Pirate family(仮) 1

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第4章 インド洋は危険な海?

不思議な海賊イルシーダと出合った日から半年。
この間にさまざまな事件が起こっていた。
まず、一番驚いたのはイルシーダがイングランドに亡命してきたことである。
経緯としては、サンティアゴで船の修理が出来なかったイルシーダは向かいの町ジャマイカに向かい出航した。
その出航をまっていたとばかりに海賊が襲撃したらしい。
しかも、同国であるイスパニア国籍の船に……
同国商船を襲うという無法海賊を返り討ちにした後、こんな国はもう嫌だ!とイングランドに亡命。
(以前からどうも自国に対して不満があったらしい……)
復讐だ〜とばかりにイスパニア商船を襲いまくっていた。
これに感化されたのか、わがトライアンカー号も負けてはおれん!と
競い合うかのように商船襲撃を繰り返す。
二隻の海賊船の大活躍?によって、カリブ海でのイスパニア商船は激減。
これを重く見たイスパニアは海軍の派遣を決定。
さすがに、軍に出てこられるとこちらは個人の船。勝ち目が薄い。
ということもあり、ギルスとイルシーダの船団が完成。
イスパニア軍艦5隻を逆に沈めた所でイングランド王室から、
『インド洋のポルトガル商船を襲ってくれ』
との依頼が舞い込む。
カリブにも飽きていたのかギルスはこの依頼を承諾し、イルシーダの方も同意したため
2隻の船団は一路インド洋へ向かったのだった。
「……それで、なんで僕が向こうの船員の分まで食事を作らなきゃいけないわけ?」
船団を組んでからというもの、食事の時間になると決まってこちらの船に船員が集まる。
最初は船員同士の交流の場としてなんだろうと黙っていたのだが……
「まあまあ、あいつらもルビーの料理のファンになったってことだ」
ギルスがなだめるように言ってくる。
「そりゃ、最初からその予定で食料とか積んでれば文句も言わないよ!!でもね、聞いてないよ?毎日なんて
 このまま毎日作り続けると後二日で食料なくなるからね?」
60日程の予定で食料と水を積んできたのだが、予定外の状況のため15日目にして早くも食料難が襲ってきそうであった。
「あらら、それじゃ、うちの船の食料をこっちに移送しようか。といってもうちの船にはパンと水しかないんだけど」
あら、これ美味しいわね。と料理を堪能しながらイルシーダがそういってくる。
パンと水だけって……海賊船ってのはどこもそんな食糧事情なのだろうか……
「とりあえず、全部こっちにください。どうせそっちで食べてる人いないでしょうから……」
確認したわけではないが、交代でこちらの船に乗り移って食事をしているようである。
「あら、ばれてた??いや〜、こっちの食事が美味しくてね〜」
最初の4,5日は別々に食事していたはずだった。
だが、進路の打合せのタイミングと食事時間が重なったのが失敗だった。
あれ以来、イルシーダがパンと水だけの生活には耐えられなくなったらしい。
で、船長が率先して時間になると並走を指示して、飛び移ってくるので他の船員も来るようになってしまい……
結局1週間も過ぎた辺りで、全員パンと水の生活にはもどれなくなっていた。
それにしても、よくよく考えればものすごい錬度である。
航海中の船の速度を下げることなく、並走させる実力。
しかも、並走させながら互いに衝突させない操船技術。
その並走した船の間を苦もなく行き来する船員の錬度。
どれをとってもとんでもない技術だ。
目的がご飯ってのがなんとも悲しいが……
「いつもご馳走になってるだけじゃ悪いし、ちゃんと食事代は払うわよ」
そりゃ、当然でしょ……
「と、とにかく一度どこかの港によってください。補給しないと持たないよ」
あいよ〜。と片手を挙げて答えながら今日のお昼にがっついているギルス。
ちょっと!それ私のよ!!うっせ〜、早い者勝ちだ!!
