シ○ルイ
〜〜堀鐔学園御前試合〜〜

第二景 敵討(あだうち)



キャスト
藤木源之助:小狼
伊良子清玄:ファイ
岩本三重:サクラ姫
牛股権左衛門:黒鋼
いく:侑子さん
家老:モコナ

※前回とキャスト、世界観が違うように見えるのは気のせいです

――― 第二景 敵討(あだうち) ―――

ざわざわ―――
ざわざわ―――

集まった町人、百姓は竹矢来で囲まれた一角に熱い視線を注いでいた。
これからこの地で行われる敵討試合の結末を見届けるためである。
士と士が己の全てを賭けて果てるまで試合う。
農民達にとってこれほどの見世物はない。

敵討(あだうち)
それはけっして個人による私闘などではない。
江戸幕藩体制に組み込まれたれっきとした制度である。
士道高揚のため、また士の主従関係を確たるものとするため幕府はこれを奨励した。
仇討たんとする者はその仔細を記して藩のしかるべき奉行に届け出る。
それが一度認められたならば、討人には仇人を討つための如何なる行為をも黙認される。
通常の法の則を超えた行為が許されるのである。
しかし、同時に討人は仇人を討ち果たすその日まで如何なる役儀につくことも許されない。
仇を討つ、それ以外の全てを切り捨てなければならないのだ。
また、仇人には討人を返り討ちにする権利も認められている。
討人、仇人ともに己を退路無き背水へと追い込む、それが敵討である。

そして、今、敵討の場に姿を現したのは二組の男女。
どちらの顔にも尋常ならざる決意が漲っているのが見て取れる。

討ち手の陣幕に佇むのは三人。
真ん中に位置する鉢巻を締めた青年、彼がこの仇討ちの主役であろう。
均衡のとれた秀抜な顔貌ではあるが、その顔からはまだ幼さが抜けきっていない。
剣士と呼ぶよりは少年と呼んだ方が相応しい。
凛とした眼差しとキリリと結ばれた唇から悲壮な覚悟が読み取れる。

その左方にいるのは、この場には似つかわしくない華凛なる少女。
見たものをハッとさせるような美しさと、どこか消え入りそうな儚さを秘めた少女である。
その瞳に少年のそれと同じ厳しさをたたえて対手を見つめている。

少年の右方に位置するのは彼の兄弟子か。
がっしりとした体躯を誇る容貌魁偉の偉丈夫である。
齢は前二者より遥かに上と見ゆる。剣士として最も脂ののった年輪といえよう。
眉間に幾本もの深い溝を刻みつけ、三白眼を見開いて対手を睨みつける。

「おい。オレと小僧の説明、なんか差がねえか? オレだけやけにオッサンくさく書かれてる気がするんだが」
「やだなあ黒鋼さん。気のせいですよ。それに何ていうか。オレ、主人公ですし」
「そうですよ黒鋼さん。この仇討ちはシャオランくんが主役なんですから」
「ちっ・・・・・・。ったく、大体、なんでオレが牛股役なんだよ。普通に考えたらここはオレが藤木役だろうが!」

対する仇人の陣幕に座するのは二人。
一人は妖艶なる美貌をたたえた青年。
討手の少年を「凛」と表現するならばこちらを表す語は「妖」であろう。
見る者の心に妖しいざわめきを浮かばせる美しさだ。
付き従うのはこちらも女性。
年のころ三十路ばかりと見える凄艶な年増女である。

「ちょっとちょっと! なんなのよ、この年増女ってのは!」
「そ、そんなことオレに言われても〜〜。原作にそう書いてあるんだからしょうがないでしょ?」
「だいたい、三十路ってのはなによ! わたしは永遠の二十歳なんだから!」
「それはさすがに無理がないかな〜〜」
「なんですって〜〜!!」
「ぐぇぇぇ〜〜〜、ゆ、侑子さん、くび、首! 首が絞まる〜〜!!」

絡み合う視線。高まる緊張。
それに耐えかねたのか。
憎き仇を睨む少女の口から恨みの言葉が漏れ出る。

「斬って、シャオランくん・・・・・・憎い、憎いファイさんを!」
「おまかせください、姫!」

頼もしき口調で少女に応える少年。
だが、少女の嘆願を耳にした瞬間、その瞳にわずかな翳りが射した。
少年の心には何か迷いの影らしきものがあるようだ。

(こんなアホな劇なのにサクラ姫、ずいぶんと気合の入った演技だなぁ。やけに真に迫ってる気がするんだけど。・・・・・・まさかファイさんに変なことされてました、とかないよね?)

心の水面を揺らす、波とも言えぬかすかな波紋。
常人に気取られることなど有り得ぬわずかな揺らぎ。
だが、仇人は常の男ではない。
少年のかすかな揺らぎを敏感に感じ取ったのか。
すかさず、鋭い舌鋒で少年に先制の撃を浴びせる。

「フフフ、どうしたのかなシャオランくん。サクラちゃんが気になってるみたいだけど」
「べ、別に・・・・・・」
「ほんとうかな? こんなアホな劇なのにサクラ姫、なんであんなに真剣なのかな〜〜とか思ってない?」
「ファイさん!? それはどういう意味ですか! まさかあなた、サクラ姫に何か変なことをしたんじゃ・・・・・・」
「あんまりカワイイんでつまみ食いしちゃった〜〜って言ったらどうする〜〜?」
「なっ・・・・・・? ゆ、許さない! ファイさん、覚悟!!」

怒気を剣気に変えて構える少年。
少年の怒りを揶揄するかの如き妖しい構えをとる青年。

「お前ら! オレを無視して話を進めるんじゃねえ! せっかく和風な舞台なのになんでオレの出番が少ないんだ!」

少年を叱咤激励する兄弟子。
極限にまで張り詰めた緊張の中、仇討ちを仕切る家老モコナ備前守の厳かな声が死合の開始を告げる。

「討人、藤木小狼之助。仇人、伊良子ファイ。ファイに討たれし阿修羅王は小狼之助にとって親も同然の〜〜って、あれ〜〜? そうだったっけ〜〜? ま、いいや。敵討開始〜〜! ぷぅっ!」

元和八年八月一日。
掛川藩の最も熱く長い一日が今、始まろうとしていた―――

続く・・・・・・


前にちょっとブログに書いたやつの修正版です。
侑子さん=本当はかなりのお年=若作り=年増女=いく、という超失礼な発想が元になっています。
しかし、CCさくら&ツバサとシグルイ、両方のファンなどという人が日本全国で何人いることやら・・・・・・

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