『お兄様へ 5』


(※この先は完全に「男性視点」のR18指定でかなりエグイ表現があります。
苦手な方と18歳未満の方はご遠慮ください)



こんな中でもがんばってこれたのは学校のみんながいたから。
こっちでもちゃんと学校には行かせてもらえてたよ。
その辺はやっぱりきちんとしているのかな。
学校ではいっぱい友達ができたよ。

「おはよう!」
「おはよう、さくらちゃん」
「おはよう、利佳ちゃん」
「さくらちゃんは今日も元気ね」
「うん!それだけがわたしのとりえだからね」

千春ちゃん、利佳ちゃん、奈緒子ちゃん、素敵な友達がいっぱい出来たんだよ。
そして。

「おはようございますさくらちゃん」
「知世ちゃん! おはよう!」
「ほほ、さくらちゃんは今日も元気ですのね」
「う〜〜ん、なんかみんなにそう言われるなあ。わたしって、そんなに変かな?」
「おほほ、そんなことはありませんわ。元気こそがさくらちゃんのいいところですから」
「へへ、そうかな」

知世ちゃん。
わたしの一番のお友だち。
こっちの学校に来て最初にできたお友達なの。
知世ちゃんはわたしと違って、いいところのお嬢さんなんだけどね。
でも、そんなの全然気にしないでわたしとお友達になってくれたよ。
みんな素敵なお友だちだけど、知世ちゃんはその中でも一番のお友だち。
この素敵なお友達がいればわたしもがんばっていける。
そう思ってたよ。

その日、わたしは小狼様に呼び出された。
小狼様のお呼び出しはいつものことだけど、今日はまだ時間が早い。
さすがにそういうことにはならないかな、と思ってた。
傍若無人な小狼様だけど、そういうところはわりとしっかりしているから。
でも、それならなんの用だろうとも思った。

「お呼びでしょうか、小狼様」
「ああ、さくら。今日は“せり”がある。お前にもつきあってもらうぞ」
「せり、ですか?」
「そうだ。とっとと支度をしろ」
「はい。え……きゃぁ!」

そこに現れたのはいつぞやのメイドたち。
どこからともなく現れ、わたしの服をひょいひょいと剥ぎ取っていく。
そこは前と同じだけと、今日はその先が違う。
服を剥いだ後に今度は新しいお洋服を着せられていく。
今まで見たことのない、一目でかなり高級品とわかるお洋服だ。
このお屋敷で支給されるお洋服はどれもかなり手のかかったものだけど、それとも違う。
きれいなお洋服で飾られた後に、うっすらとお化粧までされた。

「ふむ。なかなかの出来だ。これならあそこでも十分に目を引けるな」
「あ、あの、小狼様。これは」

今まで着たことのない高給なお洋服にお化粧までされて。
こんなに着飾られたことなんてなかった。
小狼様も満足しているみたい。
とっても綺麗で素敵な衣装だとは思うんだけど。
なんていうのかな。
なんか違和感がある。
なんていうか。
まるで人に見せるために着飾られているような。
お人形さんを着飾るようなというか、ううん、それとも違う。
そう、『商品』の見栄えをよくするためのお化粧、そんな感じ。

「これならいいだろう。よし、行くぞ」
「は、はい」

そのままわけもわからず、小狼様に連れられて出かけることになった。
移動は李家御用達のリムジン。
何度か見たことはあったけど、乗ったことは一度もない。
それはあたり前か。
わたしなんかが乗れる車じゃないからね。
そんな車に乗せられて到着したところはホテル。
これも名前はよく聞くけど、もちろん入ったことなんか一度もない高級ホテル。

「まだ集まってはいないようだな」
「あ、あの、小狼様。こんなところで一体、何を?」
「どうした。しゃんとしないか。お前の一世一代の晴れ舞台だぞ」
「は、はあ」

そう言われてもなんのことだか全くわからない。
ただ、どうやら何かの催し物があるらしいことはわかる。
他にも高級そうな車が何台も来ていて、これも高級とわかる衣装を着た人たちが出てくる。
年齢はけっこう高めの人が多いように見える。
小狼様くらいに若い人はあまり見かけない。
おそらく、いずれも高い地位にある人たちなのだろう。
単に高級な服を着ているというだけじゃない、威厳のようなものを感じる人たちだ。

入り口から入り、いくつかの通路を抜けた先の一角で小狼様はなにかの手続きをはじめた。
この催し物に参加するための手続きだろうか。
それが終わると言われた。

「よし、これで手続きは終わりだ。お前の入り口はあっちだ」

小狼様の指差す先に入り口らしき扉が見える。
こんな高級なホテルにしてはやけに貧相に見える入り口だ。
その先はよく見えない。

「え、あの」
「しっかりやってこいよ。お前の売値がどうつくか楽しみしてるぞ」
「は、はい」

ここまできても全くなんのことかもわからず、それでもわたしは小狼様の示す入り口へと向かった。
入った先は薄暗い部屋だった。
かなりの広さがあるけどがらんとして何の調度もおいてない。
どこか異様で不気味な雰囲気がある。
こんな高級ホテルにあるとは思えないような部屋だ。
部屋にはわたしの他にも何人かがいるらしかった。
いずれもわたしと同じくらいの年の女の子だ。
わたしと同じように着飾られている。
これもわたしと同じように人形、いや商品のような着飾られ方だ。
そんな女の子たちが何人も並べられている。
それこそ『商品』のように。
その時だ。

