『わんこさくら物語・その1』



※注意
本作はパラレルものです。

さくら:知世に拾われた子犬
知世:高校生の女の子
小狼:知世の同級生。でも実は・・・?

という設定です。

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暖かい陽射しが差し込む気持ちのよい春の朝。
知世ちゃんの1日はさくらを起こすことから始まります。

「さくらちゃん。朝ですわよ。そろそろ起きましょうね」
「わぅぅぅ〜〜(むにゃむにゃ。う〜〜ん、まだ眠いよ〜〜)」
「あらあら。さくらちゃんは寝ぼすけさんですのね。でも、そろそろ起きませんと。もうすぐご飯のお時間ですわ。おっきしましょうね」
「わん!(うん! おはよう、知世ちゃん!)」

さくらはちっちゃい子犬です。
ある雨の日、桜の木の下に捨てられていたのを知世ちゃんが拾ってきたのです。
最初のうちは捨てられた時の寂しさもあったのか泣いてばかりでしたが、今はご覧のようにとっても元気になりました。
それに、知世ちゃんによくなついています。

「わん、わんわん!(知世ちゃん、ごはん、ごはん!)」
「ふふっ、今日も元気いっぱいですのね。待っててくださいな。すぐに用意いたしますわ」
「わん!」

知世ちゃんもさくらをとても大切にしています。
とっても仲良しな一人と一匹です。
あまりの仲の良さに知世ちゃんのお母さんが

「まるで本当の姉妹みたいね」

と洩らしたことがあります。
実の母親の感想としては少しおかしい気もしますが、そう言いたくなるほどに特別ななにかがこの一人と一匹の間にはあるのです。
それほどの仲良しさんなのです。

「さあ、さくらちゃん。召し上がれ」
「わん! わんわん!(うわ〜〜、おいしそう〜〜。いっただっきま〜〜す。ぱくっ! ぱくぱくっ!)」
「そんなに急いで食べるとあぶないですわ。もう少し落ち着いておあがりなさいな」
「もぐもぐ・・・・・・・ん、んん〜〜んぐぐ〜〜!!」
「ほらほら、あんまり急ぐからですよ。そんなに慌てなくてもご飯は逃げたりしませんわ。」
「けほ、けほっ。わぅぅ〜〜(だって〜〜。知世ちゃんの作るごはんとっても美味しいんだもん!)」
「さくらちゃんにそう言っていただけると知世も嬉しいですわ」

ごはんを詰まらせたさくらの背を優しくさすってあげる知世ちゃん。
これまでに幾度も繰り返されてきた二人の優しい時間。
二人だけの特別な時間。

けれど。
今日は少しだけいつもと違うところがあるみたいです。

「・・・・・・?」

さくらを優しく見守っていた知世ちゃんの顔に、ふいにそれまでとは異なる険しいものが浮かんできたのです。
まるで、何かを警戒しているかのように。
知世ちゃんの雰囲気が変わったことにさくらもすぐに気がつきました。

「わぅ?(どうしたの知世ちゃん。何かいた?)」
「いえ、誰かに見られているような気がしたのですが・・・・・・。気のせいでしょうか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

同じ時刻。
あるマンションの一室。

「気づかれたか。意外と鋭いな」

一人の少年が手にした剣を下ろしながら呟きました。
秀麗といってよい顔立ちをしていますが、どこか冷たく近寄り難いものを感じさせる少年です。
足元には奇怪な文字で描かれた魔法陣が広がっています。
その中央にはついさっきまで知世ちゃんとさくらの姿が浮かんでいました。
どうやら、少年はこの魔法陣で知世ちゃんたちを覗き見していたようです。

「クロウの力・・・・・・必ず手に入れる。たとえどんな手を使っても」

暗い決意を秘めた瞳で宣言する少年。
なにやら重大な決心があるようですが、それはあまり良いものであるようには思えません。
この少年、知世ちゃんとさくらに何をするつもりなのでしょうか。

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さて。
その日の夕方。

「大道寺。ちょっといいか」
「あら、李くん。なんの御用でしょうか」

知世ちゃんは帰宅しようと席から立ち上がりかけたところで、同級生の男の子に呼び止められました。
男の子の名は李小狼。
香港からの留学生です。
何気なく返事を返す知世ちゃんですが、内心では少し警戒しています。
正直なところ、知世ちゃんはこの少年にあまりいい印象を持っていません。
ハンサムでスポーツ万能、成績優秀と絵に描いたような理想的な少年で女の子には大人気なのですが、知世ちゃんはこの少年にどこか冷たいものを感じてしまうのです。
まるで仮面を被って本当の自分を隠しているような・・・・・・? そんな気がしてしまうのです。
それに、これまでこの少年と会話を交わしたことは一度もありませんでした。
半年近く同じクラスにいたにもかかわらずです。
偶然、というより彼の方が意図的に自分を避けていたように見えました。
その彼から話しかけてくるとは、どういう風の吹き回しでしょうか。

「いや、なに。ちょっとお前に頼みたいことがあってな」
「なんでしょうか?」
「お前、犬を飼ってるんだってな。たしか、さくらとかいったか。そいつを一晩、貸してもらえないか」
「さくらちゃんを? どうして?」
「いや、なに。実はオレも犬を飼おうかと思ってな。それで、犬を飼うというのがどんなものか、お前の犬を借りて体験してみようかと」
「そうですの・・・・・・」

唐突な頼みごとをしてくる少年に知世ちゃんは疑念の眼差しを向けます。
少年の顔にはもっともらしい笑みが浮かんでいますが、知世ちゃんにはそれが作り物の笑顔であるように見えてなりません。
そもそも、よほどに親しい間柄ならともかく、話したことも無い相手にペットを借りるというのはあまりにも不自然です。
なにか良くないことを考えているとしか思えません。
しかし。

「わかりました。とりあえず、家に帰ってさくらちゃんに相談してみますわ」
「犬に相談するのか?」
「いけませんか」
「やはり・・・・・・いや、なんでもない。いい返事を待ってるぞ」

知世ちゃん、ひとまずは少年の頼みを受け入れてしまうのでした。
いったい、何を考えているのでしょう。

NEXT・・・


本作品はプチオンリーで発表した作品の改訂版になります。
タイトルや設定まで全面的に書き直していますので、プチオンリーで購入された方は比べてみるのもおもしろいかと思います。

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