『姫始め?』


「着物は脱いできたのか」
「うん!やっぱり、あれだと動きにくいからね」
「ふ〜ん。着物のさくら、可愛くてよかったけどな」
「(ポッ///)もう、小狼くんたら!」

あれから二人は小狼の家に戻っていました。
正確には、逃げ出すように木之本家を飛び出た小狼を、さくらがあわてて追いかけて来たところです。
桃矢と藤隆の「目が笑っていない笑顔」に耐え切れなくなった小狼は、急用を言い立ててからくも木之本家を脱出することに成功しました。
しかし、当分はあの家の敷居を跨ぐことは出来そうもありません。

「結局、『姫はじめ』が何なのか教えてもらえなかったの?」
「あぁ。それどころじゃなかったよ」
「?何かあったの?」
「何かあったというか、なんというか・・・」
「う〜ん、そっか〜。じゃ、小狼くん!ちょっとパソコン借りるよ」
「パソコン?なにをする気だ?」
「『姫はじめ』について調べてみるの。インターネットで調べればわかると思うの」
「・・・。『姫はじめ』はもうあきらめないか?」
「ほえ?どうして?」
「いや、どうしてって言われるとその・・・」

さすがにここまで来ると小狼には「姫はじめ」が何なのかわかってきました。
山崎のあのニヤリ顔。
知世の邪悪な期待に満ちた微笑み。
桃矢と藤隆の反応。

そこから導き出される答えはロクなものではない、と理性が警鐘を鳴らしています。
多分、いわゆる隠語というやつで真っ当な正月行事ではないのだろうと。
これ以上、深入りすると正月早々、ロクでもない目にあいそうなのでいい加減あきらめて欲しかったのですが、その思いはさくらには通じていないようです。

「ダメだよそんなの!季節の行事は大切にしないとね。小狼くんも日本にいるんだから、ちゃんと日本の行事に従わないとダメだよ」
「そんなもんかなぁ。」
「そんなものなの!じゃあ、調べるからね」

カチャカチャカチャ
ポチポチ

「あ、出てきたよ。何々、え〜っと・・・」

『姫はじめ(Wikipedia)

姫始め(ひめはじめ)とは、頒暦(はんれき)の正月に記された暦注の一。正月に・・・

〜中略〜

ようするに正月早々、エッチをすることです』

「ほ、ほぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!」
「(やっぱりな・・・)」

予想外の内容にまっ赤になって固まるさくら。
予想通りの内容に呆れる小狼。

「しゃ、小狼くん、その〜〜〜え〜っと・・・どうしよう?」
「どうしようって。季節の行事は大切にしないといけないんだろ?」
「だ、だけど・・・。え、エッチって・・・」
「日本の行事に従えって言ったのはさくらだぞ。それとも、オレとじゃイヤなのか?」
「そんなことないよ!で、でも〜〜〜」
「じゃあ、いいよな。さくら・・・」
「(はぅぅぅ〜〜〜!そんな急に・・・)」

カッチカチに硬直したさくらにジリジリと小狼がにじり寄ってきます。
なんか、手つきがちょっとイヤ〜ンな感じです。

「小狼く〜ん。なんかその手、エッチぽいよ〜〜〜」
「だって『エッチなこと』をするのが姫はじめなんだろ?」
「それはそうだけど・・・ほ、ほぇぇぇ!」

むにぃ!

そうこう言ってるうちに、さくらの胸に小狼の手がヒット!
お洋服の上からふにふにとさくらの胸を擦ります。

(あ・・・小狼くんの手・・・あったかい・・・。んん・・・なんか・・・こうしてると・・・)

小狼のふにふに攻撃に、なんかいい気持ちになってきてしまったさくら。
あともう少し・・・と思ったところで、すっと小狼の手が離れました。

「え・・・?小狼くん?」
「こ、これで『エッチなこと』はしたよな!『姫はじめ』は終わりだ!いいな?」
「あ・・・う、うん。そうだね。これで終わりだね。あ、あははは・・・」

よ〜く見ると小狼もさくらに負けず劣らずまっ赤な顔をしてますね。
初心(うぶ)な彼にはこれが精一杯の「エッチなこと」だったようです。
こうして、なんとか日本の伝統正月行事?を無事に済ませた二人なのでした。

「でも、小狼くん」
「なんだ?」
「来年は・・・もっとちゃんとした『姫はじめ』をしようね・・・」
「な!?(かぁぁぁ〜〜〜っ)あ、あぁっ!」

ちゃんちゃん。


―――後日譚―――

「利佳ちゃんはお正月はどっか行ったの?」
「お正月は家族でハワイに行ってたの。そう言う千春ちゃんはどこかに行ったの?」
「わたしはいつも通り、山崎くんと初詣に行ったくらいかな。知世ちゃんは?」
「わたしも母と一緒に月峰神社に初詣に行っただけですわ。初詣と言えば・・・(ニヤリ)さくらちゃん」
「なに?知世ちゃん」
「あの後、李くんと『姫はじめ』はちゃんとできましたの?」
「え?あ、うんとね、そ、それは・・・(かぁ〜〜〜っ)」
「(!?この反応・・・予想とは違いますわ。まさかさくらちゃん、あの後、本当に李くんと!?藪を突いて蛇を出してしまいましたの!?)」
「(さくらちゃん?まさか山崎君の言うこと真に受けて・・・?)」
「(えぇぇ〜〜〜?さくらちゃんと李くんの仲ってそんなに進んでたの〜〜〜???)」

・・・・・・・・・

「(おい、今の話聞いたか?)」
「(あぁ!李のやつ、木之本さんと・・・)」
「(ちくしょ〜〜〜!李のやつ、うらやましいぜ!)」
「(くそ〜〜〜。やっぱり女の子はお金持ちに惹かれるのかなあ〜〜〜)」

ひそひそひそ・・・
ひそひそひそ・・・

こうして二人は本人達の知らぬところで「学園最強バカップル」から「大人への階段を駆け上ったカップル」に進化を遂げたのでありました。

END


超思いつき話その4。
姫はじめシリーズ?完結編。

ちなみに実際にWikiで姫はじめを調べると、必ずしもエッチなことを意味するわけではないようです。
いろいろな事が書いてあります。

もっとも、一番最後に書いてある
「男性同士の性交の場合においては、これをもじってしばしば殿始めと呼ぶことがある」
のインパクトがでかすぎて他はどうでもいい感じですけど。
殿始め?そんな言葉、初めて聞いたよ!!
日本語って奥が深いですね。

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