『メイド物語・無惨編??』



「没」

二人の力作を読み終えたさくらの第一声はこれでした。

「え〜〜、どうして〜〜?」
「どうしてもこうしてもないよ!」
「さくらちゃん、一体何が気に入らないのでしょうか。今回はさくらちゃんに配慮してエッチも控えめにしたつもりですけど」

奈緒子ちゃんも知世ちゃんも納得がいかないといった感じでさくらに抗議します。
けれども、それよりも納得いってないのはさくらの方みたいです。

「控えめ〜〜? それじゃあこれはなんなのよ〜〜??」

ババーンと開かれたページに載ってるのは素っ裸で絡み合うエリオルとさくらのイラストでした。
知世ちゃん会心のイラストですけど、エッチに耐性のないさくらにはちょっと我慢ならなかったみたいです。

「これのどこがエッチじゃないって言うの〜〜?? だいたい、わたしずーっと裸のままじゃないの〜〜。こんなの誰が見たってエッチ本だよ〜〜」

憤然と抗議するさくらですが、その程度で動じるような二人ではありません。

「さくらちゃんの考えは古いよ。最近は少女マンガだってこれくらいは当たり前だよ」
「さくらちゃん、時代は進んでいますわ。今は女の子もアグレッシブでアバンギャルドな恋を求める時代です」

う〜〜む。
この辺はちょっと微妙なところですかね。
たしかに最近の少女マンガはかなり過激です。
筆者も『なかよしにここまで載せていいのか?』という刺激的なフレーズを見たことがありますが、一体どんなマンガだったんでしょうか。
それがPTAのお母様の間で問題になってるそうなんですが。
いずれにしても進歩派の二人と保守派のさくらでは意見が合わないようです。

「それじゃあこの蝋燭とか鞭とかっていうのはなんなのよ〜〜。これじゃあ小狼様、変態さんだよ〜〜」
「さくらちゃんは男の人に夢見すぎだよ。男の人はみんな変態さんなんだから」
「そうそう。『愛の前に変態はない』(※)という名言、聞いたことありません?」
「そんなの始めて聞いたよ!」

※「快男児」 夢枕獏:日本出版社 より引用

両者の意見はどこまで行っても平行線のまま。
ま、オタクと一般人の温度差はこんなもんでしょう。

「とにかく! こんなの絶対ダメだからね! わたしだけじゃなくて小狼様にも迷惑がかかっちゃう。だいたい、二人とも誤解してるよ。わたしと小狼様はそんな関係じゃないんだから」
「あら、そうでしょうか。李さんもさくらちゃんにかなりお熱のようですが」
「そんなことあるわけないよ。だってそうでしょ? 小狼様みたいにスゴイ人がわたしみたいな魅力ない女の子を好きになるわけないよ」
「あの〜〜さくらちゃん? それ、本気でおっしゃってます?」
「さくらちゃんは十分魅力的だと思うけど?」
「そんなことないよ。だって、わたし男の子に告白されたことも、ラブレターもらったことも1回もないもん。知世ちゃんも奈緒子ちゃんもいっぱいもらってるよね。ちょっと悲しいけど、わたし男の子に人気ないよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ、もうこんな時間! 悪いけどわたし、夕ご飯の支度があるから帰るね。それじゃあね、知世ちゃん、奈緒子ちゃん。あと、それ絶対投稿しちゃダメだからね! じゃあまた明日!」

すたたたた〜〜〜〜

あわてて走り去るさくら。
その後姿を見ながら、ふぅっ、とタメ息をつく二人。

「知世ちゃん・・・・・・。さくらちゃん、あれ本気でそう思ってるのかな」
「本気でしょうね・・・・・・。さくらちゃんは天然な方ですから」

二人のタメ息はしごく当然なもの。
男の子に人気がないなんてとんでもない。
男子生徒の間でさくらの人気はぶっちぎりのトップです。
同級生はおろか、上級生、はては他校の生徒の中にもファンクラブがあると噂されるくらいです。
そんなさくらがなぜ、ラブレターの一通ももらったことがないのか?
これまた言うまでもありません。

小狼が怖いからです。

李家の御曹司様がさくらにご執心というのは全校に知れ渡った事実。
さくらに手を出したら李一族の報復を受けるという学園伝説を疑う者はいません。
以前、さくらに冷たくあたった教師が極北の地に転勤になった理由を小狼と関連づけて考えない者はこの学園にはいないのです。

たった一人・・・・・・当の本人を除いては。

「あ〜〜あ。李さんもかわいそうだよね。あんなにアプローチしてるのに気づいてもらえないなんて」
「そこがさくらちゃんがさくらちゃんたる所以ですわ。先が思いやられますけど」
「でも、これどうしようか。投稿しちゃダメって言われちゃったけど」
「おほほほほ。そんなの簡単ですわ。投稿しなければよろしいのでしょう? いつものルートで捌けば問題なしですわ」
「やっぱりそうなっちゃうか〜〜。ま、しょうがないか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

