『出会い』


※注意
本作はパラレルものです。

小狼−高校生
さくら−小狼に拾われた子犬

という設定です。



雨、やまないなあ……
今日は一日中、降りっぱなしだったよ。
そんなにすごく降ってるわけじゃないんだけど。
なかなかやまないんだよね。
そのせいでお散歩にも行けなかったし〜〜。
つまんないなあ。

「やれやれ。今日はよく降るな。夜になってもやまないのか」

小狼くんもちょっとまいってるみたい。
今日は雨のせいでサッカーってやつが出来なかったもんね。
でも、そのおかげで今日は1日小狼くんと一緒にいられたよ。えへへ〜〜。
そこだけはよかったかな?

それにしてもよく降るなあ。
夜になってもぜんぜんやみそうにないよ。
雨っていったい、どこから落ちてくるんだろ。
あんなにいっぱいのお水がお空のどこかにたまってるの?
いつもはお空を見上げでもなんにも見えないけど。
不思議だなあ。

……。
この雨を見てたらなんだか思い出してきちゃった。
あの日のことを。
あの日もこんな雨が降ってたよね。
そう、あの時も夜だったよ。
ね、小狼くん。
おぼえてる?

「どうした、さくら。そんな顔して。お腹でもへったのか」

んん、もう!
そんなんじゃないよ。
あの日のことを思い出してたんだよ。

「それともお散歩に連れていってやらなかったのを怒ってるのか? ごめんな。でも、この雨じゃしょうがないだろう」

そ、それはちょっとあるけど〜〜。
でも、それだけじゃないよ。
思い出してたの。
あの日のことを。
そう、あの日。
あの……

「それにしても。この雨を見てたら思い出したよ。お前とはじめてあったのもこんな雨の日だったな」

そう!
小狼くんとはじめて会ったあの日のことだよ!
うわ〜〜、小狼くんも同じこと考えててくれたんだ〜〜。
やっぱり、さくらと小狼くんは心がつながってるんだね。
さくら、感激!

「さくら。お前はおぼえてるか? あの日のことを。おぼえてるわけないか。お前はなんでもすぐ忘れちゃうから」

がくっ。
む〜〜。
小狼くん、ひどいなあ。
さくらだっておぼえてるもん!
忘れるわけないよ。
小狼くんとはじめて会ったあの時のことは。
そう。
小狼くんがさくらを助けてくれたあの日のことは……

―――――――――――――――――――――――――――――――――

気がついたらそこにいた。
せまい四角い箱の中。
見上げた先には青い空といっぱいの葉っぱ。
おっきな木のそばみたい。
なんでこんなところにいるのかおぼえていない。

「ごめん……ね。うち……ではかえない……の。いいご主人様に見つけて……もらってね」

だれかがなにか言ってたような気もするけど、よくわかんない。
せまい箱っていっても、ちっちゃいわたしには高い壁。
えいっ、えいっってなんどもジャンプしたけど、ぜんぜん上に届かない。
体当たりしても引っ掻いてもダメ。
どうがんばっても出られない。

そんなことをしてたらお腹が空いてきちゃった。
くぅ〜〜ってお腹がなってる。
キョロキョロ見回したらすみっこの方になんか落ちてた。
コロコロした茶色いかたまりみたいのがいくつかある。
いちおう食べものみたい。
あんまりおいしそうじゃなかったけど、お腹が空いちゃったからしょうがない。
ちょっとかじってみた。

カリッ

やっぱりあんまりおいしくない。
でも食べものは食べもの。
お腹が空いてるから夢中になって食べて……すぐになくなっちゃった。
お腹いっぱいになってないのに。
ほかになんかないか探したけどもう、なんにもない。
箱の中にわたしだけ。
あとはなんにもない。
だれもいない。
わん! わん! ってせいいっぱいほえてみたけどダメだった。
だれもなにも言ってくれない。
まわりには誰もいないのかな。
なんかさみしくなっちゃった。