この二人の食事時間はずらさないと……
相乗効果なのか知らないが、二人を一緒の時間にさせると限界で動けなくなるまで食べるため、余計に消費が早くなる。
一緒の時間に食事させないって事を徹底させなくてはいけないと心に誓うルビーであった。
そんなこんなで、無事にインド洋に到着した一行は、さっそく獲物を発見。
「船長!4時の方向に商船発見。ポルトガルのコショウ船だ!」
見張りの知らせを受けてギルス、イルシーダの両船長がすばやく動く。
まるで、打ち合わせていたかのような見事な連携であっという間に商船の前後を挟みこむ。
身動きの取れなくなった商船はあっさりと降伏したのであった。
「さて、インド洋の商船は何を積んでるのかなっと♪」
うきうきと倉庫に向かうギルスとイルシーダ。
その後を追いかけるようにルビーが続く。
だが、ルビーの表情に期待感はまったくなかった。
それもそのはず……
「「コショウかよ……」」
そう、インドからの交易品なんて香辛料にきまっている。
確かにヨーロッパに持ち帰れば貴重品だし、大金に化ける。
だが、ここはインド洋である。
コショウなど、珍しくも無い。
つまり、今回の私掠はあまり金になら無そうと言うことである。
「ルビー。コショウなんて奪って儲かるのか?」
ギルスが泣きそうな顔でルビーに聞くが、その答えは……
「ヨーロッパまで持って帰れば、大金にばけるよ」
という、お約束な回答であった。
「ねえ、ルビちゃん。なんか稼ぐ方法なぁい?さすがに毎度これじゃ〜やる気が」
ルビちゃんってなんだろう……
と、ルビーは思いつつも確かに積荷に期待できない以上その他のものに期待するしかない。
かといって、インド洋などを大金を積んで航海する航海者は稀だ。
現金もだめ、積荷もだめ。となると残りは……
「とりあえず甲板にもどりましょう。ここで考えててもしょうがないですし。一応積荷は運ばせますね」
イングランド王室からの依頼でもあることだし、積荷はとりあえず奪取しておくべきと判断したルビーは
船員を使って自船にコショウを移動させる。
積荷の移動が終わり、今後の私掠活動をどうするかを考えていたその時。
「船長、新たな船を発見!ずいぶん沖の方を航海してるようですが、どうしやす?」
(沖の方?つまり、インドの各都市には用は無い船……となると)
ルビーの脳裏にある答えが浮かび上がった。
「船長!すぐに船を出して。見張り!その船逃さないで!!」
「あん?よくわからんが、この船はもういいのか?」
「そんな小物はほっときましょう。一応赤字にならないようにそっちの船長室にあった剣と倉庫の奥にあった
 船の部品?らしきものは頂いたからもう十分よ」
それより、急いで!!とギルスを急かすルビー。
イルシーダの方はすでに自船にもどり先ほどの船の追尾を始めている。
「わかったわかった。とはいっても俺の指示なしにもう動いてるけどな。船長は誰だとおもってんだか……たく!
 今回だけだからな?これで、しょぼい船だったら全員給料カットだ!」
「じゃあ、当たりだったらボーナス出してもいい?」
「おう!当たりだったらな。さあ、野郎共いくぞ!!」
おう!!
少し遅れてしまったがギルスの船も追跡に入る。
ギルスが追いついた頃には、すでにイルシーダの砲撃が商船を襲っていた。
今回は商船もそれなりに武装をしていたらしくイルシーダの船に対して果敢に反撃を試みている。
だが、所詮は商船。交易に重きを置いた倉庫では資材も弾薬も長期戦に耐えれるほどはつんでいるわけが無い。
イルシーダはそれを良く知っている。
そのため、どちらの砲撃も届くか届かないかのぎりぎりの所で打ち合っているのであった。
「あいつめ。相変わらずうまい」
イルシーダの巧みな足止めと無駄玉を使わせる攻撃の見事さに関心するギルス。
「マリアンデール号から信号旗。足は止めた。分け前よこせ……だそうです(^^;」
「あ、あいつは戦闘中になんて信号よこしやがるんだ。ったく、返信!山分けでどうだ!」
するすると信号旗が上がる。
少したった後、再び返信が来る。
「返信きました。6:4!と言いたいが山分けで我慢してやる。です」
「よし、報酬も決まった所で全員突撃準備だ!」
おおう!!
結果的に無駄玉を打ちことに夢中になったらしい商船は逆方向から接近するギルスの船の対応に遅れ接舷を許す結果になり、
切り込まれた相手の対応に必死になっている所へイルシーダの船も接舷。
2隻の接舷を許した結果、抵抗しきれるはずも無く全面降伏となった。
「さて、今度のお宝はなにかな〜♪」
うきうき気分で倉庫へ向かうギルスとイルシーダ。
今回はルビーの表情もうきうきしている。
ルビーの予想が正しければそこには。
「「種子島が山のように!!」」
南蛮貿易品の山が待っていたのだった。
「ちょっとまて。種子島ってインド近辺で売れるんか?」
「そりゃ〜ヨーロッパに持っていくのに比べれば安いけど。それでも1丁あたり1万くらいにはなるはずだよ」
ほう!そりゃすごい。
倉庫にはおよそ1800丁の種子島がある。
山分けの約束なので900丁としても900万の儲けが出る計算だ。
これなら、損害をカバーしても十分お釣りが来る。
うまく交渉すれば1000万すら超えられそうだ。
「船長!さっきのコショウは全部捨てて、この種子島を持って帰ろうよ。がんばって交渉するから!!」
「そうだな。コショウなんてこれに比べたら塵みたいなもんだしな。よし、入れ替え作業開始だ!