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さて、その夜のこと。

「ただいま」
「お帰りなさいませ」

帰宅した小狼様をいつも通りにお迎えしたさくらでしたが、部屋に入ってきた小狼様を見た瞬間、ピーンとくるものを感じていました。
小狼様がなんとも形容しにくい微妙なお顔をしていたからです。

「あ、あの小狼様。ひょっとして、知世ちゃんに会われましたか?」
「あぁ。今日は講談社の100周年記念パーティがあってな。そこで知世嬢に会ったよ。それでな」

浮かないお顔の小狼様がカバンからガサゴソと取り出したのは薄くて四角い包み。
それを見たさくらの顔からサーっと血の気が引いていきます。
それはそうでしょう。
以前も同じことがありましたから。
奈緒子ちゃんの小説を知世ちゃんがフルカラー同人誌(R18指定)にしてしまったことが。

「これって、やっぱりあれか?」
「そ、そうだと思います。多分、知世ちゃんが作ったエッチマンガです」
「やっぱりそうか。やれやれだな。知世嬢にも困ったものだ」
「申し訳ありません」
「おまえが謝ることはないさ。知世嬢も悪気があってやってるんじゃないだろうしな」

そう言いながらも、こそこそと包みをカバンの中に戻す小狼様。
今夜のおかずはこれに決定です。(お下品)
ちなみに前のやつもちゃんととってあります。
男の性は悲しいですねえ。
そんな小狼様の行動には気づかず、さくらは知世ちゃんの弁護を始めます。
いろいろありますけど、知世ちゃんはさくらにとって一番のお友達です。
小狼様に悪く思って欲しくないのでしょう。

「はい。知世ちゃんも悪気はないと思います。知世ちゃんはわたしと小狼様のことを誤解しているだけです」
「誤解? どんな風に誤解してるんだ」
「知世ちゃん、小狼様がわたしのことを好きだってカン違いしてるんです」
「!? そ、そうなのか」

さくらの一言に小狼様はドッキーーン! となってしまいます。
そりゃあそうでしょう。
他人が自分の本心を知ってるって言われたら誰だって恥ずかしくなっちゃいますよね。
一瞬、かぁぁぁぁ〜〜〜〜! っとなってしまった小狼様でしたが、ひょっとするとこれはチャンスではないのか? と思い直すのでした。
この御曹司様、いまだにさくらに自分の想いを告げていません。
李家当主の立場とか、さくらの身分が、とか理由はいろいろあるのですけど、ぶっちゃけたところ、この御曹司様がしょうもないヘタレだってだけのことです。
自分から告白する勇気がないんですね。このヘタレ御曹司!
自分から言い出せないから知世ちゃんの言葉に便乗して告白。
実にヘタレな思考です。

「さ、さくら。そのことなんだけどな」
「あ、大丈夫です。小狼様。知世ちゃんにはちゃんと言っておきましたから」
「大丈夫って。なんて言ったんだ?」
「わたしと小狼様の関係はただのメイドとご主人様、それだけだって。わたしと小狼様の間には知世ちゃんが思ってるようなことはな〜〜んにもなかったし、これからもな〜〜んにもないってちゃんと言っておきましたから」
「・・・・・・・・・・・・(泣)」
「あれ、小狼様? どうなさいました?」
「い、いや、なんでもない。ははは・・・・・・。そうか、そうだよな。あはは・・・・・・」
「?」

キョトンとするさくらをよそに、うつろな目で夜空のお星様を追いかけ始めた小狼様。
あ、ちょっと涙目になっちゃってますね。
いや、ちゃんとわかってるんですよ。小狼様にも。
さくらが自分に迷惑をかけないようにああいうことを言ってるんだって。
何よりも自分のことを気づかってくれてるんだってわかってるんですよ。
わかってはいるのですが・・・・・・。
片想いの相手になんにもないを連発されちゃいますと。
めっちゃ辛いものがありますね〜〜。

ヘタレ御曹司様の恋の道のりはまだまだ先が長そうです。
がんばれ! 御曹司様!

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ちなみに奈緒子ちゃんと知世ちゃんの合作は、知世ちゃんの言う
『いつものルート=夏コミ』
で完売時間最短記録を更新したとのことです。

えんど


小狼、アニメディア歴代男性キャラ19位おめでとう!(白々しい)
けっして君のことをヘタレキャラとか思ってないよ。
たとえグーグル先生に受けキャラ認定されていようとも。
(小狼でググると他のキーワード:のトップは『小狼受け』)

可哀想過ぎるので、番外編へ続く・・・・・・

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