Company モトコ伝

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プロローグ 3

その日もいつもと同じくお昼の混雑する時間が過ぎ、遅めの昼食を家族で食べていた時だった。
「失礼するよ。我が社を退職して……10年か、中々のお店に育ったようだね」
黒いスーツをきっちりと着こなしたサラリーマン風の人物がやってきた。
見た目は父と同じくらいだが、身にまとっている雰囲気が妙に黒い……
モトコが持った第一印象はなんか嫌な人。であった。
「えと、申し訳ありませんどちらさまでしたか?」
父の方には覚えが無かったらしく、誰だろうといった顔をしていた。
「ふ、知らなくて当然。私はこういうものだよ」
差し出された名刺には、
 まろこ商事 渉外部門 部長
 らるご
と書いてあった。
「まろこ商事……渉外部門?その方が私になんのようです?」
受け取った名刺を見ながら父の顔が険しくなったような……
「なに、10年前に交わした誓約が破られたようなのでね、違約金をもらいに来たのさ」
「違約金だと?」
「君が我が社を辞めるときにサインした誓約書に書いてあったと思うが?」
懐から1枚の紙を取り出し机の上に置く。
確かにそれは10年前にサインした誓約書であった。自分のサインも書いてある。
「確かにこれは僕の字で、サインした覚えもある。だが、違約金が発生する違法なことはしてないはずだ!」
この先の事をモトコは鮮明に覚えている。
この事件のせいで、モトコの両親は……
ラルゴが言う。
「ここに書いてあるだろう?社内で得た知識やコネを利用してまろこ商事に損失が発生した場合、その損失を全額補填すると」
「君は我が社で得た取引の知識を使って材料を仕入れ、それで自分の店の利益を上げていた事になるんだよ」
「もちろん、君が取引した品によって我が社が購入できる量が減り、我が社のレストラン業に多数の損失が発生している」
「輸出業にも……ああ、こちらはたいしたことは無いが、損失は損失なのでね」
「その他もろもろの業種にて影響が出ている。損失合計額は1億3372万1625Dとなるね」
「まあ、端数はこの際忘れてあげようじゃないか、とりあえず1億D返済してくれればそれでいい」
「返済期限はすぐには無理だろう?一ヶ月はまとうじゃないか」
「でわ、私はこれで失礼するよ。また来月」
この後、両親が激しく言い争いをする姿をモトコは生涯忘れることができない場面であったという。
ここからの一月はつらい日々であった。
知人や友人には借りられるだけの借金をし、お店に来るお客さんにすらお金を借り、
なんとか集めた金額が9000万D。後1000万がどうしても集められなかった。
そして、返済当日。
先月と同じ時間、同じような雰囲気と同じような服装でラルゴが現れた。
「さて、約束の期限だが、金の用意はできたかね?」
「…………9000万しか用意できなかった」
「ほう、よくもまあそんな大金を用意できたものだ。だがこちらの提示額は譲歩して1億だったはずだが?」
「残りは来月払う。まってもらうわけにはいけないか?」
「まてんな。ふむ……そうだな足りない分はそこの店と土地でいいだろう」
「ま!まってくれ、この店と土地は私達のものじゃないんだ。ここは船長の……」
「誰のものかなど知らんし、俺には関係ない。明日には取り壊し作業を開始する。荷物をまとめて何処へなりと失せるが良い」
「まってくれ!!この土地と家だけは勘弁してくれ」
両親の必死の懇願にも取り合わず、ラルゴはさっさと引き上げていった。
次の日、宣言どおり取り壊しの作業員が強引に作業を開始。家はあっさりと取り壊されてしまったのだった。

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