Pirate family(仮) 1

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第2章 失われた記憶の中にあるものは

それは、ジャマイカに寄港した翌日のことであった。
船の修理と改修を船大工に依頼し、積荷の交渉をしようと交易所に向かったルビーとギルス。
途中、酒場の辺りが騒々しくなっているのをみかけたギルスが、
「お?何だ、乱闘か?俺も混ぜろ〜!」
と、酒場に駆け出してしまった。
やれやれとルビーは首を振り、先に行くことを伝えるために酒場の方へ声をかける。
「船長〜!僕先に交易所に行ってますからね〜?程ほどにしておいて下さいよ〜」
「おぅ!高値で売ってこいよ〜」
相場によるんだけどね。と苦笑しながらこぼしつつルビーは交易所に向かう。
その声を聞いた一人の男が、すたすたと去っていくルビーの後姿をまさか……といった表情で見る。
「ま、間違いない……あれは、ルビーダイス!?し、沈めたと聞いていたんだが……生きていたのか!?」
ありえないものを見たようなそんな驚愕の表情でルビーを見続ける男。
「沈めた?おいお前、ルビーの知合いか?にしては物騒な内容が聞こえたが……
 とりあえず俺の船に連れて行くか」
酒場で暴れていた二人の男をさくっと気絶させると、ロープで縛り上げる。
「さて、お!いい所にいた。おい、こいつらを船に連れて行け。一応逃がさないように見張りも立てとけよ」
と、寄港した日から酒場で飲んでいた部下に指示を出すと、ギルスは急いで交易所に向かう。
その頃、交易所では激しい論戦が展開されていた。
「ん〜、相場がよくないね〜。僕としてはこれくらい欲しいんだけどな」
「うちも今はこれが精一杯だよ」
「え〜、そこは勉強しようよ。金だよ?金。砂金じゃないんだよ?」
「と言われてもね〜」
「ほらほら、イスパニアの紋章入りだよ?まがい物じゃないんだよ?」
「う、う〜ん……」
「よし、しょうがない。じゃあ、もう100本追加するから。これでどうだ!」
「しょうがないですね〜。じゃあ、これくらいでどうです?」
「え〜、そこはもうちょっとがんばって欲しいけど……OK、それで手を打とう。
 じゃあ、物はこの船にあるから」
どうやら無事に交渉が成功していたようだ。
追加分の100本は何処から調達するのだろうか……
途中からやり取りを見ていたギルスがふとした疑問を覚える。
気にはなったのだが、ルビーのことだ、無いものを追加とは言わないだろうと思いその件はスルー。
とりあえず、ルビーが無事だったことにギルスはほっとしたのだった。
「無事に取引が終わったようだな」
「あ、船長。今回は相場が悪くてね〜。予定の額にはちょっと足りなかった」
それでも交渉の結果、3割り増しで売ったあたり相変わらずの交渉術を披露しているようだ。
予定に届かなかったとは言っても黒字の額が減っただけで赤字にはなっていない。
それだけでも十分満足したらしい。
「まあ、相場はどうにもならんからな。さて、船に戻るぞ。ちょっと面白そうなネタも仕入れたしな」
ニヤリと笑みを浮かべるギルスに、少し悪い予感を覚えるルビー。
「船長……なに考えてるわけ?」
「船に戻ってからのお楽しみだ」



船に戻ると甲板上に見慣れない男が二人縄で縛り上げられた姿で座っていた。
どうやら、船長が仕入れた面白いネタというのはこの二人のようだ。
その二人はルビーを見るととたんに顔を青ざめて震えだしていた。
まったく身に覚えの無いルビーは?マークを頭上にいくつも浮かべた状態である。
「さて、これから楽しい拷問タイムといくぜ?受けるのはその二人。吐かせる内容はルビーについてだ」
え?とまたしても?マークを浮かべたルビーが二人をまじまじと見る。
やはり、見覚えはまったく無い。
「う〜ん、やっぱり見覚えがないな〜。船長、この二人に僕のこと聞きだすって……どういうこと?」
見覚えの無い人物に自分のことを聞いてどうなるというのだろう?
という?顔で質問をする。
そんなルビーをおいおい、とジト目で見ながら、
「お前、自分が記憶喪失だって事すっかり忘れてるだろ?」
「え?あ、ああ。そういえばそんな事もあったね〜。あはは、すっかり忘れてたわ」
本気で忘れていたようである。
「まあ、それは置いといて。さてお二人さん。待たせたね〜」
ニヤリと笑みを浮かべ、二人の男にちかよる。
「まずは、君たちが何者なのかをしゃべってもらおうかな。
 ああ、黙秘してもいいよ?むしろその方が楽しいんだが?」
すらっと常にもっている剣を抜き、ぴたぴたと二人の頬に軽く当てる。
ますます青ざめる二人の男は我先にと叫ぶように話し出すのであった。
「お、俺たちはポルトガル商人組合の組員だ」
彼らの話をまとめると、
 以前から組合員の決めた相場を守ることなく、徹底的に安売りを行うルビーダイスによって
 利権を失った組合員がポルトガル所属の海賊にルビーダイスの船を沈めてくれと依頼をした。
 その依頼を受けた海賊により、ルビーダイスの船は沈没。積荷ともども本人は海の藻屑と消えたと報告を受けていた。
との事らしい。
商人の利益を取り上げたのだ。それも、他国の首都で他国の商人の利益をである。
それくらいの報復はされるだろう。
使いどころのなくなった剣を収め、どかっと座り込み、
「まあ、リスボンは人口が多いからな〜売れるんだろうよ」
あっさりと口を割られてしまい、ちょっとつまらなそうにギルスがぼやく。
「まあ〜事情はわかったが、このまま無罪放免ってのも面白くないよな?ルビーはどうしたい?」
事実を聞かされたルビーであったが、あまり実感は無い。
だが、確かに大安売り〜と叫びながら商品を売りさばいている姿は記憶によみがえっていた。
多分、この二人の言ってる事は事実なのだろうとなんとなく思っているのだが、
急に如何したいと言われてもぱっとは思いつかなかったので、
「え?そうだね〜。ん〜商人か……にしては商売へたそうだよねこの二人」
なんとなく身なりや雰囲気からあまり裕福ではなさそうに見える。
組合員といってもかなり下っ端の連中なのだろうな〜と予想した。
「下手に置いておいても食事代とか監視とかで面倒だし……ここはやっぱり商人らしく利益につなげましょう」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべるルビー。
それを見てさすがだ。と同じようにニヤリと笑みを浮かべるギルスと船員。
まずい展開になったと青ざめる二人の男。
「とりあえず、組合について話を聞きましょうか。あ、黙秘もOKですよ♪沈黙は金なりってね♪」
楽しそうに剣を抜いて構えるギルスを後ろにルビーも楽しそうに微笑む。
二人の男は沈黙することなく、知っているであろう事を全て話すのであった。



