ドドーン!
ドカーン!
キンキン!
擬音がとっても馬鹿みたいな感じだが、実際聞こえる音はこんな感じであった。
カリブ海についてはや半年。
今日もイスパニアの商船を見つけた我らがトライアンカー号は嬉々として商船に襲い掛かっていた。
カリブ海はイスパニアの商船が多く行き交っているためご馳走様状態であるのだが、
他の海賊も大勢いるため獲物である商船は軽く奪い合いになる事が多々ある。
そういった状況ではあるが、うちは比較的多くの商船を襲う事に成功しているようだ。
「ちょっと前までは僕が襲われる側だったのにな〜」
昨日の戦利品と消費物資の数を調べて紙にまとめていく。
後は船長がこれを帳簿につけてくれれば完成だ。
外では怒号が鳴り響いているが、半年もたてばある程度は慣れるらしい。
今ではさして気にもならず、戦闘中はこうして部屋で資料整理をする毎日であった。
そんな戦闘の音も徐々に小さくなっていき、聞こえなくなったな〜と思った瞬間、
わ〜っと歓声が上がった。どうやら今日も無事に拿捕できたようだ。
「ルビー、出番だぞ〜」
船長室にて帳簿の為の資料整理をしていたルビーを船長であるギルスが呼びにくる。
別に船長みずからこなくても良いのに……とは思うのだが。
「少し待ってください。この計算が合えば……よし、これでOKっと。お待たせしました」
整理していた資料を棚にしまい、今日の戦利品の品定めに向かう。
そのついでに自分たちの船の損害状況もざっと見ておく。
これをしておかないと、収支の計算が狂ってしまう。
(側面が少し危なくなってきてる。装甲代を計算して……修理の代金は……うん、大丈夫だね)
「ルビー。ボーっとしてると危ないぜ」
すすすっと差し出された資材の棒につまずいて甲板に転ぶルビー。
それを見て船員が大笑い。もちろん船長の仕業なのだが……
「船長!何するんですか〜!!」
「だから、ぼ〜っとしてるとあぶねえぞと教えてやったんだろうが。それより今日のお客さんの倉庫見に行くぞ」
「良いですけどね。もう慣れましたから!」
む〜!と膨れ面で文句を言いつつルビーは倉庫に向かう。
拿捕した商船の船員達は甲板上に集めて縄で縛ってあるようだ。
同じ商人としてはなんとも申し訳ない気持ちではあるが、そこはそれである。
倉庫について、積荷を目の前にしたとたん、そんな気持ちは何処吹く風。
「ほへ〜。船長、金だよ金。砂金から金を作ったのかな」
倉庫に積まれていたのは見事な金の延べ棒であった。インゴットといったほうが良いだろうか。
EUまで持ち帰ればかなりの額になる物件だ。
「金か、EU圏まで持ち帰らないと高値にならねえんだよな〜。まあ、いっか」
「別に近場で売っても構わないよ?そりゃ〜額は下がるけど。これだけの量があればそれなりの値になるしね」
倉庫に満載されている金を根こそぎGET!と行きたいがこちらの船の倉庫にも限界がある。
持っていけるのは半分位であった。
残りは、このまま放置でいくしかない。
「とりあえず持てるだけの金を持ち出すか。ルビー手配の方頼むぞ」
「はいな、船員さんを4人ほどお願い」
あいよ〜と、片手を上げて甲板に向かう船長。
応援が来るまでにもう少し確認しようと倉庫内を見回っていると、厳重に封をされた一つの箱を発見した。
「おや?お宝かな♪」
さっそく開けてみると、中にはたくさんの金貨が入っていた。
「ん〜、ざっと見積もって500万ドゥカートって所かな。この船の船長の資金かな?もらっていこうっと♪」
すっかり、海賊の一味になっているルビーであった。
他には何かないかと倉庫内をぐるりと見て回ったがとくには何も無い事を確認し、応援で駆けつけた船員と共に金を運び出すのであった。
その後、資金発見の報告を船長にして、倉庫の金塊を自船につみ終えたトライアンカー号は、ジャマイカへ向かった。
今回の積荷を売り払うためと損傷した船の修理のためである。
「ようし、野郎共。ジャマイカに向けて進路を取れ。ついたら酒場で祝杯だ!!」
おおぅ〜!
