Company モトコ伝

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プロローグ 2

「この町に来て15年か……数字にすると長そうだけどあっという間だったな〜」
15年前、日本を飛び出してロンドンまでやってきた。
日本では二人が一緒になる事が出来なかったためである。
彼女の両親が外国人である店主との結婚を認めなかったのだ。
しかし、彼女のおなかの中にはすでに二人の子が宿っていた。
さらに間の悪い事に店主が本社への栄転で故郷に戻る事に……。
両親の反対を押し切り、彼女は店主について行く事に決めたのだった。
イングランドへの航海は、嵐や海賊の襲撃などに合う事もなく順調に進んでいた。
一つだけおこった事件といえば、船上でモトコが生まれた位であったが、これについても
乗り合わせた乗客に医者がいたため、さしたる問題もなかった。
船長以下、船員達や乗り合わせた乗客全ての人から祝福され、無事に生まれた時には歓声が上がったほどである。
この事件が縁で船長と親しくなり、事情を話したところ、
「なるほど、それは大変だったな。しかし、ロンドンにあてでもあるのか?」
「社の方で用意してくれるのは独身寮ですからね。まずは二人で住む部屋を探さないと」
「ふむ。どうだろう、私の家に住まないか?私はこの通り船上の人間だ。家を管理してくれる人がいると助かるんだよ」
と、自分の家を提供しようといってくれた。
二人は船長に感謝しつつ、ご厚意に甘える事にするのであった。



「そういえば、船長は今度はカリブだったか?ほんとに船上の人だよな〜あの人も」
「そうですね。お店をはじめるための店舗を探した時もあっさり『ここでやれば良い』って……ふふふ」



ロンドンについて5年ほどたった後、二人はお店を出そうと考えた。
夫はロンドンに本社を構える大手商社に勤めていたため、帰りが遅くなる事もしばしばであった。
妻の方は、外国での生活にある程度慣れてきているとはいえ、やはり心もとない。出来れば夫と一緒にいたいと思っていた。
そこで、お店を始めれば二人でいられる時間が増える。という考えにいたったらしい。
丁度良いことに船長が航海を終えロンドンに戻ってきていた事もあり、
二人は船長に相談し、どこかに良い物件のあてはないか?と聞いた所、
「ここでやれば良いじゃないか?好きに改築して構わんよ。ああ、そうそう2階の私の部屋はそのままにしておいてくれよ?」
船長が出した条件はそれだけであり、さらに改築の費用というかお店の開店資金として多額の寄付をしてくれた。
二人は感謝してもしきれないほどであった。
店が無事に開店すると、船長の部下である船員さんが多数お店に訪れてくれた。
それに釣られるように造船所の船大工の皆さんも通ってくれるようになり、店の運営は順調にすべりだしていったのであった。
「今の僕達があるのは船長のおかげだよ。モトコも感謝するんだぞ〜」
妻に似て美しく成長している娘に改まって説明する事でもないなとは思っていたが
彼はこの話題になると決まって娘にそういうのであった。
「お父さん、その話はすでに耳たこだよ?まあ、お父さん達がどれだけ船長に感謝してるかってのはいつも伝わってくるけどね」
やれやれといった感じではあるが、モトコはしっかりと両親が船長に抱く感情を把握しているようであった。
「さて、思い出話も良いですけど私は夕方の仕込があるのでそろそろ厨房に戻りますね。モトコ、洗物と掃除お願いね」
「は〜い、お父さんは買出しでしょ?気をつけてね」
今日も和気藹々と楽しい時間が過ぎていく。
これからもこんな時間をすごすんだろうなと、モトコはそんな事を理由も無く信じきっていた。
そんなモトコを裏切る事件が起こったのは、この次の日であった……。

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