Company モトコ伝

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プロローグ1

ロンドンの造船所近くには小さいが評判のお店があった。
そこは船大工達の憩いの場であり、皆このお店が大好きで、
昼時になると満席状態になるのは珍しくは無いお店であった。
「は〜い、B定食お待たせ〜。ご飯はお代わり自由だよ〜」
今日も眩しい程に輝く笑顔を皆さんに振りまいている一人の少女。
みんな、その少女の笑顔を見るために通っているといっても良い。
もちろんそれだけではなく、
「それにしてもマスター、今日も良い味出してるね。これで20Dってのは大丈夫なのかい?」
出された料理に手をつけたお客が心配そうに店主に確認する。
そう、このお店は街のちょっとしたレストランというか食堂というか……そんな所であった。
売りは料理の味はもちろんの事だが、なんと言っても安い。
普通の食堂に比べても2割ほど安いのだ。
それでいて、味も量も文句ないとくれば評判になってもおかしくはないという話だ。
「うちは薄利多売ですからね。お客さんが多くきてくれないと赤字になってしまうんですよ」
なので、今後もよろしく。
と、店主はぺこりと頭をさげる。
「ははは、任せてよ。もう毎日だって通うさ!なあ皆!!」
店内から一斉に同意の声があがる。
それを確認して店主はまたもぺこりと頭を下げるのであった。
「あなた、C定食の仕込み分がなくなりました。モトコ〜!そう言う訳なのでC定食は受け付けないで頂戴」
厨房から顔を出してきた女性は店主の妻にして、この店の誇る料理人である。
こちらもかなりの美人さんである。
「そうか、AとBはどれくらい残っている?」
「どちらも大体後10人分ほどよ。追加を作る?」
少し考えた後、
「いや、多分大丈夫だろう。いつものお客さんはもう来てるし、追加のお客さんもさほど多くはないだろうからね」
なくなったら店を閉めるとしよう。
店主の言葉にわかったわと同意し、料理長は厨房へと戻るのであった。
「いや〜、いつ見ても美人さんだね〜。マスターが羨ましいよ。しかも娘さんもこんなに……まいったねこりゃ」
ははは。と店内に楽しげな笑い声が響き渡る。
いつもの楽しい昼時の風景であった。



お昼時の賑わいを少し過ぎるとお店は一気に静かになる。
こうなると追加のお客さんも来なくなるので、店を閉め遅めのランチタイムになるのであった。
「今日はA定食とB定食があるけど、モトコはどっちにする?」
「私はBがいいな〜昨日お肉だったし、今日はお魚が食べたい気分なの」
はいはい、といってモトコの前にB定食を置く。
「あなたと私はA定食で良いわね。何か一品追加しましょうか?」
「いや、そのままで良いさ。さて食べようか。夕方の仕込みもあるだろうからね」
「いただきま〜す♪」
美味しそうに食べるモトコを笑顔で見つめる二人の目はわが子への愛情で溢れているのであった。

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