『月の輝く夜に・真相編』


(※この先はR18指定です。苦手な方と18歳未満の方はご遠慮ください)


















おれが異変に気づいたのはベッドに横たえたさくらにキスをした時だった。
今夜の月は満月に近い。
だけど、完全な真円ではない。
ほんの少しだけ欠けている。
月の狂気が高まる夜ではあるけど、なんとか理性で抑えることができる。
そう思ってさくらを招き入れた。

キスを交わして服を脱がし、生まれたままの姿になったさくらをベッドに横たえる。
そうして横にしたさくらにもう一度キス。
ここまではいつもと同じだった。
異常が起きたのは唇を離した時だ。
手が意図せぬ動きでさくらの肌をまさぐりはじめたのだ。
無意識にさくらを弄るほどに昂ぶってるのかと苦笑しながら手を引こうとし、そこで愕然となった。
手が止まらない。
おれの意思とは無関係に動き続ける。
それも、女性の肌への愛撫とは異なる動きだ。
指先が何かの文字を書くようにさくらの肌の上をなぞっていく。
指がなぞった後に黒い墨のようなものが浮かび上がる。
これは呪文、それも呪縛の印だ。
何者かがおれを操ってさくらを縛そうとしているのだ!
左手で印を描く右手を抑えようとしたが無駄だった。
左手も全く自由にならない。
いや、手だけではなく全身の筋肉が、表情を司るそれすらもままにならない。
見えない何者かの意思に操られ、顔の筋肉が歪んでいく。
今の自分がどんないやらしい笑みを浮かべているのか。想像もしたくない。

「小狼くん? なにをやってるの、これ」

ここでようやく異変に気づいたらしいさくらから声がかかった。
助かった、この時はそう思った。
まだ呪縛の印は完成していない。
さくらの魔力ならばおれの呪縛の印も、おれを操る謎の術も破ることができると思ったからだ。
だが、さくらはおれが期待したようには動いてくれなかった。
一瞬の沈黙の後に全てをあきらめたかのように目を閉じてうつむいてしまう。
その理由はなんとなくわかる。
おれが笑っていたからだ。
おれの顔に浮かんでいるいやらしい笑みを見て、おれが自分の意思でこれをやっていると思ってしまったのだろう。
違う! これはおれの意思じゃない! 逃げろ、さくら!
そう叫びたくても声が出せない。
いまや謎の力はおれの身体を完全に支配し、黙々とさくらの肌に邪印を刻み込んでゆく。
そしてついに呪印は完成した。
淫らな宴の始まりだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「やあああ・・・・・・ああ、あっ、あひっ、ふぁぁっ」

それからの時間はおれにとっては悪夢としかいいようのないものだった。
さくらが、おれの一番大切な人が目の前で辱められている。
身を歪められ、肌をこねられ、しゃぶられ、いいように弄ばれて泣き叫んでいる。
涙を流して許しを請うている。
どんなことがあっても守る、たとえ命に代えても。
そう誓ったはずのさくらが今、目の前で無残に凌辱されている。
しかも、それをやっているのは自分の身体なのだ。
正体不明の謎の敵に操られるままに自分の身体が、自分の意思とは関係なく愛する人を踏みにじっている。
まさに悪夢だ。
最初、おれはまた柊沢の悪戯かと思った。だが、すぐにその考えを否定した。
さすがのあいつもここまで悪趣味な真似はしまいと思ったからだ。
それに、あいつもおれと同じくらいにさくらのことを大切に思っている。
おれ一人ならともかく、さくらを辱めるようなことは決してしないはずだ。
しかし、それならいったい誰が?
見えない敵の力は恐ろしいほどに強い。
満ちた月の影響で魔力が強まっているおれをこうも簡単に操るなんて。
並みの魔道士には不可能な業だ。
さらには世界最強の魔力を持っているさくらですらおれを操る力に全く気づいていない。
こんなことが可能なのか。
可能だとして、いったいどこの誰がなんのためにこんなことをしているのか。
なにもかもわからない。
いったい、なんだというのだ。この状況は。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「ひぃ、ひぃっ、やめてぇ、許してぇぇ・・・・・・さくらのことぶたないでぇぇぇ・・・・・・」

おれはベッドの上にうつ伏せにしたさくらの尻を平手で打ちすえていた。
悪いことをした子供をしかる母親がオシオキにやるあれだ。
ピシャンピシャンという小気味いい打擲音とともにさくらの悲鳴があがる。
情けないことだが、おれはさくらの痴態にこれ以上ないほどに興奮していた。
さくらのこんなに乱れた姿はおれも初めて見る。
あのさくらがこんなに乱れるなんて。
知らず知らずのうちに打擲する手に力がこもる。
そして、

「ごめんなさい、ごめんなさい。さくらは悪い子でした。これからはいい子になります。なんでもします。小狼くんの言うことはなんでもききます。だからさくらのことぶたないでぇぇ・・・・・・」

このさくらの哀願を耳にした時にはずくりと強烈な衝動が脳天を突き抜けていた。
なんでもするだと?
おれの言うことはなんでもきくだって?
あれもか。それともあれか。あれもやってくれるっていうのか、さくら。
今まで頭の中の妄想でしかなかったえげつないプレイの数々が脳裏に浮かぶ。
こんな齢になると性についてもいろいろな知識が入ってくる。
その中には過激でえげつないやつも混じってる。
さすがに実際に自分にはここまでできない、それよりもさくらにこんなことはさせられない、そう思ってたやつもけっこうある。
今ならばそれも許されるのか・・・・・・?

