『涙(狼)』


(※この先、R指定なので苦手な方はご遠慮ください)



















「い・・・や・・・・・・」

さくらが泣いている。
二度と泣かせないと誓ったはずのさくらが。
泣いている。
苦悶の涙を流している。
オレの下で。
オレに貫かれながら。


さくらを傷つけない。
その誓いはこうしてさくらを抱いている時にも変わらない。
オレにとってセックスはさくらを悦ばせるためのもので、決して自分の欲望を満たすための行為ではない。
さくらを怖がらせないよう、傷つけないよういつも細心の注意を払ってきた。
でも、今日だけはダメだ。
満月の夜だけは。

オレの魔力の源は月。
それゆえ月の満ち欠けによって魔力が増減する。
新月の日にもっとも低下し満月の日に最大となる。
そして、満月の夜は最高潮となった魔力の影響を受けて精神も身体も異常に昂ぶる。
この魔力を思うままに解放したい。
目の前の全てを破壊してしまいたい。
邪悪な欲望に取り憑かれる。

それは何があっても守ると誓ったさくらに対しても変わらない。
いや、むしろさくらこそがこの欲望の対象になる。
さくらを滅茶苦茶に壊してしまいたい。
あの白い身体を心ゆくまで蹂躙したい。
あの無垢な心を下衆な欲望で塗りつぶしてしまいたい。
守ると誓ったからこそ、何よりも大切なものだからこそ自分の手で完膚なきまで破壊してしまいたい。
矛盾した想い。

さくらを守りたい。
さくらを守るためにもっと強くなりたい。
もっと強い魔力が欲しい。
そうして強くなった魔力が欲望を強くする。
守るための力が、守る対象を傷つけることを求める。
この矛盾。

だから満月の日は極力さくらに会わないように努めていた。
さくらを前にして自分の欲望を抑えられる自信がない。
さくらを守るために何かと理由をつけてさくらを避けていた。

それなのに。


――――――――――――――――――――――――――――――


「えへへ、来ちゃった」

1日、なんとかさくらに会わずにすんだ、とホッとしていたらふいにさくらの訪問を受けた。
夜ももう遅い。こんな時間にやって来るとは思っていなかった。

「さくら!どうしてこんな時間に」
「だって今日は1日、全然小狼くんと話せなかったんだもん。少しお話したいなって思って」
「だからってこんな時間に来なくてもいいだろう。帰れ!」

キツイ口調で帰宅を促す。
いつもだったら絶対にこんな態度はとらない。
オレの何気ない言葉の一つ一つにさくらは敏感に反応するからだ。
だからこんな突き放すような言葉は使わない。
でも、今はマズイ。
さくらを目にしただけで自分の中で欲望が膨れ上がってきているのがわかる。
これ以上、さくらと一緒にいたら自分がどうなってしまうかわからない。
なんとしてもさくらを帰さなければ。

だけど、そんなオレの思いはさくらには通じていないようだ。

「いや!帰らない!」
「何を言ってるんだ。もう女の子が外に出てていい時間じゃない。帰るんだ」
「いや!小狼くん、わたしを避けてる!何か隠し事してる。それを教えてくれるまで帰らない!」
「隠し事?なんのことだ。そんなのは何も無い。帰れ!」

まずい。
こうしてさくらと話している間にも欲望が強くなってきている。
もう抑えきれない。
早くさくらを帰さないと。
なのに。

「どうして・・・どうしてわたしに何も相談してくれないの?」

さくらはオレにとりすがりながら懇願する。
本当にまずい。
手が触れた部分が熱くなってくる。
さくらの体温を感じて自分の中の獣が荒れ狂うのを感じる。
これ以上はもう抑えられない。

「わたしじゃダメなの?わたしじゃ小狼くんの助けになれないの?」

違う!そうじゃない!でも今だけはダメだ。
もう言葉を発するのも辛いほどに欲望が昂進している!
だが返事を返さないオレの態度を拒絶と受け取ったのか、さくらの目にうっすらと涙が浮んだ。

