シ○ルイ
〜〜堀鐔学園御前試合〜〜

第一景 御前試合



キャスト
藤木源之助:小狼
伊良子清玄:桃矢
岩本三重:さくら
いく:歌帆先生
徳川忠長:エリオル
家老その1:ケルベロス
家老その2:スピネル

――― 第一景 御前試合 ―――

寛永六年九月二十四日。
この日の堀鐔学園運動場は異様なる緊張に包まれていた。
緊張の原因はこの日、堀鐔学園学園長・徳川エリオルを悦ばせるために執り行われる堀鐔学園御前試合である。
居並ぶ生徒達の顔は一様に沈痛であった。
運動場へと向かう教師達の表情は弔辞のそれである。
いずれもみな、学園長・徳川エリオルとその愛妾・侑子の奇異なる嗜好を熟知しているが故のものだ。
あの二人を悦ばせるための試合がただの武芸試合で済むはずがない。
おそらく、いや、確実に凄惨なものとなろう。

(こんな暴挙が許されるものか)
(東京都の例の条例に触れる催しではないのか)

その思いがある。
しかし、この場を逃げる者も、また、学園長に直訴するものもいない。
堀鐔学園において学園長の言葉は絶対。
逆らうことは不可能である。
CLAMPワールドの完成形は少数の変人と多数の常識人によって構成されるのだ。

試合の刻限が近づくにつれ一同の緊張は高まる。
そして、それは

「西方! 藤木小狼之助!」

第一試合の対戦者、藤木小狼之助が試合場に姿を現した瞬間、極限にまで高まった。
じゃすじゃすと白州の砂を踏んで進む小狼之助に一座の者の視線が集中する。
しかし、その視線には通常の武芸者へと向けられるそれとは異なる異分子が混入している。

(う・・・受けだ)
(この男、受けだ。それもヘタレ受け・・・・・・!)

その場に居並ぶ者たち全てが敏感に感じ取ったのだ。
この男は受けだと・・・・・・
キリリと結ばれた唇、強い意思を表す太い眉、そして凛とした瞳。
一見は非の打ち所もない、武芸者のそれに見える。
が、それらはBL道においては受け、それもノンケのヘタレ受けを示すものである。
ノンケのヘタレ受け、それはBL社会のヒエラルキーにおいて最底辺に位置する。
栄えある上覧試合に出場を許される身分ではない。
生徒達の困惑はもっともなものだ。

だが、その困惑は

「東方! 伊良子桃矢!」

小狼之助の対戦者、伊良子桃矢が試合場に姿を見せた時、さらなる驚愕によって塗り潰された。
年の頃は小狼之助よりもやや上であろうか。
少々キツメの眼差し、固く結ばれた唇、端正な容貌と、こちらも一見は見事な武芸者のそれである。
しかし、羽織った純白の道着の背には墨痕淋漓、太い墨字で『妹』の一文字が。

(シ・・・シスコン!)
(シスコンの剣士!)

シスコンとは実の妹へ肉親のそれを超えた愛情を抱く男の蔑称である。
これが社会の最底辺に位置づけられていることは昔も今も変わりはない。

(ヘタレ受けとシスコンの剣士!)
(このような取り組みが!?)

あまりにも予想外な組み合わせに生徒達はざわめく。
そのざわめきに押されてか、陪臣席に座していた教頭・土佐守スピネル衛門は、隣に座する筆頭教頭・朝倉守ケルベロス之助に疑問の声をかけた。

「ケルベロス、この試合はあなたの差配によるものでしたね」
「そうやが」
「血迷いましたか」
「あ〜〜? なにがや」
「ヘタレ受けにシスコン! あのような者達を殿の御前にお出しするとは。しかも、あの東方の男・・・・・・」

スピネルはそこで一旦、言葉を切った。
スピネルの鋭い嗅覚は東方の男、桃矢から漂うわずかな腐臭に気づいていたのだ。
腐臭。
それもこれは・・・・・・『受け』の発する腐臭!
そう、東方の男・桃矢。
この男も『受け』なのだ。
シスコンの上に受けとは稀有なる存在ではあるが、この場においては無用の長物であることは言うまでもない。
そもそも死合とは『攻め』と『受け』が揃って初めて成立する。
受け同士では死合そのものが成り立たないのだ。

「このようなBLと呼ぶに値せぬ見世物でエリオルを悦ばせることができるとでも・・・・・・」
「思っとる! 見るがええ、スッピー! あの二人を!」
「・・・・・・」
「不屈の精神を持った剣士にあっては、己に与えられた過酷なる運命こそその若い闘魂を揺さぶり、ついには・・・・・・まあ、その。早い話、アレや」
「アレとは」
「ほれ、クロウのやつは珍妙なものが大好きやろ? あの二人ならクロウも結構気に入るんやないか?」
「なるほど。それはたしかに」

説得力溢れるケルベロス之助の言葉に大いにうなづくスピネル衛門。

視線を試合場の二人に戻そう。
まなじりが裂けんばかりに睨み合い、虚空に激しい火花を散らす剣士達。
その背後より二人を見守る妖艶な美女と可憐な少女。

「桃矢。しっかりとエリオルを楽しませるのよ。そのためにあなたを育てたのですからね」
「小狼くんとお兄ちゃんはどうしてこう仲が悪いのかな〜〜。この機会に仲良くなってくれるといいんだけど」

絡み合う四つの視線の先に待つものは果たして・・・・・・!?

シスコン兄貴の妄念は妹を堕とすことが出来るのか?

ヘタレ御曹司は意中の少女に告白することが出来るのか?

出来る!

出来るのだ!



七年前!
二人の因縁を知るためには元和八年の遠江国まで時を遡らなければならない。

続く・・・・・・


苦情の類は一切受け付けませんのあしからず。
あと、自分の中では桃矢は『受け』です。
カップリングで書くと、雪兎×桃矢だと思ってます。

戻る