くっ、バカかおれは。
一瞬、浮かんだ妄想をあわてて打ち消す。
こんな時に何を考えているんだ。
さくらにあんな酷い真似ができるか。
だいたい、なにをしようにも体が全く動かせないじゃないか。
このざまで何ができるっていうんだ。

しかし、このおれの卑しい考えは見えない誰かには筒抜けだったようだ。

「なんでもすると言ったな。本当か?」

今まさに思った通りの言葉が口から出てくる。
やばい! と思ってもどうにもならない。
さくらがこの申し出を受けてしまうのが目に見えていたからだ。
案の定、さくらはあっさりと承諾の返事をしてしまった。

「はい! なんでもします」
「そうか。それなら。闘妖開斬破寒滅兵剣瞬闇・・・・・・」

さくらの返事を確認するとおれの口は呪を唱え始めた。
それと同時にさくらの身体が動き始める。
ぎこちないそれが自分の意思による動きでないことはあきらかだ。
おれの唱える呪に強制されている。
さくらは操り人形のように不自然な動きでベッドを降りるとそのまま床にうずくまった。
上半身を折り曲げ、頭と両手を地面にこすりつけるように倒す。
一見すると土下座みたいな恰好だが、頭はおれの方を向いていない。
おれに向けられているのは叩かれて真っ赤になったお尻だ。
女の子にとってこれ以上屈辱的な姿勢もあるまい。
だが、呪はまだ終わっていない。
呪につられてさくらの身体は動き続ける。
両膝をついて腰をあげ、同時に両脚を左右に開いてゆく。
そうして完成したさくらのポーズは凄まじいものだった。
頭を地面にすりつけた状態で秘所も、女の子がもっとも見られたくない恥ずかしい孔も、全てを捧げるかのように腰を突き出している。
完全なる服従の姿勢だ。
女性のいや、人の尊厳の全てを破棄することを意味する最低のポーズだ。
そして、それはおれの妄想が現実となったものだ。
あぁ、そうだ。
おれはさくらをこうしてやりたいと望んでいたんだ。
見えない誰かにはそれがわかっていたんだ。おれのこの卑しい望みが。

「いやぁ・・・・・・こんなのいやぁぁ・・・・・・。許して小狼くん・・・・・・」

さくらの口から最後の哀願の言葉が漏れる。
そりゃあそうだ。
なんでもするなんて言ってたけど、ここまで下卑た姿勢を強制されるなんてさくらには想像もできなかっただろう。
無論、おれはそれを許さない。
おれの口はおれの意思とは無関係に動き、ぷるぷると震える哀れな子羊にさらなる追い打ちをかける。
女性を卑下したこれ以上ないほどに最低で最悪な言葉によって。

「何を言ってるんだ。お前、さっきなんでもするって言ったじゃないか。これくらいは当然だろう」
「でも、こんな恥ずかしいのは・・・・・・。お願いだからやめて小狼くん」
「恥ずかしいだと? ここをこんなにしてるやつがよく言うな」
「うぅっ、ひ、ヒドイよ小狼くん。なんでこんなヒドイことするの? ヒドイよ・・・・・・」
「なんで、だと。そんなの決まってる。お前がそう望んでいるからだ」
「え・・・・・・?」
「お前がこうされるのを望んでるからだよ。おれはお前の望み通りにしてるだけだ。おれにこうして欲しかったんだろう?」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあなんで今日ここに来たんだ? 満月がおれを狂わせることはお前も知ってるよな。今日、ここに来たらこうなるのはわかってたはずだぞ。それなのにどうして来た?」
「そ、それは・・・・・・」
「さくら。お前はこうされるのが好きなんだよ。男にめちゃくちゃにされて喜ぶいやらしい女の子なんだよ」
「違う・・・・・・」
「素直になれよ、さくら。認めれば楽になれるぞ。わたしは男の人に苛められるのが大好きなマゾヒストですってなぁ。くくっ」
「・・・・・・」

