スー○ーロ○ット大戦D 第二話

『激震の木之本家』


その部屋は異様な緊張に包まれていた。
部屋にいるのは4人の男女。

木之本 藤隆
同 桃矢
同 桜
李 小狼

そのうちの一人、木之本桃矢の体から吹き上がる鬼気が緊張の原因であった。
鬼気の向き先はこの場でただ一人、木之本の姓を持たぬ人物―――小狼である。

さっきまではこうではなかった。
いつも顔を合わせると気まずい雰囲気になる二人ではあったが、こうまで強烈な鬼気を向けられたことは小狼の記憶にもない。
現に、先ほどまでは多少ギクシャクしたところはあるものの、それなりに会話を交わしていた。

それが一変したのは小狼が「姫はじめ」を口にした瞬間である。
桃矢が自分を見つめる目―――
その視線に含まれる肌触りすら感じ取れるほどの濃度を持った感情―――
怒りや憎悪といった不純物を含まぬ、混じりけの無い純粋な「敵意」―――
このような視線を向けられるのは小狼にとっても初めての経験であった。

こんな視線があり得るのか。
この男の全身から感じるのは疑いようの無い「敵意」だ。
しかし、そこには憎しみや怒りといった汚濁(にごり)は感じ取れない。
まるで―――大切なオモチャを取り上げられた子供が母親に向けるような―――そんな純粋な視線だ。

なぜ、この男はこんな目で自分を見るのか。
この男の心のうちにどのような感情が渦巻いているのか。
自分が口にした「姫はじめ」と何か関係があるのだろうか。
小狼の脳裏に様々な憶測が浮ぶ。

時が凍りついたかのような緊張。
永遠にも感じられるほどの一瞬。
目に見えぬ「何か」が部屋中に充満していくのがわかる。
その何かが限界点に達した時、何が起きるのか―――

緊張に耐え切れず、救いを求めるように藤隆に視線を向け―――そこで小狼は今度こそ己が致命的な過ちを犯してしまったことを理解した。

小狼の目に入った藤隆はいつもと何も変わらない。
整った眉も、知性的な顔つきも、優しい瞳も、何一つ変わったところは無い。

しかし、違う。
目の前にいるのは小狼の知る藤隆ではない。
小狼の尊敬する考古学者、木之本藤隆ではない。
藤隆から吹き付けてくる桃矢と同質のいや、それ以上に強烈な鬼気が目の前にいる男が自分の知る人物ではないことを告げている。

外見は何一つ変わらず―――中身だけが変わった。

「さくらさん。ちょっと2階に行っててくれませんか」

その口が発する声もいつもと同じ、しかし明らかに別人の声だ。

「ほえ?なんで?」
「李くんと少し、男だけでお話をしたいことがあるんですよ」
「???」
「いえ、すぐ済みますから。すいませんがお願いします」
「?よくわからないけど、わかったよ。じゃ、小狼くん!お話が終わったら呼びに来てね」
「あ、あぁ・・・」

応える声が我ながら固い。
これほどの緊張感に全く気づかないさくらの天然さには感動すら憶える。
いや、あるいはさくらの「天然」は、この二人の鬼気に晒されながら暮らしてきたおかげなのかもしれない。
日常的にこれほどの鬼気に触れていれば、自然と並大抵のことでは動じない神経を手にすることができるであろう。
クロウ・カードの新たな主となるに相応しい精神力を。

ギィ〜〜〜〜〜〜
バタン!

小狼の目の前でさくらを飲み込んだドアが閉ざされた。
己とさくらとを隔たてるあまりにも厚い扉が。

「さて、李くん。いろいろとお聞きしたいことがありますが、よろしいでしょうか」

背後からかけられた穏やかな声に全身の産毛が逆立っていくのがわかる。
そして身の竦む恐怖と共に、己が今いるのがどんな場所であるのかを悟った。

木之本家。

妹を溺愛する兄と―――
愛娘に亡き妻の面影を求める父の住む家―――

修羅の住まう家であった。


「激震の木之本家」

−完−

次回!カードキャプターさくら!

「脅威!!神か悪魔か真シスコン!」

に封印解除(レリーズ)!

・・・ウソです。続きはいちゃLove話。


アホ話さらに続き。
ももくり様のリクエスト、というわけではないのですが、なんとなく思いついたので書いてみました。
所要時間30分。
アホ話はほんとにいくらでも書けますね。

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