『生誕の日・狂狼編』

※この先、R-18指定な内容を含みます。苦手な人と18歳未満の方はご遠慮ください。
小狼が鬼畜でもOK! という方だけどうぞ。





















それに気づくのは小狼の方が早かった。

「!?」

何枚目かのリボンを解いた時、小狼の表情が一変した。
露になったさくらの肌の上にあるモノを見つけてしまったのだ。
目の奥にそれまでとは異なる険しい光が宿る。
その光は、さくらの身体からリボンを剥がす度に強く、昏くなっていく。
最後の1枚を剥がし終えた時、それはもはや狂気としかいいようがないレベルにまで高まっていた。

「ふぅっ。ありがとうございます。さぁ、小狼様。さくらの身体を・・・・・・?」

ようやく自由を取り戻し、これから始まる甘い時間への期待のこもった視線を小狼に向け―――そこでさくらの表情は凍りついた。
小狼の変化にさくらも気づいたのだ。
小狼の表情がついさっきまでと全く別のものに変わっている。
さくらにだけ見せてくれる優しい笑顔ではない。
かといって、いつもの冷徹な御曹司のそれとも違う。
感情の読み取れない無表情さは同じだが何かが異なる。
いつもの小狼の無表情は李家の跡取りとして冷静さを保つためのものだ。
だが、今の小狼の無表情は違う。
何か強い感情を無理に押し殺しているため無表情になってしまっている、そんな感じだ。
剣のように鋭い目でさくらを見据えている。
いや、正確にはさくらをではなく、さくらの身体の一部に突き刺さるような視線を集中させている。
いったい、なにがこの人にこのような目をさせているのか。
なにが―――

(あっ!?)

小狼の視線を追いかけて自分の身体に目を向けたさくらは、そこに小狼を一変させた“なにか”を発見することとなった。
小狼を一変させたもの。
それはさくらの身体に刻みつけられた無数のキスマークだ。
今まさに愛し合わんとした恋人の身体に、所有権を主張するかのように浮き上がるキスマーク。
どんなに寛容な男でもこれは許せまい。
ましてやこの男、李小狼の場合は―――

小狼の指が再びさくらの体に伸びる。
肌をまさぐる手つきは先刻と同じだが、今度の目的は愛撫ではない。
キスマークの確認だ。
首筋、胸、わき腹、太股と1箇所ずつキスマークを確認していく。
偏執的ともいえるこの行為には、さくらに自分が何を気にしているのかを知らせるという意味もあるらしかった。
小狼が重い口を開いたのは、さくらの全身につけられた全てのキスマークを確認し終えてからのことだ。

「それは―――姉上たちにつけられたのか」
「はい。その通りです・・・・・・」

詰問する声に先ほどまでの優しさは微塵もない。冷酷な審問者の口調だ。
答えるさくらの声にも甘えはない。裁きを待つ罪人のそれである。

「ずいぶんとお楽しみだったようだなぁ。気持ちよかったか。ん?」

さくらをなじる小狼の頬に淫蕩な笑みが浮かぶ。
いかにもといった感じの笑い方だが、無論、本心からの笑みではない。
この笑みは擬態だ。
怒りを押し隠すための擬態だ。
そして、その怒りは恋人の身体を汚されたことへの怒り、などという単純なものではない。
お気に入りのオモチャを横取りされたことを憤る駄々っ子の怒り。
我慢のきかない子供の怒り。
それだけに怖い。
この擬態が破れた時、怒りが激発した時、どれほどの狂気が自分に襲いかかって来るのか―――
小狼の詰問はなおも続く。

「姉上の指は気持ちよかったか? それともあれか。なにか道具でも使ったのか。姉上はおかしなオモチャをいっぱい持ってるみたいだからなぁ」
「・・・・・・」
「どうした、さくら。答えろよ。オレにされるよりも気持ちよかったか?」
「そんな! 小狼様。わたしは・・・・・・」
「そうだ。後学のために教えてくれないかな。姉上たちがどうやってお前の身体を愛したのかを」
「そ、それは・・・・・・」
「言えないのか」
「それだけはお許しください・・・・・・小狼様」
「ダメだ。これは命令だ。言え」
「はい・・・・・・」

観念したさくらは芙蝶たちとの秘め事をポツリポツリとしゃべり始める。
羞恥に頬を紅く染め、淫らな告白を続けながらさくらは悟っていた。
これだ。
これこそが芙蝶の言う“今年の趣向”だ。
芙蝶はさくらよりもはるかに長い間、小狼を見てきている。
小狼の気性も熟知しているはずだ。
当然、知っていただろう。
一見ストイックにすら見えるこの少年が、実は他に類を見ないほどに強烈な独占欲の持ち主であることを。
そして、その独占欲を侵された時、どれほど激しい怒りを爆発させるかも。
その怒りの矛先が自分の身体に向けられるであろうことも。

小狼と肌を重ねるようになってから、さくらはいろいろなことを知った。
李家の血のこと、魔力のこと、魔法のカードのこと。
どれもこれもさくらを驚かせるのに充分なものであったが、それらよりもさくらを驚かせたのは「李小狼」という少年の本質だ。
一部の隙もない完成された御曹司様だと思っていた小狼の本性は、とんでもないヤキモチ焼きの少年だったのだ。