「さくらちゃん! どうして……」

わたしを呼ぶ声があったのは。
驚いて目をやった先にいたのは。

「利佳ちゃん!?」

利佳ちゃんだった。
わたしと同じように高級そうなお洋服を着せられている。

「利佳ちゃん……さくらちゃん……」

それだけじゃない。

「千春ちゃん!」

千春ちゃんまでいた。
わたしと利佳ちゃんと同じように着飾られた千春ちゃんが。

「どうして二人が。いったい、ここはなんなの?」
「さくらちゃん……そっか。さくらちゃんはなにも知らないで連れてこられたんだね」
「知らないって。なんなの」
「さくらちゃん……」

そこでわたしは気がついた。
この部屋は見渡す限りなんにもない、四方もなんの飾りもない壁があるだけだけど、その上は広いガラス張りになっている。
その先にいるのはあの地位の高そうな人たちだった。
葉巻を、ワイングラスを手にまるで品定めをするような好奇の目をこちらに向けている。
いや、するようなじゃない。
品定めをしているんだ。
わたしたちの!

ここまできてようやくわたしは小狼様の言う“せり”がなんなのかを理解できた。
競り、だ。
競売だ。
ここは……女の子達を競り売るための奴隷市場なんだ!
そして、わたしも、いや、わたしだけじゃない。
利佳ちゃんも千春ちゃんもわたしと同じように『商品』として連れてこられたんだ。
それはつまり。
利佳ちゃんも……千春ちゃんも……わたしと同じ……

愕然としてあげた視線の先に小狼様がいた。
グラスを片手に談笑しているようだ。
その相手も見える。そしてその顔に見覚えがある。
一人は小狼様と同年代の方。
あれはたしか千春ちゃんが持っていた写真に写っていた方だ。
写真を見せてもらった時の千春ちゃんの恥ずかしそうな顔から千春ちゃんが好きな人なのかと思ったけれど。
もう一人は小狼様よりも少し年が上の男の人。
こちらの方も見覚えがある。
利佳ちゃんのスマホの待ちうけ画像になっていた人だ。
利佳ちゃんはその方に憧れているような素振りを見せていたんだけど。
あそこにいるということはあの人たちも小狼様と同じ人たちということ。
それはつまり。
利佳ちゃんも千春ちゃんもあの人たちのオモチャ……

驚愕はこれで終わりではなかった。
わたしの視界の中にもう一人の登場人物が現れたのだ。
ここにいるはずのない人が。
それは……知世ちゃんだった。

優雅なお洋服を着こなしたその姿はあきらかにわたしたちとは違う。
人に媚を売るための下劣な商品じゃない。
その人を輝かせるための衣装だ。
その立ち振る舞い、仕草、雰囲気、全てが違う。
小狼様と同じ世界にいる人のそれだ。

「これは大道寺のご令嬢」
「お久しぶりですわ」
「このようなところにお出ましとは珍しいですね。なにか気になる商品でもありましたか」
「ええ。今回は面白いものが見れると伺っていましたので」
「ほう。で、どうですか」
「ふふっ、そうですわね。とっても面白いですわ」

聞こえるはずのない会話が聞こえることをわたしは全く不思議に思わなかった。
それくらいは小狼様にとってなんでもない。
そして、これは同時に小狼様がわたしと知世ちゃんのことを知っていたということを意味している。
面白いものが見れると知世ちゃんに伝えたのは小狼様なのではないか。
いや、多分。
今回のこれ自体が知世ちゃんに見せるための催しものだったんだ。
惨めな商品に落ちぶれたわたしたちを知世ちゃんに見せるための……
面白いものと言いながらわたしを見た知世ちゃんの目を忘れることはないだろう。
あの目……。
養豚場の豚でも見るかのように冷たい蔑みの瞳。
いつも優しくわたしを見守ってくれると信じていた知世ちゃんのあの瞳を……

大切な素敵なわたしのお友達。
わたしを支えてくれていると信じていたお友達。
それが粉々に砕かれたこの瞬間。
それはこれまで受けたどんな辱めよりも強くわたしを打ちのめしたのかもしれない。

その後のことはもうほとんど覚えていない。
ただ、結局わたしは売られることはなかった。
1時間ほど過ぎたころに係りの人に小狼様のもとへと連れられ、そのまま帰宅した。
帰った後、当然のように小狼様はわたしを抱いた。

「今回はなかなかの出物が揃っていたみたいだったがな。その中でもお前の人気は一番だったぞ。くく、おれも鼻が高くなるというものだ」
「あ、はい……あ、ありがとうございます……」
「どうした、さくら。売り飛ばされなくてほっとしたか」
「あ、そんな……」

その通りだ。
大切なお友達が自分と同じ惨めな境遇に落ちていたことよりも、知世ちゃんに蔑みの目で見られたことよりも。
小狼様のお傍においていただける、それを悦ぶ卑しいわたしがいた……

NEXT……


あ…あの女の目… 養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ。
『かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね』ってかんじの!

知世ちゃんがしそうな目。

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