 そうそう、イル。約束だし半分はそっちのもんだからな。自分の船員使って運べよ?」
せっせと倉庫から種子島を運び出す。さすがに2隻もいると根こそぎ奪えるだけの倉庫がこちらにもあるから面白い。
倉庫の種子島を根こそぎ奪い、商船を開放すると一路カリカットへ向けて進路を取るのであった。
航海の最中、船員の表情はみな生き生きとしていた。
今回の戦利品の売上がホクホクになる事がわかっているためである。
まだ最終的な収支が出ていないが、黒字になることは確定している。
そして、
「船長。当たりだったよね?当たりだったよね??」
「ああ、そうだな。大当たりだったんじゃねえか?」
「じゃあ、じゃあ、ボーナスの件忘れてないよね?」
「もちろんだ!赤字にならない程度で皆に出してやれ!」
さすが船長!太っ腹〜
これだからこの船は降りられねえ〜
飯も最高だしな!
言えてる。もう他の船になんか乗れねえよな
後に聞いた話だが、トライアンカー号の船員募集の倍率は300倍という狭き門であるとの事である。
もちろんルビーダイスが乗り込んでから……の話ではあるが



無事にカリカットに到着した船団。
港に降り立ったルビーの元にギルスとイルシーダがそろって現れる。
「おろ?二人そろってどしたの?」
なにやら頼みにくそうな顔をしている二人を見てルビーは妙に嫌な予感に襲われる。
「実はな……」
「嫌」
用件を言われる前に拒否しておいたほうが良いと判断したルビーは内容を聞く前に拒絶した。
「まだなんもいってないだろうが!!」
「うん、お約束の漫才だね。なんとなく予想はつくけど、一応きくよ。なに?」
ある程度予想はつく。
船の修理と交易品の取引交渉を2隻分やってくれって所だろう。
「実は……船の修理依頼と交易品の売買をまとめてやってきてくれないか?」
「うわ、予想通り><」
「お願い!るびーちゃんがやってくれたほうが利益が大きいのよ!」
お願い!
と、顔の前で両手を合わせて祈るような形でお願いされてしまった……
「まあ、量が変わるだけですから構いませんけど……イルさんの船の主計長さんに悪いんじゃ?」
と、一応そういう役目の人がいるんだし、そっちの人に悪いからと言う方向で断ろうとしたのだが……
「私、主計長私。なので問題なし」
この人も自分でやるタイプの人でしたか……
結局断りきれずに引き受けるルビー。
取引量が変わるだけで交渉事態はかわらないから、別に手間ではないのだが……
手間賃もらうくらいしないとやってられないな〜……
などとチラッと考える始めるのであった。
軽く愚痴はこぼしつつも、無事に船の修理と種子島の販売を終えたルビーは決算結果を携えて酒場へ向かう。
どうせ毎度の事ながら宴会の真っ最中なのだろう。
酒場のドアを開けると、予想通りの絵が展開されていた。
飲み比べをするギルスとイルシーダ。それに巻き込まれて潰されている船員。
困り果てているマスター。
さて、マスターに話をつける所からかな。
ルビーは、まずマスターのそばに行き、チャイを注文する。
一口飲んで気分を落ち着けた所で、
「マスター、この連中の飲み代だけど……」
「もう、金も払わずにどんどん潰れていってしまうし、船長とか呼ばれてたあの二人はがしがしもってこい!とかいうし
 会計は誰がしてくれるんですかね!まったく」
「すまないね。僕がその会計担当なんだ。ちょっと積荷の取引をしてたものでね。遅くなってすまない。これ……で足りるかな?」
毎度の事ながら、大目に金を渡す。
迷惑量も込みだと言うことはマスターもすぐに理解したらしい。
「お金さえ払っていただけるなら私は別に」
急にニコニコしだした。さすがに現金払いは強い。
「それと、多分みんなここで潰れると思うんだ。悪いんだけど毛布とかあるかな?もちろん御代はしっかり払うよ」
現金払いをした後だけあって、マスターもすんなり用意してくれる。
やっぱり現金は強い!
「すまない。あ、チャイをもう一杯いただけるかな?とっても美味しいよ。これ」
すぐに用意されたチャイを堪能しつつ、
「会計報告は明日かな……これは」
と、ため息をつくルビーであった。

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