『月の輝く夜に』


(※この先はR18指定です。苦手な方と18歳未満の方はご遠慮ください)


















小狼くんはとても優しい。
小狼くんと「恋人同士」になってからずいぶん経つけど、小狼くんに辛くされたことなんか一度もない。
それは体を重ねる時だってそう。
初めて小狼くんに身をまかせたあの時からこれまで、痛いことをされたことなんか一度もない。
これってけっこう珍しいことみたい。
男の子って興奮するとどうしても乱暴になっちゃうんだって。
あの山崎くんでも時々、痛いことをしてくるって千春ちゃんに聞かされたもの。
それに比べると小狼くんは本当に優しい。
いつだって小狼くんはわたしのことをとても大切に扱ってくれる。
まるで大事な宝物みたいに。

だけど。
空に月が赤く輝く夜、小狼くんは変わる。
優しい王子さまから残酷で残忍で凶悪なオオカミに変わる。
そしてわたしも変わる。
世界でたった一人のカードキャプターから無力な子羊に変わる。
皮を剥ぎとられ、肉を貪られてすすり泣くだけの哀れな子羊に変わる・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

二人だけの部屋でキスをする。
最初は唇が触れるだけのキス。
次いでお互いの舌を絡めあわせる恋人同士のキス。
その後、洋服を脱がされる。
1枚、1枚丁寧に脱がされていく。
身を守るものを少しずつ剥ぎとられていくみたいでちょっと緊張する。
これにはいつまでたっても慣れない。
多分、ずっと慣れないと思う。
最後の1枚まで脱がされて生まれたままの姿になったわたしを小狼くんはベッドに運ぶ。
初めて会った時は背の高さも体の大きさも同じくらいだったと思うけど、今はもう全然違う。
わたしの身体をまるで重さのない人形みたいに軽々と持ち上げてベッドの上に横たえる。
横になったわたしに上からもう一度キス。
ここまではいつもの夜と同じだ。

違うのはここから。
小狼くんの手がわたしの体をまさぐりはじめる。
でも、その動きは女の人を愛するための動きじゃない。
指先が何かの文字を書くようにわたしの肌の上をなぞっていく。
それも胸とかお尻とかじゃなくて二の腕や太ももの上をなぞっていく。
そして、小狼くんの指がなぞったところには黒い墨のようなものが浮かび上がってくる。
何度も指がなぞるうちにそれは黒い文字の連なりになってわたしの肌を侵食していく。
文字が濃くなる度に手足から力が抜けていく。
力が入らない。手が動かせない。
この文字は呪文だ。
人の動きを封じるための呪文なんだ。
これが完成したらわたしは身動き一つできなくなっちゃう。

「小狼くん? なにをやってるの、これ。ねえ、小狼く・・・・・・」

そこでわたしの抗議の声は消えてしまう。
小狼くんの目を見てしまったからだ。
銀色に輝く瞳を。
これはユエさんと同じ瞳。
月の魔力に支配された者の目だ。
この目になった小狼くんには何を言っても無駄だ。
わたしを宝物みたいに大事にしてくれる小狼くんはもういない。
目の前にいるのは月の狂気に取り憑かれた悪魔だ。
わたしに残された選択肢はただ黙って耐えることだけ。
この悪魔の残酷な責めに。

目を閉じて口をつぐむ。
悪魔の責めに反応しないためだ。
抵抗しても無駄。それはもうわかっている。
ならばせめて悪魔の責めに反応しない、屈しない。
それだけが今のわたしにできる唯一の意思表示。

けれど。
そんなわたしの覚悟も無駄に終わる。
そんなの当たり前。
だって、わたしの体は小狼くんの手で開発されたものだもの。
どこが敏感でどこをどう触ればどんな声をあげるのか。
わたし本人よりも小狼くんの方がよく知ってる。

「くぅぅ・・・・・・」

抑えようとしてもダメ。
乳房を軽く撫でられただけでもう声が漏れちゃう。
心よりも先に体の方が反応してしまう。
胸の先っぽを軽く摘み上げられた時はあやうくそれだけでイッてしまいそうになった。

「んんっっ!」

必死になって耐えるわたしを小狼くんは楽しそうに見下ろす。
優しさなんかひとかけらもない悪魔の顔だ。
きっと、抵抗できない獲物を弄る方法でも考えてるんだろう。
その顔に向かって抗議の視線を送る。
こんないやらしい責めになんか負けない、という意思表示のつもりだった。
それに対する返礼はすぐにきた。

