『お薬?(パラレル版・裏)』
そしてさくらの意識は深い闇に堕ちていった・・・
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「!?」
どれくらい時間がたったのか。
さくらは目を覚ました。
だが様子が変だ。
ここはどこなのか?
さっきまでいた小狼の部屋ではないようだ。
真っ暗で何も見えない。
コンクリの床の上で仰向けにされている。
起き上がろうとしたが腕が固定されていて動かせない。
腕だけではない。
足も床に固定されている。
大の字にされて床に張り付けられてしまっている。
しかも全裸だ。
体に何もまとっていない。
胸の上に「星の鍵」が置かれているだけだ。
いや、それも何かおかしい。
(!?星の鍵が透けてる?)
星の鍵が半透明になっている。
半透明、というより消滅しかかっているように見える。
かつて魔力が足りずに雪兎が消滅しかかっているのを見たことがあるが、あの時の雪兎と同じ状況のようだ。
あわてて左右を見回すと自分のいる床の上に何か光るものが見えた。
何か幾何学的な線と見たことのない文字。
(これ・・・魔方陣?)
クロウのものとも自分のものとも違う、どこか歪で禍々しい魔方陣。
その魔方陣の光がまるで脈動するかのように明滅している。
そして魔方陣が脈動する度に星の鍵が薄くなっていく。
それに気づいた時、さくらはこの魔方陣が何をしているのか理解した。
(この魔方陣、わたしの魔力を吸い取ってる!?)
魔方陣がさくらの魔力を吸収しているのだ。
魔力が吸収されるに従って星の鍵の影が薄くなっていく。
このままではさくらの魔力は全て吸い取られ、星の鍵も消滅してしまう。
星の鍵が消えたらカードたちも・・・!?
「誰か、誰かいないの!小狼!小狼、助けて!」
恐怖に捉われて叫び声を上げると、闇の中から声をかけられた。
「ようやく目が覚めたか」
「小狼!そこにいるの!?助けて小狼!・・・小狼?」
首を動かして声のした方を見るとそこに小狼が立っていた。
だが、それは本当に小狼なのか?
姿はたしかに小狼のものだ。
さくらより遙かに高い背も、端正な顔も、整った眉も、鋭い目もいつもと同じだ。
外見はいつもの小狼と何一つ変わらない。
だが違う。
その雰囲気、全身から発する禍々しい気配。
何よりもさくらを見つめる冷たい瞳。
さくらの知る小狼のものではない。
それに小狼の魔力もいつもと何か違う。
小狼から感じるこの魔力は・・・自分の魔力?
「まさか・・・わたしの魔力を吸い取ってるのは小狼なの?どうして・・・?」
さくらの問いかけにも何の返事も返さない。
無言で魔力を吸われるさくらを見つめている。
ドクン、ドクン・・・
そうこうしている間にも魔方陣は不気味な脈動とともに魔力を吸収していく。
そして、ついにさくらの魔力は最後のひとしずくまで魔方陣に吸収されてしまい星の鍵は消滅した。
同時に小狼の掌の中に月の形を模した新しい鍵が浮かび上がる。
「これでお前の魔力も鍵もオレのものだ。カード達もな」
「小狼・・・今までわたしを助けてくれたのはこのためだったの?・・・わたしの魔力とカードを手に入れるためだったの・・・?」
最初からそれが目的だったのか・・・?
カードを捕まえるのを助けてきたのも。
カードを生まれ変わらせるのを手伝ってきたのも。
『好きだ』と言ってくれたのも・・・
最後に自分が魔力とカードを奪うためのお芝居だったのか・・・
考えてみれば当然のことかも知れない。
伝説の魔術師クロウ・リードの残したカード。
李家にとってその価値は計り知れない重みを持つ。絶対に他者の手に渡せないものだ。
それを手に入れるためならばどんなことでもするだろう。
異国の少女を欺くことなど何とも思うまい。
絶大な魔力を持つさくらにカードを集めさせ、最後に魔力もろともカードを奪う。
さくらが考えても実に合理的で無駄の無い手段だ。
そんな小狼の前で無抵抗な姿を晒せばこうされるのは当たり前だ。
ほとんどのカードを変え終わった今、さくらはもう『用済み』と判断されたのだろう。
自分はそれに気づかず、ずっと茶番を演じていたのか
『好きだ』という小狼の言葉に有頂天になって・・・
魔力を失ったことよりも、カードを奪われたことよりも
『小狼は自分のことをなんとも思っていなかった』
ことにさくらは打ちのめされた。
「わたしのこと好きだって言ってくれたのはウソだったの?小狼が欲しかったのはわたしじゃなくて魔力とカードだったの・・・?答えてよ小狼・・・」
泣きながらそう問い質したことに特に意味はない。
答えはわかりきっている。
冷酷な現実を突きつけられて絶望を深くするだけだ。
そうわかっていても聞かずにはいられなかった。
だが、小狼の答えはさくらの予想とは違った。
「ウソじゃない。さくらが好きだ。オレが欲しいのは魔力でもカードでもない。さくらだけだ」
「!?だったら・・・どうしてこんなことするの?」
さくらが聞き返すと小狼は呻くような声でそれに答えた。
「オレは・・・カード達が憎かった。カード達だけじゃない。ケルベロスも月もそうだ。ずっとあいつらが憎かった」
「カードさん達が?どうして・・・」
「オレがお前の傍にいるのにどんな苦労をしていると思う?母上や一族の者を納得させるためにどれほどの事をしているかわかるか?なのにあいつらは『カードの主だから』『カードの守護者だから』ただそれだけの理由でお前の傍にいられる。しかもオレよりもずっと近くに」
小狼の声にはゾッとするような暗い情熱がこもっている。
「それがずっと妬ましかった。だからお前から魔力とカードを奪った。いや、違うな」
言いながらさくらににじり寄る。
もはやその目には狂気としか言いようのない光が宿っている。
尋常でない決意を秘めた光が。
「オレはあいつらからさくらを奪ったんだ。お前はもうあいつらを気にしなくていい。お前はオレだけ見てればいいんだ」
「小狼・・・」
「さくら・・・なんであの紅茶を飲んだんだ。お前があれを飲まなければ・・・冗談ですますつもりだったのに・・・今まで通り『優しい小狼』を演じていられたのに・・・」
「わたしは・・・んふぅっ!!」
貪るような口づけ。
荒々しい愛撫。
そして・・・下腹を貫く未経験の激痛。
さくらは悟った。
今まで大切にしてきたものを全て失ってしまったと。
すべて・・・
NEXT・・・