令の挨拶にもしっかりと答えるが、その目は鋭く魚を吟味している。
「ん〜、その鮭は500でどうだい?」
「高い!300ね」
即座に値切り交渉開始。
彼女の目利きは鋭く、店主の言い値で売れた試しは一度としてない。
だが、無駄とはわかっていても向こうも商売人だ。一方的に値切らせるわけには行かないらしく、
「300はないだろう?450!」
と少しでも高い値段をつけてくるのであった。
しかし、少女は引き下がることなく、
「だっておじさんこれ200で入れたでしょ?だったら300でも十分な利益じゃない」
どきっとする店主。
いつもの事ではあるが、仕入れ値をなぜかずばりと言い当てるこの少女。
なぜ、毎度毎度わかるのだろう……
「え〜っと、なんで200だってわかるんだい?」
「もちろん、勘よ勘」
ぺろっと舌を出して片目をつぶるしぐさが妙にかわいらしい。
実際の所は、自分ならいくらで仕入れる。という数値がここの店主と少女の間で一致しているというだけである。
そのため、直感的に感じた値段を口にするといつも近い値になるというわけだ。
「そこまで見抜かれちゃうとこちらも弱いね〜。しょうがない280で良いよ」
元値をずばり当てられてしまっては吹っかけて売るわけにもいかない。
結局少女のつけた値段以下の値段で売ってしまう店主であった。
「ありがと。あ、そこのカニも一緒にもらえる?あと、エビとサンマと……」
無事に仕入れを終え、大量の荷物をもって酒場に戻るとマスターがものすごく残念そうな表情でカウンターに立っていた。
「ただいま戻りました〜。マスターどうしたんです?なんか暗いですよ?」
仕入れた材料を厨房におき、カウンターで沈んでいるマスターに声をかける。
「はぁ、せっかくうちの店も人気が出てきたのに……君を雇いたいって航海者が現れたよ」
ため息をつきつつ、1枚の紙を見せてくれる。
そこには契約書と書いてあり、契約者にはメルファリアと書いてある。
「これは、副官契約の契約書だね。って私の名前が書いてある!!ということは」
はぁ〜……うちの料理長が〜……これからどうしよう。
とますます暗くなっていくマスターとは対照的に全身で喜びを表現している少女。
念願だった航海者への第一歩を踏み出せる!
と嬉しさ一杯のようだ。
「ふぅ〜……とりあえずおめでとう。うちとしては手放したくないんだがしょうがない。がんばってきなさい」
嫌になったらいつでも戻ってきてくれて良いんだからね!!
と、しっかりと少女の手を握って諭すように言うマスター。
「あ、あはは。レシピはメモして行きますので、それで大丈夫ですよ。きっと(^^;」
レシピ帳をしっかりと作り、マスターへと渡すと大事そうに金庫にしまっていた。
そこまで大事にされてもな〜(^^;
と、ぽりぽりと頬をかく。
そんなやり取りをしていると少女の雇い主らしい航海者が酒場にやってきた。
「こんにちわマスター。隣の子が新しい副官の子ね」
すっと右手が差し出された。
綺麗な手だな〜と見とれながらも少女はその手をしっかりと握る。
「はじめまして、私はイルシーダよ。よろしくね」
「は、はじめまして。メルファリアです。これからよろしくお願いします」
少女メルファリアの航海者としての旅が今始まったのであった。

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