「ひっ? ひぃっ!」

胸の先端から強烈な刺激が走る。
小狼くんの指が乳首を捻りあげてる。
それもかたっぽだけじゃない。両方をいっぺんに捻りあげられてる。
それはそんなに強い力じゃなかったけど、わたしの心をへし折るには十分なものだった。

「やめてぇっ、小狼くん! お願いだから痛くしないで。痛いのはいやぁぁ・・・・・・」

泣きながらお願いするわたしのミジメさに満足したのか、小狼くんは胸先から指を離す。
そして今度は同じところを舐め回しはじめた。
さっきの強い刺激とは違う、甘くて温い感触が胸先から染み込んでくる。
とても優しい愛撫だ。
でも、その真意は優しさなんかとはほど遠いのが肌で感じられる。
痛みに屈服した精神を快楽で蕩かして堕とすつもりなんだ。
それがわかっててももう、わたしにはどうすることもできない。
胸の先っぽがいやらしく尖っていくのが自分でもわかる。
完全に屈服したわたしの胸を小狼くんは徹底的に舐りぬく。
揉んで潰してこね回して引っぱって、その度に上がるわたしの無様な悲鳴を楽しむかのように目を細める。
こんな時でも限界以上の痛みを与えないように加減をしてくれるのは小狼くんの優しさが完全には失われていないからなんだろうか。
それとも支配者の余裕なのかな。

「ハァ、ハァッ」

ようやく胸への責めから解放された時にはわたしの精神も体も完全に小狼くんに屈服していた。
小狼くんがわたしの太ももを掴んで股を広げ始めてもなんの抵抗もしなかった。
呪文で手足の動きが封じられてるからじゃない。
多分、呪文がなくてもなんの抵抗もできなかったと思う。
両足が限界まで広げられて一番いやらしい個所が丸見えにされる。
そこはもう、恥ずかしいくらいにびちょびちょになっていた。

「やぁぁ・・・・・・見ないでぇぇ・・・・・・」

わたしの哀願を無視して小狼くんはびちょびちょになったそこを指で弄い始めた。
次いで、両手の指でそこを広げて舌を差し込んでくる。

「あ、あっ、あぁっ」

もう声を抑えるなんて考えはどこかにすっとんじゃってる。
小狼くんの舌と指がわたしの体の内側を擦りあげていく。
皮膚で守られていない剥き出しになったお肉をしゃぶられてる。
時折、その上にある一番敏感な突起もおしゃぶりの対象になる。
突起を守る薄い皮を丁寧に剥きあげてから指と舌と歯で交互に突起がいじられる。
たまらない刺激に体がびくんびくんと痙攣する。
もう我慢できない。
欲しい。
小狼くんが欲しい。
小狼くんのものでトドメを刺してほしい。
お願いだからもう焦らさないで。
小狼くんのものをちょうだい・・・・・・

「あ・・・・・・?」

そう口からはしたないお願いが洩れそうになった時、わたしはひっくり返されていた。
ベッドの上でうつぶせにされる。
お尻を上にしたある意味、おっぱいが見えるよりもいやらしい姿勢だ。
まさかこの姿勢で?
この手のことにそれほど知識があるわけじゃないわたしでもこういう姿勢で男の人にされることがあるのは知っている。
今までの小狼くんはそんなことはしなかったけど。
今日の小狼くんならばひょっとして。
プルプルと震えるお尻に小狼くんの手が伸びてくる。
あぁ、やっぱりこんな恥ずかしい姿勢でされちゃうんだ。
そんなのいや。
いやだけど抵抗できない。
もうダメ・・・・・・

そう思って覚悟をきめたわたしだけど、次の瞬間に襲ってきたのは予想していたのとは全く別のものだった。

ピシャン!

「ひっ!?」

打擲音と共にお尻にビリビリとした感覚が走る。

ピシャン!

ちょっと間をおいてからもう一度。

ピシャン!

さらにもう一度。
何をされてるのかはすぐにわかった。
お尻を叩かれてる。
まるで、悪いことをした子供を母親が叱るようにお尻を叩かれてるんだ。

ピシャン!

