『わんこしゃおらん・その3』


(※この先はエグイ表現があります。苦手な人は飛ばしてその4にお進みください。)


















くたくたになったわたしの身体を目に見えない不思議な力が吊り上げる。
『彼』と視線が合う高さにまで待ちあげられる。
『彼』の方がわたしより背が高いからつま先が地面につかない。
ぷらぷらする。
まるでお肉屋さんの倉庫にぶら下げられてるお肉みたいな感じ。

そんなわたしを見る『彼』の頬にまた笑みが浮かぶ。
かすかに開いた口から見える白いあれは・・・・・・牙だ。
犬歯なんてかわいいもんじゃない。
形といい鋭さといい歯って呼べるもんじゃない。
ライオンさんとかの口にあるのとおんなじやつ。
よく見えないけど、奥の方のやつもみんなそうみたい。
歯の代わりに牙が生えてるなんて考えてみたらおかしいはずだけど、『彼』にはよく似合う気がするから不思議。
こんなカッコいいお口には普通の歯なんか生えないんだね。きっと。

『彼』の口がわたしの喉元に近づく。
そしてパックリと大きく開く。
奥に見えたのは予想したとおりの鋭い牙だ。
白く尖った宝石みたいな牙がきれいに並んでる。
やっぱりこうじゃないとね。
開いた口がさらにわたしの喉に近づいて。
ぴったり吸い付く。
そして。

ざくり。
ぞぶ、ぞぶっ。
びちゃ、びちゃっ。
がり、がりっ。
ぷつん。

あまり聞きたくない音と何か赤いものがわたしの喉の近くから跳ね上がる。
しばらくしてから離れた彼の口元は真っ赤だ。
口に入れた何かをくちゃくちゃと咀嚼している。

くちゃくちゃ
くちゃくちゃ
ごっくん。

よく噛んだそれを美味しそうに飲み込む。
それからまたわたしに口を近づける。
今度はお腹だ。
左の脇腹あたり。

ざくっ。
ぞぶりぞぶり。
びちゃりびちゃり。
がりがり。
ぶつん。

お腹から何かが引きちぎられていく感触。
引きちぎったそれを『彼』はわたしに見せつけるようにしてくちゃくちゃとよく噛んでから飲み込む。

うわぁ。
食べてる・・・・・・。
わたしのお肉を食べてる。
とっても美味しそうに。

これがこの夢の本当に怖いところ。
さんざんにひどい目にあわされたあげく、最後にわたしは『彼』のご飯にされてしまう。
文字通り「食べられて」しまう。
『彼』はとっても食いしん坊だ。
お腹も胸も手も足も残さずみ〜〜んな食べられてしまう。

がりがり。
ごりごり。
がりがり。
ごりごり。

骨の一片も残さない。
あのきれいな牙で噛み砕いて残さず飲み込んでしまう。
その間、わたしは何もできない。
声を上げることも体を動かすこともできず、自分の身体が少しずつ齧り取られていくのをただ感じているだけ。
さっきと違って痛くはないんだよね。
そこは救いかな。
これで痛かったらとんでもないことになっちゃうからね。
でも、痛くはないんだけど食べられてるって感触は感じるの。
それもすごくリアルに。
『彼』の牙が身体に食い込んでくるのがはっきり感じられる。
牙の鋭さも舌の感触もすごくよくわかる。
ほ、ほぇぇ〜〜。
心臓を舐められてるよ〜〜。
こんなのってあり〜〜?
あ、食べられちゃった。

『彼』はとっても美味しそうにわたしの身体を食べていく。
わたしちょっと変なのかなあ。
『彼』の美味しそうな顔を見てるとうれしくなっちゃうんだよね。
わたしの身体は美味しいんだって。
ん?
でも、それってひょっとして脂がのってて美味しいとかそんな感じ?
それってわたしがふとっちょさんってこと?
それはちょっとやだなあ。

胸もお腹も手も足も全て食べられて残るのは首だけ。
お腹いっぱいになって満足したのかな。
最後に残ったわたしの首を持ち上げて『彼』は嬉しそうに微笑んでくれる。
この微笑みはさっきまでのと違って、本当に嬉しそうな感じ。

そうだ。
わたしが知ってるのはこの微笑みだ。
すごく嬉しそうなこの瞳。
口元の白くてカッコいい牙。
それに。
ご飯を食べ終わった後にペロッてベロで口元を拭うこの仕草。
やっぱりわたしはこの子を知ってる。
この笑い方。
この目。
この仕草。

そうだ。
これは。
小狼くんと同じ・・・・・・

NEXT・・・


続きます。

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