近代現代建築






*ジンジャー&フレッド(ダンシングビル)/1996年
 フランク・ゲーリー+ヴラジーミル・ミルニッチ/チェコ/プラハ

今回のリストでは唯一のオーストリア(ウィーン)以外の建築。
正直期待していなかったのですが、プラハに到着した前晩、
メトロで荒れたパンクな夜の街を見ていたので、
そのイメージを大戦で被害を受けなかった古い街並のなかに
うまく表している気がして、いたく気に入りました。

市中心部から離れているにもかかわらず、
既に観光名所化しているようで、
絵はがきやポスターになっていました。

四角い窓枠は溶融亜鉛メッキ鋼鈑です。
そう!こういうのやってほしいのよ。
ビルバオやディズニーみたいに小奇麗に納めるんじゃなくて。


*ストロンボウ・ウィトゲンシュタイン邸/1928年
 ウィトゲンシュタイン+エンゲルマン/オーストリア/ウィーン

哲学者ルートウィヒ・ウィトゲンシュタインが実姉の住宅を
建てるにあたり、全面的に設計に関与した、氏唯一の建築作品。
哲学者らしく、各部の寸法が厳密に決められており、
建物が完成してから天井高さを3センチ上げたという話は有名。

現在はブルガリア大使館のようなものとして使われていて、
メンテナンスは完璧、とても80年前の建物とは思えません。
特にブロンズのサッシは交換したのではないかと思うくらいきれいでした。

この建物の醍醐味は内部空間なのですが、予約がないと入れてもらえません。
で、今回は残念ながら外部からの観察のみになったのですが、
意外と全体のスケールが大きい。
建築家以外の人物が設計する場合に陥りやすいポイントです。
んー、同じ大戦間の建物としてはカサ・デル・ファッショの方が上かも。


*カール・マルクス・ホフ/1930年
 カール・エーン/ウィーン近郊/オーストリア

集合住宅ですが、でかいです、というか長いです。
この写真のファサードが形をかえながら1km続きます。
全体はその2列を長辺とした長方形の巨大コートハウスです。

ポスト・モダン風ですが、前から気にはなっていました。
今回はベートーベンの家を見に行って、偶然遭遇。
ちょっとスケールがだぶついているかなという予想は当たりましたが
ま、そういう系のデザインなので気にはならず。

ナチスの進軍に対する抵抗の拠点になったそうな。
いかにもそれっぽい。


*ルーフトップ・リモデリング/1989年
 コープ・ヒンメルブラウ/ウィーン/オーストリア

見上げた写真ではほとんど判別できないのですが、
古くからあるビルの傾斜屋根部分を改装=ぶち抜いて
弁護士事務所の執務室、会議室にするというプログラム。

イメージとしては鉄とガラスでできた昆虫が屋根にとまっている感じ。
またいろんなエレメントが飛散した一瞬とでも言えるような浮遊感があります。

比較対象として妹島和世のプラットホーム2が挙げられますが
デザイン完成度はこちらのほうが圧倒的に高く、
初めて写真を見たときは衝撃的でした。

コープ・ヒンメルブラウはオーストリアの2人組建築家で
長らく実作がなく、これが実質上のデビュー作かもしれません。

夢に出てきた造形を描きとめたり、目をつむってスケッチしたりと
いろんな噂はどこまで本当なのでしょうか。


*ハース・ハウス/1990年
 ハンス・ホライン/ウィーン/オーストリア

さて、ハース・ハウスでございます。
ホラインは言わずと知れた、オーストリアを代表する現代建築家で
ウィーンの小規模店舗でデビューするも、実現した大規模建築は
ほとんどが隣国ドイツなどにあり、この建物で母国凱旋する予定でした。

しかしこの建物、ウィーンの歴史商業地区のまさに中心、
シュテファン大聖堂があるシュテファン広場に面していているため、
過激な景観論争に巻き込まれ、ホラインも疲れきったそうな。
言ってみればババを引いた感じで、京都駅ビルの時の原広司と
立場的にはよく似ているように感じます。

実際に見てみると、周囲との調和に腐心している様子がよくわかり、
随分と健闘していると思いますが、毒が売り物のホラインにしては
どうしても物足りない感じが否めません。

自分は今回ここの5,6階のホテルに泊まったのですが、もとはオフィスだったようです。
7階のカフェの一部にホテルのフロントがあり、朝食は8階のレストランでとりました。
にもかかわらず、1-4階の商業施設の入るアトリウムを見忘れてしまいました。
あとで写真で見る限り、まあいいかなと思いましたが、なんたる間抜け。


*レッティ蝋燭店/1965年
 ハンス・ホライン/ウィーン/オーストリア

ホラインのデビュー作です。
古典的建物に埋込まれたアルミの硬質なファサードと2室の小さな店舗。

ここを訪れるのは20年ぶり2回めで、近くのシュリン宝石店2も確認、
新たに逆Pの字型のブティック・クリスタ・メテクを発見しましたが、
シュリン宝石店1はなぜか見当たりませんでした。

20年前の初対面は衝撃的でした。
街角の風景でそこだけ切り取ったような別世界。
アルミの無垢材を切り出したようなそれは
まるで拡大されたプロダクトデザインでした。

聞いたところ、前回訪れた後すぐ蝋燭店は畳まれたそうで、
今は外装そのままで宝石店として使われています。
やっぱり前回、蝋燭買っておくんだったな…。

見た目、ほぼ竣工時の姿は留めていますが、ご丁寧にアルミ製の植木鉢が…。
ホラインは自然と真逆の人工物と意図して店舗をデザインした
と思われるので、これは恐ろしくミスマッチです。
宝石店というより花屋のようになってしまいました。

ただ、今回印象を薄くしたのはそれだけの理由ではなく、
周囲の店舗もこの20年で洗練されてきたことや、
アルミという素材が、建築であたりまえに使われるようになった
ということも、影響を与えていると思います。

ちょっと寂しいですね。


*郵便貯金局/1906年
 オットー・ワグナー/ウィーン/オーストリア

ワグナーはアール・ヌーヴォー(ユーゲント・シュティル)期の建築家ですが、
金属的な素材、造形感覚が特殊で、一様にはくくれない独自のデザイナーである
という点では、後のF.L.ライトと共通する部分があるかもしれません。

初期の作品は壁面の装飾に重点を置いたものが多かったのですが、
20世紀に入ってから、郵便貯金局、シュタインホフの礼拝堂という
建築と装飾、素材が一体化した力作を次々と残しました。

自分が前に訪れた20年前はちょうど休日にあたり、郵便局のなかに
入れなかったので、今回は待ちに待った体験となりました。

エントランスの幅広の階段を上ると、中央にトップライトを設けたガラス張りの天井の
明るい吹き抜けホールがひろがり、その両側には天井高さをおさえたカウンターが
整然と並んでいます。

これは主廊、側廊という教会建築と通じる構成ですが、
とにかく巨大性を求めたそれと違い、思っていたよりも小柄なスケールで
なにより明るく、清潔感さえ漂います。

工業用のリベットを装飾的に多用しているので、A.E.Gのタービン工場のような力強さが
あるのかと思いきや、むしろ工芸的イメージの方が強く、威圧感は全くなかったです。

この郵便局は今も現役で使われていて、とてもきれいに保存されています。
これは100年前の建築ですが、これに限らずオーストリアのひとは近現代建築を尊重してますね。
その取り組みが始まったばかりの日本とはまだ雲泥程の差があるように思いました。






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