愛・人魚姫


拍手お礼ストーリー
世界迷作劇場その2 愛・人魚姫 前編

キャスト
人魚姫:さくら
王子様:小狼
隣国の姫:知世
人魚の王様:桃矢
月の精霊:ユエ
太陽の化身:ケルベロス

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「さくらはまだ見つからないのか!」
「申し訳ありません王様。しかし、なにぶんにも陸の上のことで・・・我々には手の出しようがないのです」
「くそっ!」

ここは人魚の国の王宮。
その最深部の王の間。
そこでは人魚の王・桃矢が配下の者たちの前で荒れ狂っていた。

無理もない。

彼が溺愛する妹姫・さくらが行方知らずになってからもう半年になる。
四方八方を探し回ってどうにかわかったのは、魔女に対価を支払って人間の体を手に入れて陸地に旅立ったところまでだ。
人間の世界にいるというだけでも心配だというのに、魔女に支払った対価というのがこれまた並の対価ではないと聞いている。

さくらが支払ったのは自分の声。
そして命。
さくらの想いが相手の男に届かなかった時・・・さくらは泡となって消滅する。
それが人間の体を手にするための対価。

今、こうしている間にもさくらは消滅してしまうかもしれない。
そう思うと桃矢は落ち着いてはいられない。
だが、陸の上では人魚たちにはどうにもできない。

「くそっ!誰かいないのか!陸に上がってさくらを連れ戻せるやつは!褒美は好きなものをとらせるぞ!誰かいないのかっ!!!」

そう叫んでも名乗り出る者はいない。
人魚たちにとって陸に上がることは死を意味する。
どんな褒美を出されても命には代えられない。

「誰かいないのか・・・誰か・・・。お願いだ、さくらを・・・さくらを助けてくれ・・・」

もはや桃矢王の声は悲鳴に近い。

だが、その時!

ザシャァッ!!

「その役目、我々に任せてもらおうか」
「な、なにぃ!?あぁっ!!お前たちは―――っ!」

王の前に忽然と姿をあらわしたのは!

「おぉっ!あのお方は・・・月の精霊、ユエ様―――!」
「そしてあちらのお方は太陽の化身、ケルベロス様―――っ!!」
「ば、馬鹿な!信じられん!伝説の精霊と言われるあの方々がなぜ・・・?」

驚愕するお供の者たちを尻目に、桃矢王の前に進み出る二柱の精霊!

「王よ。さくらは我等が連れ戻す。安心するがいい」
「精霊たちよ・・・お前たちがさくらを探してくれるというのか・・・。しかし、何故?」
「ふっ。さくら姫には少なからぬ貸しがあってな」
「なにカッコつけとんのや。さくらはわいらの友達や!友達を助けるのに理由なんかいらんやろ!」
「あぁ、ありがとう精霊たちよ!恩にきるぞ!」

☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆

こうして人魚の国を後にして人の国へと旅立った精霊たち。
さっそく、人の姿に変化できるユエが街に入って情報を集めてきました。
ですが、その結果はあまりよいものではありません。

半年ほど前からしゃべることができない身元不明の女の子がこの国の小狼王子に仕えるようになったことがわかりました。
さくらが恋した男というのは小狼王子だったようです。

ですが、その小狼王子に隣国の知世姫が言い寄ってきていること。
知世姫の熱意は大変なもので、最近は2日と空けずに小狼王子に会いに来ていること。
そして、もはや二人の婚約も間近だろうと噂されていることもわかりました。

「婚約って、その王子が隣の国の姫と結婚したらさくらは?」
「対価どおり泡となって消える」
「あかんあかん!そんなのあかん!おい、ユエ!何落ち着きはらっとんのや!なんぞええ手を考えんか!」
「それならもう考えてある。だが・・・それが出来るかはさくら次第だ」

☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆

その夜。
王宮に忍び込んだ二人はバルコニーに佇むさくらを発見しました。

「おったで!さくらや」
「あぁ。可哀想に。あんなにやつれて・・・」

二人の目にさくらは精気なくやつれはてて見えます。
慣れない人間の国でも暮らしに加えて、自分の命があとわずかしかない・・・その怯えがさくらを蝕んでいるのだろう・・・二人はそう判断しました。

「さくら!」
(!?ケロちゃん?ユエさん?どうしてここに!)
「桃矢に頼まれた。お前を連れ戻してくれと」
(あれ?わたしの声、聞こえるの?)
「あぁ。わいらにはお前の声は聞こえる」
(でもこんなところにいたら誰かに見つかっちゃうよ!隠れて!)
「大丈夫だ。我々の姿は人間には見えない。それよりさくら、これを」

そう言いながらユエが取り出したのは一振りの短剣。

(これは?)
「魔女から預かってきた魔剣だ。これで王子の心臓を突き刺せばお前は助かる」
(?ユエさん?何のこと???)
「話は聞いとるで、さくら。あのクソ王子、命の恩人のお前を見捨てて隣の国の姫と結婚しようとしとるってな。そんなクサレ男のためにさくらが死ぬことなんかあらへん!かまわんからぐっさりいったれ!」
(ケロちゃんまで。いったい何を言ってるの?小狼さまはわたしを・・・)

二人と話がかみ合わずに困惑するさくら。
そんな時、

「さくら」

と、近づいてきたのは・・・

続く。


拍手お礼ストーリーの再録です。

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