「ああ、そうそう我らが主計長様が追加のお宝をGETしてきてくれたんで今回は俺のおごりだ!
がんがん飲んでくれてかまわねえぞ!!」
おおおおおおお〜〜〜〜〜〜!
さすがルビーさんだ!!
やったぜ船長〜〜!!
食い物もOKっすよね?船長〜〜〜!!
今日の船上はいつにもまして大賑わいであった。
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・
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ルビーダイスがトライアンカー号に乗って半年。
この間にすっかり一味になじんでいたルビーは、今日も元気に調理室にこもっていた。
「さって、今日は塩漬け魚の木の実添えにしよっかね〜。後、コンソメスープかな〜。僕コンソメスープ大好き♪」
この船に乗ってすぐの頃は、予定していた量を半分の日数で食い尽くされたりして困り果てたものだ。
30日分の食料をなぜ12日で食い尽くせる!!
と、抗議をしたものの、ルビーが乗る以前の食事はパンと水だけだったという話を聞かされ
なんとなく納得してしまった。
パンと水だけに比べれば確かにちゃんとした料理が出てきたらそりゃ〜食欲旺盛になるのもわかる。
わかるが……それでももう少し遠慮してもらいたかった。
結局、最後の方は釣った魚と種類でメニューが決まるというすごい状態になっていた。
乗員全員で釣竿を持ち出した姿はかなり笑えたが……
しかし、どんな魚を釣り上げてもきっちりそれにあった料理を作れるあたり、ルビーの料理に対する知識は本物であった。
特にマグロを釣り上げた時はきっちり解体ショーまで披露したほどである。
ルビー曰く、
「お魚さんは全部食べれるから料理するのが楽なんです♪」
だそうである。
確かに、骨すら油で上げてメニューとして出してくるし、普段は捨てるであろう海草でさえ
きっちり調理してサラダ〜とか言って大喜びだし、海水から塩を作成し調味料〜として使ったりと見事な腕前であった。
とまあ、そんな経験をしたためか今では毎食きちんと出せる量を正確に測れるようになり、
きっちりとその分の食材を確保できるようになっていた。
まあ、普通の3倍近くの食材を積み込めばそりゃ〜間に合うってね。
倉庫の量が減る!と船長が一番嫌がって最後まで抗議していたのだが、
船員全員から涙涙で嘆願されたら折れるしかなかったらしい。
(でも、一番多く食べるのは船長なんだけどね〜)
とそんな楽しい回想をしていると、一人の船員が調理室に困った顔でやってきた。
その船員はルビーを見つけるとほっとした顔になり、近寄ってくる。
「ルビーさん。お願いがあるんですが」
「はい?なんでしょう??」
真面目な顔で迫ってくるので少しびっくりしてしまう。
一体何事がおこったのだろうか??
と、構えていると、
「船長に給料払ってくれるようにいってくれませんか?」
ずるっと、足元が滑った気がしてしまう。
なに?給料??船長にいってくれ???