またか。
また、オレはさくらを泣かせてしまうのか。
二度と泣かせないと誓ったはずなのに。
オレはさくらを泣かせることしかできない男なのか。
だったら・・・

そう考えた瞬間、オレの中で何かが切れた。

「小狼くん?え、なに・・・きゃっ!」

気がついたらさくらを押し倒していた
荒々しくさくらの服を剥ぎ取る。
抵抗しようとしたさくらの手を押さえつけ、唇を奪う。
必死で逃れようとするさくらの頭を掴み、さらに深く貪る。
いつもとは全く違うキス。

ここまできてようやくさくらも気づいたようだ。
目の前にいるのがいつもの「優しい小狼くん」ではないことに。
怯えた瞳でオレを見返す。
いつも強い意志を秘めて輝いている瞳が、捕獲された小動物のように震えている。
その瞳を見た時、オレは一瞬だけ我に返った。

なにをやっているんだオレは!
さくらにこんな目をさせて。

「さくら・・・魔法だ・・・魔法を使え・・・」
「小狼くん!?」
「早くしろ、さくら・・・今のオレはお前に何をするかわからない・・・『風』だ・・・『風』でオレを縛るんだ。早くしろ!」

そう言われてさくらの手が魔法の鍵に伸びる。
そうだ、早くしろ。
オレがオレを抑えているうちに。

が、一旦は魔法の鍵を握ったさくらの手は、魔力を解放することなくそれを手放してしまった。

「なにをやってるんだ、さくら!早くしろ!」
「できないよ、そんなこと!小狼くんが苦しんでるのに」
「今のオレはいつものオレじゃない!お前を傷つける・・・だから、早く魔法で・・・」
「小狼くんは小狼くんだよ!どんな小狼くんも、わたしが好きになった小狼くんだよ!」
「さくら・・・ばか・・・」

そこまでが限界だった。
オレは自分の全てを欲望に明け渡してしまった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「う・・・あ・・・」

さくらが苦しげに呻いている。
その体にオレが吐き出した欲望の残滓がへばりついている。
どれだけ時間がたったのか。
幾度、さくらの中に精を放ったのか。
己の欲望を満たすためだけの行為をどれだけさくらに強制したのか。
それすら憶えていない。

わかっている。
明日の朝、正気に戻った自分がどんな醜態を晒すのか。
どんなミジメな思いをするのか。
きっと、見るに耐えないような無様で滑稽な姿でさくらに許しを請うのだろう。
涙すら流しながらオレを嫌いにならないでくれ、許してくれと請い続けるだろう。

わかっている。
でも止められない。
それにもう一つわかっていることがある。

さくらはそんなオレを何も言わずに許してくれる。
傷ついてボロボロになった自分のことなど何も省みずにオレを抱きしめてくれる。
そして優しく微笑みながら

「わたしは大丈夫だから。小狼くんを嫌いになったりしないよ」

そう言ってくれる。
それもわかっている。
それに自分は甘えている。
それでも・・・それでも止められない。
この欲望を。


――――――――――――――――――――――――――――――


「小狼・・・く・・・ん・・・もう・・・」

さくらの頬を涙が流れる。
おそらく悦びではなく苦悶の涙。
そんな涙でもこいつの涙はキレイだ。
だが、今のオレにはその涙すら欲望の対象だ。
さくらの頬を流れる涙を舌で拭い取る。
甘い。
しょっぱいはずの涙がオレの舌にはなによりも甘く感じる。
その甘さが欲望をさらに加速させる。

「さくら。お前が悪いんだ。お前が・・・お前の存在がオレを狂わせるんだ・・・」
「しゃお・・・らん・・・くん・・・・・・」

さくら。
お前は誰にも傷つけさせない。
誰にも泣かせない。
『他の誰か』には。

お前を傷つけていいのは、お前を泣かせていいのはオレだけだ。
だから泣いてくれさくら。
オレの前だけで
オレのためだけに

END


他のサイト様の年齢制限ありページに触発されて書きました。
皆様、なかなか激しいものを書かれておられるので自分でもどこまで書けるかチャレンジしてみました。
「お前を泣かせていいのはオレだけ〜」は桃矢の台詞、「こいつで遊んでいいのはおれだけだ」の変形です。
高校生の兄が小学生の妹に対して言う台詞としてはヤバすぎる気がします。
NHKでこんな台詞本当に放映したんでしょうか。。。?

この話、最初に書いた時は小狼が狂気に走りすぎてしまったので少しマイルドな方向に修正しました。
小狼が狂気でも大丈夫という方は初期版もご覧ください。

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