「いや、やめて小狼くん! お尻を叩かないでぇ!」

お願いしても今度はやめてくれない。
ピシャンピシャンと何度もお尻を叩かれる。
痛い。
いや、そんなに痛いわけじゃないんだけどこんな姿勢でお尻を叩かれてると思うと実際以上に痛い気がしてくる。
それよりも情けない。
まるで、ちっちゃな子供がオシオキされてるみたいで情けない。
それに恥ずかしい。
こっちからは見えないけどわたしのお尻、きっとお猿さんみたいに真っ赤になっちゃてるんだろうな。
そんなお尻を小狼くんにいいようにされちゃってるなんて。
痛みよりも情けなさと恥ずかしさで涙が出てくる。

「ごめんなさい、ごめんなさい。さくらは悪い子でした。これからはいい子になります。なんでもします。小狼くんの言うことはなんでもききます。だからさくらのことぶたないでぇぇ・・・・・・」

もう自分でも何を言ってるのかわからない。
ただオシオキから逃れたいだけの意味不明な泣き言が口から出てくる。
顔はもう涙でぐしゃくしゃになっちゃってる。
ほんとにオシオキされてる子供みたいだ。
でも、この一言で小狼くんの手は止まった。

「なんでもすると言ったな。本当か?」

小狼くんが笑いながら問いかけてくる。
見た目は同じだけどいつもの温かい笑顔とは全然違う。
目の前にいるのが小狼くんの姿をした別のなにかだとハッキリわかる笑いだ。
そんなのになんでもするなんて言っちゃったら酷いことされるにきまってるけど、お尻叩きから逃げたい一心のわたしにはそんなことまで頭は回らない。
反射的に返事をしてしまう。

「はい! なんでもします」
「そうか。それなら。闘妖開斬破寒滅兵剣瞬闇・・・・・・」

わたしの絶対にしてはいけない返事を確認すると小狼くんは口の中で小さく呪文を唱え始めた。
それと同時に手足が動き始めてた。
もちろん自分の意思で動かしてるんじゃない。呪文に無理やり動かされてる。
わたしの体はわたしの意思とは関係なしに動き、ベッドを降りると床にうずくまった。
上半身を折り曲げ、頭と両手を地面にこすりつけるように倒す。
一見すると土下座みたいな恰好だけど小狼くんの方に向いているのは頭じゃない。
叩かれて真っ赤になったお尻だ。
剥き出しのお尻を小狼くんに突き出すような格好になってる。
なんて恥ずかしい恰好なの。顔から火が出そう。
だけど、呪文の効果はこれで終わりじゃない。小狼くんの呪文はまだ続いている。
わたしの体はさらに動き続ける。
膝をついて腰を上げる。同時に両足を広げていく。
そして、呪文が終わった時に完成したわたしの恰好はこれ以上ないほどにミジメで滑稽なものだった。
頭を地面にすりつけた状態で両足を開いてお尻を高くつきあげてる。
まるで、男の人にしてくださいってお願いしているみたいに。
これ、知ってる。
知世ちゃんが見せてくれたエッチな本にあったやつだ。
知世ちゃん言ってた。
女性にとってもっとも屈辱的な恰好だって。
こんな恰好でされたらもう女の人はオシマイだって。
こんなあさましい恰好でされちゃったらもう恋人になんか戻れない。
男の人のペットにされちゃうって・・・・・・

呪文の完成を見届けた小狼くんがベッドから立ち上がってゆっくりと近寄ってくる。
何をするためかは言うまでもない。
わたしに最後のトドメを刺すためだ。
わたしの心の中の『女の子』の部分をぐちゃぐちゃに踏みにじる気だ。
わたしを『恋人』から『ペット』に突き落とすつもりなんだ。

「いやぁ・・・・・・こんなのいやぁぁ・・・・・・。許して小狼くん・・・・・・」

無駄なのはわかってるけど最後の抵抗を試みる。
もちろんそれはあっけなく粉砕される。
さらなる非情な宣告によって。

「何を言ってるんだ。お前、さっきなんでもするって言ったじゃないか。これくらいは当然だろう」
「でも、こんな恥ずかしいのは・・・・・・。お願いだからやめて小狼くん」
「恥ずかしいだと? ここをこんなにしてるやつがよく言うな」
「うぅっ、ひ、ヒドイよ小狼くん。なんでこんなヒドイことするの? ヒドイよ・・・・・・」
「なんで、だと。そんなの決まってる。お前がそう望んでいるからだ」
「え・・・・・・?」
「お前がこうされるのを望んでるからだよ。おれはお前の望み通りにしてるだけだ。おれにこうして欲しかったんだろう?」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあなんで今日ここに来たんだ? 満月がおれを狂わせることはお前も知ってるよな。今日、ここに来たらこうなるのはわかってたはずだぞ。それなのにどうして来た?」
「そ、それは・・・・・・」
「さくら。お前はこうされるのが好きなんだよ。男にめちゃくちゃにされて喜ぶいやらしい女の子なんだよ」
「違う・・・・・・」
「素直になれよ、さくら。認めれば楽になれるぞ。わたしは男の人に苛められるのが大好きなマゾヒストですってなぁ。くくっ」
「・・・・・・」