自分の口が吐き出す最低の言葉が肉の熱はそのままに、頭の最奥のみを一気に冷え込ませてゆく。
なんという下劣な台詞だ。
こうまで女性を卑しめる台詞があるか。
女性を蹂躙して征服したい、男の中のもっとも下衆で最低の部分が隠しようもなく表れてしまっている。
こんなことを口にする男を女の子がどう思うか。
最低で最悪な男と思うにきまってる。
愛して全てをまかせた男が最低最悪の下衆だったと気づいてしまった時、女の子がどれほどのショックを受けてしまうのか。おれにはもう想像もできない。
絶望、落胆、失意、諦め・・・・・・。いずれにしても二度とそんな男の顔など見たくなくなるに違いない。
おれはさくらの顔を見たくなかった。
おれの言葉にさくらがどんな反応を示すか。
嫌悪か、軽蔑か、落胆か、どれであってもおれは見たくない。
見たくはないがいまだに体はまったく自由にならない。
さくらの顔から視線を外すことができない。
見続けるしかない。
そして、外すことができないおれの視線のうちでさくらの表情は変わった。
一つの感情が表情となってその顔に浮かんでくる。
さくらの顔に浮かび上がった一つの感情。
それは―――
それはおれの予想したどれとも異なるものだった。

さくらの顔に浮かび上がった感情、それは驚きの表情だった。
けれど、それはおれが予想していたのとは少し違う類の驚きだ。
絶望や落胆を伴う驚きではない。
まるで小さな子供が母親に悪戯を見抜かれてしまった時に浮かべるような、そんな感じの無邪気な驚きだった。
そして笑った。
それはあまりにもかすかな変化だったので常ならば見落としていただろうけど、今のおれは見逃さない。
さくらはたしかに笑ったのだ。
それも我が事成れりと言わんばかりに満足げに。

その瞬間、おれは謎の力の正体に気がついた。
おれを操る力、これはさくらの魔力だ。
さくらの魔力がおれを操っているのだ。
考えてみれば当たり前のことかもしれない。
幾重もの結界に守られたこの部屋におれにもさくらにも気づかれずに力を送り込むなんてできるわけがない。
さくら以外にこんなことができるやつはいないのだ。
意識的にやっているのか、それとも無意識のうちにやっているのかはわからないけど、これがさくらの仕業であることだけは確かだ。
事の真相に気づいたとき、おれは身体の自由を取り戻していた。

「あぅぅっ!」

背後からさくらにのしかかり一気に貫く。
くぅっ、たまらない。
なんて素晴らしい感触なんだ。
あっという間に果ててしまいそうになるのを必死に堪える。
そう簡単に果ててたまるか。
こちらもさんざん焦らされたからな。
もっとたっぷりと楽しまないと。
それにこいつには教えてやらないといけない。
男を弄ぶようないけない女の子はどんなヒドイ目にあうことになるのかを体にたっぷりと教え込んでやる必要がある。
右手でさくらの頭を掴んで床になすりつける。
どうだ、さくら。満足か?
おれに征服されてうれしいか?
こたえろ、さくら!

「あひっ、ひっ、あぁぁ、小狼くん、小狼くん!」
「くぅぅっ、さくらぁぁ! 言ってみろさくら! わたしは男に苛められて喜ぶマゾヒストですってなぁ!」
「はいぃぃ・・・・・・。さ、さくらは・・・・・・さくらは男の人に苛められるのが好きなエッチな女の子ですぅっ!」
「いい子だ、さくら。ご褒美をくれてやる。受け取れ! く、くぅぅっ!」
「あぁぁぁぁぁっっ!!」

うあぁ・・・・・・力が抜ける・・・・・・
魔力を吸い取られているんだ・・・・・・
いかん、気が遠くなってきた。
ま、まずい。
このままだとまた、さくらの魔力に支配されてしまう・・・・・・
う・・・・・・、だ、ダメだ。
力が抜けていく。止められない。
さくらの力に・・・・・・とりこまれる・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「いい格好だなさくら。どんな気分だ」

姿見に写されているのは裸の女の子。
後ろ手に縛られ、首には首輪代わりのチョーカーを巻きつけられている。
その肌のあちこちにこびりついているのは男の欲望の残滓。
無残に凌辱された哀れな少女。
だけど、おれの目は見逃さない。
この少女は笑っている。
絶望の涙を流すふりをしながら唇の端をかすかに歪めている。
全てが自分の思いのままになっている、その喜びに満足の笑みを浮かべている。

「いい機会だ。今日はお前が誰のものなのかを教え込んでやろう。その身体にたっぷりとなあ。くくっ、時間はいくらでもあるぞ。覚悟はいいか、さくら・・・・・・」

この言葉はおれの意思が発しているのか。
それともさくらの魔力に強制されているのか。
もう自分でもわからない。
どうでもいいことだ。
これはさくらが望んだことなのだから。
そして、おれもこれを望んでいるのだから。

お前はおれのもの、か。
逆だな。
この貪欲な女の子に捕らわれているのはおれの方だ。
まさにキャプター(捕獲者)だな。
おれの全てはこいつに捕えられてしまっている。
体も心も多分、魂までも。
すべてはこいつのものだ・・・・・・

END


真相編でした。
さくらはなんというか、少しイジメてちゃんなところがあるのではないかと。
一方の小狼の方はやはり大企業の御曹司様とくればサディスティックなのではないかと。
(ググると関連語のトップに出てくる受けとかいう単語は見なかったことにします)
でも結局、この二人のうちで主導権を握っているのはさくらの方でないかと。
そんな発想がもとになっています。

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