『だ〜く・ぷりずん・1』


(※この話には性的・暴力的な表現は含まれませんが、いろんな意味で歪んだ展開になります。
CCさくらに譲れない世界観をお持ちの方はご遠慮ください。
特に「小狼くんは王子様!」派の方はUターンすることをお勧めします)



「なんでもするから!お父さんたちを助けてくれるならなんでもするから!お願い、小狼くん!」

そんなさくらの狂態を小狼は余裕をもって見つめていた。
もう藤隆と桃矢の救出は終わっている。
あとはそれをさくらに話し出すタイミングの問題だけだ。

『大丈夫だ。お前の父さんも兄貴も無事だ。今、偉が病院に運んでいるところだ。何も心配は要らない』

そう言ってあげるだけでいい。
いつもと違うさくらの姿をもう少し楽しんでからそう切り出すつもりだった。

・・・そのつもりだった。
それを告げるために小狼は一度は口を開きかけた。
だが、その言葉はついに小狼の口から出てくることは無かった。


『お父さんたちを助けてくれるならなんでもする』


この言葉を聞いた時、小狼の心の何処かからこんな声が聞こえてきたのだ。

『チャンスだな・・・』

と。
小狼はその声に動揺した。
なんだ、?
いったい、何処から話しかけてる?

そんな小狼の動揺にはおかまいなしに声は続ける。

『お前、こいつに気があるんだろう?』

!?
何故それを知っている!

『オレにはお前の考えているとは全てわかる・・・それよりチャンスだ・・・』

チャンスだと?
何がチャンスなんだ?

『今ならこいつは抵抗できない・・・なんでもできる・・・どんなことでもな・・・』

なんだと!?
何を言っているんだ、こいつは!
お前は何者だ!何処にいる!

『オレか・・・オレはお前自身・・・お前の心の真の姿・・・』

そう言って小狼の心の奥深く・・・もっとも暗い箇所から現れたのは・・・






三頭身に2本の角と尻尾、コウモリの羽・・・というめちゃくちゃにベタな格好をしたデビル小狼だった・・・



(お前が・・・オレの心の真の姿〜〜〜???)

ま、小狼がそう思ってしまうのも無理ありませんね。
こんなのが自分の真の姿、と言われたら誰だって否定したくなります。
おまけにこのデビル小狼、とんでもないことを言い始めました。

『そうだ。オレはお前の真の姿だ。それよりチャンスだぞ。今ならこいつは抵抗できない。なんでもやりたい放題だ!』
(な、なんでもって?)
『決まってるじゃないか。裸にひん剥いてメチャクチャにしてヒイヒイ言わせてやるんだよ!』

お〜い、デビル小狼〜〜〜
ネット規制が厳しいこのご時世にその台詞はちょっとヤバイんじゃないのか?
このサイトがアダルトフィルタに引っ掛けられちゃうぞ?(ひょっとしてもう引っかかってます?)

(なにを馬鹿なことを言ってるんだ!そんな卑怯な真似できるか!)

さすがは真面目な小狼くん。
そんな卑怯な誘惑にはのりませんね。
それでこそ僕らの小狼くんです。

ですがデビル小狼もそう簡単には引き下がりません。


『忘れたのか。あの時のことを。あの屈辱を』


と食い下がってきます。
あの屈辱を・・・あの時の香港での出来事を忘れたのかと・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――


あれは最後の審判が終わってから1月も経ったころ。
事の顛末を夜蘭に報告するために香港に戻った時のこと。

「ねぇねぇ、小狼って日本に行って少し変わったと思わない?」

その話が小狼の耳に入ったのはほんの偶然だった。
何気なく立ち寄った姉たちの部屋から聞こえてきた会話・・・自分が変わった、というその話題についつい聞き入ってしまい部屋に入るタイミングを逸した・・・それだけのことだった。

「そうねぇ〜〜〜言われて見ればこう・・・なんていうか堅さがとれた?みたいな感じかな」
「たしかに変わったわね。さっきも偉に『ありがとう』なんて言ってたけど日本に行く前は素直にあんなこと言える子じゃなかったわ」
「見てた見てた!それにあの時の小狼、すっごく可愛い顔してたわ〜〜〜」
「ほんとほんと!小狼、あんなに優しい笑い方するんだってちょっと驚いちゃった」
「日本で何かあったのかしら」
「それはやっぱり・・・『恋』じゃない?」

恋、と聞いて小狼の頭に浮んだのは一人の少女の顔。
おっと、ちょっと顔が赤くなってますね。
初々しくて実にいい感じです。

そんな小狼くんをよそにお姉さんたちの会話はヒートアップしていきます。

「恋〜〜〜?あの小狼が〜〜〜?」
「でも、あの変わりようはやっぱり恋じゃないかな〜〜〜」
「そういえば、この間(注:劇場版第1作)日本から女の子が来てたわよね。ひょっとしてお相手はあの子?」
「あぁ、あの時の子ね。可愛かったわ〜〜〜そう、たしか・・・」

ごくっ。
うぅ、いつの間にオレとさくらの仲は姉上たちも公認の仲に進歩していたのか!(←先走りすぎ)

「知世ちゃん!だったわね」

がくっ。
違う!
そっちじゃない!
誰があんな腹黒い女(おいおい)好きになるか!!

