『知世ちゃんお誕生日記念話・GG』


キャスト
ゴルゴ13:国籍、年齢、本名、その他一切不明
依頼人(クライアント):大道寺知世
標的(ターゲット):ひがし某

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Twitter、FaceBook、Line、GREE、etcetc。
Webサービス全盛の現代社会において、なんらかのサービス利用のためのアカウントを所持している人は多い。
アカウントを1つも持っていないという人の方が珍しいであろう。
むしろ複数のサービスのために複数のアカウントを所持しているという人の方が圧倒的に多い。
しかし、それに慣れてしまい思わぬ問題を起こす事例も多く報告されている……


ゴルゴ13 第1309話

『アカウント』



PART1 深夜の依頼
―――20XX年8月25日 23:30 港南区有明公園―――

公園の街灯が人気のないコンクリートの路面を照らす深夜。
誰もいないはずのこの時間、この場所に今夜は2つの影があった。
一人は年のころ12〜3と思しき少女。
もう一人は年齢不詳のがっしりとした体格のコートをまとった男である。
口を切ったのは男の方だ。

「用件を聞こうか」
「はい。まずはこれをご覧になってください」

そう言いながら少女は懐のうちへと手を伸ばしかけた。
その動きに男の声が制止をかける。

「ゆっくりと出すんだ」
「し、失礼しました」

少女がゆっくりとした動作で懐から取り出したのはスマホ。
少女の身なりにふさわしい高級機種だ。
少女は慣れた手つきでスマホを操作し一つのアプリの画面を表示した。
画面に映し出されたのはp○xiv。
イラスト投稿をメインとしたSNSである。
その上で少女は1つの作品名と少女自身の名前で検索をかけた。
いくつもの投稿イラストが並ぶ。
何回かページを移動した後、少女は1つの投稿イラストを表示した。

「これです」

少女が選んだのイラストは他の作品に比べ少し異質なものであった。
下手というわけではない。
画力はまあ、そこそこというところであろう。
ピンからキリまでの絵描きが揃うpi○ivにおいては平均点といったところか。
R18、いわゆるエロというわけでもない。
分類も全年齢向けとなっている。
露骨な不快感を示すような表現でもない。
だが、その内容は少女にとっては看過のならぬものであった。
それは少女の精神の暗黒面をとりあげ、ことさらに曝け出すものだったのだ。
ギャグ風味の作品ではあるが、それだけに少女の黒さが強調されている。
なにかとその行動を問題視されることの多い少女にとっては、それゆえにこそ許せぬ作品であったのだろう。

「これだけではありませんわ。この男、これをシリーズ化していくつも同様の作品を投稿しているのです」

シリーズ化はこのサービスの持つ機能の一つである。
複数の作品を同一のシリーズに含めて関連性を持たせて閲覧することができるのだ。

「シリーズ化か。念のいったことだな」

この時の男の声には若干の揶揄の成分が含まれているようであった。
この少女の素行に男も思うところがあったのかもしれない。
無論、それを口には出したりはしない。
必要のないことは何一つ口にしない男である。
口にしたのは別のことだ。

「標的はこのイラストの作者ということか」
「もちろんです。大道寺家当主ともあろうものがこのような屈辱を受けて引き下がるわけにはまいりませんわ!」
「けっこうなことだな。それで標的の情報は揃っているのか。p○xivのアカウントだけではどうにもならん」
「それが。この男、どうやらこのシリーズを投稿するためだけにアカウントを作ったようなのです。これ以外にはネット上になんの痕跡も残していません。これはおそらく」
「報復を恐れて身元を特定できる情報を隠蔽、ということだな」
「はい。残念ながらこれ以上の情報は得られませんでした」
「難しいな。pi○ivのアカウントだけでは個人を特定することはできん」
「無理なお願いなことは承知しています。ですが! 貴方ならば! 不可能を可能にすると言われた貴方であれば!」
「わかった……。やってみよう」
「あぁ! ありがとうございます! ゴル、いえ、ミスター・デューク東郷!」

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PART2 洋館での依頼

「……というわけだ。このアカウントの身元を洗ってくれ」
「う〜〜ん、難しいですねえ。TwitterやFaceBookならばともかくp○xivのアカウントだけで、しかもプロフィール欄にも何も書いていないときては。これは無理ですよ」
「他の者にはな。だが、お前ならばできる。違うか?」
「まいったなあ。『不可能を可能にする男』と言われた貴方にそうまで言われては断れませんね。しょうがない、やってみましょう。1週間いただけますか」
「3日だ」
「……わかりました。全力を尽くします」
「頼む」