「えっと、なぜそれを僕に言うのかな??」
最近、ルビーを経由して船長へのお願いという相談が増えてきている。
どうも船員の間に、ルビーから頼むと船長が折れて上手くいく。という認識が出来始めているようだ。
すでに調理と倉庫整理の仕事を受け持っており、これ以上厄介ごとを増やしたくないルビーなのだが……
「そういえば、確かに僕もまだもらってないな〜。わかった、言っておくね」
と、こんな感じで引き受けてしまうのであった。
引き受けたからには、さっそく言っておかなくちゃ!と船長室へ向かうルビー。
ちなみに、調理中のなべは先ほどの船員さんに混ぜてもらっている。
弱火で焦がさないようにゆっくりまぜてくださいね。と注意もしたので大丈夫だろう。
問題として懸念している事といえば、作成中のスープはルビー自身も大好物であると共に船員からの評判も良い物件である。
そのため、我慢できずに味見しまくってたらなくなりました〜といった事件が起こってしまわないか……というのが懸念事項である。
もちろんそんな事件が発生したら容赦なくマストにつるす事になるだろう。
たとえルビーが許しても船長以下、他の船員が黙っているはずが無いからである。
(注意はしなかったけど、きっと大丈夫よね。うん)
懸念事項は杞憂で終わってくれる事を期待しながら歩いていると船長室の扉の前に到着。
扉をコンコンコンと3回ノックすると、開いてるぞ〜と中から言われたので船長室に入る。
中では、ギルスが椅子に座り熱心に何かを読んでいた。
入ってきた人物をチラッと確認し、
「お?なんだルビー。もう飯の時間か?」
「それはもう少しまって。後30分ほど煮込めばできあがるから。それより船長、さっき船員さんから苦情が上がってきたけど
お給料の支払いが滞ってるらしいよ?ちゃんと払ってる??」
あ〜……と忘れていたことを思い出したようにまずい顔になるギルス。
それを見てあきれるルビー。
しばしの沈黙が二人の間に流れる。
その沈黙を破るようにルビーが長いため息をついた後、
「ちゃんと払わないと、船員に私掠されちゃうよ?」
とギルスに注意する。
それを受けてギルスは、
「そうだな〜、しかしどうも俺はそういうのが苦手なんだよ……あ〜、ルビーは得意そうだよなそういうの」
なんだか、話の流れが嫌〜な方向へ流れ始めた。
長居をするべきじゃない!と悟ったルビーだったが、一歩遅かったようだ。
「ルビー、資産管理の業務も頼むな。資産リストは……えっとどこやったっけ?」
「…………左の棚の上から3番目の左から4冊目……」
「おお、あったあった。んじゃ、これ渡しておくからよろしくな!」
棚の整理なども任されていたため、場所は全て把握している。
しかし、しかしだ……
「さすがに資産系は自分でやったほうが良いんじゃない?僕が使い込みとかしちゃったらどうするわけ?」
そんな気などまったく無いのだが、断るためには手段を選んでいられない!
との思いで言ったのだが、
「お前にそんな器用なことが出来るかよ。無駄に真面目なんだからな。使いたい時に好きなだけ使ってくれてかまわんさ
更に言うなら、赤字をだすのが嫌いらしいからなお前。その辺の心配もまったくしてねえぞ」
にっこりと笑顔で返されてしまった。
しっかりよまれているな〜と苦笑いするルビー。
「しょうがない。引き受けますよ。とほほ、面倒ごとばっかり僕にまわってくるな〜」
よろしく〜とひらひら手を振るギルス。
結局、この人には適わないや。と渡された資産一覧を持って帰るのであった。
その後、資産一覧を確認した所、多数の間違いと記載漏れが多数発見されその修正に大忙し。
最終的にまとまったのは資料を渡されてから3週間後のことであった。
やっぱり厄介ごとだった〜><
と毎夜涙を流していたのはここだけの話である。
こんな感じで船員の苦情を受け付けたり、船長に仕事を押し付けられたりしながらも毎日忙しくすごしているためか、
ルビーは自分の記憶の一部がなくなっていると言う事実もすっかり忘れてしまっていた。
本人が忘れているくらいであるから、ギルスや他の船員も同様にきれいさっぱり忘れていた。
しかし、当人達は忘れてしまっていても、それを忘れない人物もいるわけで……
その事件は唐突に起こるのであった。