「……というわけで。組合に対して2000万ドゥカート要求しました。まあ、断ってくるでしょうね。確実に」
にこにこと楽しそうに話を続ける。
「断るだろうな〜、俺だってこいつらにそんな大金払う気にはならん」
ルビーはこくりとうなづき、
「ええ、実はそこが狙いです。ですので、断ってきたと同時に組合は組合員を守る気はないらしい!
 と噂を流します。どうもその組合には海賊被害があった場合、組合で被害額を負担するとあるらしいですからね〜
 そこを突きます。その後で再度要求。
 前回の半額である1000万ドゥカートを要求しましょう。こちらも妥協してやったんだぞ?としめすためですね。
 僕の見積もりだと、この辺りが妥当な額だと思うんですよ〜」
なんとも黒い話である。
妥当な額を算出しておいて、最初に倍額吹っかける辺りが姑息だ。
「1000万が妥当かどうかはしらんが、最初からその額提示ではだめなのか?」
2度の交渉という面倒な手続きを取らずに最初から妥当な値段を出させるほうがいいのではないか?
と、ギルスは思ったようである。
「それだとポルトガル商人組合はしっかり保障する安心の組合です!と向こうにも得な部分が発生しちゃうんですよね〜。
 な〜んか、面白くないじゃないですかそれ。なので、不信感を与えるためにも最初は断らせます」
なるほど、確かにそれは面白くないな。と納得する一同。
他に反論が無いことを確認するとルビーは早速行動を開始。
結果として予想通りの流れになり、ギルス達は無事に1000万ドゥカートと
ルビーダイスの身の安全保障というおまけもGETすることに成功。
この事件の後、組合を抜ける商人が続出するという事が起こったが、ギルス達には関係の無い話であった。



入金された額を確認し終え、船員への給料支払いも済ませた午後のひと時。
割り当てられた一室で紅茶を楽しんでいると、
「ルビー、いるか?ちと話があるんだが」
と、ギルスがふらっと現れた。
普段なら呼びつけるはずなのに、部屋まで来るとは珍しい。
「いるよ〜、わざわざどしたの?あ、紅茶入れるね」
ギルスの分の紅茶を用意して、席に置く。
「おうすまんな。ん〜いい茶葉使ってんな〜美味いぞこれ。所でルビー。
 記憶も戻ったし、危ない目にあう事もなさそうになったが、今後どうするんだ?」
用意された紅茶とスコーンを食べつつ、さらっと世間話のように聞いてくる。
「そうだね〜、僕の船は沈没してるって話しだしこのままここに置いてくれると助かるんだけど?」
ルビーも特に深刻に考える事も無く、さらっと答える。
というより、今更自分の船がと言われてもちっとも実感がわかない。
今の自分のいる船はここなんだな〜と思える位にルビーはこの船に馴染んでいるのであった。
「俺の方はかまわんが。むしろいてもらった方が助かるんだが。良いのか?」
スコーンを頬張りながらなおも念を押してくる。
この船長は僕をおろしたいのだろうか?と少し思ってしまったがそれは考えすぎだろう。
なので、
「どうも副官って立場のが向いてるっぽいのよね僕。なので、今後もよろしく」
素直に自分の感想を伝えるのであった。
それを聞いてギルスは一つ頷いた後、
「そうか。お前がそれで良いならこっちはかまわんさ。よろしくな」
ごちそうさん。と紅茶を飲み終えたギルスが席を立ち部屋を出ようとドアを開けたとき、
どたどたと船員が数人部屋に転がり込んでくる。
「お前ら、なにしてんだ?」
いや、俺たちもルビーさんがどうするのか気になって!
もうパンと水の生活には戻れません!
船長の部屋の掃除とか俺はもうごめんです><
船長がルビーさんを襲わないかと警戒を!!
ルビーさんいかないで〜><
「よし。お前ら全員甲板に出ろ!ぶったぎってやるから」
わぁ〜と逃げ出す船員たち。
それを追いかけるギルス。
それを笑いながら見守るルビー。
今日もトライアンカー号は賑やかだ。
「お茶を飲んだら帳簿整理でもしますかね〜」
後、掃除と倉庫整理と夕食の準備と。
今日もやることは一杯だ〜。

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