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PART3 特定

「よし。できたぞ」

男はマウスを置きながらモニタに映し出された画像を満足そうに見やった。
モニタに映っているのは男が書いたであろうある少女のイラストである。
公平に見ても出来は悪くはない。
パソコン用のイラストソフト、機材の普及とともにネット上で活躍する絵師は爆発的にその数を増やした。
それら絵師達の作品に混ざってもまあ平均点はとれるか、という出来である。
センスもそこそこというところか。
18禁、エロでもない。
どちらかというとギャグ系統の作品だ。
しかし、正統なパロディと言うには少し異質なものが混入しているかのように見えた。
題材となった少女への露骨な蔑視、悪意のようなものが感じられるのだ。
少女が時折見せる少々やりすぎか? と思える行動を極端にデフォルメして強調し、少女の特異性を際立たせている。
これは純粋なファン作品とは言えまい。
あきらかに少女を貶める目的で作成されたものだ。

男は再びマウスを手にしてpi○ivを開いた。
今完成したばかりの作品を投稿するつもりだろう。
だが、その時

ピンポ〜〜ン

玄関から来客を知らせるチャイムが鳴った。

「ひがしさん。ヤマト運輸です」

宅急便が届いたようだ。
ここ最近、Amazonで買い物をした記憶はないがと訝しがりながらもドアを開く。
開いたドアの向こうにいたのは宅急便の箱を抱えた宅配員であった。

「宅急便です。受領サインをお願いします」
「Amazonじゃないな。いったいどこからだ。差出人は」

そこで男は硬直した。
受け取った箱の差出人名の欄にあってはならない名を見てしまったのだ。

「だ、大道寺知世!? あの娘か! あいつがいったい何を送って……」
「これだ」

言葉と共につき出された宅配員の右手には鈍い光を放つ拳銃が握られていた。
いや、服の上からでもわかる引き締まった肉体、なによりも氷のように鋭いその目。
この男がただの宅配員であろうはずはない。

ドゥッ、ドゥッ!

消音機を装着した拳銃の銃声は思いのほか低く小さい。
男が倒れる音もまた。
たとえ隣家に人がいたとしても今の変事には気づくまい。

「うぐっ! ど、どうやってこの住所を……。わかるはずが……」
「ネットの匿名性を過信しすぎないことだな」
「く、くそっ……ぐぅっ!」

………………………
………………
………

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PART4 洋館の午後

「入金を確認、と。いつもながら時間に正確な人だ」
「どうしたの海渡。ずいぶんとご機嫌ね。なにかいいことでもあったの?」
「いや、なに。ちょっとした臨時収入があってね」
「臨時収入? またなにか悪いことをしたの」
「人聞きが悪いことは言わないでください。何も悪いことはしていませんよ。まあ、『彼』があの情報をどう使うかは別の問題でしょうが」
「ふう〜〜ん」
「とにかく。これでこちらの財布もだいぶ楽になりました。大掛かりなこともできそうですね。そろそろ始めましょうか。僕達の為すべきことを」
「やりましょう。秋穂のために……」

………………………
………………
………

いまやネット上でのアカウントの匿名性はかなり危ういものとなっている。
本来はアカウント情報から身元を特定されることはない。
しかし、これも最近では常識と化しているTwitterやFaceBookなどへの写真投稿など思わぬところから身元を特定されてしまうことがあるからだ。
思わぬ悪行の投稿から内定を取り消されるなどの事件も起きている。
個人を特定できる情報の露出は可能な限り避けるべきである。
そうすれば不要な危険を避けることができる。
ネット接続のみで個人を特定するような技術は現在存在しないからだ。
フィクション世界ではネットワークに精神をダイブさせてネット世界から相手を特定、さらには攻撃するような描写が多くあるが、そのような技術は現実世界にはない。
……はずである。

END(2018年作品)

Extra Track……


クリアカード編最大の謎、海渡のネット遮断攻撃。
いったい、どんな仕組みなんだ。
やっぱりネット世界にダイブしてなにかやってるのか?
ネット世界にダイブするのは美少女限定のはずなのですが。
(除くニンジャスレイヤー)
お前らホンマにITに精通しすぎ。
どんな魔法やねん。最近の魔術協会にはIT部門でもあるのか?

それにしても海渡も普通に『G』に仕事を依頼しててもおかしくなさそう。
さくらの周りのやつはこんなんばっかりか。

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