「う〜ん、ちょっと違うんじゃないかな〜?たしかに可愛い子だったけど、小狼の好きそうなタイプじゃないわね」
「そういえばもう一人いたわよね。ほら、クロウカードの新たな主になった子。あの子じゃない?」
「あの子?・・・さくらちゃん、っていったかしら」
「そうそう!きっとあの子よ。明るくて元気で優しくていい子だったわ〜〜〜あんな妹が欲しいわね〜〜〜」

そう、そっちだ!
ん?
さくらが妹に欲しい?
それって、オレがさくらと・・・(かぁぁぁ〜〜〜)

「そうね。それにあの子の魔力。お母様が言ってたわ。ひょっとしたらクロウリード以上かもしれないって。あの子と小狼が一緒になってくれれば李家も安泰だって」

母上まで!?
母上までオレとさくらの仲を応援してくれているとは・・・
母上!おまかせください!
この小狼、必ず母上の期待に応えてみせます!(←だから先走りすぎだって)

「でもね〜〜〜」
「でも?」
「やっぱりダメじゃない?」

え、えぇぇっ!?
なにが!?
なにがダメだと言うのですか!姉上!

「だってあの小狼よ?好きな子ができたからって告白なんかできると思う?」
「そうよね〜〜〜。あの子、こういうことにはとことん弱気だからね〜〜〜」
「告白して振られたらどうしよう?とか思っちゃったら何にもできないわね。きっと」
「多分、ただ遠くから見てるだけ、でオシマイよ」
「ボクは貴方をいつまでも見ています、ってやつ?」
「あははは〜〜〜そんなところかもね〜〜〜」
「でもさ!ほら、うちの魔術には魅了の魔法とかもあるじゃない?あれを使えば小狼でもなんとかなるかもよ?」
「それこそ無理よ」
「え〜〜〜どうして?」
「考えても見なさいよ。小狼が好きな子の前でそんな術、使えると思う?手が震えて印を結ぶなんてできないわよ」
「それもそうね〜〜〜。きっと口ごもっちゃって呪文を唱えるのも無理ね」
「それで『李くん、それなに?何やってるの?』とか言われて恥ずかしくなってまっ赤になって逃げちゃうのよ」
「ひょっとしたら、もうやっちゃったかもよ?」
「あり得るわね、それ。うふ、小狼ったらその時どんな顔してたのかしら」
「面白そうね〜〜〜」
「「「「あははははははは〜〜〜〜〜〜」」」」

・・・お姉さまたち、容赦ないです。
あまりにも(的を得すぎて)聞いていられない暴言の数々。
小狼は黙ってその場を離れました。
物音をたてず、姉たちに気付かれないように。
そのために理性と忍耐力の全てを振り絞る必要がありました。

自分の部屋に戻ったら情けなくて涙が出てきました。
情けなくて泣くのは今までもあったような気はしますが、今回は実の姉の言葉だけに痛烈に身に染みました。
そしてこのやるせない怒りは一瞬でしたがさくらにも向かってしまうのでした。

「だってしょうがないじゃないか!あいつの方がオレよりずっと魔力が強いんだから!魅了の魔法なんかあいつにはかからないんだよ!」

あの〜。大変言いにくいんですが、問題はそこじゃないと思いますよ?
君がヘタレすぎていつまでたっても告白できないところが問題ですから。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


あの時、心の奥深くに封じたはずの(というか忘れてしまいたかった)屈辱・・・
それが今、偶然の事故から再び蘇ってくる。

『忘れてないだろう?あの屈辱を・・・ま、たしかにお前じゃいつまでたってもこいつに告白できないよな』
(ぐっ・・・)
『だから今がこいつをモノにできる最初で最後のチャンスなんだよ。今を逃したらこんなチャンスはこない!』
(だからって・・・今、エッチなことできたってそれで終わりじゃないか)
『もちろんそれで終わりじゃない。ほら、デジカメがあるだろ?あれでエッチな写真を撮りまくって、「こいつをばらまかれたいのか?」ってやりゃあいいんだよ』
(そ、それはさすがに・・・)
『おいおい、そんなこと言ってていいのかよ。柊沢だっけ?あいつに先を越されてもいいのか?』

デビル小狼、さすがに小狼の心の真の姿というだけのことはありますね。
実に的確に急所を突いてきます。
最近の小狼は雪兎よりもエリオルの方が気にかかっているのです。

(それはイヤだ!あの人ならばともかく、さくらが柊沢と一緒になるのは我慢できない!)
『だろ?だったらやっちまえよ!今なら絶対大丈夫だ!』
(よ、よし!やるぞ!)

あぁ、ついに悪魔の誘惑に屈してしまった小狼!
このまま悪の道に染まってしまうのか!
さくらの純潔は哀れ、儚い花と散ってしまうのか!
このサイトはアダルトフィルタに登録されてしまうのか!!

しかし!


『お待ちなさい・・・』


小狼の心の奥底・・・もう一枚の扉の向こうから新たな声が・・・っ!


以下、次号!


真ダーク・プリズン。
気分がのらないので二人の呼び方は「さくら」「小狼くん」にしてあります。

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