わたしはもう、小狼くんの言葉に反論することはできなかった。
反論する気力が完全に萎えてしまっていた。
でも、それは小狼くんの言葉があまりにも酷いものだったからじゃない。
逆だ。
小狼くんの言っていることが正しかったからだ。
いやらしい自分の本性を小狼くんに見透かされてしまっている、それが恥ずかしかったからだ・・・・・・

小狼くんの言うとおりだ。
今日ここに来ればこうなるのをわたしは知ってた。
今日の月はまあるい。
でも、完全な満月じゃない。ほんのちょっとだけ欠けている。
小狼くんの魔力は月の満ち欠けに左右される。
完全な満月の晩の小狼くんは危険だ。さすがにうかつなことはできない。
でも、満月にほんのちょっとだけ欠けた今日の月ならば。
月の狂気と理性がギリギリのところで釣り合う今日ならば。
いつもの小狼くんとは違う小狼くんに触れることができる。
狂気のままに激しく責めてくるけど、かすかに残った理性がわたしを傷つけることはない。
そんなわたしにとって都合のいい小狼くんを味わうことができる。

もちろん優しい小狼くんは好き。
でも、それだけじゃ少し物足りない。
時には激しく愛して欲しい、そんな時もある。
わたしってわがままなのかなあ。

「あぅぅっ!」

背後から一気に貫かれる。
待ちかねていたものの挿入に肉体も精神も頂点まで押し上げられる。
そこで止まらない。
続く抽入にさらなる高みへと突き上げられていく。
もうたまらない。
頭の中が真っ白になる。
小狼くんの手がわたしの頭を掴んで床へ擦り付ける。
あぁ、いったい今わたしってどんな恰好をしてるんだろう。
すんごい恥ずかしい恰好してるんだろうな。
想像しただけでゾクゾクしちゃう。
わたしってやっぱり苛められるのが好きな変態さんなのかなあ。

「あひっ、ひっ、あぁぁ、小狼くん、小狼くん!」
「くぅぅっ、さくらぁぁ! 言ってみろさくら! わたしは男に苛められて喜ぶマゾヒストですってなぁ!」
「はいぃぃ・・・・・・。さ、さくらは・・・・・・さくらは男の人に苛められるのが好きなエッチな女の子ですぅっ!」
「いい子だ、さくら。ご褒美をくれてやる。受け取れ! く、くぅぅっ!」
「あぁぁぁぁぁっっ!!」

ふふっ、小狼くん。
それはちょっとだけ違うよ。
さくらは男の人に苛められるのが好きなんじゃないよ。
小狼くんだけだよ。
さくらは小狼くんに苛められるのが好きなんだよ。
他の男の子じゃダメなんだから・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「いい格好だなさくら。どんな気分だ」

大きな姿見に写っているのは裸の女の子。
ハンカチで後ろ手に縛られて、首にまかれたチョーカーはどう見ても首輪。
その全身には黒い呪文が巻き付いてうじゅるうじゅると蠢いている。
パッと見には邪悪な魔道士に捕えられてしまった可哀想な女の子。
でも、わたしには見える。
鏡の中の女の子は笑ってる。
全てを諦めてがっくりとうなだれてるふりをしてるけど、その唇の端がかすかに吊り上ってる。
欲しいものを手に入れた喜びの笑みを浮かべている。

「いい機会だ。今日はお前が誰のものなのかを教え込んでやろう。その身体にたっぷりとなあ。くくっ、時間はいくらでもあるぞ。覚悟はいいか、さくら・・・・・・」

背後から荒々しく胸を揉みながら小狼くんが宣言する。
うん、そうだよ小狼くん。
さくらはみんな小狼くんのものだよ。
心も体も全部小狼くんにあげる。

だからちょうだい。
わたしにも小狼くんの全てを。
小狼くんの心も体もみんなさくらにちょうだい・・・・・・

真相編に続く・・・・・・


続きます。

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