『わんこしゃおらん・その1』



※注意
本作はパラレルものです。

さくら:高校生の女の子
小狼:さくらに飼われる子犬。でも実は・・・?

という設定です。

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「ただいま小狼くん!」
「わんっ!」
「小狼くん、いい子にしてた?」
「わぅ、わぅわぅ!」
「うんうん。いい子にしてたんだね。小狼くんは本当にいい子だね」

わたし、さくら!
この春から友枝高校でピッカピカの1年生!
ピッカピカの1年生って高校生じゃ言わないのかな。ま、いいよね。
気分の問題だよ。

「わぅっ」

あ、紹介が遅れたね。
この子は小狼くん。
わんちゃんだよ。
どう? とっても可愛いでしょ。
毛並みもつやつやすべすべで撫でるとすっごく気持ちいいんだよ。

「うぅ〜〜」

小狼くんは可愛いって言われるのがすきじゃないみたいだね。
カッコいいって言ってほしいのかな。
よしよし。小狼くんはとってもカッコいいよ。
これはお世辞じゃないよ。小狼くんは本当にとってもカッコいいんだから。
ピンとたったお耳にシッポも、つやつやの毛並みも、きれいなお目目もすっごくカッコいい。
わんちゃんっていうよりオオカミさんみたい。
だから小さい狼って書いて小狼くんなんだよ。
名前もカッコいいでしょ。
まあ、この名前をつけたのはわたしじゃないんだけどね。

「さくら! いつまでも犬っころとじゃれてないでこっちを手伝え!」
「は〜〜い」

そう、名前をつけたのはわたしじゃなくてお兄ちゃんなの。
小狼くんを拾ってきたのもお兄ちゃん。
ある月のきれいな夜に連れて帰ってきたの。
今でもよくおぼえているよ。
小狼くんと初めて会ったあの夜のことは。

「あれ、お兄ちゃん。そのわんちゃん、どうしたの?」
「そこで拾ってきた」
「拾ってきたって。どこかの家の飼い犬じゃないの」
「首輪はしてないから飼い犬じゃないだろ。なんかおれの後をずっとついてきてな。しょうがないから拾ってきた」
「ふ〜〜ん」

今思うとちょっと変だったけどね。
お兄ちゃんはわんちゃんを拾うようなタイプじゃないし、拾ったわんちゃんをそのまま飼いはじめちゃったのもなんかおかしかったし。
名前も拾ってきたときにはもうつけちゃってたし。

「かわいいわんちゃんですね〜〜。よしよし。お名前はなんていうのかな〜〜。あ、まだないのか」
「シャオランだ」
「え?」
「小さな狼でシャオラン。いい名前だろ。そいつにはもったいないな」
「小狼くんか〜〜。カッコいい名前だね、小狼くん」

拾ってきたのも名前を付けたのもお兄ちゃん。
そのわりにはお兄ちゃん、小狼くんのことあんまり好きじゃないみたいなんだよね。
小狼くんもお兄ちゃんのことは好きじゃないみたいだし。
わたしの前ではいい子にしてるんだけど、お兄ちゃんがくるとう〜〜って唸って威嚇しちゃうんだよね。
なんでなのかな〜〜。
わたしはもっと二人に仲よくしてほしいんだけどな〜〜。

「おい、さくら! 早くこい! そんな駄犬ほっとけ!」
「もう、お兄ちゃん。小狼くんは駄犬なんかじゃないよ!」

ほんとにもう。お兄ちゃんてば。
小狼くんは駄犬なんかじゃないよ。
とっても優秀な子なんだから。
さくらの命の恩人だってこと忘れちゃってるの?
ん? この場合、命の恩犬なのかな?
どっちでもいいか。
小狼くんがさくらのこと助けてくれたのは変わらないからね。
前に学校からの帰りが遅くなった時があったんだけど。
近道しようとして暗い道を通っちゃったの。
あそこは危ないからいつもは通らないようにしてたんだけど。
あの日は急いでたんでうっかりしてたんだよね。
そしたら案の定、飛び出してきた車とぶつかっちゃって。
大けがしちゃったの。
車はそのまま行っちゃって誰も通らない道に置き去りになっちゃって。
ほんとに危ないところだったの。
そこに来てくれたのが小狼くん。
小狼くんが倒れてるわたしのところにお兄ちゃんを連れてきてくれたの。
わたしが危ないってどうしてわかったのかなあ。
小狼くんにはちょっと不思議なところがあるんだよね。

「わん! わんわん!」

あぁ、ゴメンね小狼くん。
ちょっと考え事しちゃった。
撫でてあげるから機嫌を直して。
よしよし。
小狼くんは本当に可愛くていい子だね。
さくらは小狼くんが大好きだよ。
特にこのすべすべふっさふさのお腹のあたり。
どう、小狼くん。気持ちいい?

「わぅ!」

そう、よかった。
小狼くんが喜んでくれるとわたしも嬉しいな。
小狼くんをなでなでしてるとわたしも気持ちよくなってくるよ。
本当に。
気持ちよくって。
うとうとしてきちゃう。
本当に・・・・・・。

おっと。
いけない、いけない。
また寝ちゃうところだった。
最近、なんでかしらないけどすぐに眠くなっちゃうんだよね。
今日も気づいたら授業中に眠っちゃってて先生に怒られちゃった。
どうしてなのかなあ。
春眠暁をおぼえずって言うけど、この眠さはちょっとおかしいよ。
本当にすごい眠さなの。
立っててもふいに倒れそうになるくらいに眠くなっちゃうくらい。
なんかおかしな病気なのかなあ。

「わんわん!」

特にこうして小狼くんと遊んでるとすごく眠くなってくるの。
小狼くんが気持ちいいからしょうがないのかもしれないけどね。
ふぁ〜〜。
あ〜〜本当に眠いな〜〜。
また眠っちゃいそう。
ダメダメ。寝ちゃいけない。
だって。
寝たらまたあの夢を見ちゃうから。
あの夢を。
最近、よく見るあの夢。
ものすごく怖い夢。
それなのに。
なんでかな。
わたし、あの夢を見たいって思ってる時がある。
あんなに怖い夢なのに。
怖いだけじゃない。
夢の中でわたしはとってもひどい目にあってる。
夢に出てくる『あの子』にとってもひどいことされちゃう。
あぁ、それなのに。
わたし、あの夢に期待している。
あの子にもっとひどい目にあわせてほしい、そう思ってる。
こんなの変だよ。
わたし、そんな変態さんじゃないよ。
あんな夢、見たいと思っちゃダメなのに。
いけない。
寝ちゃダメ。
あんな夢を見ちゃダメ。
あんな怖い夢を見ちゃダメ。
あんな夢を・・・・・・
ダ・・・メ・・・・・・
寝ちゃダメ・・・・・・
寝ちゃ・・・・・・

すーっ、すーっ
すーっ、すーっ・・・・・・

NEXT・・・・・・


続きます。

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