わたし、なんでこんなとこにいるんだろう。
ここはどこなんだろう。
いつまでここにいればいいのかな。
待ってたらだれか来てくれるのかな。
うん、そうだ。
きっと、待ってたら“ごしゅじんさま”っていうひとがむかえに来てくれるんだ。
いい子にして待ってなきゃ。
いつまで待ってたらいいのかな。
まだかな。
もうすぐかな。
そう思ってずっと、お空と葉っぱを見てたよ。
だって、他にすることなんにもないんだもん。

でも。
いつまで待ってもだれもきてくれない。
もう、お空がくらくなってきてる。
なのにだれもきてくれない。
そのうち。

「きゃぅ?」

お空からつめたいのが落ちてきたよ。
あのときはわからなかったけど、雨が降ってきたんだね。
つめたいのがお空からたくさん落ちてくる。
あわてて逃げようとしたけれど、逃げるところなんかどこにもない。
つめたいのはどんどん降ってきて。
あっという間にずぶぬれになっちゃった。

つめたいよ。
さむいよ。
お腹、へったよ……

あの時はほんとにかなしかったよ。
さむいし、お腹はへっちゃうし。
でも、それよりもっとかなしかったのは、だれも来てくれなかったこと。
ちっちゃい箱の中に一人っきり。
ずっとこのままなのかな。
どんなに待ってもだれも来てくれないのかな。
それが、すごくかなしかったの。

「きゅぅぅぅん……」

もう、お空を見上げる元気もなくて。
箱の中でぶるぶるふるえてたよ。
わたし、このままだれもいないところでなくなっちゃうの?
やだよ!
こんなところで、なくなりたくないよ!
そう思ってももう、うごく元気もない。
声もでない。
こんなのいや。
このままなくなっちゃうなんていや。
たすけて。
だれか、たすけて……
だれか……

―――――――――――――――――――――――――――――――――

それからどれくらいたったころなのかな。

「こんなところに捨て犬?」

上から声が聞こえてきたのは。
声の方に顔を向けたわたしが見たのは。
きれいな大きな二つのお目目。
やさしそうな男の子の顔。
このひとなのかな。
わたしが待ってたひとは。
このひとが“ごしゅじんさま”なのかな。
うん、きっとそうだ。
だって、こんなにやさしそうなお顔してるもん。
やっとむかえに来てくれたんだね。
そうだよね。
いい子で待ってたもん。
うれしい……

わたしがおぼえてるのはここまで。
そのあとのことはおぼえてないの。
安心しちゃったからかなあ。
さくら、そこでねちゃったみたいなの。

気がついたら、なんかうごいてるところだった。
あったかぁい……
とってもあったかいものにつつまれてる。
むにゃむにゃしながら顔を上げたらさっきのお顔が見えた。
わたし、だっこされてるみたい。
ここはどこかな、と思ってまわりを見たけどよくわかんなかった。
でも、さっきの箱の中じゃないのはまちがいないね。
やっぱり、このひとがわたしの待ってたひとなんだ。
うれしいな。
だって、とってもやさしそうなんだもん。
やさしくて、とってもあったかい。
ほんとにあったかかったんだよ。あのときは。
こう、なんていうのかなあ。
あったかいのがからだの中にながれてくるみたいなの。
それがとっても気持ちよくって。
さくら、またねちゃった。
さくら、ねてばっかり?
でも、しょうがないよ。
あのときはほんとうに気持ちよかったんだもん。

今もそうだけど。
小狼くんのだっこはほんとうに気持ちいいんだよ。

NEXT……


ワンコさくら物語、出会い編でした。
以前にも書きましたが、このシリーズはかけるんworldの翔様の「さくらいぬ」シリーズをもとにしています。

いぬであっていぬでなし
ひとであってひとでなし
そんな不思議な生き物
それがさくらいぬ

だそうです。
翔様はさくらと小狼の出会いを描いた「いちばんさいしょ」「それからのおはなし」という同人誌を出されていました。
かなり最初のころに買ったさくらの同人誌で、自分がこういうお話を書くようになったのもこの本の影響が大きい気がしています。
翔様の本をお持ちの方がいらっしゃいましたら、今回のお話と比べてみるのも面白いかと思います。

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