同級生の男子と遊んでいるところを見られた時―――
小狼以外の男の子といっしょにいるのを見られた時―――

小狼はメチャクチャに機嫌が悪そうな顔になる。
拗ねたような、ふてくされたような顔でじっと見つめてくる。
そんな日は、家に帰ってからもずっとムッとした顔のままである。
もちろん、その不満を口に出すことはないし、それを理由に暴力を振るうような男でもない。
ただ、終日不機嫌そうな仏頂面を崩さないだけだ。
そんな小狼をさくらは内心でカワイイお方などと思っていたものだったが―――
今宵はそれではすむまい。

――――――――――――――――――――――――――――――

さくらの告白が終わってもしばらくの間、小狼は身じろぎもしなかった。
偽りの笑みはすでに剥げ落ちている。
その顔を埋めているのはもはや殺意と呼べるまでに膨れ上がった狂気だ。

「なるほど。よくわかったよ」

ようやく発せられた声にもドス黒い邪気が満ちている。

「つまりだ。お前はオレよりも先に姉上たちに身体を許していた、そういうことだな」
「ち、違います、小狼様! わたしは、わたしの初めては・・・・・・」
「言い訳は無用だ」

立ち上がった小狼の指には1枚のカードが挟まれていた。
李一族秘伝のクロウ・カードである。表面には『THE SHADOW』の文字とフードを纏った人影らしい図が見える。
それがどれほどの驚異を秘めているか、今はさくらもよく知っている。

「影よ。戒めの鎖となりてかの者を縛せ・・・・・・『影(シャドウ)』!」
「きゃぁぁっ!」

小狼が叫ぶとカードは一筋の黒い光と化してさくらの体へ伸びた。
そして、さくらの体に触れるとそこで幾筋もの黒い線へ枝分かれし、さくらの全身を絡め捕っていく。

「う・・・・・・ぐぅぅ・・・・・・」

押しつぶされたさくらの肺から絞り出されたかのような呻き声が漏れ出る。
それでも全身に巻きついた触手の動きは止まることはない。
細い腕に、白い太股に、小振りな胸に、丸みを帯びた尻に、容赦なく巻きつきさくらを拘束していく。
さくらが自由を奪われた肉人形と化すのにものの数秒とかからなかった。
白い肌を黒い縄で戒められ、大事なところを隠すこともできない。
男性の欲望を満たすためだけに存在する淫らな肉のオブジェ・・・・・・

同時に小狼の変貌も完了していた。
限界を超えた狂気が肉体の変化をも促したようだ。
燐光を放つ瞳、狼のそれを連想させる牙と爪、なによりも全身から吹きつけて来る形容し難い鬼気。
さくらが愛した小狼様はもういない。
そこにいたのは真の姿を取り戻した魔道の一族の若長であった。
妖魔の腕がさくらを引きずり起こし、強引に唇を奪う。
ぬちゃりとねじ込まれた舌の温度と長さにさくらは総毛だった。
氷のように冷たい。おまけに長い。人ではありえない長さだ。
それがズルズルとどこまでも伸びてノドの奥に侵入してくる。
食道を犯されるおぞましい感触にさくらは悶絶した。

「おごぉっ・・・・・・ふぉぐ・・・・・・」
「どうだ、さくら。さすがにここは姉上も手つかずだったろう。気持ちいいか」
「ふぐぅっ、むぐぅっ!」
「そうか、気持ちいいか」

舌をさくらの口内に突き入れた状態でどうやって言葉を発しているのか。
魔物のノドは人とは違う構造を持っているらしい。
今や舌の先端はさくらの胃の腑にまで到達し、その内壁をぴちゃぴちゃと音を立てて叩いている。
舌が音を立てる度にさくらの身体に激しい痙攣が走る。
逃れようとする意思はあるのだろうが、恐怖と触手に緊縛された手足はビクンビクンとミジメなひきつけを示すのみだ。
唯一、自由に動くことを許された瞳からポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。
それを黒い触手が舌のように舐めとってゆく。

「あぁ、さくら。オレが間違えていたよ。お前のようなふしだらな女の子には、こうやって身体に覚えこませてやらないといけなかったんだ」
「んむむぅ・・・・・・」
「これから身体にたっぷりと教えてやるよ。誰がお前の御主人様なのかをな。覚悟はいいか?」
「んぐぅっ! むむぅぅっ!」
「ふふっ、かわいいなぁ、さくら。食べてしまいたいくらいだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

李家当主の生誕を祝う宴が始まる。
妖魔の長を讃える宴が。
宴に捧げられた哀れな生贄の名は―――さくら。

NEXT・・・


生誕の日の続き話その2です。
さくらカード編でさくらに近づくエリオルにムカーッ! となる小狼を見て、きっと一緒になってからも小狼の嫉妬心はおさまることを知らないんだろうな〜〜、ささいなことでムカーッ! ってなるんだろうな〜〜という発想が元になっています。
このお話は生誕の日を最初に書いた時に純愛編のオマケとして考えていたものです。
最初にネタを考えてからなかなか書く機会がなく、ようやく日の目をみることになりました。
今見直したら、去年も純愛編の続きを書くと書いてますね。
当初はもっとラブい話だったのですが、時間をおいたら小狼様がダーク方面に突っ走ってしまいました。
続きはもう少しラブいお話になる予定です。

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