『生誕の日・狂狼編』



同時刻。

李家本邸の一室。

「今ごろ、小狼とさくらちゃんどうなってるかしらね・・・・・・ふふっ」

芙蝶が楽しそうに笑いながら手にしたワイングラスをくゆらせる。

「そんなの決まってるじゃない」
「そうそう。今ごろは小狼、さくらちゃんのこと・・・・・・くすっ」

雪花と黄蓮がこれも頬に淫靡な笑みを浮かべて芙蝶のつぶやきに答える。
芙蝶も雪花たちもその身には一糸も纏っていない。
見事なまでに完成された裸身をソファーに、床に自由にはべらせてワイングラスを傾けている。
さくらの美が未完成なるがゆえの美しさであるならば、この姉妹の美は完成された女性のそれだ。
4つの美しい肉が淫らに蠢く様は妖艶としか言いようがない。

「あ〜〜ん、さくらちゃん可愛そう〜〜。きっと小狼にヒドイことされちゃってるわ〜〜」
「あらあら、姉さま。何を人事みたいに。そう仕向けたのは姉さまじゃないの」
「雪花姉さまも人のこと言えないでしょ。あんなにさくらちゃんにキスマークつけちゃって」
「あら、黄蓮だってあんなにさくらちゃんのこと苛めてたくせに」
「だって〜〜。さくらちゃん、すっごく可愛いんだもの〜〜」
「ホントよね〜〜。小狼が一人であれを独占するのはちょっとずるいわよね〜〜」

小狼とさくらの情事を想像して淫らな会話を楽しむ芙蝶、雪花、黄蓮。
どうやら、小狼とさくらの情事を肴に酒を楽しむというのが今年の芙蝶たちの趣向であったらしい。
テーブルに並べられたおつまみを頬張りながら、さくらの痴態を想像して楽しげに笑いあっている。

そんな姉妹の中でただ一人、会話に参加していないのは末妹の緋梅だ。
時折、ワイングラスを口に運んではいるものの、何かを考え込んでいるかのような浮かない顔をしている。
なにか気にかかることがあるらしい。

「ねえ、姉さま」

ようやく声を出した時も、その表情は姉たちとは対照的に憂いに満ちたものだった。

「なあに、緋梅。さっきから何か考えてたみたいだけど。気になることでもあるの」
「あんなことして本当によかったの?」
「あんなことって?」
「小狼とさくらちゃんのことよ。小狼、怒ってるでしょうね」
「あの子のことだもの、怒ったでしょうねぇ。もの凄く怒ってると思うわ」
「それで本当に大丈夫なの? 小狼が激昂して魔力が暴走しちゃったら? さくらちゃん、本当に大丈夫なの?」

緋梅が気にしていたのは、小狼の魔力が暴走した時のことであったようだ。
緋梅は当然、李一族の魔力のことを熟知している。
小狼が近年まれに見る強大な魔力の持ち主であること、それに比例して魔力の暴走の危険が高いこともよく知っている。
その小狼に対してあのような挑発的な真似をしてよかったのか?
万が一にも魔力が暴走したら?
そして・・・・・・もしも激発した魔力がさくらに向けられたその時、さくらは無事でいられるのか?
その思いが緋梅の顔を曇らせている。

だが、芙蝶はその点については緋梅と異なる考えを持っているらしい。
緋梅の告白を聞いても自信に満ちた表情には何の変化もない。

「大丈夫よ。あの子なら絶対大丈夫。わたしたちの弟を信じなさい」
「姉さまは小狼が自分の魔力を抑えられるって信じてるの?」
「もちろん信じてるわ。いえ、ひょっとしたら魔力を抑えることはできないかもしれない。けれど、それでもあの子がさくらちゃんを傷つけることはない。そう信じてる。これはわたしだけじゃない。お母様もそう信じてるわ」
「お母様も?」
「ふふっ、みんなには黙ってたけどね。実は今度のことはお母様に頼まれてのことだったの」
「「「えぇぇぇ〜〜っ!?」」」

緋梅のみならず、雪花と黄蓮も驚きの声を上げる。
当然だ。
そんな話は初耳である。
それに、芙蝶ならいざ知らず、あのお固い夜蘭がこんな悪戯を企てるとは思えなない。
驚きと疑惑の目を向ける妹たちに向かって、芙蝶は今回のことの真相を打ち明けた。

「小狼の魔力はとても強いわ。お母様やお父様よりも、ひょっとしたら伝説のクロウ・リードよりも強いかもしれない。それはみんなも知ってるでしょう」
「うん」
「それだけに暴走の危険も大きい。この先、さくらちゃんが小狼と一緒にいたいと願うならば、いつか必ずどこかで小狼の魔力の暴走に巻き込まれる・・・・・・お母様はそう考えてるの」
「だから、それを理解させるために今回のことを仕組んだってこと?」
「おそらくはそうね」
「魔力を暴走させた小狼を見てもなお、小狼のことを好きでいられるか―――ちょっと厳しい試練ね」
「たしかにね。魔力の暴走に伴って肉体の方も変化したはずよ。そんな小狼でもさくらちゃんは愛することができるか」
「う〜〜ん、そうよね〜〜。並の女の子があれを見たらひっくり返っちゃうかも」
「それと、今回のことはさくらちゃんだけじゃない、小狼への試練でもあるの。魔力を暴走させても自分の大切な人を守ることができるか―――。さくらちゃんと小狼、二人への試練よ」

芙蝶の説明にふむふむと頷く3人。
言われてみればたしかにその通りだ。
さくらが強い力を持っていることには雪花たちも気づいてはいたが、だからといって妖魔化した小狼をなおも愛せるかどうかはまた別の話であろう。
魔力の暴走は二人がいつかどこかで直面しなければならない問題だったのだ。
夜蘭はそれを早くから考慮していたらしい。
緋梅もようやく納得がいったようだ。腑に落ちたという顔で芙蝶の説明に聞き入っている。

「ま、手段は任せるって言われてたから、好き勝手やっちゃったんだけど」
「その試練に小狼とさくらちゃんは打ち勝てるとお母様は考えてるわけね」
「そうよ。そして見事に打ち勝ったみたい。小狼の魔力、さっきまでかなり荒れてたけど今は落ち着いてるわ。さくらちゃんの力もとても安らかで・・・・・・あら?」
「どうしたの、姉さま」
「小狼たち、また始めちゃったみたい」
「きゃ〜〜〜〜」
「若いっていいわね〜〜」
「あ〜〜ん、さくらちゃんだけずる〜〜い!」
「わたしもいい男が欲しい〜〜!」
「ホントにそうね〜〜。でも、いい男ってなかなかいないわよね〜〜」
「ホントに。小狼みたいにいい男、どっかにいないかしらね〜〜」

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キャーキャーと嬌声を上げて悶える姉妹たち。
四姉妹の宴は続く・・・

NEXT・・・・・・


続きます。

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