Pirate family(仮) 1

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エピローグ

インド洋に来てからそろそろ1年が過ぎようとしていた。
主に南蛮帰りの船を狙う我らがトライアンカー号とマリアンデール号。
元交易商人であったルビーの経験から南蛮帰りの商船の航路をたくみに予測し、
かなりの利益をたたき出していた。
一方、イングランド王室から依頼されていたインド洋からのコショウ船団にかんしては
うまみがまったく無いとの事で見逃すことが多かった。
最近ではコショウ船団に偽装して見逃してもらおうとする船も現れたが
イルシーダの嗅覚はごまかすことが出来ないらしく、全て見破られているのであった。
どうやって見分けているの?と聞いたところ。
「なんとなく」
まさに恐るべし嗅覚である。
しかし、その嗅覚を持ってしても交易所での取引はルビーに一任と言う現状であった。
「だって、るびーちゃんがやったほうが儲かるんだもん!」
2割〜3割ほど高値で取引するルビーの取引術はもはや誰も適わない状態であった。
最近では各地の料理を覚えたらしく、料理のレパートリーも広がったようである。
食事の量も2隻分が普通になってしまい、トライアンカー号の船室が圧迫されているため、
「なあ、イルよ。お前いつまでうちの船にくっついてるきだ?ソロ活動がお前の信条じゃなかったのかよ
 とっととソロにもどれ!そうするとうちの倉庫が空くんだよ」
と以前ギルスが冗談を含めた形で言ったことがあるのだが、次の瞬間アリアンデール号のクルー全てから命を狙われたらしい。
冗談ではなく、本気の殺気を放たれたとか……
あの時は、まじで死ぬかとおもった。
とは、後日にギルスから聞かされた話である。
そんなわけで、今では2隻の倉庫は共有と言う形に収まっていた。
「まあね、取引も一括で僕がやってるし、修理依頼も僕がやってるしね。
 そのうちそっちの船の給料管理もやれとか言われそうで怖いよ」
と冗談めかして言うルビーであった。



さて、そんなこんなで今日も無事に南蛮帰りのポルトガル商船を拿捕した一同は奪った積荷を換金するべく
セイロン島に来ていた。
この島、最近まではポルトガル領だったのだが、イングランドが大規模投資を実行した結果。
無事にイングランド領に編入されていたのであった。
「大投資戦。面白かったな〜。特にポルトガルの船がうまかった」
「そうね。どの船も2000万以上積んでくれてたからね」
「そうそう、しかも何回襲ってもまたすぐに来るしな」
「入れ食い状態だったわよね〜。またこないかな〜大投資戦」
午後の紅茶を楽しみながらギルスとイルシーダはホクホク顔である。
それもそのはず、投資のために持ってきた金を全部奪っていたのだから。
「同じ商人としては非常に心苦しかったですよ。僕は」
胸を押さえて苦しんでいる姿をアピールするルビー。
「とか言いつつ、隠してある金庫見つけるの一番うまかったですわよね。るびーちゃん」
ぎくっと固まるルビー。
「そうそう、おとりの箱には目もくれず隠してる大元の方GETしまくってたよな。まあ、おとりもしっかりもらってきてるが」
どきっどきっ!
「そ、それはほら……なんとなくわかると言うか」
さすがに5年も海賊生活をしてるとなじむと言うか染まると言うか……
十分に染まったルビーは、彼らにとって無くてはならない存在になっているのであった。
そんな、午後の紅茶を楽しんでいた昼下がり。
ギルス宛に1通の手紙が届く。
それは、
「イングランド王室から……?」
次は何処へ向かうことになるのやら。
ぺりっと封を切り、中身を確認すると、ギルスが困った顔をする。
「どうしたのよ?」
イルシーダがささっと手紙を奪い取り中身を確認する。
「ちょ!これってどういうこと?」
「何が書いてあったんですか?」
イルシーダは手紙をルビーに渡す。
「どれどれ……
 『貴君の活躍を称えて伯爵の称号を授与する』
 へえ〜、船長すごいじゃないですか」
伯爵。名誉な称号である。
まさか、自分たちの船長が伯爵号を授与されることになるとは。
雇われ傭兵のはずが、大出世である。
「あれ?ってことはうちの船団は王立艦隊になるってこと?」
「そうなるわね。まあ、名称が変わった所でやることが変わるわけじゃないけど……
 何で、そんな難しそうな顔してますの?」
妙に複雑そうな顔をしたギルスに向かってイルシーダも不思議そうな顔を向ける。
「いや、だって。単なる傭兵だぞ?俺。それが伯爵だ〜ぁ?どうしろってんだよ」
変なパーティーとかに着飾って出席とかしなきゃいけねえのかよ?うわ〜、めんどくせ〜
と、貴族の認識=社交界になっているギルス。
確かに、着飾ったギルスというのも……想像すると笑えるものがある。
「ぶw。船長の正装姿とか……受ける!ぼ、僕見てみたいな〜。あはははは」
「おいこら!なに変な想像してんだ!!俺はこんなんうけないぞ!!」
「まあまあ、くれるって物はもらっておきましょう。それに伯爵クラスになると関税が免除されるんだ。
 僕としては利益が格段に上がるからありがたい」
「そういうことです。デメリットが少ないのだから受けておきなさい。傭兵あがりの将軍なんてその辺にごろごろいますわよ」
残っていた紅茶を飲み干してイルシーダが推してくる。
「ちっ、気楽に言いやがって。そこまで言うからにはお前も受けるんだな?」
「え?」
「ああ、この授与対象はギルスとイルさんの2名になってるよ。
 よかったね〜二人とも。ちなみに僕の名前は無いみたい♪」
「なんですって〜!!」
「やっぱり見てなかったな。そこまで言ったんだ拒否はゆるされないぜ?」
ニヤリと笑みを浮かべるギルス。
しまった。見てなかった〜と嘆くイルシーダ。
今日も二人とも元気だな〜と紅茶のお変わりを用意するルビー。
トライアンカー号に乗ってから、色々なことがあった。
そして、その色々なことは今後も続いていくのだろう。
交易商人として世界中を旅していた時よりも遥かに毎日が楽しい。
それは、きっと船長やイルシーダ。
そして、トライアンカー号の船員達と一緒に旅をしているからだろう。
記憶を失って最初に出会ったのが船長じゃなかったら……
トライアンカー号に乗らなかったら……
色々な偶然が積み重なった結果の今にルビーはとても満足していた。
「ルビー!次は東南アジアに行くぞ。狙うは……なんだ?」
「馬鹿だなギルス。東南アジアといえば、ここ以上に南蛮帰りの商船じゃないか」
「東南アジアか〜、近場だと種子島とか5000位になっちゃうんだけど」
「まじか!じゃあ、重装狙おうぜ!」
何処の海にいってもこの面子なら飽きることはなさそうだ。
「ええ、何処の海でもお供しますよ」

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